この記事の要点

  • 借金・疎遠な相続人・前婚の子など「言いにくい事情」ほど、最初の相談で伝えたほうが手続きがスムーズに進みます
  • 戸籍や登記を集める過程で明らかになることが多く、後から分かると段取りがやり直しになりかねません
  • 司法書士には法律上の守秘義務があり、正当な事由がある場合でなければ、業務上知ることのできた秘密を他に漏らすことはできません(司法書士法24条)

相続の相談、何から話せばいいか分からないときは、話す中身をどう整理するかという「順序」の記事でした。今回はその一歩手前、「言いにくいけれど、実は最初に伝えたほうがよい事情」に絞って整理します。

相続の相談では、次のような事情を「言いにくい」と感じて後回しにしてしまう方が少なくありません。

  • 亡くなった方に借金や保証債務があった(かもしれない)
  • 長年連絡を取っていない、疎遠な相続人がいる
  • 前の婚姻でもうけた子や、認知した子がいる
  • 相続人の中に、判断能力に不安のある方がいる

どれも家族の事情として口にしづらいのは自然なことです。ただ、結論から言えば、こうした事情ほど早い段階で伝えていただいたほうが、結果として相談される方にとって負担が少なくなります。理由は次の3つです。

① 手続きの選択に直結するから

借金や保証債務の有無は、相続をそのまま受け継ぐか、相続放棄を選ぶかという判断に直結します。相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」という期限があり、借金の存在を早く把握できるかどうかで、検討にかけられる時間が変わってきます。疎遠な相続人がいる場合も、連絡や戸籍収集にかかる時間を見込んで全体の段取りを組む必要があるため、早く分かるほど選べる手段が広がります。

② 戸籍や登記の調査でいずれ判明するから

相続の手続きでは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて集めます。前の婚姻でもうけた子や認知した子がいれば、この過程で戸籍に記載が残っている限り判明します。金融機関への調査や登記事項証明書の確認で、把握していなかった借入れが見つかることもあります。つまり、こうした事情は黙っていても手続きの過程で明らかになることが多く、伝えずにおいても得られるものはほとんどありません。

③ 後から分かると、段取りがやり直しになるから

相続人の一部を欠いた状態で進めてしまった遺産分割協議は、後になって別の相続人の存在が分かると、原則としてやり直しが必要になります。ただし例外もあり、相続開始の後に認知によって相続人となった方については、他の共同相続人がすでに分割その他の処分をしていたときは、価額のみによる支払を請求できるにとどまるとされています(民法910条)。どちらの扱いになるかは事情によって変わるため、この点も含めて早く分かるほど対応の幅が広がります。借金の存在が相続放棄の期限を過ぎてから判明すると、選べたはずの手続きが選べなくなっていることもあります。早く伝えていただければ避けられた手戻りが、後回しにしたことでかえって時間と手間を増やしてしまうのです。

話した内容は、法律上の守秘義務で守られます

司法書士には法律上の守秘義務があり、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を、正当な事由がある場合でなければ他に漏らしてはならないとされています(司法書士法24条)。ご家族の複雑な事情も、この守秘義務のもとで取り扱われますので、安心して事情をお話しください。

※本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

借金・疎遠な相続人・前婚の子など言いにくい事情ほど、最初に伝えていただいたほうが手続きの選択肢が広がり、後々の手戻りを防げます。司法書士には法律上の守秘義務があり、相談で知ることのできた秘密は、正当な事由がある場合でなければ他に漏らすことができません。ただし、借金の整理や債権者との交渉は弁護士の領域です(簡易裁判所で扱える140万円以下の手続きは、法務大臣の認定を受けた司法書士〔認定司法書士〕に限り取り扱うことができます)。相続人間の対立がすでに見えている場合も、弁護士への相談が必要になります。まずは事情をそのままお近くの司法書士にお話しください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい