この記事の要点

  • 隣の空き家が危険な状態のとき、最初の相談先は市区町村の空き家担当窓口です。空家等対策特別措置法にもとづき、市区町村が所有者への助言・指導や勧告などを行う仕組みがあります
  • 空き家の所有者(名義人)は、法務局で登記事項証明書を取れば手がかりがつかめます。手数料を払えば誰でも取得できます
  • 所有者が分からない場合や、分かっていても管理してもらえない場合には、裁判所に管理人を選んでもらう民法上の管理制度(所有者不明建物管理制度・管理不全建物管理制度)が使える可能性があります
  • 実際に被害が出た・出そうな場合の損害賠償請求や差止め、所有者との交渉は、弁護士に相談するのが確実です
  • 「どの窓口に何を相談するか」をまず整理するのが、解決への近道です

台風のたびに、隣の空き家の屋根材が飛んでこないか不安になる。壁が傾いてきて、いつ倒れてもおかしくない──。そんなとき、「苦情はどこに言えばいいのか」「そもそも誰に言えばいいのか」が分からず、悩んでいる方は少なくありません。

これまで当ブログでは、空き家を持っている側・相続した側の視点から記事をお届けしてきましたが、今回は視点を変えて、隣に住んでいる側から見た相談先と使える制度を整理します。結論を先に言うと、相談先はおおむね次のように分かれます。

  1. まずは市区町村の空き家担当窓口
  2. 所有者を自分でも調べたいなら法務局で登記事項証明書を取得
  3. 所有者が分からない・管理してもらえないなら、裁判所の管理制度という選択肢
  4. 被害が出た・出そうなら、賠償や交渉は弁護士

順番に見ていきます。

まず相談したいのは市区町村の空き家担当窓口

危険な空き家への対応について、最初の相談先としておすすめしたいのは、空き家がある市区町村の担当窓口です(「空き家対策課」「建築指導課」「環境課」など、自治体によって窓口の名称はさまざまです)。

というのも、放置された空き家に対しては、「空家等対策特別措置法(あきやとうたいさくとくべつそちほう。正式名称は「空家等対策の推進に関する特別措置法」)」という法律にもとづいて、市区町村が対応する仕組みが整えられているからです。市区町村は、管理が行き届いていない空き家を調査し、所有者に対して助言・指導を行い、改善されなければ勧告、さらに危険性の高い「特定空家(とくていあきや)」については命令、最終的には行政が所有者に代わって解体などを行う**行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)**まで、段階を踏んで進む制度です。

つまり、危険な空き家の所有者に働きかける役割は、第一次的には行政が担う建て付けになっています。近隣住民からの情報提供や相談は、市区町村が空き家の状態を把握するきっかけにもなりますから、「危険を感じている」ことを窓口に伝えるのは、遠慮のいらない正当な相談です。相談の際は、空き家の場所、危険と感じる具体的な状態(壁の傾き、屋根材の落下など)、写真があればなお伝わりやすいでしょう。

この法律の仕組みそのもの──「特定空家」「管理不全空家」の指定や、指定後の流れ──については、所有者側の視点から書いた 空き家を相続したら──『特定空家』に指定される前に知っておくこと で詳しく解説していますので、制度の全体像を知りたい方はあわせてご覧ください。

なお、市区町村の対応は段階を踏んで進むため、相談してすぐに空き家が解体される、というものではありません。行政の対応と並行して、次に述べる「所有者を知る」手立ても押さえておくと、その後の選択肢が広がります。

空き家の所有者を調べるには──登記事項証明書は誰でも取れる

「そもそも、あの空き家は誰のものなのか」。これを自分で調べる手がかりになるのが、法務局で取得できる登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)です。いわゆる「登記簿謄本」と呼ばれてきたもので、その不動産の所有者として登記されている人の住所・氏名が記載されています。

ポイントは、登記事項証明書が誰でも取得できることです。自分の不動産でなくても、手数料を払えば他人名義の不動産の証明書を取ることができます(不動産登記法119条)。不動産取引の安全のために、登記の内容は広く公開する仕組みになっているからです。手数料は、執筆時点(2026年8月)で書面請求1通600円、オンラインで請求して郵送受取なら520円、法務局の窓口受取なら490円です。

取得の際にひとつ注意したいのは、不動産は普段使っている住所(住居表示)ではなく、「地番(ちばん)」「家屋番号」という登記上の番号で特定されることです。隣の空き家の地番が分からない場合は、法務局に備え付けの地図(公図)で調べたり、法務局の窓口で住所を伝えて照会したりする方法があります。

証明書のどこに何が書いてあるか、取得方法の詳細は 登記簿(登記事項証明書)の見方──表題部・甲区・乙区は何が書いてある? で解説しています。

ただし、注意点もあります。登記上の所有者がすでに亡くなっていて相続登記がされていない場合、記載されているのは昔の所有者のままということがあります。また、所有者が引っ越していても、住所変更の登記がされていなければ古い住所のままです。なお、相続登記は2024年(令和6年)4月から、氏名・住所の変更登記は2026年(令和8年)4月から、それぞれ申請が義務づけられています(不動産登記法76条の2・76条の5)。ただし、施行前から放置されてきた分も含め、登記が実態に追いついていない不動産は当面残ります。登記事項証明書は強力な手がかりですが、「登記を見れば必ず今の所有者にたどり着ける」とは限らない、という点は押さえておきましょう。

所有者が分からない・管理してもらえないとき──裁判所の管理制度

登記を調べても所有者にたどり着けない場合や、所有者は分かっているのに一向に管理してもらえない場合はどうでしょうか。こうした場面のために、2023年(令和5年)4月に施行された民法改正で、裁判所が空き家などの管理人を選ぶ制度が新設されています。状況に応じて、次の2つに分かれます。

どちらも、被害を受けている(受けるおそれのある)隣地の所有者などの「利害関係人」が裁判所に申し立てる制度で、「隣の空き家が危険なのに手を打ってもらえない」という場面は、これらの制度が想定する場面のひとつです。ただし、申立てをすれば必ず管理人が選ばれるわけではなく、利害関係人に当たるか、管理人を選ぶ必要があるかは、裁判所が事案ごとに判断します。要件や手続きの詳細、費用(予納金)については、それぞれの記事で解説しています。

ひとつ、依頼先について正確にお伝えしておきたい点があります。これらの管理制度は裁判所への申立てが必要ですが、司法書士が代理人として申立てを行うことはできません。司法書士がお手伝いできるのは、裁判所に提出する書類の作成までです。代理人として申立てから交渉まで一括して任せたい場合の依頼先は、弁護士になります。

木の枝が越境しているだけなら──別の記事で解説しています

「倒れそう」とまではいかなくても、空き家の庭木の枝が敷地に伸びてきて困っている、というご相談もよくあります。枝の越境については、2023年の民法改正で、一定の条件のもとで越境された側が自分で枝を切れるルールが整備されました。条件や手順は 隣の木の枝が越境してきたら──2023年民法改正で「自分で切れる」ようになった条件 で詳しく解説していますので、枝のお悩みの方はそちらをご覧ください。

被害が出た・出そうなとき──損害賠償・差止め・交渉は弁護士へ

最後に、いちばん切実な場面です。空き家の壁材が落ちてきて車が傷ついた、塀が倒れてきそうで実際に危ない──このように、すでに被害が出た場合や、被害の発生が差し迫っている場合はどうすればよいでしょうか。

法律上は、建物など工作物の管理に問題(瑕疵)があって他人に損害が生じたときは、まずその建物の占有者が、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは所有者が、賠償責任を負うという定めがあります(民法717条1項)。また、倒壊などの危険が差し迫っている場合に、予防のための措置を求めていく(差止め)ことも考えられます。

ただし、実際に損害賠償を請求するかどうか、どのように所有者と交渉し、必要なら裁判をするか──という段階のご相談は、弁護士にするのが確実です。個別の事情によって法的な見立ても進め方も変わる領域であり、紛争の解決を代理して交渉できるのは弁護士だからです。被害の状況が分かる写真や記録を残したうえで、お近くの弁護士会の法律相談窓口や、法テラスなどに相談してみてください。

まとめ

隣の空き家が倒れそうなとき、苦情・相談の行き先は次のように整理できます。

  • まずは市区町村の空き家担当窓口へ──空家等対策特別措置法にもとづき、所有者への助言・指導から行政代執行まで、段階的に対応する仕組みがあります
  • 所有者を知りたいときは法務局で登記事項証明書──手数料を払えば誰でも取得でき、登記上の所有者の住所・氏名が分かります
  • 所有者が不明・管理してもらえないときは裁判所の管理制度──所有者不明建物管理制度・管理不全建物管理制度という選択肢があります
  • 被害が出た・出そうなときの賠償・差止め・交渉は弁護士へ

登記事項証明書の見方が分からない、管理制度の申立てに必要な書類の作成を頼みたい、といった登記や裁判所提出書類に関することは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 隣の空き家について相談するのに、費用はかかりますか?

市区町村の空き家担当窓口への相談は無料です。所有者を調べるための登記事項証明書は、執筆時点(2026年8月)で1通490〜600円の手数料がかかります。裁判所の管理制度を使う場合は、申立ての費用に加えて、管理費用に充てるお金(予納金)を納めるのが通常で、まとまった額になることがあります。弁護士への相談は、法律相談料がかかる場合と初回無料の場合があります。

Q. 危ないと思いながら放置していると、どうなりますか?

空き家の老朽化は時間とともに進み、台風や地震をきっかけに一気に被害が現実になるおそれがあります。実際に被害が出てからでは、車や建物の修理、けがの治療など、失うものが大きくなりかねません。市区町村への相談も、行政の対応が段階を踏んで進む分、時間がかかることがあります。「危ない」と感じた段階で早めに窓口へ相談し、記録(写真・日付)を残しておくことをおすすめします。

Q. 自分でできることと、専門家に頼むことの線引きは?

市区町村の窓口への相談と、登記事項証明書の取得は、ご自身でできます。そこから先、裁判所の管理制度を使う場合の申立て書類の作成は司法書士に依頼できます(申立ての代理はできません)。所有者への損害賠償請求や交渉、差止めを考える段階になったら、弁護士に相談してください。どの段階か迷うときは、まず市区町村の窓口かお近くの司法書士に現状を話してみると、進む方向が整理しやすくなります。

【さらに深掘り】所有者調査と建物管理制度利用の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

登記記録から所有者を辿る調査は、どこで行き詰まるか

本文で触れたとおり、登記事項証明書で分かるのは「登記上の」所有者の住所・氏名までです。そこから先の調査は、行き詰まりのパターンごとに手立てが分かれます。

登記名義人が転居していて登記上の住所に居ない場合、住所のつながりを追う資料になるのが「住民票の除票」や「戸籍の附票」です。除票(消除・改製された住民票や戸籍の附票)の保存期間は、2019年の制度改正で150年に延長されましたが(住民基本台帳法施行令34条)、改正前にすでに保存期間(当時は5年)を過ぎて廃棄されたものは取得できず、古い登記ほど住所の連絡がつながらない可能性が残ります。また、第三者が他人の住民票(除票を含む)や戸籍の記載事項を請求するには、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために」記載事項を確認する必要がある場合など、法律の定める要件に当てはまることが必要で(住民基本台帳法12条の3第1項、戸籍法10条の2第1項)、請求の理由を明らかにしたうえで窓口の審査を受けます。「隣の建物の倒壊で被害を受けるおそれがあり、所有者に対する妨害予防請求や損害賠償請求を検討している」という事情は、この要件との関係で説明を組み立てていくことになりますが、認められるかどうかは個別の審査によります。

登記名義人がすでに死亡し相続登記がされていない場合は、さらに一段階増えます。現在の所有者は相続人(遺産分割前であれば相続人全員の共有)ですから、所有者を特定するには戸籍をさかのぼる相続人調査が必要です。相続から年月が経っていると数次相続で相続人が数十人に膨らむこともあり、隣人の立場でこの調査を自力で行うのは、上記の請求要件の制約もあって容易ではありません。依頼を受けた弁護士・司法書士などの資格者には、受任した事件に必要な範囲で住民票等を請求する職務上の請求制度があります(住民基本台帳法12条の3第2項)。

2つの建物管理制度──条文上の入口の違い

裁判所の管理制度のどちらを使うかは、条文の要件で分かれます。所有者不明建物管理命令は「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物」が対象で、共有建物では所在等が不明な共有持分だけを対象にすることもできます(民法264条の8第1項)。一方、管理不全建物管理命令は「所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」が入口です(民法264条の14第1項)。つまり、調査を尽くしても所有者やその所在にたどり着けないなら前者、所有者は判明しているのに危険な状態が放置されているなら後者、という整理になります。相続人の一部だけが所在不明、というケースでは、その持分について所有者不明型を使う組み立ても考えられます。

もうひとつ実務で意識したいのが効力の範囲です。所有者不明建物管理命令の効力は、建物内にある所有者の動産と、借地権など「建物の敷地に関する権利」には及びますが、この敷地に関する権利から所有権は除かれています(民法264条の8第2項)。敷地も同じ所有者でともに所有者不明という場合には、建物の管理命令だけでは敷地所有権をカバーできないため、所有者不明土地管理命令(民法264条の2)の申立てを併せて検討することになります。

管理人の権限──「取壊し」までの距離は制度で違う

選任された管理人が何をできるかにも、両制度で差があります。所有者不明建物管理人が選任されると、対象建物の管理・処分をする権利は管理人に「専属」し(民法264条の3第1項の準用。同264条の8第5項)、保存行為や性質を変えない範囲の利用・改良行為を超える行為──売却や取壊しなど──には裁判所の許可が必要です(同264条の3第2項の準用)。これに対し管理不全建物管理人については、準用される条文(民法264条の10第1項)が「管理及び処分をする権限を有する」と定めるにとどまり、この「専属」の文言が置かれていません。所有者が判明していることを前提とする類型であることから、所有者自身の権限は失われないと説明されており、実際、対象建物の処分について裁判所が許可をするには所有者の同意がなければならないとされています(民法264条の10第3項の準用。同264条の14第4項)。建物を取り壊すことは、建物という物そのものを失わせる行為ですから、ここでいう「処分」に当たると解されています。そうすると、危険な空き家の最終的な解決策として取壊しまで視野に入れる場合、管理不全型では所有者の同意という関門が残ることになります。

もっとも、これは「管理不全型では危険な状態に手が出せない」という意味ではありません。落下しそうな屋根材を取り除く、崩れかけた塀の一部を撤去するといった、危険な箇所にしぼった措置であれば、建物そのものを失わせるものではありませんから、裁判所の許可すら要らない保存行為(民法264条の10第2項1号の準用。同264条の14第4項)の範囲に収まる余地があります。どこまでを求めるかによって同意の要否が変わってくる、と押さえておくとよいでしょう。ただし、個々の措置が保存行為の範囲に収まるかどうかは、建物の状態や措置の内容によって判断が分かれうるところです。

申立て準備の実務ポイント

申立先は、対象建物の所在地を管轄する地方裁判所です。隣地の所有者・居住者が「利害関係人」に当たるかは事案ごとの判断ですが、倒壊等により被害を受けるおそれを裏付ける資料──建物の傾きや破損の写真(日付入り)、落下物の記録、市区町村へ相談した経過など──を整えておくことが申立ての土台になります。所有者不明型では、これに加えて、登記事項証明書や住民票調査の結果といった「所有者調査を尽くしたこと」を示す資料の提出が求められます。また、管理人の報酬・管理費用に充てる予納金は裁判所が事案に応じて定めるもので、建物の状態や見込まれる管理の内容によって変わります。

これらの申立てについて司法書士がお手伝いできるのは、本文でお伝えしたとおり裁判所に提出する書類の作成までです。代理人としての申立てや、所有者側との交渉・損害賠償請求を任せたい場合の依頼先は弁護士になります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

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