この記事の要点

  • 空き家を放置すると、空家等対策特別措置法にもとづき「特定空家」または「管理不全空家」に指定されることがある
  • 指定後は助言・指導→勧告→命令→行政代執行と段階が進む(命令・行政代執行まで進むのは特定空家のみ)
  • 特定空家・管理不全空家のどちらも、勧告を受けると土地の固定資産税の軽減(住宅用地の特例)が受けられなくなる
  • 相続登記をして名義を明確にしておくことが、放置状態を防ぐ第一歩になる
  • 空き家をどうするか(売る・貸す・住む・手放す)は早めに方針を決めておくと選択肢が広い

実家を相続したものの誰も住まず、片付けも先延ばしにしている──というケースは珍しくありません。しかし空き家をそのまま放置していると、市区町村から「特定空家(とくていあきや)」や「管理不全空家(かんりふぜんあきや)」に指定されることがあります。指定されると、行政からの勧告や命令の対象になり、最終的には行政が代わって解体する「行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)」に至ることもあります。この記事では、指定される前に知っておきたい制度の仕組みと、放置した場合に何が起きるかを整理します。

空家等対策特別措置法とは

空き家問題に対応するための法律が「空家等対策特別措置法(あきやとうたいさくとくべつそちほう)」です。この法律にもとづき、市区町村は管理が行き届いていない空き家を調査し、必要に応じて所有者に指導や勧告を行うことができます。

法律が特に問題視しているのが「特定空家等」です。次のような状態にあると認められた空き家が、市区町村によって特定空家に指定されます。

  • そのまま放置すると倒壊するおそれがあるなど、保安上危険な状態
  • 衛生上有害となるおそれがある状態
  • 適切な管理が行われていないことで、著しく景観を損なっている状態
  • そのほか、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態

これらは市区町村が現地調査や外観目視などをもとに個別に判断するため、「何年空けたら自動的に指定される」といった一律の基準があるわけではありません。老朽化の進み具合や周辺への影響を踏まえて判断されます。

「管理不全空家」という新しい区分

これまでは「特定空家に指定されるかどうか」だけが焦点でしたが、令和5年(2023年)12月13日に施行された空家等対策特別措置法の改正により、特定空家になる一歩手前の段階を対象とする「管理不全空家等」という区分が新設されました。放置を続ければ特定空家に該当するおそれがある状態と市区町村が判断した空き家が対象です。

管理不全空家に指定されると、市区町村から改善のための指導を受け、それでも状態が改善されない場合には勧告を受ける対象になります。ただし、後述する命令や行政代執行まで進むのは特定空家に指定された場合で、管理不全空家の段階での措置は指導と勧告までです。とはいえ、明らかに危険な状態になってから初めて行政が関与するのではなく、その手前の「管理が不十分」な段階から関与が始まる仕組みに変わったことに変わりはありません。しかも、後で述べるとおり勧告を受けた時点で固定資産税の軽減が外れる点は特定空家と同じです。早めに管理方針を決めておく重要性が増したといえます。

指定されるとどうなるか

特定空家・管理不全空家に指定された場合、いきなり強制的な措置が取られるわけではなく、段階を踏んで進みます。

  1. 助言・指導:まずは所有者に対して、改善に向けた助言や指導が行われます
  2. 勧告:改善が見られない場合、正式な勧告が出されます
  3. 命令:勧告にも応じない場合、期限を定めた命令が出されることがあります(特定空家の場合)
  4. 行政代執行:命令にも従わない場合、最終的に市区町村が所有者に代わって除却(解体)などを行うことがあります(特定空家の場合)

管理不全空家の段階で行われるのは1と2までで、3の命令と4の行政代執行は特定空家に指定された場合の措置です。ただし、管理不全空家のまま放置して状態が悪化すれば特定空家に指定され、そこから先の段階に進むことになります。

行政代執行にかかった費用は、原則として所有者に請求されます。所有者が支払わない場合は、財産の差し押さえなど強制的な回収手続きに進む可能性もあります。

見落とされがちなのが、勧告を受けた段階で生じる固定資産税への影響です。住宅が建っている土地には、固定資産税を軽減する「住宅用地の特例」という制度がありますが、特定空家に指定されて勧告を受けると、この特例の対象から除外されます。そして令和5年12月に施行された改正で、管理不全空家に指定されて勧告を受けた場合も同じく除外の対象になりました(地方税法上、勧告を受けた管理不全空家等・特定空家等の敷地は「住宅用地」から除かれます)。命令や代執行まで進まなくても、勧告を受けた時点で税負担が変わりうるという点は押さえておきたいところです。除外された場合の税額の変わり方や軽減の仕組みそのものについては、空き家を取り壊すと土地の固定資産税が上がるのはなぜか で詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。

相続と空き家放置の関係

空き家が放置される背景には、相続に関する事情が絡んでいることが多くあります。相続人が複数いて話し合いがまとまらない、遠方に住んでいて管理の手が回らない、そもそも誰が相続したのか名義がはっきりしない、といったケースです。

こうした状態を防ぐために重要になるのが相続登記(不動産の名義変更)です。相続登記は令和6年4月から義務化されており、名義を明確にしておくことは、空き家の管理責任の所在をはっきりさせることにもつながります。義務化の詳しい内容は 相続登記の義務化、あと1年で「経過措置」が終わります で解説しています。

また、「相続放棄をすれば空き家の管理から解放される」と考える方もいますが、必ずしもそうとは限りません。放棄した時点でその財産を現に占有していた場合には、次の管理者に引き継ぐまで一定の管理義務が残ることがあります。この点は 相続放棄しても管理義務が残ることがある で整理していますので、放棄を検討している方はあわせてご確認ください。

空き家をどうするか、早めに方針を決める

特定空家に指定される前にできる対策は、突き詰めると「空き家をどうするか」を早めに決めることに尽きます。売る、貸す、自分(または親族)が住む、あるいは土地として手放す、といった選択肢があり、どれを選ぶかによって必要な手続きや準備が変わります。それぞれの選択肢の比較や登記面での留意点は、実家じまいの進め方──売る・貸す・住む・手放すの4択と登記 にまとめています。

なお、空き家を売却する場合には、譲渡所得にかかる税金の特例制度も関わってきます。この点は 空き家の3,000万円特別控除──売る前に知る制度の入口 で取り上げています。放置のリスクと売却時の税制は別の論点ですので、両方を踏まえて方針を検討することをおすすめします。

まとめ

空き家を相続してそのまま放置すると、空家等対策特別措置法にもとづき「特定空家」や、その手前の段階である「管理不全空家」に指定されることがあります。指定後は助言・指導から始まり、勧告、命令、行政代執行へと段階的に進みます(命令と行政代執行まで進むのは特定空家の場合です)。また、特定空家・管理不全空家のどちらであっても、勧告を受けた段階で土地の固定資産税の軽減が受けられなくなります。放置期間が長くなるほど選べる選択肢は狭まっていくため、相続登記で名義を明確にしたうえで、早めに空き家の今後の方針を決めることが大切です。空き家の管理や相続登記についてお悩みの場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 特定空家に指定されると、費用はどれくらいかかりますか? 指定された段階そのものに費用は発生しませんが、勧告を受けると土地の固定資産税の軽減が受けられなくなります(これは管理不全空家の勧告でも同じです)。命令にも応じず行政代執行に至った場合は、除却(解体)にかかった費用が原則として所有者に請求されます。自治体によっては空き家の除却や活用に対する補助制度を設けている場合もあるため、お住まいの市区町村の窓口に確認するとよいでしょう。

Q. 「何年放置したら」指定されるという期限はありますか? 法律上、放置期間による一律の指定基準は定められていません。倒壊のおそれや衛生上の問題、景観への影響など、現地調査にもとづいて市区町村が個別に判断します。ただし、放置期間が長くなるほど老朽化が進み、指定を受けるリスクは高まります。早い段階での対応ほど選べる選択肢が多く残ります。

Q. 空き家の管理は自分でできますか?どこに相談すればいいですか? 定期的な見回りや清掃、庭木の手入れなど日常的な管理はご自身でも行えます。一方、相続登記の手続きや、複数の相続人間での話し合いが必要な場合、管理不全空家・特定空家に指定されて対応方針に悩む場合は、専門家への相談をおすすめします。登記の名義変更に関することはお近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】相続登記未了の空き家をめぐる共有名義の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では空家法の制度を中心に整理しましたが、実際に空き家の相談を受ける場面で頻繁に問題になるのは、相続登記が済まないまま名義が宙に浮いている状態そのものです。ここでは登記実務の観点から、共有状態の空き家に特有の論点を補足します。

相続登記未了=法定相続分での共有状態が続く

被相続人(亡くなった元の所有者)名義のまま相続登記をしていない不動産は、遺産分割協議がまとまるまでの間、相続人全員が法定相続分に応じて共有している状態にあります(協議がまとまれば、その内容に従って誰が取得するかが決まります)。この間は、登記記録の名義は亡くなった方のままです。

共有不動産に対して相続人が単独でできる行為には範囲があります。民法は、共有物に対する行為を「保存行為」「管理に関する事項」「変更を加える行為」に分けて定めています。屋根の応急補修など現状を維持するための保存行為は、各共有者が単独で行うことができます(民法252条5項)。賃貸(建物であれば3年を超えないものなど、法律で定められた期間内のものに限られます。同条4項)や利用方法の決定といった管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めることになります(同条1項)。これに対して、共有物に変更を加える行為(その形状または効用の著しい変更を伴うもの)には、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。

そのうえで、空き家の「解体」がこの三つの区分のどこに位置づけられるかについては、注意が必要です。民法は「処分行為」という区分そのものを条文上は置いていないため、解体がどれに当たるかは条文の文言だけで自動的に決まるわけではなく、建物の状態や解体の目的によって判断が分かれる余地が残ります。もっとも、建物を取り壊せば共有物そのものが失われ、後から元に戻すことはできません。そのため実務では、変更行為に準じて共有者全員の同意を得ておく前提で進めるのが安全です。これは「解体は変更行為に当たる」と条文から一義的に導けるという意味ではなく、区分の当てはめに争いが残りうることを前提に、後戻りのできない行為については同意を広めに取っておく、という実務上の安全策としての整理です。

もっとも、「共有者の一部と連絡が取れないから何もできない」とは限りません。令和3年の民法改正(共有に関する規定は令和5年4月1日施行)により、所在等が分からない共有者がいる場合に裁判所の手続を利用する道が設けられています。具体的には、他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときに、その共有者以外の共有者の同意で共有物に変更を加えることができる旨の裁判を求める制度(民法251条2項)や、所在等不明共有者の持分を取得する裁判の制度(民法262条の2)などです。ただし、いずれも裁判所への申立てと、所在等が不明であることの調査・公告といった手続を要するため、相応の時間と費用がかかります。また、持分取得の裁判については、その持分が相続財産に属し共同相続人間で遺産分割をすべき場合には、相続開始から10年を経過していない間は利用できないという制限があります(民法262条の2第3項)。そして、これらの制度はいずれも「所在等が分からない共有者」を対象とするものであり、所在は分かっているが解体に反対している共有者がいる場面には使えません。

いずれにしても、共有者の一部が反対していたり連絡がつかなかったりすると、解体の意思決定に手間と時間がかかることに変わりはありませんので、実際に解体を検討する段階では、事前に司法書士や弁護士に相談し、同意の取り方や、上記の裁判手続を使うべき場面かどうかを確認しておくことをおすすめします。行政代執行に至った場合の費用も、原則として所有者(共有者)に請求される建付けであるため、共有者の一部だけが対応に動いていても、他の共有者に費用負担が及ぶ可能性がある点は押さえておきたいところです。

相続登記義務化との関係──名義放置が共有者を増やす

相続登記の申請義務化(不動産登記法76条の2)は令和6年4月から施行されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が原則として義務づけられています(正当な理由なく申請を怠ると過料の対象になり得ます)。この義務化が空き家対策と結びつく理由は、名義放置を重ねるほど共有者の数が増えていく構造にあります。

名義を変更しないまま次の相続(数次相続)が発生すると、当初の相続人自身が亡くなり、その相続人がさらに共有持分を引き継ぐという形で、権利者の数がねずみ算式に膨らんでいきます。世代を経るほど、相続人同士の関係が疎遠になり、連絡先の把握や意思確認そのものが難しくなる傾向があります。空き家が「誰も方針を決められないまま放置される」典型的な背景には、こうした数次相続による共有者の増加が関わっていることが少なくありません。早い段階で相続登記を済ませ、名義と持分を確定させておくことが、将来の共有者増加を防ぐ実務上の対策になります。

なお、相続登記の義務化と同時に新設された相続人申告登記(不動産登記法76条の3)は、申請義務を簡易に果たすための制度であり、持分そのものを確定させる登記ではありません。相続人申告登記だけでは共有者間の権利関係は整理されないため、空き家の管理方針を決める場面では、遺産分割協議を経た本来の相続登記(または法定相続分での相続登記)が別途必要になる点に留意してください。

登記記録上の所有者情報と、行政が把握する管理責任者のずれ

特定空家・管理不全空家の指定に向けた調査では、市区町村が固定資産税の課税のために保有している所有者情報を、空き家対策のために内部で利用できる仕組みがあります(空家法10条)。しかし相続登記が未了の不動産では、固定資産税の納税通知が「代表相続人」宛てに送付されているにとどまり、共有者全員の氏名・持分までは行政側が正確に把握できていないことがあります。登記記録上の所有者欄も被相続人の名義のまま更新されていないため、法務局側の記録と、市区町村が実際に連絡を取っている相手(管理の実権を持つとは限らない代表相続人)が一致しないという状態が生じます。

この状態は、助言・指導・勧告といった行政上の通知が、実際に空き家の処分方針を決められる人に届きにくくなる要因になります。共有者の一部にしか連絡が行かず、他の共有者が指定の事実自体を知らないまま手続きが進んでしまうケースも想定されます。相続登記を済ませて登記記録上の所有者を現在の権利者に更新しておくことは、単に名義を整えるだけでなく、行政とのやり取りの窓口を明確にし、通知の行き違いを防ぐという実務上の意味も持ちます。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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