この記事の要点

  • 親の土地を無償で借りて家を建てる関係は「使用貸借(しようたいしゃく)」といい、貸主(親)が亡くなっても、それだけで契約が当然に終わるわけではないとされています
  • ただし「終わらない」は「ずっと続く」ではなく、使い道に従って使用・収益をするのに足りる期間が経過すれば、貸主の側から契約を解除できるとされています(民法598条1項)
  • また、貸主が亡くなれば土地そのものは相続財産となり、きょうだいなど他の相続人との遺産分割の対象になり得ます
  • 自分の家が建っている土地を、自分以外の相続人が取得する事態も制度上はあり得るため、早い段階で家族間の話し合いを始めておくことが大切です

「親の土地に家を建てさせてもらっている。地代も家賃も払っていない」——こうした関係は、法律上は「使用貸借(しようたいしゃく)」と呼ばれる契約にあたります。契約書を交わしていなくても、口約束や暗黙の了解だけで成り立っている使用貸借は少なくありません。

このとき気になるのが、「親(貸主)が亡くなったら、この関係はどうなるのか」という点です。結論からいうと、使用貸借は貸主が亡くなっただけでは終わらないと考えられていますが、それで安心はできません。使い道に従って使うのに足りる期間が過ぎれば貸主の側から解除されることがあること、そして何より、土地そのものが相続財産になること——この二つの問題が控えているからです。この記事では、使用貸借のまま親の土地に家を建てているケースで、相続の際に何が起きうるかを整理します。

なお、使用貸借と、家賃を払って借りる「賃貸借」との違いについては、別の記事で詳しく取り上げる予定です。この記事では、使用貸借と相続の関係にしぼって解説します。

使用貸借とは──タダで借りる関係

使用貸借とは、当事者の一方(貸主)が無償で物を貸し、相手方(借主)がそれを使用したのち返還することを約束する契約です(民法593条)。賃貸借との一番の違いは、対価(賃料)を支払うかどうかにあります。

親の土地に子が家を建てて住んでいるものの、地代を一切払っていない——というケースは、この使用貸借にあたることが多いといえます。契約書がなくても、当事者の合意(黙示の合意を含む)があれば使用貸借は成立します。

親が亡くなっても、使用貸借は当然には終わらない

使用貸借の存続について、民法は借主が亡くなった場合は使用貸借が終了する旨を定めています(民法597条3項)。これは裏を返すと、借主ではなく貸主(親)が亡くなった場合について、それだけを理由に使用貸借が当然に終了するとは定めていない、ということです。あわせて、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められていますから(民法896条本文)、土地を貸していた側の立場も、原則としてこの承継の対象になると考えられています。

つまり、親が亡くなった後も、家を建てて住んでいる子(借主)と、土地を相続した人(新しい貸主)との間で、使用貸借の関係が引き続くのが基本的な考え方です。「親が死んだから、すぐに家を取り壊して出て行かなければならない」ということには、原則としてなりません。

ただし「終わらない」は「ずっと続く」ではありません

ここで注意していただきたいのは、「貸主の死亡では終わらない」ということと、「これからもずっと使い続けられる」ということは、別だという点です。

民法は、使用貸借の期間を定めずに使い道(目的)だけを決めていた場合について、その目的に従って借主が使用・収益をするのに足りる期間が経過したときは、貸主の側から契約を解除することができると定めています(民法598条1項)。親の土地に家を建てて住むケースは、期間の定めがなく、使い道は「建物を所有すること」と決まっている場合が多いため、この規定が働き得る場面です。そして、この解除する権利も、土地を相続した新しい貸主が引き継ぎます。

どのくらいの期間が経てば「足りる期間」といえるのかは、貸した目的、建物の状態、これまでの経緯などをふまえて個別に判断される事柄で、あらかじめ何年と決まっているものではありません。

もっとも、以上はあくまで一般的な考え方であり、契約の内容や目的、これまでの経緯によって結論が変わり得る場面です。個別の事情がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

本当の問題は「土地が相続財産になる」こと

使用貸借の契約自体がすぐには終わらないとしても、それで話が終わるわけではありません。ここからが、この記事で一番お伝えしたい点です。

親が亡くなると、親が所有していた土地は、相続財産として遺産に含まれます。相続人が子ひとりだけであれば話は単純ですが、きょうだいが複数いる場合、土地は相続人全員の共有財産となり、遺産の分け方を決める遺産分割協議(相続人全員での話し合い)または家庭裁判所の調停・審判の対象になり得ます。

ここで起こり得るのが、「自分の家が建っている土地を、自分以外の相続人が取得する」という事態です。使用貸借で土地を借りて家を建てていた子自身が必ずその土地を相続できるとは限りません。話し合いの結果次第では、他のきょうだいがその土地を相続する、あるいは土地を売却して代金を分ける、といった選択肢も制度上は排除されていません。実家の土地を子どもたちの共有名義にした場合に生じやすいリスクについては、実家を兄弟の共有名義にしてはいけない理由でも取り上げています。

家を建てて長年暮らしてきた土地であっても、それ自体が「自分の土地になる」ことを保証するものではない——この点は、使用貸借のまま親の土地に家を建てている方に、まず知っておいていただきたい制度の姿です。

使用借権の評価・特別受益は「入口」だけ押さえておく

遺産分割の話し合いでは、「無償で土地を使わせてもらっていたこと自体が、生前に特別な利益を受けていたのではないか(特別受益)」が論点になることがあります。特別受益や、使用貸借によって土地を使う権利(使用借権)をどの程度の価値として評価するかという話は、専門的な計算を伴う領域です。

この記事では、具体的な評価額の出し方や持戻し計算までは立ち入りません。特別受益の考え方の基本は、生前にもらった人がいる相続──特別受益と「持戻し」のきほんで解説していますので、あわせてご覧ください。評価の考え方は税理士にご相談ください。

遺産分割の話し合いは、誰がどう決めるのか

「では、結局この土地は誰が相続すればよいのか」という点について、この記事では特定の分け方をおすすめすることはしません。遺産分割は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めるのが基本であり、まとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停・審判の対象になり得ます。どのような分け方が適切かは、家族構成、他の遺産の内容、これまでの経緯などによって事案ごとに異なるため、一般的な制度の説明にとどめます。

まとめ

  • 親の土地を無償で借りて家を建てる関係は「使用貸借」にあたり、貸主(親)が亡くなっただけでは、その関係が当然には終わらないと考えられています。
  • ただし「終わらない」は「ずっと続く」ではありません。使い道に従って使用・収益をするのに足りる期間が経過すれば、貸主の側から解除できるとされています(民法598条1項)。
  • また、親の土地は相続財産となり、他の相続人がいる場合は遺産分割協議または調停の対象になり得ます。
  • 家が建っている土地であっても、自動的にその土地を相続できるとは限りません。
  • 使用借権の評価や特別受益にかかわる論点は専門的な判断を要するため、早めに専門職へ相談することをおすすめします。

制度の基本を押さえたうえで、家族間で早めに話し合いの機会を持つことが、将来のトラブルを避ける第一歩になります。まずはお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 使用貸借について、相談や手続きに費用はかかりますか? 使用貸借契約そのものの締結・見直しは、相続登記のような登記手続きを伴わないため、相談先や内容によって費用の有無・金額は異なります。まずはお近くの司法書士や弁護士に、個別に確認することをおすすめします。

Q. 親が亡くなった後、そのまま住み続けても大丈夫ですか?期限はありますか? 使用貸借は貸主の死亡だけでは当然に終了しないと考えられていますが、「いつまでも使い続けられる」という意味ではありません。使い道に従って使用・収益をするのに足りる期間が経過したときは、貸主の側から契約を解除できるとされており(民法598条1項)、この権利は土地を相続した新しい貸主も引き継ぎます。また、土地が遺産分割の対象になっている状態を放置してよいわけでもありません。相続人が確定し、土地の所有者が決まったら、その所有者との関係を明確にしておくことが望まれます。なお、土地の相続登記自体には申請義務が課されていますので、あわせてご注意ください。

Q. 自分で対応できますか?どこに相談すればよいですか? 家族間で円満に話し合いがまとまる場合は、当事者どうしで進められることもあります。ただし、使用借権の評価や特別受益の考え方が絡む場合や、相続人の間で意見が分かれる場合は、専門職の関与が望ましい場面です。評価や税務にかかわる判断は税理士へ、意見の対立が続く場合は弁護士へご相談ください。相続登記や遺産分割協議書の作成にかかわる部分は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】使用貸借が絡む土地の相続登記実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

登記簿を見ても、使用貸借の有無は分からない

不動産登記実務における重要な前提として、使用貸借は登記事項ではないという点があります。登記できる権利は不動産登記法3条に列挙された10種(所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権)に限られ、使用貸借によって生じる使用借権はここに含まれていません。つまり、対象の土地の登記事項証明書をどれだけ確認しても、「この土地には使用貸借契約に基づいて建物が建っている」という事実そのものは一切表示されません。

この「登記できない」という点は、第三者との関係でも意味を持ちます。建物の所有を目的とする地上権や土地の賃借権であれば、借地借家法にいう「借地権」にあたり、その登記がなくても、借地権者が自分名義で登記した建物をその土地の上に所有していれば第三者に対抗することができます(借地借家法10条1項)。しかし同法2条1号は借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しており、無償である使用借権はこの定義に含まれません。したがって、遺産分割の結果としてその土地が第三者に売却された場合、借地借家法10条1項のような対抗要件の仕組みは使用借権には用意されておらず、買主に対して使用借権を主張することは原則としてできないと考えられています。賃貸借と使用貸借の差がもっとも大きく表れる場面のひとつです。

このことは、相続登記の実務において次の留意点につながります。遺産分割協議の場に集まる相続人全員が、対象の土地に使用貸借による建物が存在するという前提を共有しているとは限らないということです。とくに他の相続人が遠方に住んでいる場合や、その土地との関わりが薄かった場合には、登記記録だけでは分からない「誰が、どのような条件でその土地を使っているか」という事実関係を、協議の場で改めて共有し直す作業が必要になります。これは法律上の要求事項ではなく、後日のトラブルを避けるための実務上の工夫という位置づけです。

遺産分割協議書に使用貸借関係をどう書くか、書かないか

相続登記の申請にあたって法務局へ提出する遺産分割協議書(登記原因証明情報の一部)は、「誰が、どの不動産を取得するか」を確定させる書面であり、使用貸借の存否や条件を記載することは登記手続き上の必須事項ではありません。使用貸借の記載がなくても、それ自体で登記の可否が左右されることはないとされています。

もっとも、実務では次のような対応が取られることがあります。

一つは、遺産分割協議書とは別に、使用貸借の存在や条件(誰が、いつから、どの範囲を無償で使用しているか)を確認書・覚書のような形で書面化しておく方法です。これは登記に提出する書面ではなく、相続人間で認識をそろえておくための書面という位置づけになります。

もう一つは、使用貸借の借主自身がその土地を遺産分割で取得し、土地の所有者と使用借権の借主が同一人になることで、使用貸借関係そのものを解消してしまう方法です。この場合は書面を別途残す必要性自体が薄れます。

どちらの対応がその家族にとって適切かは、他の遺産の内容や相続人間の関係、代償金の有無といった個別の事情によって変わるため、この記事では特定の対応を一律に推奨することはしません。何も書面を残さないまま数次相続が重なると、当初の合意の経緯を後から確認する手段が乏しくなりやすい、という点だけは実務上の留意点として指摘しておきます。

名義変更登記(相続登記)そのものの手続き面の注意点

使用貸借の存在は、相続登記(所有権移転登記)の申請要件そのものには影響しません。戸籍謄本一式・遺産分割協議書・印鑑証明書・固定資産評価証明書といった必要書類は、使用貸借の有無にかかわらず共通であり、「使用貸借があるから手続きが特殊になる」ということはないとされています。

一方で、次の2点は実務上の留意点として押さえておくとよいでしょう。

第一に、対象の土地に建物がある場合、土地の相続登記の名義と、建物の登記名義(表題部所有者や所有権登記名義人)が一致しているかを確認しておく必要があります。使用貸借で土地を借りて家を建てているケースでは、土地は親名義、建物は子名義という状態が一般的ですが、相続によって土地の名義人が変わっても、建物側の名義には当然には影響しません。土地と建物の名義がそろっていないこと自体が禁止されているわけではありませんが、将来の売却や担保設定の場面で確認事項が増える要因になり得ます。

第二に、土地の相続登記には申請義務が課されており(不動産登記法76条の2、令和6年4月1日施行)、遺産分割協議がまとまらない間も、この義務への対応を別途検討する必要があります。具体的には、法定相続分での登記や、相続人申告登記(同法76条の3)の活用などが考えられます。使用貸借をめぐる話し合いに時間をかけている間に、相続登記の期限管理がおろそかにならないよう、両者は別のスケジュールで意識して進めることが望まれます。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

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