この記事の要点
- 法務局に預けた遺言書についての通知は2種類。「関係遺言書保管通知」と「指定者通知(遺言者が指定した方への通知)」で、届くきっかけがまったく違う
- 関係遺言書保管通知は、相続人などの誰か1人が閲覧や証明書の取得をしたときに、ほかの関係者へ届く。特別な申込みは不要
- 指定者通知は、遺言者が生前にあらかじめ指定した人へ届く。執筆時点(2026年8月)で3名まで指定でき、遺言者が希望した場合にだけ実施される
- どちらの通知にも、遺言書の「中身」は書かれていない。届いたら遺言書保管所で閲覧か遺言書情報証明書の請求をする
- 誰も動かなければ関係遺言書保管通知は届かない。だからこそ、保管申請のときに指定者通知を申し込んでおく意味がある
法務局に遺言書を預けたあと、その遺言書の存在は家族にどうやって伝わるのでしょうか。答えは「2種類の通知」です。ひとつは相続人などの誰かが動いたときに届くもの、もうひとつは遺言者が生前に指名した人へ届くもの。この2つは、届くきっかけも、事前の手続の要否もまったく違います。
この記事は、その通知だけに絞って整理します。制度そのもの(預けられる遺言書の種類・費用・手続の流れ・検認が不要になること)は自筆の遺言書を法務局に預けられる——遺言書保管制度とはで解説していますので、まずそちらをご覧ください。
通知は2種類ある
法務省の案内では、遺言書保管制度の通知は次の2種類とされています。
- 関係遺言書保管通知
- 遺言者が指定した方への通知(略して「指定者通知」)
名前が似ていて混同しやすいのですが、区別のコツはひとつだけです。「誰の行動がきっかけで動き出す通知か」を見ることです。
- 関係遺言書保管通知 … 遺言者が亡くなったあと、相続人など関係者の誰かが動いたことがきっかけ
- 指定者通知 … 遺言者が亡くなったという事実を遺言書保管官が確認したことがきっかけ(生前の申込みが前提)
関係遺言書保管通知——誰か1人が動くと、全員に届く
どんなときに届くのか
遺言者が亡くなったあと、相続人・受遺者(遺言で財産を受け取る人)・遺言執行者といった関係者のうち誰か1人が、
- 遺言書の閲覧を請求した
- 遺言書情報証明書(遺言書の内容を証明する書面)の交付を受けた
このいずれかをすると、遺言書保管官(法務局で遺言書保管の事務を取り扱う職員)から、ほかの関係者へ「この遺言書を保管しています」というお知らせが届きます。これが関係遺言書保管通知です(法務局における遺言書の保管等に関する法律〔以下「遺言書保管法」〕9条5項)。
誰に届くのか
遺言書保管法9条5項は、通知の相手方を「遺言者の相続人」と「受遺者」「遺言書で指定された遺言執行者」と定めています。さらに、法務局における遺言書の保管等に関する省令48条1項によって、遺言書に記載されたそのほかの一定の関係者(認知される子、廃除の意思を示された推定相続人、指定された未成年後見人など)にも通知するものとされています。
つまり、動いたのが1人でも、通知は関係者全体に広がるという設計です。
なお、遺言書保管法9条5項にはただし書があり、「それらの者が既にこれを知っているときは、この限りでない」とされています。すでに保管の事実を知っている人にまで機械的に送るわけではない、という趣旨です。
申込みは要らない。ただし「誰も動かなければ届かない」
この通知に、事前の申込みや追加の手数料は必要ありません。遺言者の側でも、相続人の側でも、特別な手続は不要です。
裏を返すと、弱点もはっきりしています。法務省も、遺言者の死亡後であっても関係者のうち誰かが閲覧等をしなければ通知はされない、と明記しています。遺言書があること自体を誰も知らなければ、この通知は動き出しません。もっとも、誰かが遺言書保管事実証明書などで存在にたどり着き、閲覧や遺言書情報証明書の請求まで進めば、そこから通知は動き出します。
その穴を埋めるのが、次の指定者通知です。
指定者通知——遺言者が生前に「3名まで」指名しておく
どんなときに届くのか
指定者通知は、遺言書保管官が遺言者が亡くなった事実を確認したときに、遺言者があらかじめ指定しておいた人へ届く通知です。
法務省の案内によれば、遺言書保管官は戸籍を担当する部局と連携して遺言者の死亡の事実を確認します。相続人の誰かが動くのを待つ必要がありません。ここが関係遺言書保管通知との決定的な違いです。
また、遺言書保管事実証明書や遺言書情報証明書が交付された場合も死亡の事実を把握できるタイミングにあたるため、その際にも指定者通知が実施される、とされています。
何名まで指定できるのか
執筆時点(2026年8月)で、指定できる通知対象者は「3名まで」です。これは法務省の案内に書かれているだけでなく、法務局の事務の取扱いを定めた通達(遺言書保管事務取扱手続準則)19条1項に「三人までに限る」と明記されています。
ただし、この人数を定めているのは法律や省令ではなく通達です。通達は法令の改正手続を経ずに見直すことができるため、実際に申し込むときは、必ずその時点の法務省・法務局の案内でご確認ください。
申込みが必要(ここが関係遺言書保管通知との違い)
指定者通知は「遺言者が希望する場合に限り実施」されます。何もしなければ届きません。
法務省の案内では、遺言書の保管を申請するときに、所定の様式で同意事項に同意したうえで通知対象者を指定する必要があるとされています。すでに1名だけ指定している場合でも、変更の届出によって対象者を追加することができます。
なお、この変更の届出は、全国どこの遺言書保管所に対してもでき、郵送でもでき、手数料はかからないと案内されています。指定した人が引っ越したり、名字が変わったりしたときは、この届出で情報を更新しておきます。
指定した人が必ず中身を見られるわけではない
ここは見落としやすい点です。
指定者通知を受け取った人であっても、関係相続人等(遺言者の推定相続人、遺言書に記載した受遺者等・遺言執行者等)でなければ、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を請求することはできません。法務省も、通知対象者を指定する際に留意するよう案内しています。
たとえば、遺言書に一切登場しない知人を通知対象者に指定した場合、その人には「遺言書が保管されています」というお知らせは届きますが、その人自身が中身を確認することはできません。届いた事実を相続人に伝えてもらう、という役回りになります。
2つの通知のちがい(早見表)
| 関係遺言書保管通知 | 指定者通知(遺言者が指定した方への通知) | |
|---|---|---|
| きっかけ | 関係者の誰か1人が閲覧・遺言書情報証明書の交付を受けたとき | 遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認したとき |
| 届く相手 | ほかの関係相続人等(相続人・受遺者・遺言執行者ほか) | 遺言者があらかじめ指定した人(執筆時点で3名まで) |
| 事前の申込み | 不要 | 必要(保管申請時に同意・指定。あとから変更の届出で追加も可) |
| 誰も動かないとき | 届かない | 死亡の事実が確認されれば届く |
| 受け取った人が中身を見られるか | 関係相続人等なので請求できる | 関係相続人等でなければ請求できない |
| 根拠 | 遺言書保管法9条5項・同政令9条4項・同省令48条 | 遺言書保管事務取扱手続準則19条・35条(法務省民事局長通達) |
通知に書いてあること/書いていないこと
法務省の案内によれば、2種類の通知に共通する主な記載内容は次の4点です。
- 遺言者の氏名
- 遺言者の出生の年月日
- 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称
- 保管番号
お気づきのとおり、遺言書の中身はどこにも書かれていません。「誰に何を遺すと書いてあるか」は通知からは分かりません。
通知が届いたら、次は遺言書保管所で閲覧を請求するか、遺言書情報証明書の交付を請求して、内容を確認することになります。通知に書かれている保管所の名称と保管番号は、この請求のために必要な情報です。
なお、どちらの通知かは通知の表題で見分けられます。関係遺言書保管通知は「遺言書を保管している旨の通知(関係遺言書保管通知)」、指定者通知は「遺言者が指定した方への通知」という表題です。
「遺言書があること自体が伝わらない」問題への備え
遺言書保管制度の弱点は、実は「保管」ではなく「伝達」の側にあります。せっかく預けても、その事実を誰も知らなければ、遺産分割の話し合いが遺言書の存在を知らないまま進んでしまうおそれがあります。
そこで、立場ごとに次のことを押さえておくと安心です。
遺言書を書いて預ける方
- 保管を申請するときに、指定者通知を申し込むかどうかを意識的に決める。何もしなければ実施されません
- 通知は郵便または信書便で書面を送る方法で行われます(省令48条2項)。住所が古いままだと届きません。受遺者・遺言執行者・通知対象者の氏名や住所が変わったら、変更の届出をしておきます
- 法務省は、通知を受け取った受遺者・遺言執行者等が閲覧等の請求をするには通常、遺言者の「住所」「本籍」「戸籍の筆頭者の氏名」の情報が必要になるため、可能な限りこれらを伝えておくよう案内しています
遺される家族の方
- 通知が届いたら、まず表題を見てどちらの通知かを確認する
- 通知だけでは中身が分からないので、遺言書保管所で閲覧または遺言書情報証明書の交付を請求する
- 通知が届いていなくても、遺言書が保管されているかどうかは「遺言書保管事実証明書」で調べられます。相続手続き全体の流れは死亡後の手続きスケジュール全体像にまとめています
まとめ
遺言書保管制度の通知は2種類です。関係遺言書保管通知は関係者の誰か1人が閲覧等をしたことをきっかけに、ほかの関係者へ広がる通知で、事前の申込みは要りません。指定者通知は遺言者が生前に指定した人(執筆時点で3名まで)へ、死亡の事実の確認をきっかけに届く通知で、こちらは保管申請のときに申し込んでおく必要があります。
どちらの通知にも遺言書の中身は書かれていないため、届いたら遺言書保管所で閲覧か遺言書情報証明書の請求へ進みます。そして「誰も動かなければ関係遺言書保管通知は動き出さない」という点こそが、指定者通知を申し込んでおく理由です。
通知の申込みや変更の届出をどう組み立てるか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 通知を受け取るのに費用はかかりますか?
通知そのものに対する手数料の定めは、手数料を定める政令(法務局における遺言書の保管等に関する法律関係手数料令)には置かれていません。指定者通知の申込みも保管の申請のなかで行うため、それ自体に別料金はかかりません。通知対象者の変更の届出も手数料はかからないと案内されています。ただし、通知を受け取ったあとに内容を確認する段階では手数料が必要です。遺言書の閲覧には2種類あり、原本を見る方法は1回1,700円(手数料令1条)、遺言書保管ファイルに記録された内容を画面に表示したものを見る方法は1回1,400円です(手数料令2条)。このほか、遺言書情報証明書の交付は1通1,400円、遺言書保管事実証明書の交付は1通800円と定められています(手数料令1条)。
Q. 通知を放置するとどうなりますか?いつまでに動く必要がありますか?
通知に「いつまでに請求しなければならない」という期限は、確認した範囲では定められていません。ただし放っておくと、遺言書の内容が分からないまま遺産分割の話し合いや不動産の名義変更が進んでしまうおそれがあります。遺言書の内容によっては、進めた手続をやり直すことにもなりかねません。また、通知が届いたからといって相続登記の申請義務が自動的に果たされるわけではありません。通知を受け取ったら、まず内容の確認に進むのが安全です。
Q. 指定者通知の申込みは自分でできますか?どこに相談すればよいですか?
指定者通知の申込みは、遺言書の保管を申請するときに所定の様式で通知対象者を指定するだけなので、ご自身で行えます。あとから対象者を追加・変更する届出も、全国どこの遺言書保管所に対してもでき、郵送でもできると案内されています。誰を通知対象者にすべきか、その人が閲覧等を請求できる立場かどうかの見きわめに迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】2つの通知の根拠規定と実務上の留意点
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
相続・遺言実務の観点
根拠の「かたち」が2つの通知で異なる
関係遺言書保管通知は、遺言書保管法9条5項に明文の根拠があります。同項は、遺言書保管官が同条1項の請求により遺言書情報証明書を交付し、または同条3項の請求により関係遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該関係遺言書を保管している旨を「遺言者の相続人並びに当該関係遺言書に係る第四条第四項第三号イ及びロに掲げる者」に通知するものとする、と定めています。ここでいう4条4項3号イは受遺者、ロは民法1006条1項の規定により指定された遺言執行者です。
これを受けて、省令48条1項が通知の相手方を広げています。同項は、遺言書保管官は法9条5項本文の場合又は法務局における遺言書の保管等に関する政令(以下「令」)9条4項本文の場合には、速やかに、関係遺言書を保管している旨を「当該関係遺言書に記載された法第九条第一項第二号(イを除く。)及び第三号(イを除く。)に掲げる者にも」通知するものとする、と定めます。法9条1項2号・3号には、認知される子、廃除の意思を表示された推定相続人、指定された未成年後見人・未成年後見監督人、信託の受託者となるべき者などが並びます。
括弧書きの「イを除く。」については、法9条1項2号イ・3号イが法4条4項3号イ・ロ(受遺者と、遺言で指定された遺言執行者)を指しており、これらは法9条5項本文がすでに通知の相手方としていることから、重複を避けた書き方と読むのが自然です。省令48条1項が、これらの者に「も」通知するという言い回しをとっているのも、法9条5項の相手方に付け加える規定であることを示しています。もっとも、この趣旨が省令自体に書かれているわけではありません。また省令48条1項にも、法9条5項と同じく「それらの者が既にこれを知っているときは、この限りでない」というただし書が置かれています。
一方、指定者通知については、遺言書保管法・法務局における遺言書の保管等に関する政令・同省令のいずれにも、これに直接あたる規定は置かれていません。その根拠は、遺言書保管所の事務の取扱いを定めた遺言書保管事務取扱手続準則(令和2年5月11日付け法務省民商第97号法務省民事局長通達。最終改正・令和8年3月2日付け法務省民商第29号民事局長通達)にあります。
同準則19条1項は、法4条1項の保管の申請がされた場合において、遺言書保管官は遺言者に対し、遺言者の死亡後に「当該遺言者が指定する者(三人までに限る。)」へ当該遺言書を保管している旨を通知することの申出の有無を確認するものとする、と定めています。人数の上限(3名)はここに明記されています。申出は所定の様式による申出書の提出により行い(同条2項)、申出があったときはその記載事項が遺言書保管ファイルに付記されます(同条3項)。
そのうえで、同準則35条1項が、19条1項の申出があった場合において遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認したときは、遺言書を保管している旨を当該遺言者が指定した者に通知するものとする、と定めています。同条2項は、通知の方法について省令48条2項・3項を準用しています。
つまり2つの通知は、「法律・省令に根拠を持つもの」と「通達に根拠を持つもの」という違いを抱えています。通達は、行政機関がその内部の事務の取扱いを定めるものであり、それ自体が国民の権利義務を直接に定めるものではありません。もっとも、遺言書保管所の事務は準則に従って行われますから、「三人まで」という枠は、申し込む側から見れば実際の制約として働きます。そのうえで、通達は法令の改正手続を経ずに改めることができるため、指定者通知の取扱いは、法律・省令に根拠を持つ関係遺言書保管通知に比べて変わりやすい位置にあります。実務では制度案内の最新版を都度確認する必要があります。
関係遺言書保管通知の「起点」として法令が挙げているのは3つ
関係遺言書保管通知が動き出す起点として法令が挙げているのは、次の3つです。
- 法9条1項の請求により遺言書情報証明書を交付したとき(法9条5項)
- 法9条3項の請求により関係遺言書(原本)の閲覧をさせたとき(法9条5項)
- 令9条1項の請求により遺言書保管ファイルに記録された事項を表示したものの閲覧をさせたとき(令9条4項)
3つ目は、遺言書の原本そのものではなく、保管ファイルに記録された内容を表示したものを見る方式の閲覧です。関係相続人等はこの方法でも内容を確認でき、この場合も通知は関係者へ広がります(手数料は、原本の閲覧が1回1,700円、この方式の閲覧が1回1,400円と定められています。手数料令1条・2条)。
一方、遺言書保管事実証明書(法10条)の交付は、上の起点として条文に挙げられていません。法務省の案内も、関係遺言書保管通知のきっかけを閲覧と遺言書情報証明書の交付(あわせて「閲覧等」)としており、事実証明書の交付は挙げていません。他方で、指定者通知については、遺言書保管事実証明書が交付された場合にも実施されると同じ案内に記載されています。ここは2つの通知で扱いが分かれている部分です。
ただし、この対比は根拠の高さがそろっていない点に注意が必要です。関係遺言書保管通知の起点は法律と政令の条文で定められているのに対し、指定者通知の側は、準則35条1項が「遺言者の死亡の事実を確認したとき」と定めるにとどまり、事実証明書の交付をその確認の機会として扱うことは法務省の案内で示されている運用です。同じ土俵に並ぶ2つの規定を比べているわけではありません。実務では、「保管されているらしい」というところまで確認した段階ではなく、閲覧または遺言書情報証明書の交付まで進んだ段階で関係遺言書保管通知が関係者へ広がることを前提に、手続の段取りを組んでおくのが安全です。
なお、法10条1項の請求権者は「何人も」とされていますが、証明の対象は「関係遺言書」であり、これは法9条2項によって「自己が関係相続人等に該当する遺言書」と定義されています。請求そのものは誰でもできる一方で、証明される範囲は請求者自身との関係で画されている点に注意が必要です。
通知の送達方法と住所情報の鮮度
省令48条2項は、通知を「関係遺言書を現に保管する遺言書保管所の遺言書保管官が、郵便又は信書便により書面を送付する方法により行う」と定めています。前記のとおり指定者通知についても準則35条2項がこの規定を準用しているため、2種類の通知はいずれも紙の郵送で届くことになります。電子的な通知ではない以上、申請書に記載した住所の正確性がそのまま通知の到達率になります。
法務省も、保管申請時に受遺者・遺言執行者・通知対象者等の氏名(名称)・住所等を正確に記載すること、申請後に変更があったら変更の届出をすることを求めています。届出は全国どこの遺言書保管所に対してもでき、郵送でもでき、手数料はかからないと案内されています。遺言書を書いた時点から相続開始までに10年、20年と経つことを考えると、保管して終わりにせず、住所情報を定期的に見直すという発想が実務上は重要になります。
なお、省令48条3項は、関係遺言書を現に保管する遺言書保管所以外の遺言書保管所の遺言書保管官が証明書の交付等をしたときは、遅滞なくその旨を保管所へ通知しなければならないと定めています。遺言書情報証明書の交付請求は保管所以外でもできるため(法9条2項)、この規定によって、通知を出す立場にある保管所へ交付等の事実が戻る仕組みになっています。
関係遺言書保管通知には請求書の記載省略という副次的効果がある
法務省の案内によれば、関係遺言書保管通知がされている場合には、閲覧等の請求の際に、遺言者の最後の住所・本籍(外国人の場合は国籍)・死亡の年月日、および遺言者の相続人の氏名・出生の年月日・住所について、請求書の記載を省略できるとされています。他方、指定者通知についてはそのような記載省略はできない、とも明記されています。
実務的には、関係遺言書保管通知を受け取った方の請求のほうが、書面の準備は軽くなるということです。指定者通知を受け取った関係相続人等が請求する場合は、通常どおり遺言者の最後の住所・本籍等を調べる必要があります。前記のとおり、法務省が遺言者に対して「住所」「本籍」「戸籍の筆頭者の氏名」を通知対象者へ伝えておくよう求めているのは、この点と結びついています。
外国籍の遺言者・戸籍の形式による取扱いの違い
法務省の案内では、外国籍の遺言者も通知対象者を指定できるものの、その場合は遺言書保管事実証明書または遺言書情報証明書が交付された場合にのみ指定者通知が実施されるとされています。遺言者の戸籍がコンピュータによる取扱いに適合しない戸籍である場合も同様の取扱いです。
指定者通知の強みは「相続人の行動を待たずに届く」点にありますが、この類型ではその強みが働かず、結果として関係遺言書保管通知に近い動き方になります。通知の設計を考えるときは、遺言者の国籍や戸籍の形式も踏まえておく必要があります。
遺言執行者との関係——「存在の通知」と「内容の伝達」は別のレイヤー
法9条5項が通知の相手方として挙げる遺言執行者は、法4条4項3号ロ、すなわち民法1006条1項により指定された遺言執行者です。同項は「遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる」と定めています。
この遺言執行者は、法9条1項3号イによって関係相続人等にも含まれます。つまり、通知を受け取る側であると同時に、閲覧や遺言書情報証明書の交付を請求できる側でもあります。指定者通知の対象者として遺言執行者を選んだ場合には、「通知が届く」ことと「自分で中身を確認できる」ことが両方そろう、という関係になります。
さらに民法1007条は、遺言執行者が就職を承諾したときは直ちにその任務を行わなければならないとし(1項)、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならない(2項)と定めています。このうち2項は、平成30年法律第72号(いわゆる相続法改正)で新設され、令和元年7月1日から施行された規定です(同法附則8条により、施行日前に開始した相続についても、施行日以後に遺言執行者となる者には適用されます)。遺言書保管制度の通知が伝えるのは遺言書の「存在」までですが、遺言執行者が任務を開始すれば、遺言の「内容」が相続人へ伝わる法定のルートが別に用意されている、という二層の構造になっています。ただし、この2項の通知義務が働くのは、遺言執行者が就職を承諾して任務を開始した場合です。遺言で遺言執行者が指定されていない場合や、指定された方が就職を承諾しない場合には、2つ目のルートは動きません。
遺言執行者の指定を第三者に委託した場合(民法1006条1項後段)、その委託を受けた者は法9条1項3号ニに掲げられており、省令48条1項によって関係遺言書保管通知の相手方に含まれます。ただし、保管を申請する時点では遺言執行者本人がまだ決まっていないため、申請書の記載事項である法4条4項3号ロには書きようがありません。通知の名宛人という一点だけを見れば、遺言で直接指定した場合のほうが、保管を申請する段階で通知先として登録できることになります。
また、遺言執行者を定めないまま預けた場合、民法1010条により、遺言執行者がないとき又はなくなったときは、家庭裁判所が利害関係人の請求によって選任することができます。もっとも、これは相続開始後の手続であり、保管を申請する時点で通知の相手方となるわけではありません。
通知対象者を指定するときに押さえておく点
準則19条1項は「当該遺言者が指定する者(三人までに限る。)」と定めるのみで、指定できる人の属性については限定を置いていません。他方、閲覧や遺言書情報証明書の交付を請求できる関係相続人等の範囲は、法9条1項が号を分けて列挙しています。通知を受け取れる人の範囲と、中身を請求できる人の範囲は、別々の規定で決まっているという構造です。本文で触れた「指定した人が必ず中身を見られるわけではない」という現象は、この構造から生じます。
そのため、関係相続人等にあたらない方を指定する場合、その方の役割は「遺言書が保管されている事実を相続人へ伝える」ところまでになります。法務省が遺言者に対し、遺言者の「住所」「本籍」「戸籍の筆頭者の氏名」を通知対象者へ伝えておくよう案内しているのは、通知を受け取った受遺者・遺言執行者等がその後の請求へ進めるようにするためです。
枠が3名分あることを踏まえると、1名だけを指定するか、連絡がつかなくなる場合に備えて複数を指定するかは、遺言者が選べます。指定は保管を申請するときの一度きりの決定ではなく、変更の届出によって見直すことができます。この届出の根拠も通達の側にあり、準則27条が、19条1項の申出に係る申出書(別記第9号様式)の記載事項に変更が生じたときは、省令30条の規定の例に準じて届出をさせるものとする、と定めています。遺言者本人や受遺者・遺言執行者等の住所・氏名等の変更の届出が政令3条・省令28条から30条までに置かれているのに対し、通知対象者の変更はこの準則27条が受けている、という構造です。遺言書を書いてから相続が開始するまでに年数が経つことを考えると、誰を通知対象者にするかも、住所情報と同じく見直しの対象と捉えておくのが実務的です。
不動産登記実務の観点
通知はあくまで「遺言書が保管されている」という事実を知らせるものであり、通知が届いたことによって不動産の名義が動くわけではありません。相続登記に進むには、遺言書情報証明書の交付を受け、これを登記原因証明情報として申請する流れをたどります(遺言書保管制度を利用した場合の相続登記の添付情報については、遺言書保管制度の基本記事の深掘りで整理しています)。
留意したいのは、通知を受け取った時点では、その遺言書が対象不動産をどう扱っているかがまだ分からないという点です。通知の記載事項は氏名・生年月日・保管所名・保管番号の4点にとどまるため、登記の見通しを立てられるのは閲覧または遺言書情報証明書の取得以降になります。通知が届いた段階で登記の方針を固めてしまわず、内容確認を先に置くのが順序として安全です。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律 第3条・第4条・第9条・第10条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073
- 法務局における遺言書の保管等に関する政令 第3条・第9条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/501CO0000000178
- 法務局における遺言書の保管等に関する省令 第28条から第30条まで・第48条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/502M60000010033
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律関係手数料令 第1条・第2条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/502CO0000000055
- 民法 第1006条・第1007条・第1010条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 遺言書保管事務取扱手続準則 第19条・第27条・第35条(令和2年5月11日付け法務省民商第97号法務省民事局長通達・最終改正 令和8年3月2日付け法務省民商第29号): https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/igonsyo_jyunsoku.pdf
- 法務省「10 通知 〜通知が届きます!〜」(自筆証書遺言書保管制度): https://www.moj.go.jp/MINJI/10.html