この記事の要点

  • 銀行は名義人の死亡を知った時点で口座を凍結し、以後は相続人であっても自由に出金できなくなる
  • 解約・払い戻しには戸籍一式や遺産分割協議書など複数の書類が必要で、金融機関への連絡から完了まで数週間から数か月かかることが多い
  • 口座数が多い場合は法定相続情報証明制度を使うと、戸籍の束を出し直す手間を減らせる

銀行口座の名義人が亡くなると、口座は解約や払い戻しの手続きを経て初めて相続人が受け取れる状態になります。それまでの間、口座は「凍結」され、家族であっても自由に引き出すことはできません。ここでは、凍結が始まるタイミングから解約完了までの一般的な流れを整理します。

口座はいつ、なぜ凍結されるのか

口座の凍結は、死亡届の提出によって自動的に起きるわけではありません。金融機関が名義人の死亡を知った時点で凍結されます。多くの場合、家族や相続人が窓口や電話で死亡の事実を伝えたときに凍結の手続きが取られます。

凍結される理由は、相続人の一人が単独で預金を引き出してしまうと、他の相続人との間でトラブルになりかねないためです。遺産分割が終わるまで預金を「共有財産」として保全する意味合いがあります。

この扱いのうち「相続人の一人が単独で自分の取り分だけを払い戻してもらうことはできない」という点については、判例上の裏付けがあります。かつては、預金のように金額で割り切れる債権は相続が始まると同時に法定相続分どおりに当然に分かれる、という理解が判例・実務の前提とされていました。学説上も考え方は一様ではありませんでしたが、公平な遺産分割のためには預貯金も分割の対象に含めるべきだという見解が有力に主張されていました。この点について最高裁は、平成28年12月19日の大法廷決定で従来の考え方を改め、普通預金・通常貯金・定期貯金は相続開始と同時に当然に分かれるものではなく、遺産分割の対象になると判断しました。現在はこの整理を前提に、相続人全員の遺産分割協議(または遺言)で取得者を決めたうえで解約・払い戻しに進むのが基本的な流れで、以下で説明する手続きの流れもこの考え方に沿ったものです。なお、この整理は預貯金についてのもので、他の債権にそのまま当てはまるとは限りません。

もっとも、この決定が判断したのは「預貯金が遺産分割の対象になる」という点であって、金融機関が口座を凍結する取扱いそのものを定めたものではありません。実際にどの時点で凍結するか、どの書類がそろえば払い戻しに応じるかといった具体的な運用は各金融機関が定めており、扱いには幅があります。

なお、葬儀費用など当面の支払いに充てるためにまとまった額を先に引き出したい場合は、遺産分割前でも一定額まで払い戻せる仮払い制度があります。この記事で扱うのは、遺産分割が済んだ(または相続人・取得者が確定した)後に口座そのものを解約する場面です。分割前に一部だけ払い戻したい場合は、預貯金の仮払い制度の記事もあわせてご覧ください。

解約までの一般的な流れ

1. 金融機関への死亡の連絡

口座のある金融機関の窓口やコールセンターに、名義人が亡くなったことを連絡します。この時点で口座は凍結され、以後は相続手続きが完了するまで入出金や引き落としができなくなります。公共料金などの自動引き落としがある場合は、別途の支払い方法に切り替える必要が生じることもあります。

2. 必要書類の収集

金融機関ごとに書式は異なりますが、一般的に次のような書類の提出を求められます。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書
  • 遺産分割協議書(協議で分ける場合)、または遺言書(遺言がある場合)
  • 金融機関所定の相続手続き依頼書

戸籍の集め方については、2024年(令和6年)3月1日に施行された改正戸籍法により、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本・除籍謄本をまとめて請求できる「広域交付」が始まっています(戸籍法120条の2)。本籍地が全国に分かれていても、最寄りの窓口1か所でまとめて請求できるため、以前より収集の負担は軽くなりました。

ただし、広域交付には次の制限があります。

  • 請求できるのは、本人・配偶者・父母や祖父母(直系尊属)・子や孫(直系卑属)の戸籍に限られ、きょうだいの戸籍は請求できない
  • コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は対象外で、その分は従来どおり本籍地の市区町村に請求する必要がある
  • 郵送や代理人による請求はできず、請求する方本人が顔写真付きの本人確認書類を持って窓口に出向く必要がある

きょうだいが相続人になる場合や、古い改製原戸籍までさかのぼる必要がある場合は、広域交付だけではそろわないことが少なくありません。また、司法書士などに収集を依頼する場合、代理人は広域交付を利用できないため、従来どおりの請求方法によることになります。

複数の金融機関に口座がある場合、この戸籍一式をそれぞれの窓口に何度も出し直すのは負担が大きくなります。その負担を減らす方法として、法定相続情報証明制度を使い、法務局発行の一覧図の写しを各金融機関に提出する進め方があります。戸籍の束の代わりに一覧図の写し1枚で足りる金融機関が多く、複数口座がある場合ほど効果を実感しやすい制度です。

3. 金融機関での審査・払い戻し

書類一式を提出すると、金融機関側で内容を確認したうえで解約・払い戻しの手続きが進められます。払い戻し先は、遺産分割協議書などで指定された相続人の口座になるのが一般的です。

4. 解約完了

払い戻しが完了すると口座は解約され、通帳やキャッシュカードは金融機関に返却または破棄扱いとなります。

どこに口座があるかわからないとき

通帳やキャッシュカードが見当たらず、どの金融機関に口座があるのか手がかりがない場合には、預金保険機構の「相続時預貯金口座照会」を利用する方法があります。相続人(包括受遺者を含む)が、亡くなった方の名義の預貯金口座について、全国の金融機関分をまとめて照会できる仕組みで、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(口座管理法)に基づく制度です。

利用にあたっては、次の点を押さえておく必要があります。

  • 照会の対象は、亡くなった方が生前にマイナンバーを紐づけていた口座に限られる(紐づけのない口座は結果に出てこない)
  • 申込みは金融機関を通じて行う(受付の方法は各金融機関が定めており、窓口のほか郵送等による場合もある)。取引のない金融機関でも、預金保険機構の委託先であれば申込みができる
  • 手数料は申込み1件につき5,060円(消費税込)。申込み受付後は原則として返金されない
  • 通知されるのは金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号等で、残高は含まれない
  • 申込みから結果の通知までは1か月程度かかる
  • 照会できるのは亡くなってから10年までで、他の共同相続人の同意は不要

万能の制度ではありませんが、口座の所在に見当がつかないときの選択肢として知っておくと役に立ちます。

解約手続きにかかる期間の目安

金融機関や書類の準備状況にもよりますが、連絡から解約完了まで数週間から数か月かかることが一般的です。書類に不備があると差し戻しが発生し、さらに時間がかかることもあるため、事前に金融機関の窓口へ必要書類を確認しておくとスムーズです。

まとめ

亡くなった方の銀行口座は、金融機関が死亡を把握した時点で凍結され、戸籍一式や遺産分割協議書などをそろえて手続きすることで初めて解約・払い戻しができます。口座が複数ある場合は法定相続情報証明制度の活用で手間を減らせますし、分割前にまとまったお金が必要な場合は仮払い制度という別の選択肢もあります。手続きに迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 口座解約の手続きに費用はかかりますか? 金融機関での解約手続き自体に手数料がかかることは多くありません。ただし、戸籍謄本の取得には1通ごとに数百円程度の実費がかかり、法定相続情報一覧図の写しの取得は無料です。司法書士など専門家に書類収集や手続きを依頼する場合は別途報酬がかかります。

Q. 手続きを放置するとどうなりますか? 口座は凍結されたままで、放置していても自動的に解約されるわけではありません。長期間放置すると、その間に相続人の一人が亡くなって相続人がさらに増える(数次相続)など、手続きが複雑になっていくおそれがあります。早めに着手するほど書類収集の負担は軽く済みます。

Q. 相続人だけで手続きできますか?相談先はどこですか? 戸籍の収集や書類作成を自分たちで行うことは可能ですが、相続人が多い場合や戸籍の読み取りが難しい場合は手間がかかります。不動産の相続登記など他の相続手続きとあわせて進めたい場合や、進め方に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】預金解約と相続税評価の論点

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

解約・払い戻しで受け取った預金は、名義がどうであれ、相続または遺贈により取得した財産として相続税の課税対象に含まれます(相続税法2条)。相続税の申告が必要かどうかは遺産総額など個別の事情によって決まるため、この記事だけで要否を判断せず、該当しそうな場合は税理士に確認することをおすすめします。

相続税の評価額は、解約して実際に受け取った金額ではなく、原則として死亡日(相続開始日)時点の残高を基準に評価します。普通預金はその日の残高がそのまま評価額になるのが一般的ですが、定期預金などについては、死亡日までに発生している利息(既経過利息)も加算して評価する取扱いがあります。金融機関から発行される残高証明書に死亡日時点の残高や既経過利息が記載されている場合、その内容が相続税申告の資料として使われることが多いです。

家族名義の口座であっても、実質的な出捐者(お金を出した人)や管理者が亡くなった方であったとみられる場合には、「名義預金」として被相続人の相続財産に含めて申告すべきではないか、という論点が生じます。単に口座の名義が配偶者や子になっているというだけで相続財産から外せるわけではなく、通帳・印鑑の管理状況、預入れの原資、利息の受領者といった事情から、実質的な帰属者がどこにあるかを見て判断するのが一般的な整理です。あわせて、名義人へ実際に贈与がされていたといえるか(贈与する側と受ける側の合意があり、名義人自身が口座の存在と内容を知って自由に使える状態にあったか)も、判断要素の一つとして挙げられています。

もっとも、これらの要素のうちどれをどの程度重く見るかについて、確立した一般的な基準があるわけではありません。そもそも預金が誰のものかをめぐっては、実際にお金を出した人を基準に考える整理と、口座を作る際の当事者の意思を重く見る整理があり、学説上も考え方に幅があります。裁決例・裁判例も事案ごとの総合判断で、似たような事情でも結論が分かれることがあります。名義預金に当たるかどうかは個別の事情によって判断が分かれるため、心当たりがある場合は早めに税理士へ相談しておくと安心です。

なお、具体的な税額計算や相続税申告の要否判定、申告書の作成は税理士の業務範囲であり(税理士法52条)、司法書士が代わって行うことはできません。預金の解約手続きと並行して相続税の申告が必要になりそうな場合は、早めに税理士へご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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