この記事の要点
- 帰省中に実家の登記事項証明書(登記簿)を1通取れば、名義・共有・担保は短時間で点検できる(私道の持分とほかの不動産の有無は、別に証明書を取って確かめます)
- 見るのは5か所──①名義は今も親のままか ②いつの間にか共有になっていないか ③完済した抵当権が残っていないか ④私道の持分が漏れていないか ⑤ほかにも名義の不動産がないか
- 名義が親や祖父母のままなら、相続で取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)
- 費用は登記事項証明書が1通600円(オンライン申請なら490円から)、所有不動産記録証明書が1通1,600円(オンライン申請なら1,470円から。いずれも登記手数料令)
- 気になる点が見つかったら、名義のことは司法書士、境界や面積のことは土地家屋調査士へ
帰省で実家に戻る機会があるなら、登記事項証明書(登記簿)を取って、5か所だけ目を通しておくことをおすすめします。名義・共有・担保という、あとになって手続きが必要だと分かりやすいポイントは、実家の宅地・建物の証明書1通でおおよその見当がつきます。残る私道の持分とほかの不動産の有無は、別に証明書を取ることになりますが、その必要に気づくきっかけになるのも、やはりこの1通です。
この記事で扱うのは、取ってきた登記簿を前にして「どこを見るか」だけです。証明書そのものの取り方(窓口・郵送・オンライン申請・登記情報提供サービスの4通り)は登記簿(登記事項証明書)の取り方4通りに、表題部・甲区・乙区がそれぞれ何を書いている欄なのかという読み方の基本は登記簿(登記事項証明書)の見方にまとめてあります。取り方と読み方はそちらに譲り、ここでは点検リストに絞ります。
点検の目的は、その場で問題を解決することではありません。あとで慌てそうな点に、いま気づいておくことです。1つでも引っかかったら、結論を急がず、証明書と気づいた点のメモを残しておけば十分です。なお、実家の話をどう切り出すかについては帰省したら親と話したい「実家の話」も参考になります。
チェック1 名義は今も親のままか
最初に見るのは甲区(所有権に関する事項)です。そこに書かれている所有権の登記名義人が、いま実家に住んでいる親の名前になっているかを確かめます。
ここで意外に多いのが、親の親、つまり祖父母の名前のまま止まっているケースです。祖父母が亡くなったときに相続登記をしないまま親の代が住み続け、そのまま何十年も経っている、という状態です。この場合、祖父母の相続がまだ済んでいないことになり、関係する相続人は祖父母の相続人、つまり親の兄弟姉妹まで広がります。さらに、その間に相続人のどなたかが亡くなっていれば、亡くなった方が二代にわたって重なる「数次相続(すうじそうぞく)」になり、人数はいっそう増えます。詳しくは数次相続の落とし穴で整理しています。
名義が亡くなった方のままになっているなら、期限のある話です。不動産登記法76条の2第1項は、所有権の登記名義人について相続が開始したとき、その相続により所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めています。正当な理由がないのにこの申請を怠ったときは、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
この義務は2024年4月1日から始まったものですが、施行より前に開始していた相続にも適用されます。ただし3年の起算日は「知った日」と施行日のいずれか遅い日にずらされます(令和3年法律第24号附則5条6項)。法務省は、義務化より前に相続したことを知っていた不動産について、2027年(令和9年)3月末までに登記する必要があると案内しています。制度の全体像は相続登記の義務化、あと1年で「経過措置」が終わります、過料が実際にどう運用されるのかは相続登記の義務化、放置すると過料10万円の落とし穴をご覧ください。
なお、母屋のほかに物置や増築部分がある場合、建物の登記そのものが存在しないことがあります。証明書を請求しても「その建物の登記記録がない」と言われたら、未登記建物を相続したときに動く順番が参考になります。
チェック2 いつの間にか共有になっていないか
甲区に複数の名前が並び、それぞれに「持分◯分の◯」と書かれていないかを見ます。書かれていれば、その不動産は共有になっています。
「実家は親のもの」と思っていたのに共有だった、というのは珍しくありません。よくあるのは、過去の相続のときに法定相続分どおりの割合で相続登記だけ済ませてあり、兄弟姉妹やおじ・おばの名前がそのまま残っている、という形です。当時は誰も住まなくなる前提ではなかったため、とりあえずの登記で止まっているわけです。
共有かどうかで何が変わるかというと、その不動産について何かをするときに、誰の関与が必要かが変わります。共有物に変更(その形状または効用の著しい変更を伴うもの)を加えるには他の共有者の同意が必要で(民法251条1項)、管理に関する事項は持分の価格に従いその過半数で決めることになっています(同法252条1項)。過半数で決められるのはこの管理に関する事項であって、実家そのものを手放すかどうかといった話になれば、持分を持っている人が全員関わることになります。つまり、名義人が増えるほど、話をまとめる相手が増えます。
令和3年の民法改正で、共有者の一部が所在不明の場合などについて手続きが用意され、以前より動かしやすくなった部分があります。改正で何が変わったかは兄弟と共有の実家、どう動かす?に、共有を解消して単独名義にする方法の違いは共有名義の実家を単独名義ににまとめてあります。
この段階でやることは、共有かどうかと、共有者が誰かをメモしておくことだけで構いません。誰の名義にするか、どうするかは、その先の話です。
チェック3 完済したのに抵当権が残っていないか
次に見るのは乙区(所有権以外の権利に関する事項)です。住宅ローンを組んだときに設定された抵当権は、ここに記録されています。
見落とされやすいのは、ローンは完済しているのに、抵当権の登記だけが残っているという状態です。ローンを払い終えても、登記は自動的に消えません。抹消の登記を申請して、はじめて登記簿から消えます。完済時に金融機関から抹消用の書類一式を受け取っているはずですが、「必要になったら出そう」としまい込まれたまま、という家は少なくありません。手続きの流れは住宅ローン完済、そのあとが肝心に整理しています。
乙区の記載の読み方そのものは登記簿の「乙区」を読み解くに譲りますが、点検としては次の2点で足ります。
- 乙区に抵当権の記載があるか(そもそも乙区の記載がない登記簿もあります)
- 記載があるとして、その借入はもう終わっているのか、親に確かめられるか
なお、完済から長い年月が経っていると、当時の金融機関が合併や統合で名前を変えていたり、なくなっていたりします。その場合でも手続きの道はありますが、必要な書類が変わります(抵当権抹消をしようとしたら銀行が合併・消滅していた)。今のうちに書類のありかを親に聞いておくことが、この項目でいちばん価値のある一手です。
チェック4 私道の持分が漏れていないか
見落としがもっとも起きやすいのが、この項目です。
実家の敷地から公道に出るまでの通路が、私道になっていることがあります。この私道は実家の敷地とは別の地番の土地で、近隣の複数の家がそれぞれ持分を持ち合う形で登記されているのが典型です。つまり、実家の名義人は「宅地」と「建物」のほかに、私道の持分という3つ目の不動産を持っていることになります。
これが漏れやすいのには理由があります。ひとつは、宅地・建物の登記簿を取っても、そこに私道の地番までは書かれていないこと。もうひとつは、不特定多数の通行に使われている私道が「公共の用に供する道路」として固定資産税を課されないことがあり(地方税法348条2項5号)、その場合、固定資産税の課税明細書に載ってこないことがあることです。手元の書類だけを見ていると、存在に気づきにくくなります。
過去に宅地と建物だけ相続登記を済ませ、私道の持分だけが亡くなった方の名義で残る、というのはよくある形です。典型パターンと探し方は私道の相続登記を忘れずににまとめています。
この項目で確認するのは、あくまで「登記記録の上で、私道の持分が入っているか」までです。 どこからどこまでが道路なのか、隣の土地との境界がどこにあるのかは、登記記録を読んでも判断できません。境界や面積がはっきりしない、隣地ともめそうだ、というときは、土地の境界を扱う専門家である土地家屋調査士にご相談ください。
チェック5 ほかにも名義の不動産がないか──所有不動産記録証明制度
最後は、登記簿そのものではなく、「取り漏らしがないか」を確かめる制度です。
2026年2月2日から、所有不動産記録証明制度が始まっています。不動産登記法119条の2第1項は、何人も、登記官に対して手数料を納付し、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について、法務省令で定める事項を証明した書面(所有不動産記録証明書)の交付を請求できると定めています。さらに同条2項で、相続人その他の一般承継人は、亡くなった方に係る所有不動産記録証明書の交付を請求できるとされています。
つまり、「親名義の不動産が、ほかにもあるかもしれない」という不安に対して、一覧で確かめる手段ができたということです。遠方の山林や、昔に買った別の土地など、家族が把握していない不動産がある場合に効きます。
ただし、請求できる人は上の条文のとおりに限られます。1項は名義人本人、2項は亡くなった方の相続人その他の一般承継人です。親がご存命のうちは、請求できるのは親本人であり、子が動くとしても、親から委任を受けた代理人として請求することになります。帰省中の点検としては、「こういう制度がある」と親に伝えるところまでが現実的な一歩です。制度の対象者・請求方法・注意点は「親の不動産、どこにあるかわからない」を解決する新制度で詳しく扱っています。
手数料は、所有不動産記録証明書が書面請求で1通1,600円、オンライン請求なら1通1,470円(送付を求める場合は1,500円)です(登記手数料令)。登記事項証明書より高めですが、心当たりのない不動産を探し回る手間を考えれば、選択肢に入れる価値はあります。
まとめ
帰省中の「実家の健康診断」は、実家の登記事項証明書を取って、次の5か所を見ていくだけで済みます。1から3は実家の宅地・建物の証明書で確かめられ、4と5は別に証明書を取ることになります。
- 甲区の名義が今も親のままか(祖父母のままなら数次相続の可能性)
- 持分の記載があり、いつの間にか共有になっていないか
- 乙区の抵当権が、完済済みなのに残っていないか
- 私道の持分が漏れていないか
- ほかにも名義の不動産がないか(所有不動産記録証明制度の活用)
引っかかる点が見つかっても、その場で結論を出す必要はありません。証明書と気づいた点をメモとして残し、書類のありかを親に聞いておくだけで、次の一歩がずいぶん軽くなります。名義の変更が必要かどうか、どんな書類がいるかについては、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 登記簿を取るのに、費用はどれくらいかかりますか? 登記事項証明書は、窓口・郵送での請求が1通600円、オンライン申請なら1通490円(窓口交付)または520円(送付)です。所有不動産記録証明書は書面請求が1通1,600円、オンライン請求が1通1,470円(送付を求める場合は1,500円)です。いずれも登記手数料令に基づく金額で、改定されることがあるため、請求前に法務局の案内でご確認ください。取り方ごとの比較は登記簿(登記事項証明書)の取り方4通りにまとめています。
Q. 名義が親や祖父母のままでした。いつまでに何をすればよいですか? 相続により所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由がないのに怠ると10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。2024年4月1日の施行より前に開始していた相続も対象で、その場合の3年は「知った日」と施行日のいずれか遅い日から数えます(令和3年法律第24号附則5条6項)。義務化より前に相続したことを知っていた不動産について、法務省は2027年(令和9年)3月末までに登記する必要があると案内しています。放置すると相続人が増え、手続きの負担も増えていきます。
Q. 自分で確認できますか?どこに相談すればよいですか? 登記事項証明書は所有者本人でなくても請求できるため、チェック1から4までは自分で進められます。チェック5の所有不動産記録証明書だけは、請求できる人が名義人本人と、亡くなった方の相続人その他の一般承継人に限られます(不動産登記法119条の2)。親がご存命のうちは、親本人が請求するか、親から委任を受けて代理人として請求することになります。そのうえで、名義の変更や抵当権の抹消といった登記の手続きが必要になりそうなら司法書士、境界・面積・建物が登記されているかどうかといった土地や建物そのものの調査が必要なら土地家屋調査士が窓口です。どちらに頼めばよいか迷う段階であれば、まずはお近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】登記記録から実家の状態を点検するときの着眼点
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、帰省中に確認しておきたい5つの点検項目を挙げました。ここでは、その点検を登記実務の観点からもう一段掘り下げます。証明書の選び方、登記記録から読み取れることと読み取れないことの境目、そして点検が空振りに終わる典型的な原因を、5つの論点に分けて整理します。
1. 点検には「全部事項証明書」を選ぶ
登記事項証明書にはいくつかの種類があり、記載される範囲が異なります。不動産登記規則196条1項は、全部事項証明書を「登記記録(閉鎖登記記録を除く。)に記録されている事項の全部」、現在事項証明書を「登記記録に記録されている事項のうち現に効力を有するもの」と定めています。
この違いは点検の場面で効いてきます。現在事項証明書は、いま効力のある権利関係だけが載るため見やすい反面、過去に抹消された登記や、所有権が移ってきた経緯は現れません。今回のチェック1(名義がどう移ってきたか)とチェック3(過去に設定された担保がどう処理されたか)は、まさに「経緯」を追う作業ですから、点検の目的であれば全部事項証明書を選ぶのが基本です。
ただし、全部事項証明書の「全部」にも範囲があることは押さえておく必要があります。上の括弧書きのとおり、閉鎖登記記録は含まれません。合筆や建物の滅失によって閉鎖された登記記録、登記簿のコンピュータ化に伴う改製で閉鎖された記録は、通常の全部事項証明書には現れないということです。閉鎖登記記録についても証明書の交付を受ける道は用意されていますが(同条2項)、別に請求する必要があります。「全部事項証明書を取ったのだから、この土地の履歴はすべて見た」とはならない、という前提で読むのが安全です。
2. 甲区は「原因」と「受付年月日」を並べて読む
甲区の各欄には、登記の目的(所有権移転など)、受付年月日・受付番号、原因(売買・相続・遺産分割など)と原因日付、そして登記名義人が記録されます。点検では、原因日付と受付年月日の開きに注目すると得られる情報が多くなります。
相続を原因とする所有権移転で、原因日付(被相続人の死亡日)から受付年月日まで長い年月が空いていることがあります。開きが生じた理由は、遺産分割の話し合いに時間がかかった、相続人の把握に手間取った、費用の都合がつかなかったなどさまざまで、その理由自体は登記記録からは読み取れません。ただ、過去に開きがあったという事実は、次の代でも同じことが起きうる目安にはなります。相続を原因とする移転が何度か連続していれば、代替わりのたびに登記されてきたことが分かりますし、逆に、親世代の相続があったはずの時期に何の記録もなければ、そこで登記が止まっている可能性が高いということです。
原因欄を読むときにもう一点、区別がつかないことがあります。遺産分割によって1人が単独で取得した場合も、法定相続分どおりに登記した場合も、登記原因はどちらも「相続」と記録されます。原因欄の文字だけでは、話し合いの結果なのか、とりあえずの法定相続分なのかは分かりません。判断の手がかりになるのは、続く持分の数字が法定相続分と一致しているかどうかという程度です。なお、いったん法定相続分で登記したあとに話し合いがまとまった場合には、「遺産分割」を原因とする登記が別に記録されます。持分の移転の登記の形のほか、2023年(令和5年)4月からは、登記権利者が単独で申請できる所有権の更正の登記の形も認められています(令和5年3月28日付け法務省民二第538号通達)。いずれの形でも、この原因が見えたら、二段構えで登記されてきたことが読み取れます。
ただし、登記記録から相続人が確定するわけではありません。誰が相続人かは戸籍をたどって確認するものであり、登記記録は「登記の上でどう扱われてきたか」を示すにすぎません。この区別を曖昧にすると、必要な戸籍の見積もりを誤ることになります。
3. 乙区の抵当権は「自動では消えない」──残っていた場合に何が起きるか
まず、読み方で誤解が起きやすい点から確認します。全部事項証明書には、すでに抹消された登記も記載されます。抹消された事項の下には線を付して記載するものとされているため(不動産登記規則197条5項)、乙区に「抵当権設定」の文字があっても、その事項に下線が引かれていれば、すでに消えている登記です。文字が見えただけで「まだ担保が付いている」と早合点しないこと、逆に下線がなければ、その登記は抹消されておらず、登記記録の上ではまだ残っているということ。この2点をまず押さえます。なお、これは全部事項証明書を前提とした読み方です。現在事項証明書には抹消された登記そのものが載らないため、下線の有無で見分けるという読み方ができません。
そのうえで、下線のない抵当権が残っていた場合の話です。本文で触れたとおり、ローンを完済しても登記は自動的には消えません。これは制度の作りによるものです。不動産登記法16条1項は、登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者の申請または官庁・公署の嘱託がなければすることができないと定めています。そして権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同して申請するのが原則です(同法60条)。抵当権の抹消でいえば、原則として所有者側だけでは完結せず、金融機関側の関与が必要になるということです。放置するほど段取りが重くなるのも、これが「相手方のいる手続」であることと関係します。
ここでよくある疑問が、完済時に受け取った書類に期限があるのかという点です。ここは区別が必要です。解除証書・弁済証書といった登記原因を証する書類や、金融機関が作成した委任状そのものについて、法令が有効期限を定めているわけではありません。期限が定められているのは別のもので、法人の代表者の資格を証する登記事項証明書を提供して申請する場合、その証明書は作成後3か月以内のものでなければならないとされています(不動産登記規則36条2項)。もっとも、会社法人等番号を有する法人については会社法人等番号を提供することとされているため(不動産登記令7条1項1号イ)、「受け取った書類一式が3か月で無効になる」という理解は正確ではありません。
では、時間の経過で本当に効いてくるのは何か。相手方である金融機関のほうが変わってしまうことです。商号変更、本店移転、合併、会社分割。登記記録に載っている抵当権者と現在の金融機関がどうつながるのかを、別に証明しなければならなくなります。本文で触れた「銀行が合併・消滅していた」というケースは、まさにこれにあたります。古い書類がそのままでは足りなくなるのは、書類が古びたからではなく相手方が入れ替わったからだと考えると、放置のリスクの正体が見えてきます。
書類そのものが見つからない場合はどうか。抹消の申請では登記義務者の登記識別情報(かつての登記済証にあたるもの)を提供するのが原則ですが、これを提供することができないことについて正当な理由がある場合の取扱いが、法に用意されています(不動産登記法22条ただし書、23条)。道が閉ざされるわけではありません。ただし手順と日数は確実に増えます。「なくしたからどうにもならない」でもなく「いつでも同じ手間でできる」でもなく、早いうちに所在を確かめておくほど選択肢が広い、というのが実務上の結論です。
もうひとつ、乙区の記載が「抵当権設定」ではなく「根抵当権設定」となっている場合は、扱いが変わります。根抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するもので(民法398条の2第1項)、いまの借入残高がゼロであることが、そのまま登記を消せることを意味しません。事業を営んでいた家では、この形が残っていることがあります。根抵当権の記載を見つけたら、その場で結論を出さず、お近くの司法書士にご相談ください。
4. 私道は「登記記録上の持分の有無」までが点検の範囲
チェック4で確認するのは、私道とされている土地の登記記録を取り、その甲区に実家の名義人が持分とともに記載されているかどうかです。ここまでは登記記録を読めば判断できます。
登記記録の上で、私道は実家の敷地とは別の地番の土地として記録されます。よく見るのは、甲区に近隣の所有者の名前が並び、それぞれに持分が記録されている形です。ただし、これがすべてではありません。通路部分を細長く分けて、各戸がそれぞれ1筆ずつを単独で所有している形もあります。この場合は持分の記載が出てこないため、持分の記載がないから私道は関係ない、とは言えません。
表題部の地目も手がかりにはなります。地目は土地の主な用途により区分して定めるものとされ、その区分のひとつに「公衆用道路」が挙げられています(不動産登記規則99条)。私道にこの地目が使われていることは多いのですが、地目の記載だけで私道かどうかが決まるわけではありません。地目が現況と対応しているか、地目を改める必要があるかどうかは、表示に関する登記の領域であり、土地家屋調査士の業務です。
私道の地番にたどり着く手がかりを、ひとつ挙げておきます。乙区に効力のある(根)抵当権が記録されている場合、登記事項証明書を請求するときに共同担保目録についても証明を求める旨を申し出る方法です。この申し出は請求情報の内容とされており(不動産登記規則193条1項5号)、申し出がなければ共同担保目録の記載は省略される扱いになっています(同規則197条3項)。住宅ローンを組むときに宅地・建物と一緒に私道の持分も担保に入れている例は多く、その場合、共同担保目録には担保の対象となっている不動産が並びます。宅地と建物のほかに見覚えのない地番が挙がっていれば、それが私道の持分である可能性があります。複数の不動産をまとめて担保に入れていなければ作られない目録なので万能ではありませんが、手がかりの少ない場面では有効です。
一方で、どこからどこまでが道路として使われているのか、隣接地との境界がどこにあるのか、登記記録上の地積と現況が一致しているのか、といった点は、登記事項証明書からは判断できません。これらは土地の表示や境界にかかわる事柄であり、土地家屋調査士の業務領域です。点検の段階で境界が気になったときは、無理に自分で結論を出さず、土地家屋調査士に確認を依頼してください。
なお、私道の地番が分からず持分の有無を確かめられない場合も、まずは「私道があるかもしれない」という気づきをメモに残しておけば十分です。地番の絞り込み方そのものは、本文で挙げた私道の記事で扱っています。
5. 名義人の住所・氏名が古いままだと、点検そのものが空振りする
見落とされやすいのが、登記名義人の住所・氏名の表示です。不動産登記法76条の5は、所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならないと定めており、この規定は2026年4月1日から施行されています。正当な理由がないのに怠った場合は5万円以下の過料の対象です(同法164条2項)。この義務は施行より前に生じていた住所等の変更にも適用され、その場合の2年は、変更があった日と施行日のいずれか遅い日から数えます(令和3年法律第24号附則5条7項)。制度の内容は引っ越し・結婚したら登記も更新をにまとめています。
実務上さらに重要なのは、この表示のずれが、チェック5の所有不動産記録証明制度の効き目を左右する点です。不動産登記法119条の2第1項が証明の対象としているのは「自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産」であり、どの不動産を拾うかは、請求のときに提供する所有権の登記名義人の氏名または名称および住所を手がかりに検索される仕組みになっています(不動産登記規則195条1項5号)。証明書はその氏名・住所ごとに作成するものとされ(同規則199条4項)、請求情報も所有権の登記名義人ごとに作成して提供することとされています(同規則195条3項)。つまり、旧姓や旧住所のまま登記されている不動産まで拾いたいのであれば、その氏名・住所のぶんも併せて請求する必要がある、ということです。証明書に載らなかったことが「ほかに不動産はない」ことの証明にはならない、という前提で使わなければなりません。
もう一点、この証明書から何が分かるのかも押さえておくべきです。所有不動産記録証明書に記載されるのは、不動産所在事項および不動産番号とされています(同規則199条1項)。どこにどの不動産があるかは分かりますが、持分がどれだけあるのか、担保が付いているのか、名義が現在どうなっているのかまでは分かりません。心当たりのない不動産が出てきたら、結局はその不動産の登記事項証明書を別に取って中身を見ることになります。取り漏らしを見つけるための入口であって、これ1通で点検が終わるものではない、という位置づけです。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 不動産登記法 第16条・第22条・第23条・第59条・第60条・第76条の2・第76条の5・第119条・第119条の2・第164条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第7条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第36条・第99条・第193条・第195条・第196条・第197条・第199条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 民法 第251条・第252条・第398条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 地方税法 第348条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 登記手数料令 第2条・第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
- 法務省民事局長通達 令和5年9月12日付け法務省民二第927号(相続登記等の申請義務化関係): https://www.moj.go.jp/content/001408564.pdf
- 法務省民事局長通達 令和5年3月28日付け法務省民二第538号(令和5年4月1日施行関係): https://www.moj.go.jp/content/001394385.pdf
- 法務省民事局長通達 令和7年10月30日付け法務省民二第915号(住所等変更登記の義務化関係): https://www.moj.go.jp/content/001460083.pdf
- 法務省民事局長通達 令和8年2月2日付け法務省民二第81号(所有不動産記録証明書の交付等): https://www.moj.go.jp/content/001460085.pdf
- 法務省「不動産を相続したらかならず相続登記!」(相続登記の義務化 案内ページ): https://www.moj.go.jp/MINJI/souzokutouki-gimuka/index.html