この記事の要点
- セットバックとは、幅4メートル未満の道のうち特定行政庁が指定したものに接する敷地で、道の中心線から2メートルの線を「道路の境界線」とみなす建築基準法の扱いのこと(同法42条2項)
- 位置指定道路は、私人がつくった道が特定行政庁の位置の指定を受けて建築基準法上の「道路」として扱われるもの(同法42条1項5号)
- 目の前の道がどの種別かは、市区町村の建築指導課などに道路種別を照会すれば確認できる
- 建て替えができるかどうかの判断は特定行政庁と建築士の領域。登記の側では、私道持分が相続登記から漏れていないかの確認が要点になる
- まず取り寄せるのは、登記事項証明書・公図・地積測量図・名寄帳の4点
セットバックとは、幅4メートル未満の道のうち特定行政庁が指定したものについて、その道の中心線から水平距離2メートルの線を「道路の境界線」とみなす、建築基準法の扱いのことです(同法42条2項)。幅が4メートルに足りない道であれば当然にこの扱いになるというものではなく、条文は特定行政庁の指定を要件としています。つまり、登記簿に載っている自分の土地の一部が、建築基準法の世界では道路として扱われる、ということです。
そしてもう一つよく出てくるのが「位置指定道路」です。こちらは、私人が自分の土地に築造した道について、特定行政庁からその位置の指定を受けたもので、建築基準法上の「道路」として扱われます(同法42条1項5号)。
どちらも、ふだんは意識しません。効いてくるのは、建て替えるとき・売るとき・相続するときです。この記事では、この2つの言葉の意味を整理したうえで、登記の側から何を確認しておけばよいかをまとめます。
この記事の位置づけについて 道路の種別(建築基準法42条各項のどれに当たるか)や建て替えの可否は、特定行政庁(市区町村の建築指導課等)と建築士が判断する事項です。この記事は登記の側から見た一般的な説明で、個別の土地について建てられるかどうかの判断は含みません。私道の通行や掘削をめぐって当事者間で争いがあるときは弁護士に、境界や現況の測量は土地家屋調査士にご相談ください。
1. まず「接道義務」という前提がある
建築基準法では、建築物の敷地は「道路」に2メートル以上接しなければならないと定められています(同法43条1項)。これを一般に接道義務と呼びます。
ここでいう「道路」は、日常語の道路とは範囲が違います。建築基準法42条1項は、幅員4メートル以上(特定行政庁が指定する区域内では6メートル以上)のもので、次のいずれかに当たるものを「道路」と定義しています。
- 道路法による道路(国道・都道府県道・市区町村道など)
- 都市計画法・土地区画整理法などによる道路
- 建築基準法のこの章の規定が適用されるようになった時点で、現に存在していた道
- 道路法・都市計画法などの新設・変更の事業計画があり、2年以内に事業が執行される予定として特定行政庁が指定したもの
- 私人が築造した道で、特定行政庁からその位置の指定を受けたもの(=位置指定道路)
つまり、幅が4メートルに足りない道は、原則として建築基準法上の「道路」ではありません。この点をカバーするのが、次に見る42条2項です。
なお、接道義務の側にも例外の枠組みが置かれています。同法43条2項は、次の二つについては1項を適用しないと定めています。
- その敷地が幅員4メートル以上の道(道路に該当するものを除く)に2メートル以上接する建築物のうち、利用者が少数であるものとして国土交通省令の基準に適合し、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めるもの(同項1号)
- 敷地の周囲に広い空地を有するなど国土交通省令の基準に適合する建築物で、特定行政庁が建築審査会の同意を得て許可したもの(同項2号)
このように、**「幅4メートル未満の道に接している」ことから、ただちに「建てられない」という結論が出るわけではありません。**どの枠組みに当たるかの判断は特定行政庁と建築士の領域です。
2. セットバック(建築基準法42条2項の道)とは
建築基準法42条2項は、次の条件をみたす道について、幅員4メートル未満でも「道路」とみなすと定めています。
- 建築基準法のこの章の規定が適用されるようになった時点で、現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道であること
- 特定行政庁が指定したものであること
この指定を受けた道は、一般に「2項道路」「みなし道路」と呼ばれます。そして同項は、その道の中心線からの水平距離2メートルの線を、その道路の境界線とみなすとしています(6メートルの区域内では3メートル。ただし特定行政庁が周囲の状況により避難および通行の安全上支障がないと認める場合は2メートル)。
この「みなされた境界線まで敷地を下げる」ことが、セットバックです。
片側だけ下がる場合もある
同項にはただし書きがあり、その道が中心線から水平距離2メートル未満で崖地・川・線路敷地その他これらに類するものに沿う場合は、崖地等の道の側の境界線と、その境界線から道の側に水平距離4メートルの線を道路の境界線とみなします。向かい側が崖や水路のときは、片側だけで4メートルを確保する形になるということです。
例外的に距離が変わることもある
土地の状況によりやむを得ない場合、特定行政庁は、中心線からの水平距離について2メートル未満1.35メートル以上の範囲、崖地等の境界線からの水平距離について4メートル未満2.7メートル以上の範囲で、別に水平距離を指定することができます(同法42条3項)。また、幅員1.8メートル未満の道を2項の道として指定する場合や、3項によって別に水平距離を指定する場合は、特定行政庁はあらかじめ建築審査会の同意を得なければなりません(同条6項)。
このように、条文自体が地域の実情に応じた幅を持っています。「うちは中心から2メートル」と決め打ちせず、必ず特定行政庁の指定内容を確認することが出発点になります。
後退した部分には建てられない
セットバックによって道路とみなされた部分は、建築基準法上は道路です。そして同法44条1項は、建築物、または敷地を造成するための擁壁を、道路内に、または道路に突き出して建築・築造してはならないと定めています(地盤面下に設けるものなど、限られた例外があります)。
しかも建築基準法上の「建築物」には、建物に附属する門や塀も含まれます(同法2条1号)。後退部分にブロック塀や門柱を出せない、という説明の根拠はここにあります。
なお、後退した部分を敷地面積に含められるか、建て替え後にどれだけの規模の建物が建つかといった適合性の判断は、建築確認の手続を通じて建築主事等が確認する事項です(同法6条1項)。設計や、法令に基づく手続の代理は建築士の業務とされています(建築士法21条)。この記事の範囲では、その判断には立ち入りません。
3. 位置指定道路とは
位置指定道路は、建築基準法42条1項5号の道路です。条文の要件を分解すると、次のようになります。
- 土地を建築物の敷地として利用するための道であること
- 道路法・都市計画法・土地区画整理法などによらないで築造する道であること
- 政令で定める基準に適合すること
- これを築造しようとする者が、特定行政庁からその位置の指定を受けたこと
分譲地の中に引き込まれた行き止まりの道が、宅地と別の地番になっていて近隣の共有名義になっている──という形をよく見かけますが、その多くはこの位置指定道路です。
政令の基準(建築基準法施行令144条の4)
「政令で定める基準」の中身は、建築基準法施行令144条の4に置かれています。主なものを挙げます。
- 両端が他の道路に接続していること。ただし、延長が35メートル以下の場合、終端が公園・広場その他これらに類するもの(自動車の転回に支障がないもの)に接続している場合、35メートルを超えても終端および35メートル以内ごとに国土交通大臣の定める基準に適合する自動車の転回広場が設けられている場合、幅員が6メートル以上の場合などは、袋路状道路(行き止まりの道)とすることができる
- 道が交差・接続・屈曲する箇所(生ずる内角が120度以上の場合を除く)には、隅角を挟む辺の長さ2メートルの二等辺三角形の部分を道に含む隅切りを設けること
- 砂利敷その他ぬかるみとならない構造であること
- 縦断勾配が12パーセント以下で、かつ階段状でないこと
- 道とこれに接する敷地内の排水に必要な側溝・街渠などの施設を設けたものであること
さらに、地方公共団体は、その地方の気候・風土の特殊性や土地の状況により必要と認める場合、条例で区域を限り、これらと異なる基準を定めることができます(同条2項)。手元の道が基準に適合しているかどうかは、条例まで含めて自治体ごとに確認する必要があるということです。
位置指定を受けても、所有者は私人のまま
ここが登記の話につながる大事な点です。位置指定は、あくまで建築基準法上の「道路」として扱うための指定です。指定を受けても土地の所有権が自治体に移るわけではなく、多くの場合、道の部分は宅地とは別の地番の土地として、近隣の所有者が共有持分で持ち続けます。
そして建築基準法45条1項は、私道の変更または廃止によって、その道路に接する敷地が接道義務(同法43条1項)や条例の規定に抵触することとなる場合、特定行政庁はその私道の変更・廃止を禁止し、または制限することができると定めています。「自分の持分だから自由に閉鎖できる」という話にはならない構造になっています。
4. 目の前の道が何なのかを調べる方法
道路種別は、登記簿を見ても分かりません。建築基準法の側の情報だからです。
調べ方は手続として決まっています。市区町村の建築指導課など、道路種別を扱う窓口に照会するのが基本です。窓口名や公開方法は自治体ごとに違います。たとえば東京都中野区では、道路種別台帳の閲覧と種別の相談を建築課の道路判定係が扱い、2項道路の後退部分の整備協議は道路建設課の狭あい道路整備係が扱う、というように担当が分かれており、区の地図情報サービス上の道路種別図でも確認できる旨が案内されています(2026年7月時点の区の案内)。
一方、**登記の側から確認できるのは「誰の名義で、どの範囲の土地なのか」**です。次の4点が基本になります。
- 登記事項証明書(登記簿):道の部分の地番が分かれば、所有者・持分・地目を確認できます。読み方は登記簿(登記事項証明書)の見方で整理しています
- 公図:本地の周辺で、道の部分が別の地番になっていないかを確認できます
- 地積測量図:分筆の経緯や図面上の形状の手がかりになります
- 名寄帳:同じ市区町村内でその方が名義人になっている不動産を一覧で確認できます(非課税の私道が記載されるかは自治体により取扱いが異なります)
これに加えて、2026年2月2日から所有不動産記録証明制度が始まっています。所有権の登記名義人は自らが名義人として記録されている不動産について、相続人その他の一般承継人は亡くなった方に係るものについて、登記記録をもとにした証明書(所有不動産記録証明書)の交付を請求できます(不動産登記法119条の2第1項・2項)。請求先は法務大臣の指定する登記所で(同条3項)、手数料は1通1,600円です(登記手数料令2条3項。検索条件の数に応じた額になります)。
名寄帳が課税台帳をもとにするのに対し、こちらは登記記録をもとにします。そのため、私道持分の確認の手がかりにもなります。ただし、請求時に指定した検索条件による証明であって、これだけで漏れがないと言い切れるものではありません。
なお、現地の幅員を実際に測ること、後退線の位置を確定すること、隣地との境界を確認することは、測量と図面作成の領域です。これらは土地家屋調査士の業務であり、登記の相談とは分けて考える必要があります。境界そのものが不明確なケースについては境界がはっきりしない土地の相続・売却で扱っています。
5. セットバックした部分は、登記ではどうなるのか
建築基準法42条2項は、「その道路の境界線とみなす」という建築基準法上の扱いを定めた規定です。この規定そのものが所有権を移したり、登記記録の地積を書き換えたりするわけではありません。指定を受けても、登記簿上はもとの1筆の土地のままであることが通常です。
では実務ではどう扱われるのか。ここは自治体の制度によって選択肢が用意されているのが実情です。たとえば中野区は、狭あい道路の後退用地について「区に寄付する(所有権が区に移転し維持管理も区が行う)」「無償使用を認める(所有権は変わらず区が維持管理)」「自主管理(私道として所有者が維持管理)」という選択肢を案内しています(2026年7月時点の区の案内)。
- 寄付を選ぶ場合は、後退部分を切り分ける分筆の登記と、自治体への所有権移転の登記が関わってきます
- 分筆や地目の変更は、測量と図面の作成を伴います。土地の表示に関する登記であり、土地家屋調査士に相談するのが一般的です
- 道路として使われている土地は、登記簿上の**地目が「公衆用道路」**になっていることが多くあります。地目の考え方は土地の「地目」とは?で解説しています
- 固定資産税は、公共の用に供する道路に対しては課することができないとされています(地方税法348条2項5号)。ただし、登記簿の地目が「公衆用道路」であれば当然に非課税になるという規定ではなく、その道が「公共の用に供する道路」に当たるかどうかは課税する側が認定します。課税するのは市町村で、東京23区内では東京都です(同法734条1項)。自主管理の私道について所有者側で申告手続を求めている自治体もあるため、扱いは課税の窓口で確認してください
どの選択肢を採るかは、自治体の制度と個別事情によります。まずは自治体の担当窓口で、その土地に適用される制度を確認するところからになります。
6. 見落としが起きやすいのは「私道持分の相続登記」
ここが、登記の側でもっとも実務的な論点です。
位置指定道路や2項道路の部分は、宅地とは別の地番の土地であることが多く、近隣の複数世帯による共有持分になっています。この構造のために、宅地と建物の相続登記は済んでいるのに、私道持分だけが亡くなった方の名義のまま残るというかたちの漏れが起きます。詳しくは私道の相続登記を忘れずにで整理しています。
私道持分も、相続登記の申請義務の対象です。所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。この申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処するとされています(同法164条1項)。
確認の手順は、前述の4点セット(登記事項証明書・公図・地積測量図・名寄帳)です。道の部分の地番を特定し、その登記事項証明書で名義人と持分を確かめる、という順序になります。個別の土地について何が必要かは事案によって変わるため、書類がそろわない場合はお近くの司法書士にご相談ください。
7. 通行と掘削──制度としての整理
私道が絡むと、通行や地下埋設管の話が出てきます。ここでは制度の一般的な説明にとどめます。
通行地役権は、民法の地役権のかたちの一つです。民法280条は、地役権者は設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有すると定めています。これを登記する場合、地役権の登記は承役地(負担する側の土地)について行い、登記事項として要役地(便益を受ける側の土地)、地役権設定の目的および範囲などが記録されます(不動産登記法80条1項)。
要役地に所有権の登記がないときは、承役地に地役権の設定の登記をすることができません(同条3項)。承役地に設定の登記がされると、登記官が要役地について職権で所定の事項を登記します(同条4項)。
また、水道管やガス管の引込みなどで、私道の所有者の掘削承諾書を求められる場面があるというのも、実務上よく知られたところです。
ただし、**承諾を得るための交渉の進め方、断られたときにどうするか、承諾料の相場や妥当性といった話は、この記事では扱いません。**当事者間で争いになっている事柄の交渉や解決は弁護士の領域です。争いの気配があるときは、早い段階で弁護士にご相談ください。
まとめ
- セットバックとは、幅4メートル未満の道について、特定行政庁の指定により中心線から水平距離2メートルの線を道路の境界線とみなす扱いのこと(建築基準法42条2項)。崖地等に沿う場合の特例や、1.35メートル以上・2.7メートル以上の範囲での別途指定もある(同条3項)
- 位置指定道路は、私人が築造した道が特定行政庁の位置の指定を受けて「道路」として扱われるもの(同法42条1項5号)。基準は建築基準法施行令144条の4にあり、条例で異なる基準が定められることもある
- 建て替えができるか、後退部分をどう扱うかの適合性の判断は、特定行政庁と建築士の領域。道路種別は市区町村の建築指導課等への照会で確認する
- 登記の側の要点は、私道持分が相続登記から漏れていないかの確認。登記事項証明書・公図・地積測量図・名寄帳の4点から始める
- 測量・境界は土地家屋調査士、当事者間の争いは弁護士
道路のことは建築の窓口、境界と測量は土地家屋調査士、名義と持分は登記──と役割が分かれているぶん、どこから手をつけるか迷いやすいテーマです。相続や売却の前に私道の名義を整えておきたい、私道持分が漏れていないか確認したいという場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 道路種別を調べたり、私道持分を確認するのに費用はどのくらいかかりますか? 道路種別の照会や道路種別台帳の閲覧は、自治体の窓口で行えます(取扱いと手数料は自治体ごとに異なるため、事前にご確認ください)。登記事項証明書や公図・地積測量図の手数料は政令で決まっています。登記事項証明書は1通600円、公図(地図に準ずる図面)の写しは1筆につき500円、地積測量図の写しは1事件に関する図面につき500円です(登記手数料令2条1項・4項・5項。オンラインで請求する場合はこれより低い額になります)。名寄帳の手数料は市区町村ごとに定められています。一方、分筆や地目の変更に伴う測量・図面作成の費用、専門家に依頼する場合の報酬は、土地の形状や筆数によって大きく変わるため、一律の目安は示せません。
Q. セットバックや私道持分の登記を放置すると、どうなりますか? セットバックそのものについて、建築基準法に「いつまでに何をする」という期限が置かれているわけではありません。問題が表に出るのは建て替えや売却のときで、工事の直前に道路種別や後退の扱いが判明して、日程が組み直しになることがあります。なお、自治体の制度により後退部分の協議や届出の手続が定められていることがあり、また現況の変更で地目が変わったときは、地目の変更の登記について別に1か月以内の申請義務があります(不動産登記法37条1項)。一方、**私道持分の相続登記には期限があります。**相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず(不動産登記法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象とされています(同法164条1項)。放置すると共有者側でも相続が重なり、関係する相続人が世代分だけ増えていきます。
Q. 自分でできますか?どこに相談すればよいですか? 道路種別の照会と、登記事項証明書・公図・名寄帳の取得は、ご自身でもできます。そのうえで相談先は内容ごとに分かれます。建て替えの可否・後退部分の扱い・建築確認は、市区町村の建築指導課等(特定行政庁)と建築士へ。現地の幅員の実測、後退線の位置の確定、境界の確認、分筆や地目変更に伴う測量・図面は土地家屋調査士へ。私道持分の相続登記や名義の整理は、お近くの司法書士へ。通行や掘削をめぐって当事者間で争いがあるときは弁護士へ、という切り分けになります。
【さらに深掘り】道路部分の分筆・地目変更・地役権の登記事項
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
道路部分をめぐる登記は、「土地の形と用途を直す登記」と「名義を動かす登記」が二段構えになっているのが特徴です。本文では、セットバックの制度と私道持分の確認手順を整理しました。ここでは、後退部分を切り分けるとき・通行地役権を登記するときに、登記手続と登記記録がどう動くのかを条文に沿って掘り下げます。あわせて、通行地役権の登記の有無や私道の通行について、判例がどのような枠組みを示しているかにも、制度の紹介として触れます。
1. 後退部分を切り分けるときの登記は、二段構えになる
不動産登記は、大きく表示に関する登記(土地の物理的な状況を記録するもの)と権利に関する登記(所有権の移転などを記録するもの)に分かれます。土地の表示に関する登記の登記事項は、所在する市区町村・字、地番、地目、地積です(不動産登記法34条1項)。
後退部分を自治体に寄付する場合、登記の動きは次の順序になります。
- 分筆の登記(表示に関する登記)で、後退部分を独立した1筆に切り分ける
- 所有権の移転の登記(権利に関する登記)で、その筆の名義を自治体に移す
分筆の登記については、表題部所有者または所有権の登記名義人以外の者は申請することができません(同法39条1項)。添付情報として分筆後の土地の地積測量図が必要です(不動産登記令別表8の項)。そして、表示に関する登記について必要な土地の調査・測量、その申請手続の代理、法務局に提出する書類の作成は、土地家屋調査士の業務とされています(土地家屋調査士法3条1項1号・2号・3号)。後退線がどこに来るのかという位置の確定も、特定行政庁の指定内容を前提としたうえで、この測量の側の話になります。
一方、分筆後の所有権移転の登記は権利に関する登記なので、担い手が変わります。この二段構えを知らないまま「登記だけ頼めば終わる」と考えると、窓口が二つに分かれていることに手続の途中で気づく、という段取りのずれが起きやすい部分です。
なお、寄付ではなく無償使用や自主管理を選ぶ場合は、そもそも所有権が動きません。どの制度を採るかで登記の要否そのものが変わるため、自治体の担当窓口で制度を確認することが登記の前段階になります。
2. 地目の変更の登記には「1か月以内」の申請義務がある
地目は登記事項の一つで(不動産登記法34条1項3号)、土地の主な用途により、田・畑・宅地・学校用地・鉄道用地・(中略)・公衆用道路・公園・雑種地に区分して定めるものとされています(不動産登記規則99条)。
ここで見落とされやすいのが、期限です。
地目又は地積について変更があったときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その変更があった日から一月以内に、当該地目又は地積に関する変更の登記を申請しなければならない(不動産登記法37条1項)
また、地目または地積の変更があった後に表題部所有者や所有権の登記名義人になった者は、その者に係る表題部所有者についての更正の登記または所有権の登記があった日から1月以内に申請しなければならないとされています(同条2項)。相続や売買で名義を承継した側にも、あらためて1か月の起算点が置かれている構造です。
手続としての違いも押さえておく価値があります。地目に関する変更の登記の申請情報は「変更後の地目」で、不動産登記令別表5の項の添付情報欄には特段の情報が掲げられていません。これに対し、地積に関する変更の登記では地積測量図が添付情報として掲げられています(同表6の項)。代理人によって申請する場合の代理権限を証する情報など、一般的な添付情報は別途必要です。
さらに、登記審査の観点から押さえておきたいのが職権発動の規定です。一筆の土地の一部が別の地目となるに至ったときは、申請がない場合であっても、登記官は職権でその土地の分筆の登記をしなければならないとされています(同法39条2項)。宅地の一部が現況として道路になっている状態が、登記の側でも放置され続ける前提にはなっていない、ということです。もっとも、これは登記官が地目の異なる部分の存在を把握した場合の規定であり、現況が道路になれば自動的に分筆されるという意味ではありません。
3. 抵当権が付いている土地から後退部分を切り離す場合
住宅ローンの抵当権が設定されたままの土地から後退部分を分筆して寄付する、という場面では、担保権者の関与が論点になります。
分筆をしても、それだけで抵当権の効力の及ぶ範囲が自動的に狭まるわけではありません。不動産登記法40条は、所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地について分筆の登記をする場合において、その権利の登記名義人が「当該権利を分筆後のいずれかの土地について消滅させること」を承諾したことを証する情報が申請情報と併せて提供されたときは、登記官は、その承諾に係る土地について当該権利が消滅した旨を登記しなければならないと定めています。さらに、その権利を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合は、その第三者が承諾したことを証する情報もあわせて提供されたときに限るとされています。
この40条は、分筆の登記の場面で担保権者の承諾を証する情報が提供されたときの扱いを定めた規定です。したがって、後退部分を「抵当権の付いていない状態」で自治体に渡すのにこの方法をとるのであれば、分筆の登記の申請と併せて担保権者側の承諾を証する情報が必要になる、という段取りになります。どの方法をとるにしても、担保権者の関与なしに後退部分だけを担保の枠から外せるという条文にはなっていません。金融機関との調整に時間がかかることを見込んでおくべき部分で、寄付の日程だけを先に決めてしまうと後戻りが生じやすい論点です。
4. 通行地役権を登記すると、登記記録には何が現れるか
私道の通行について通行地役権を登記する場合、登記は承役地(負担する側の土地)についてされ、要役地(便益を受ける側の土地)の側には登記官が職権で記録します。この構造が、登記記録の読み方に直結します。
承役地についてする地役権の登記の登記事項は、不動産登記法59条各号に掲げる一般的な登記事項のほか、次のとおりです(同法80条1項)。
- 要役地
- 地役権設定の目的及び範囲
- 同項3号が挙げる民法上の別段の定めがあるときは、その定め
そして押さえておきたいのが同条2項です。この登記においては、地役権者の氏名または名称および住所を登記することを要しません。承役地の登記事項証明書を見ても、誰が地役権者なのかは記録から直接は分からず、要役地の表示から追うことになります。
そのほか、条文上の要件と登記官の職権登記は次のようになっています。
- 要役地に所有権の登記がないときは、承役地に地役権の設定の登記をすることができません(同条3項)
- 登記官は、承役地に地役権の設定の登記をしたときは、要役地について、法務省令で定める事項を職権で登記します(同条4項)。その内容は、①要役地の地役権の登記である旨、②承役地に係る不動産所在事項および当該土地が承役地である旨、③地役権設定の目的および範囲、④登記の年月日です(不動産登記規則159条1項)
- 要役地が他の登記所の管轄区域内にあるときは、登記官は遅滞なくその登記所に通知し(同条2項)、通知を受けた登記所の登記官は、遅滞なく要役地の登記記録の乙区に通知を受けた事項を記録します(同条5項)
申請の側で必要になるものは、不動産登記令別表35の項に置かれています。申請情報は同法80条1項各号の登記事項(要役地については、その所在する市区町村・字と地番・地目・地積)で、添付情報は、①登記原因を証する情報、②地役権設定の範囲が承役地の一部であるときは地役権図面、③要役地が他の登記所の管轄区域内にあるときはその要役地の登記事項証明書です。
地役権図面には、地役権設定の範囲を明確にし、方位、縮尺、地番および隣地の地番、申請人の氏名または名称、作成の年月日を記録します。書面の場合は地役権者が署名または記名押印しなければなりません(不動産登記規則79条)。範囲が承役地の一部である場合、登記官はその登記の末尾に地役権図面番号を記録します(同規則160条)。
もう一つ、道路部分の分筆と地役権が交わる場面の定めがあります。地役権の登記がある承役地の分筆の登記を申請する場合において、地役権設定の範囲が分筆後の土地の一部であるときは、その範囲を申請情報とし、添付情報として「当該地役権設定の範囲を証する地役権者が作成した情報」(または地役権者に対抗することができる裁判があったことを証する情報)および地役権図面が必要とされています(不動産登記令別表8の項)。通行地役権が登記されている私道でセットバック部分の分筆をする場合、地役権者側の書類が要るということです。
5. 登記のない通行地役権と、私道の通行について判例が示した枠組み
ここまでは登記手続の話ですが、通行をめぐっては最高裁が判断を示している場面があります。以下は判例の存在と一般的な意味の紹介にとどめます。手元の私道でどうなるかという当てはめには立ち入りません。
一つは、地役権の設定登記がされていない場合に、承役地を買った人との関係をどう見るかという場面です。
最高裁が扱ったのは、通行地役権の承役地が譲渡された場合で、次の二つがそろうときです。
- 譲渡の時にその承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが、位置・形状・構造等の物理的状況から客観的に明らかであること
- 譲受人がそのことを認識していたか、認識することが可能であったこと
この場合、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺(けんけつ=登記がないこと)を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないと判断されています(最高裁平成10年2月13日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁)。
登記がなくても常に主張できるという趣旨の判断ではなく、物理的状況と譲受人の認識という条件が置かれている点が要点です。また、この判断は通行地役権が設定されている場合を前提に、譲受人が「登記がないこと」を主張できる第三者に当たるかという場面を扱ったものです。そもそも通行地役権が成立しているといえるかどうかは、別に検討を要する問題として残ります。
もう一つは、位置指定道路の通行が妨げられた場面です。
最高裁は、建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、その通行を敷地の所有者によって妨害され、または妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者に対して妨害行為の排除および将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するとしています。ただし、敷地所有者がその通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、という留保が付いています(最高裁平成9年12月18日第一小法廷判決・民集51巻10号4241頁)。
本文でみた建築基準法45条1項が行政の側からの変更・廃止の制限であるのに対し、こちらは私人の間の関係についての判断です。位置指定道路であれば誰でも当然に妨害の排除を求められるという判断ではなく、要旨の主語は「通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者」であり、そこに当たるかどうかがまず問われる枠組みになっています。
いずれの判断にも「特段の事情のない限り」という条件が付いており、**結論は事実関係の評価によって変わります。**個別の事案でどうなるかの見通しや、相手方への対応の進め方は登記の範囲外で、弁護士の領域です。
ここで扱ったのは、あくまで登記の制度と手続の側の一般的な整理です。地役権を設定するかどうか、掘削の承諾を得られるかどうかといった当事者間の話し合いや、争いになったときの対応は登記の範囲外で、弁護士の領域になります。
道路部分の登記は、①測量と図面・表示に関する登記は土地家屋調査士、②名義を動かす権利に関する登記は司法書士、③建築基準法上の道路種別と建て替えの可否は特定行政庁と建築士──と担い手が分かれています。加えて、地目の変更には1か月以内という期限があり(不動産登記法37条1項)、抵当権が付いていれば分筆の場面で担保権者の承諾を証する情報が必要になります(同法40条)。手をつける順序で迷ったときや、私道持分の名義を先に整えておきたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。
- 建築基準法 第2条・第6条・第42条〜第45条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 建築基準法施行令 第144条の4(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- 建築士法 第21条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000202
- 民法 第280条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第34条・第37条・第39条・第40条・第76条の2・第80条・第119条の2・第164条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 別表5項・6項・8項・35項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第79条・第99条・第159条・第160条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 土地家屋調査士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000228
- 登記手数料令 第2条・第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
- 地方税法 第348条・第734条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 最高裁判所平成9年12月18日第一小法廷判決・民集51巻10号4241頁(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/52806/detail2/index.html
- 最高裁判所平成10年2月13日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/hanrei/52815/detail2/index.html
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
- 中野区「建築基準法第42条規定の道路概要について」: https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/machizukuri/kenchiku/tetsuzuki/kenchikukijun/kenchikukijyunho42.html
- 中野区「狭あい道路の拡幅整備事業(2項道路等に面して建築するとき)」: https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/machizukuri/kenchiku/kyoai.html