この記事の要点

  • 亡くなった方の証券口座にある上場株式・投資信託は、遺産分割が確定するまで相続人全員の準共有という状態になります。
  • 証券会社での相続手続きは、原則として相続人名義の証券口座に株式や投資信託そのものを移す移管が基本で、証券会社が代わりに売却して現金で分けてくれるわけではありません。
  • 移管を受けるには、相続人自身が同じ証券会社(または別の証券会社)に口座を新たに開設する必要がある場合が多くなります。
  • 単元未満株・端株は通常の市場では売買できず、発行会社や特別口座の管理機関への買取請求など、別ルートでの現金化になります。
  • 遺産分割協議書の作成や、預貯金口座の解約とあわせて進めると効率的です。

本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。実際の必要書類や手続き方法は証券会社ごとに異なるため、詳細は各証券会社にご確認ください。

上場株式や投資信託の相続で最初につまずきやすいのが、「とりあえず解約して現金にしてもらえばいいのでは」という思い込みです。結論から言うと、証券会社の相続手続きは現金化ではなく、株式や投資信託を相続人名義の口座へそのまま移す「移管」が原則です。この記事では、遺産分割が確定するまでの株式の法的な位置づけと、証券会社での移管手続きの流れ、端株・単元未満株の扱いを整理します。

遺産分割が確定するまで、株式は相続人全員の「準共有」になる

被相続人が亡くなった時点で、上場株式や投資信託の受益権は相続人全員が法定相続分に応じて共同で持つ状態になります。民法264条は、複数人が所有権以外の財産権を共同で持つ場合に共有の規定を準用するとしており、この状態は一般に「準共有」と呼ばれます。

現金や不動産と同じ感覚で「とりあえず売って分けよう」と考えがちですが、準共有の状態にある株式を相続人の一人が単独で売却してしまうと、後で遺産分割協議がまとまったときに「誰の権利をどう処分したのか」が整理しにくくなります。実務上は、遺産分割協議書の作り方で誰がどの株式・投資信託を取得するかを明確にしたうえで、証券会社に移管の手続きを申請する流れが基本です。

なお、準共有株式の権利行使(議決権行使など)については最高裁の判例がありますが、事案ごとに射程を検討する必要がある専門的な論点です。ここでは「遺産分割確定前は相続人全員の準共有になる」という一般的な考え方の紹介にとどめ、権利行使者の定め方については記事末尾の深掘りで扱います。個別の状況での判断は、お近くの司法書士にご相談ください。

証券会社での相続手続き──現金化ではなく「移管」が原則

被相続人が上場株式や投資信託を持っていたことがわかったら、まずその証券会社に連絡し、口座名義人が亡くなった旨を伝えます。この時点で口座は凍結され、以後の売買はできなくなります。

一般的な相続手続きの流れは、おおむね次のようなものです。

  • 証券会社所定の相続手続依頼書などの提出
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍(または法定相続情報一覧図)、相続人全員の戸籍・印鑑証明書の提出
  • 遺産分割協議書、または遺言書がある場合はその写しの提出
  • 株式・投資信託を取得する相続人名義の証券口座への移管手続き

ここで多くの方が驚くのが、「その証券会社に自分の口座がないと、株式をそのまま受け取れない」という点です。上場株式や投資信託は、証券会社が現金に換えて相続人に渡してくれるわけではなく、あくまで銘柄そのものを相続人名義の口座へ移す「移管」が原則の扱いになります。相続人がその証券会社に口座を持っていなければ、新規に口座を開設したうえで移管を受ける必要があります。取得後にどうしても現金化したい場合は、移管が完了してから相続人自身の判断で売却する形になります。

預貯金口座の解約手続きとあわせて進めるケースも多いため、銀行口座の解約手続きの記事もあわせて確認しておくと、相続手続き全体の流れがつかみやすくなります。

端株・単元未満株の扱い

上場株式は通常100株を1単元として売買されますが、株式分割や端数処理の結果、単元に満たない「単元未満株(端株)」を持っているケースがあります。単元未満株は証券取引所の通常の市場では売買できないため、扱いが少し異なります。

  • 発行会社(または株主名簿管理人である信託銀行など)に対して買取請求を行い、時価で現金化する方法
  • 発行会社が単元未満株の買増制度を用意している場合、買い増して単元株にそろえる方法
  • 相続人名義の口座に単元未満株のまま移管しておく方法

いずれの方法を選ぶかによって手続き先や必要書類が変わるため、対象の銘柄が証券会社の口座で管理されているのか、それとも発行会社の申出により信託銀行等に開設された「特別口座」で管理されているのかを、証券会社や信託銀行の窓口で確認することが必要です。特別口座も株式等振替制度の中の口座ですが、そこから直接売買することはできず、いったん証券会社の口座へ振り替える必要がある点に注意が必要です。

まとめ

上場株式・投資信託の相続は、遺産分割が確定するまで相続人全員の準共有状態にあるという法的な位置づけを踏まえたうえで、証券会社への連絡、必要書類の準備、相続人名義の口座への移管という流れで進みます。現金化が先にできるわけではない点、単元未満株は通常の売買ルートに乗らない点が、預貯金や不動産の相続とは異なる注意点です。証券会社ごとに必要書類や手続きの詳細は異なりますので、実際の手続きにあたっては、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q1. 株式の相続手続きに費用はかかりますか。

証券会社での移管手続き自体に手数料がかかるかどうかは、証券会社ごとに異なります。無料としている証券会社もあれば、事務手数料を定めている証券会社もあります。また、相続人が新たに証券口座を開設する場合の口座管理料の有無も含めて、事前に各証券会社へ確認しておくと安心です。税金に関する具体的な計算や相談は税理士の担当分野になりますので、そちらもあわせてご確認ください。

Q2. 手続きを放置するとどうなりますか。

証券会社は名義人の死亡を把握すると口座を凍結し、相続手続きが済むまで売却などの対応ができなくなります。そのため、放置していても株価の変動リスクを相続人全員が抱え続けることになります。また、相続手続きを進めないまま次の相続が発生すると、相続人の数が増えて準共有関係がより複雑になり、遺産分割協議がまとまりにくくなることがあります。気づいた時点で早めに証券会社へ連絡することをおすすめします。

Q3. 自分で手続きできますか。どこに相談すればよいですか。

必要書類をそろえて証券会社の窓口に提出する作業自体は、相続人ご自身で行うことができます。ただし、遺産分割協議書の作成や、戸籍から相続人を確定する作業など、法的な整理が必要な部分は専門的な判断を伴います。手続きの進め方に不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】株式の準共有と遺産分割設計の視点

ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

準共有状態の株式は「誰が議決権を行使するか」も問題になる

本文で触れたとおり、遺産分割が確定するまで上場株式・投資信託は相続人全員の準共有状態にあります。ここで見落とされやすいのが、「誰がどの銘柄を取得するか」だけでなく、「確定するまでの間、議決権などの権利を誰が行使するのか」という論点です。

会社法106条は、株式が複数人の共有に属するときは、共有者は当該株式についての権利を行使する者を一人定めて会社に通知しなければ、原則としてその株式についての権利を行使できないと定めています。株式の準共有そのものは、複数人が所有権以外の財産権を共同で持つ場合に共有の規定(共有物の管理に関する民法252条など)を準用するとする民法264条によるものですが、会社法106条は、そのうち株式についての権利行使の方法に関して特別の定めを置いた規定と位置づけられています。もっとも、この特別の定めがあることによって民法の共有に関する規定が全面的に排除されると理解されているわけではなく、後で述べるとおり、権利行使者をどう定めるかという場面では民法の共有の規定が働くと考えられています。

つまり、遺産分割協議が長引いている間も株主総会が開催されることはあり得るため、実務上は相続人間で権利行使者を一人定めて会社(または証券会社経由で信託銀行等の株主名簿管理人)に通知しておくのが一般的な扱いとされています。誰を権利行使者にするかについては、相続人全員の合意が必要なのか、それとも持分(法定相続分)の価格の過半数で決められるのかという点で、考え方が分かれてきました。この点について最高裁は、権利行使者を定めるに当たっては持分の価格に従いその過半数で決めることができるという立場を示しています(最判平成9年1月28日・集民181号83頁)。実務はこの判例を前提に運用されており、学説上も過半数で足りるとする理解が有力とされています。ただし、相続によって共有状態になった株式については全員の合意を求めるべきだとする見解も主張されており、議論が完全に決着したわけではありません。もっとも、相続人の一部だけで決めた権利行使者が議決権を行使すると、後の遺産分割協議でしこりが残ることもあるため、可能であれば相続人全員で話し合って決めておくほうが望ましい場面が多いでしょう。

なお、会社法106条には「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない」というただし書が置かれており、この文言だけを読むと、会社が同意しさえすれば相続人の一人が単独で権利を行使できるようにも見えます。しかし最高裁は、会社が同意した場合であっても、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ適法とはならない、という判断を示しています(最判平成27年2月19日・民集69巻1号25頁)。学説上は、このただし書は会社側の便宜のために置かれた規定だから会社の同意があれば足りるとする見解もありますが、実務では判例の立場を前提に、権利行使者を定めて通知しておく取扱いを基本と考えておくのが無難です。なお、判例がどこまでの場面に及ぶかは事案の性質に応じて検討する必要があり、ここでの説明も一般的な整理にとどまります。

遺言がある場合は「特定財産承継遺言」で準共有を経ずに進められることがある

遺言書があるケースでは、特定の相続人に特定の銘柄をそのまま承継させる旨を定めた遺言(民法1014条2項が定める「特定財産承継遺言」)を活用する設計も考えられます。このような遺言があると、対象の株式・投資信託については遺産分割協議を経ずに、指定された相続人が直接承継したものとして扱われる場合があります。

準共有状態を経ないという点は、権利行使者を誰にするかといった調整や、他の相続人との協議がまとまらないことによる手続きの停滞を避けられるという意味で、生前の遺言設計における一つの選択肢になります。もっとも、遺言の記載方法(銘柄の特定の仕方が明確かどうか)によっては解釈の余地が生じる場合もあるため、遺言を作成する段階でこの点も踏まえて内容を検討することをおすすめします。また、遺言があっても、証券会社での移管手続きそのものが不要になるわけではありません。

複数の相続人で株式を分けるときの遺産分割の方法

株式や投資信託を複数の相続人で承継する場合、遺産分割の方法としては大きく次のような選択肢があります。

  • 現物分割 — 銘柄・数量を分けて、それぞれの相続人が異なる銘柄(または同じ銘柄の一部)をそのまま取得する方法
  • 代償分割 — 特定の相続人が株式・投資信託をまとめて取得し、他の相続人に対しては代わりに金銭を支払う(代償金を渡す)ことで公平を図る方法
  • 換価分割 — いったん売却して現金化したうえで、その代金を相続人間で分ける方法

どの方法を選ぶかは、相続人それぞれが株式そのものの保有を続けたいのか、現金での取得を希望するのか、といった意向によって変わります。特に代償分割を選ぶ場合は、代償金を支払う相続人に一定の資力が必要になる点も、話し合いの中で確認しておくとよいでしょう。いずれの方法も、最終的には遺産分割協議書に取得方法と内容を明記したうえで、証券会社への移管手続きに進む流れになります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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