この記事の要点

  • 持ち主は分かっているのに管理が行き届かず、他人の権利・利益が侵害されている(またはそのおそれがある)とき、裁判所に管理人を選んでもらえる制度があります(民法264条の9・264条の14。2023年4月1日施行)
  • 申立てができるのは「利害関係人」。被害を受けている(受けるおそれのある)隣地の所有者などが該当し得ます
  • 管理人が処分(売却など)を行うには、裁判所の許可に加えて所有者本人の同意が必要です。所有者が分からない場合の制度とは、この点が大きく異なります
  • 裁判所は原則として、対象となる土地・建物の所有者の言い分(陳述)を聴いたうえで判断します
  • 申立てにあたっては、管理費用に充てるお金(予納金)を納めるのが通常です

隣の土地が何年も手入れされず、雑草や枝が敷地にはみ出し、建物は今にも崩れそう。持ち主が誰かは分かっている、あるいは連絡もつく。それでも管理をしてもらえない──そのような場合に使える可能性があるのが、この記事で解説する「管理不全土地・建物管理制度」です。

はじめに、混同しやすい制度との違いを整理しておきます。

  • 空き家の放置に対して市区町村が指導・勧告を行う「管理不全空家」(空家等対策特別措置法)は、この記事とは別の制度です。行政の窓口で進む手続きについては、空き家を相続したときの記事で解説しています
  • この記事で扱うのは、裁判所に対して利害関係人(隣地の所有者など)が申し立てる民法上の制度です。行政ではなく司法の手続きである点が、空家法の「管理不全空家」とは根本的に異なります

また、前日の記事で解説した「所有者不明土地管理制度」は、そもそも所有者やその所在が分からない土地・建物が対象でした。これに対し、この記事で解説する管理不全土地・建物管理制度は、所有者は分かっている(連絡もつく)のに、管理が行き届いていない場合が対象です。「所有者が不明かどうか」が、2つの制度を使い分けるうえでの基本的な目安になります。

管理不全土地・建物管理制度とは

管理不全土地管理制度とは、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、利害関係人の請求(申立て)により、裁判所が「管理不全土地管理人」による管理を命じる制度です(民法264条の9第1項)。所有者不明土地管理制度と同じく、令和3年の民法改正(令和3年法律第24号)で新設され、2023年(令和5年)4月1日に施行されました。

建物についても同様の制度があり、「管理不全建物管理人」による管理を命じることができます(民法264条の14第1項)。以下では主に土地を例に説明しますが、建物についても基本的な仕組みは共通です(詳しくは後述します)。

どんな場合に使えるか──要件

条文が定める要件は、次の2つです(民法264条の9第1項)。

  • 所有者による土地の管理が不適当であること──草木の放置、崩れかけた擁壁の放置など、管理が行き届いていない状態
  • それによって、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがあること──隣地への越境、崖崩れ・土砂流出のおそれ、倒壊による危険など

所有者不明土地管理制度と違い、この制度が主に想定しているのは、**所有者が誰かは分かっている(または特定できる)**場面です。連絡が取れているのに対応してもらえない場合はもちろん、所有者は判明しているが管理の意思や能力がない場合(高齢・遠方居住・経済的事情など)も対象になり得ます。

加えて、裁判所が「必要があると認めるとき」に管理命令をすることができるとされており(同項)、要件を満たせば当然に管理人が選ばれるわけではなく、管理人を選ぶ必要性があるかどうかも裁判所が判断します。

なお、条文上の要件はここまでに挙げたものであり、「所有者が判明していること」が明文の要件として書かれているわけではありません。所有者は判明しているが所在が分からないといった場面で、2つの制度のどちらによるべきかが問題になることもあり得ます。この点は事案ごとの判断になります。

誰が申立てできるか──「利害関係人」とは

申立てができるのは「利害関係人」です(民法264条の9第1項)。条文上の定義はなく事案ごとに裁判所が判断しますが、一般に、管理不全な状態によって現に被害を受けている、または被害を受けるおそれのある隣接地の所有者などが該当し得ると説明されています。「隣の土地が荒れていて自分の敷地に被害が及びそうだ」という場面は、この制度が典型的に想定する利用場面のひとつです。

手続きの流れ──裁判所は所有者の言い分も聴く

管理不全土地管理命令の申立てを受けた裁判所は、原則として、対象となる土地の所有者の陳述(言い分)を聴かなければならないとされています(非訟事件手続法91条3項1号)。対象となる土地の所有者にとっては、自分の財産の管理を他人に委ねられることになるため、命令を出す前に本人の言い分を聴く機会が設けられています。これは、所有者不明土地管理制度(所有者が分からないため、代わりに1か月以上の公告期間を置く仕組みになっています)とは異なる、この制度ならではの手続き上の特徴です。

なお、この陳述聴取は、その手続を経ることによって申立ての目的を達することができない事情がある場合には省略されることがあります(同項ただし書)。

管理人には何ができるか──保存・利用改良と、処分には許可+所有者の同意

管理不全土地管理人が選ばれると、対象の土地(および土地上の動産などを含む「管理不全土地等」)の管理・処分をする権限を管理人が持ちます(民法264条の10第1項)。管理人が自分の判断で行えるのは、次の範囲の行為です(同条2項)。

  • 保存行為」──現状を維持するための行為。草刈りや、危険箇所の応急的な補修など
  • 土地の性質を変えない範囲での「利用・改良を目的とする行為

これを超える行為──たとえば土地の売却などの処分──には、裁判所の許可が必要です(同項本文)。

ここで、所有者不明土地管理制度との大きな違いがあります。管理不全土地管理制度では、処分についての許可をするには、所有者本人の同意がなければならないと定められています(民法264条の10第3項)。所有者が判明している以上、その意思を無視して財産を処分させるわけにはいかない、という考え方です。管理を任せることはできても、所有者の同意なしに売却まで進められる制度ではない、という点は押さえておく必要があります。

管理人は、所有者のために善良な管理者の注意(その職務にある人として通常求められる程度の注意)をもって権限を行使する義務を負い(民法264条の11第1項)、対象が数人の共有になっている場合は、共有者全員のために誠実かつ公平に権限を行使しなければなりません(同条2項)。任務違反で著しい損害を与えたときなどは、利害関係人の請求により裁判所が管理人を解任することもできます(民法264条の12第1項)。

費用はどうなるか──予納金が必要になるのが通常

管理人の報酬や管理にかかる費用は、制度上は対象となる土地・建物の所有者の負担とされています(民法264条の13第2項)。管理人は、管理不全土地等(対象の財産)から、裁判所が定める額の費用の前払いや報酬を受けることができます(同条1項)。

もっとも、管理不全な土地からすぐに費用を賄えないことが多いため、実務上は申立人が管理費用に充てるお金をあらかじめ裁判所に納める(予納金)のが通常です。予納金の額は土地の状況や見込まれる管理の内容によって事案ごとに異なり、裁判所が判断します。「困っている側」である申立人が、当面の費用を立て替える形になる点は、申立てを検討するうえで織り込んでおく必要があります。

建物にも同じ制度がある──管理不全建物管理制度

建物についても、所有者による管理が不適当で他人の権利・利益が侵害される(おそれがある)場合に、裁判所が「管理不全建物管理人」による管理を命じることができます(民法264条の14第1項)。管理命令の効力は、建物内の動産や、賃借権など建物の敷地に関する権利にも及びます(同条2項)。管理人の権限・義務・解任・報酬などの規定は、土地の場合の規定が準用されます(同条4項)。

倒壊のおそれがある空き家など、放置された建物への対応として、この制度が検討される場面が想定されます。ただし、分譲マンションなどの区分所有建物の専有部分・共用部分には、この制度は適用されません(建物の区分所有等に関する法律6条4項)。これは所有者不明建物管理制度についても同じです(同項)。区分所有建物の管理をめぐる問題は、管理組合の仕組みなど別の枠組みで検討することになります。

「所有者が分かっているか・不明か」で使い分ける

次の表は、2つの制度の違いを大づかみにつかむための整理です。どちらを使えるかを一律に決める基準ではない点に注意してください。

管理不全土地・建物管理制度 所有者不明土地・建物管理制度
所有者の状況 分かっている(連絡がつく) 分からない、または所在不明
制度の狙い 管理の不適当さそのものへの対応 所有者不在による手続きの停滞への対応
処分(売却等)の許可 裁判所の許可+所有者の同意が必要 裁判所の許可のみ(所有者の同意は前提にない)
手続き上の保障 原則として所有者の陳述聴取 一定期間(1か月以上)の公告

隣の土地に困ったとき、まず確認したいのは「所有者が分かっているか、連絡がつくか」という点です。所有者は分かっているが対応してもらえない場合はこの記事の管理不全制度、所有者が誰か・どこにいるか分からない場合は所有者不明土地管理制度、というのが基本的な整理になります。ただし、これはあくまで目安です。所有者は判明しているが所在が分からない、といった中間的な場面では、どちらの制度によるべきかが問題になり得ます。実際にどちらの制度が使えるか、要件を満たすかどうかは事案ごとの判断が必要です。

司法書士に依頼できること・弁護士に依頼すべきこと

この制度の申立先は地方裁判所です。手続きへの関わり方は、次のように分かれます。

  • 申立ての代理(代理人として申立てや裁判所とのやり取りを行うこと)ができるのは弁護士です
  • 司法書士が関与できるのは、「裁判所に提出する書類の作成」の範囲です(司法書士法3条1項4号)。申立書や添付資料の作成を通じてサポートする形になります

また、荒れた隣地の所有者に直接改善を求める(請求する)交渉や、すでに紛争になっているケースの対応は、弁護士に相談すべき領域です。書類作成の支援は司法書士、代理や交渉・紛争対応は弁護士、と役割が分かれていることを覚えておいてください。

まとめ

管理不全土地・建物管理制度は、所有者は分かっているのに管理が行き届かず、他人の権利・利益が侵害される(おそれがある)場合に、利害関係人の申立てにより裁判所が管理人を選ぶ制度です(民法264条の9・264条の14)。所有者不明の場合の制度とは異なり、処分には所有者本人の同意が必要で、手続きの中で所有者の言い分を聴く機会も設けられています。申立てには予納金の負担が生じ得ます。荒れ放題の隣地に困っている場合の選択肢のひとつとして、申立書類の準備や制度の使い分けに迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

申立手数料(収入印紙)や郵便切手代のほか、管理人の報酬・管理費用に充てるための予納金を裁判所に納めるのが通常です。予納金の額は土地・建物の状況や管理の内容によって事案ごとに異なり、裁判所が判断します。申立て前に、想定される負担について専門家に確認しておくと安心です。

Q. 荒れた隣地を放置しておくと、どんなリスクがありますか?

草木の越境、害虫、塀や崖の崩壊、倒壊、不法投棄など、隣地に被害が及ぶおそれが続きます。所有者に連絡しても対応してもらえない状態が続けば、被害が現実になってから対処するよりも、早い段階でこの制度を含めた選択肢を検討することが大切です。

Q. 自分で申立てはできますか?どこに相談すればよいですか?

利害関係人本人が申立てをすること自体は可能です。ただし、管理が不適当であることや被害(のおそれ)を裏づける資料の準備、申立書類の作成には専門的な知識が必要です。裁判所に提出する書類の作成は司法書士に依頼できます。代理人による申立てや、所有者との交渉・紛争になっている場合の対応は弁護士の領域です。まずはお近くの司法書士や弁護士に相談してみてください。


【さらに深掘り】管理不全土地・建物管理命令と不動産登記の関わり

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

管理命令そのものは登記記録に反映されない──所有者不明制度との構造の違い

所有者不明土地管理制度では、管理命令が発せられると、裁判所書記官が職権で登記を嘱託し、対象の土地の登記記録に管理命令が記録される仕組みが設けられています(非訟事件手続法90条6項)。これに対し、管理不全土地・建物管理命令については、非訟事件手続法91条にこの種の登記嘱託の規定は見当たりません。

この違いは、管理人に与えられる権限の性質の違いに対応していると考えられます。所有者不明土地管理制度では、対象土地の管理・処分をする権利が管理人に「専属する」と定められており(民法264条の3第1項)、所有者本人はその権利を行使できない状態になります。これに対し、管理不全土地管理制度の条文は、管理人が管理・処分をする権限を有すると定めるにとどまり(民法264条の10第1項)、「専属する」という文言は置かれていません。所有者本人が処分権そのものを失うわけではない制度設計であるため、第三者に権利制限を公示する登記嘱託の仕組みが置かれていないものと考えられます。

ただし、これは条文の文言の違いから推測される説明のひとつであり、立案担当者の解説等でこの理由づけが示されているかどうかは、本記事執筆時点では確認できていません。両制度の違いは、たとえば所有者不明土地管理命令が所有者に告知することを要しないとされている(非訟事件手続法90条12項)のに対し、管理不全土地管理命令では所有者の陳述を聴く手続きが置かれている、という手続き構造の違いからも説明し得るところです。理由づけの当否にかかわらず、管理不全の側に登記嘱託の規定が置かれていないこと自体は、条文上そのとおりです。

実務上のポイントとして、管理不全土地・建物管理命令が出ていても、登記事項証明書を取得しただけではその事実は分かりません。命令の有無を確認するには、発令した裁判所に照会するなど、登記記録以外の方法による必要があります。

管理人による売却が実現した場合の登記手続き

本文で触れたとおり、管理不全土地等の処分(売却など)には、裁判所の許可に加えて所有者本人の同意が必要です(民法264条の10第3項)。この二重のハードルを越えて実際に売却に至った場合、所有権移転登記の申請にあたっては、処分許可の裁判書の謄本などの提供が求められることが考えられます。もっとも、所有者の同意があるかどうかは許可の裁判の中で審査される事項であるため、登記申請の際に改めて同意を証する書面を求められるかどうかを含め、具体的な添付書面の取扱いは通達・先例によることになります。この点について、本記事執筆時点で確定的なところをお示しすることはできません。

所有者不明土地管理制度では、管理・処分の権利が管理人に専属するとされているため(民法264条の3第1項)、管理人が所有者に代わって登記義務者側の手続きに関与する形が想定されます。これに対し、管理不全制度では処分権が所有者に残っているため、登記手続きへの管理人の関与のしかたは、所有者不明制度とは異なり得ます。所有者本人の関与(同意書面の提供や、場合によっては本人による手続き)が前提になることも考えられ、事案ごとに法務局への事前相談を踏まえて進めるのが実務上の対応になると考えられます。この点は個別の通達・先例の確認を要する論点であり、本記事執筆時点で確定的な運用を提示できるものではありません。

申立て準備段階での不動産の特定実務

申立書には、対象となる土地・建物を正確に特定して記載する必要があります。準備段階では、次のような資料で地番・家屋番号や所有者を確認しておくのが一般的です。

  • 登記事項証明書──対象不動産の地番・家屋番号、登記記録上の所有者の氏名・住所を確認する基本資料です
  • 公図・地積測量図──隣接地との位置関係、越境の範囲を客観的に示す資料になります
  • 名寄帳・固定資産税課税台帳──同一所有者が保有する近隣の他の不動産の有無を確認する際に参照されることがあります

申立人自身が資料を取得できる範囲は限られるため、これらの収集・整理を含めた申立書類一式の作成支援を司法書士に依頼できます(司法書士法3条1項4号)。

隣地側が事前にできる証拠収集と、書類作成支援の範囲

管理が不適当であることや被害(のおそれ)を裏づける資料として、越境した枝葉・崩れかけた擁壁・堆積したごみなどの状況を撮影した写真や、被害が生じた時期・内容を記録したメモは、申立てを裏づける資料として有用です。こうした記録は、被害を受けている本人が日常的に、時系列で残しておくことに意味があります。

司法書士が関与できるのは、収集された資料を踏まえた申立書・添付書類の作成支援の範囲にとどまります(司法書士法3条1項4号)。対象不動産への立ち入りを伴う調査や、所有者との直接交渉、紛争性がある場面での代理対応は、この範囲を超えるため弁護士に相談すべき領域です。証拠収集は本人が行い、それをどう申立書に構成するかを司法書士が支援する、という役割分担を意識しておくと、準備がスムーズに進みます。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

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