家を持っているかた、相続でこれから手続きをするかたなら、一度は「あれ?うちの登記簿に書いてある住所、いつも使っている住所と違う」と思ったことがあるかもしれません。
たとえば、いつも郵便物に書いている住所は「○○町5丁目6番7号」なのに、登記簿(登記事項証明書)を取ってみたら「○○町123番地4」になっていた、というケースです。
これは間違いではありません。「地番(ちばん)」と「住居表示」が別物だからです。今日はこの違いと、不動産の手続きでなぜ地番が必要になるかを整理します。
「地番」とは何か
地番は、法務局が土地一筆ごとに付ける番号です。
- 不動産登記簿に記載される住所表記
- 「○○町123番地4」のような書き方
- 土地を取引したり、登記したりする単位として使われる
- 明治時代に始まった伝統ある制度
土地を売り買いする、相続で名義を変える、抵当権を付ける、こうした登記の手続きでは、かならず地番を使います。
「住居表示」とは何か
住居表示は、市区町村が建物に付ける住所です。
- 郵便物や住民票で使う日常的な住所
- 「○○町5丁目6番7号」のような書き方
- 建物の場所をわかりやすく示すために整備された
- 昭和37年(1962年)の「住居表示に関する法律」に基づく、比較的新しい制度
住居表示は、街並みの整備とあわせて建物に番号を付けていく仕組みなので、すべての地域で実施されているわけではありません。市街地の中心部から順に実施されてきた経緯があり、地方や郊外では今も地番がそのまま住所として使われている地域があります。
なぜ2つの住所が併存しているのか
簡単に言うと、
- 地番は「土地」に付く番号
- 住居表示は「建物」に付く住所
役割が違うからです。
土地の取引や登記は地番ベースで動き、日常生活(郵便物・宅配便・住民票)は住居表示ベースで動く。住居表示が実施されている地域では、ひとつの建物に「地番」と「住居表示」の両方が存在することになります。
住居表示が実施されていない地域では、地番がそのまま日常の住所としても使われるので、両者の違いを意識する場面はあまりありません。
不動産の手続きで気をつけること
ここがいちばん大事なポイントです。
不動産の登記に関わる手続きは、ほとんどが地番ベースで動きます。
具体的には次のような場面で地番が必要になります。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取るとき
- 不動産を売買・贈与・相続で名義変更するとき
- 住宅ローンを組んで抵当権を設定するとき
- 自分でやる住所変更登記の申請書を書くとき
- 不動産の固定資産税評価証明書を市区町村で取るとき(市区町村によっては地番でも住居表示でも可)
たとえば、相続登記をお願いしたいかたから「うちの実家の住所は○○町5丁目6番7号です」と司法書士に伝えても、それだけでは登記簿を取り寄せることができません。地番が分からないと、対象の土地・建物を特定できないからです。
地番を調べる5つの方法
ご自分の不動産の地番が分からない場合、次のいずれかの方法で調べられます。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)を見る — 過去に取ったことがあれば、そこに地番が書かれています
- 固定資産税の納税通知書を見る — 毎年4〜6月に届く納税通知書には、物件ごとに地番が記載されています
- 権利証や登記識別情報通知を見る — 不動産を取得したときにもらった書類に地番があります
- 法務局の「ブルーマップ」で確認 — 法務局の窓口に備え付けられている地図帳で、住居表示と地番が対応表示されています
- 法務局の地番照会 — 法務局の窓口や電話で、住居表示を伝えると地番を教えてくれます
最近は、インターネットで使える「登記情報提供サービス」でも、住所から地番を逆引きできる地域が増えています。
住居表示が変わったとき、登記はどうなる?
街の区画整理などで住居表示が変更されることがあります。「○○町△丁目□番」が「□□町5丁目1番」になるようなケースです。
このとき、登記簿に書かれている名義人(所有者)の住所が住居表示変更前のままになっていると、本来は変更登記が必要になります。
ただし、住居表示の実施・変更は市区町村の通知に基づいて行われるため、法務局が職権で名義人の住所を変更するケースもあります(職権による住所変更)。すべての変更が職権で行われるわけではないため、住居表示が変わった地域にお住まいのかたは、登記簿の住所が今のとおりになっているか、一度確認しておくと安心です。
これは令和8年4月に施行される住所変更登記の義務化ともつながる話で、自分の登記簿上の住所が今の住所と一致しているかを把握しておくことが、今後はより大切になります。
まとめ
- 地番は、法務局が土地に付ける番号で、登記の世界で使う住所
- 住居表示は、市区町村が建物に付ける住所で、日常生活で使う住所
- 登記簿に書かれているのは地番であって、住居表示ではない
- 不動産の手続き(相続登記・売買・抵当権設定・住所変更登記など)は、すべて地番ベースで動く
- 自分の不動産の地番は、登記事項証明書・固定資産税の納税通知書・権利証などで確認できる
- 住居表示が変わった地域では、登記簿の住所が今の住所と一致しているかを一度チェックしておくと安心
「地番なんて聞いたことがない」というかたも多いと思いますが、不動産を持っている以上、必ず一度は向き合うことになる番号です。相続や売買、住所変更登記などの場面で迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】登記実務における地番特定と住所表記の整合
ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
登記事項証明書の取得ルートと地番特定の前提
登記事項証明書は、以下の3つのルートで取得できます。
- 法務局窓口での請求 — 全国どの登記所でも、全国の不動産・法人の登記事項証明書を取得可能(不動産登記法119条5項、法務局の管轄横断請求)
- 郵送請求 — 法務局あてに請求書と収入印紙を郵送
- オンライン請求(かんたん証明書請求) — 法務省の「登記・供託オンライン申請システム」から請求(受領は窓口・郵送のいずれかを選択)
このほか、登記事項証明書そのものではなく登記簿の内容を画面で確認するだけで足りる場面では、一般財団法人民事法務協会が運営する登記情報提供サービス(インターネット閲覧、1物件あたり数百円)が便利です。証明書としての効力はありませんが、対象不動産の権利関係を素早く把握する用途には十分です。
いずれのルートでも前提となるのは地番の特定です。住居表示しか分からない場合は、地番に変換するステップ(法務局の地番照会等)を経る必要があります。地番が分からない場合は、法務局の地番照会窓口(住居表示を伝えて地番を教えてもらう)か、登記情報提供サービスの「所在地番検索」(対応地域のみ)を活用します。
住居表示の実施・変更に伴う登記名義人住所の取扱い
住居表示の実施や変更は、市町村が「住居表示に関する法律」に基づいて行政区画として整備するもので、個人の引っ越し(転居)とは仕組みが異なります。
住居表示が実施された地域、あるいは既存の住居表示が変更された地域では、市町村長から法務局に対し変更前後の対応関係が通知され、これに基づき法務局の職権で登記名義人の住所表示が変更される運用が一般的です(不動産登記法における登記官の職権主義の運用)。所有者の側から名変登記を申請する必要はありません。
ただし、職権変更が漏れているケースや、住居表示変更直後で職権変更が反映されていない時期に登記申請をする場合には、所有者の側で住居表示変更証明書(市町村が発行)を添付して名変登記を申請するか、後続の所有権移転登記の前提として住所変更を扱うことになります。
なお、所有者ご自身の引っ越し(転居)による住所変更は、住居表示変更とは別の問題で、原則として所有者の申請が必要です。この点は次に整理します。
検索用情報の申出制度(不動産登記法76条の6)
令和8年4月1日に施行される住所等変更登記の申請義務化(不動産登記法76条の5)と一体で運用される仕組みとして、同法76条の6で「登記官の職権による住所等変更登記」が新設されます。これは、登記官が住基ネット等を通じて登記名義人の住所異動を把握し、職権で住所変更登記を行う制度です(通称「スマート変更登記」)。
この職権変更の前提として、所有権の登記名義人があらかじめ法務局に申し出ておく検索用情報の制度は、令和7年4月21日から先行して運用が開始されています。同日以降、新たに所有権の保存登記・移転登記を受ける際には、登記申請書に検索用情報を併せて申し出ることが義務付けられました。
検索用情報として申し出る内容は次のとおりです(不動産登記規則158条の38ほか)。
- 氏名
- 氏名の振り仮名(日本国籍を有しない方は氏名の表音をローマ字で表示したもの)
- 住所
- 生年月日
- 電子メールアドレス
住所変更登記の義務化が始まる令和8年4月1日以降、検索用情報を申し出ている所有者については、住所異動の事実を法務局が住基ネット経由で把握し、登記官が職権で住所変更登記を行う運用が始まります。所有者が個別に申請する必要はなくなります。
すでに所有権を取得済みのかた(令和7年4月21日より前に取得した所有者)も、検索用情報を任意で事後的に申し出ることができます。申し出ておくと将来の引っ越しのたびに名変登記を申請する手間がなくなる点で、多くの所有者にメリットがあります。なお、職権変更の対象は自然人のうち検索用情報を申し出た登記名義人に限られるため、申し出をしていない所有者は従来どおり自ら名変登記を申請する必要があります。
法人については一足早く、令和6年4月から会社法人等番号を登記事項として記録する制度(不動産登記法73条の2)が始まっており、商業登記情報との連携で本店移転等が職権で反映される運用が先行しています。
名変登記の登録免許税と同一性証明書類
登記名義人住所変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第1の1の(14))。土地1筆・建物1棟があれば合計2,000円、マンション1部屋なら土地(敷地権)と建物で数千円におさまるのが一般的です。
ただし、管轄が異なる不動産にまたがって所有している場合は、管轄ごとに別個の申請となり、申請件数分の登録免許税がかかります。
同一性を証明する書類としては次のものを使い分けます。
- 住民票(または住民票の除票) — 直近の住所異動を証明
- 戸籍の附票 — 戸籍が編製されてから現在までの住所履歴を一括証明
- 住居表示変更証明書 — 住居表示の実施・変更による表示変更を証明(市町村発行)
数次にわたる住所異動がある場合は、登記簿上の住所から現住所までを書類でつなぐ必要があります。たとえばA市→B市→C市と転居している場合、A市の除票(B市への異動が記載)、B市の除票(C市への異動が記載)、C市の住民票という具合に、住所の沿革を切れ目なく示します。
なお、住民票の除票・戸籍の附票の保存期間は、従来は5年でしたが、令和元年6月20日施行の住民基本台帳法施行令改正により150年に延長されました。施行前にすでに保存期間が経過していた除票は復活しないため、古い住所異動については役所で「不存在証明書」が発行されるケースもあります。この場合、登記済証・登記識別情報通知や本人の上申書(事情を説明する書面)で代替するなど、事案に応じた工夫が必要となります。
売買・相続登記の前提として住所変更登記が必要なケース
不動産の所有権移転登記(売買・贈与など)を申請する際、登記簿上の所有者の住所と現住所が一致していないと、所有権移転登記の前提として住所変更登記を入れる必要があります。一致していないままでは、登記の名義人と申請人の同一性が示せず、補正命令の対象となります。
実務では、所有権移転登記と住所変更登記を一括して申請するのが一般的です(オンライン申請・書面申請のいずれでも可)。司法書士が代理で行う場合も、決済日に向けて事前に名変登記の添付書類を整えておきます。
注意点として、相続登記には租税特別措置法84条の2の3による登録免許税の免税措置(評価額100万円以下の土地等)がありますが、この免税は所有権移転登記(相続)が対象であって、その前提となる住所変更登記には適用されない点に留意します。前提名変登記の登録免許税1,000円は別途必要です。
令和8年4月以降の運用変化を見据えて
住所変更登記の義務化(不動産登記法76条の5、令和8年4月1日施行)により、住所異動から2年以内に名変登記を申請する義務が課されます。正当な理由なく義務を怠った場合、5万円以下の過料の対象となります(不動産登記法164条2項)。すでに住所が変わっているが名変登記をしていない所有者についても、施行日から2年間の経過措置(令和10年3月31日まで)を経て同様の扱いとなります。
過料は、相続登記義務化(令和6年4月施行)と同様、登記官の催告→裁判所への通知という二段階の運用が見込まれています。
家族が所有する不動産の登記簿上の住所が今のとおりになっているか、まずは登記事項証明書を1通取って確認することから始めるのが安心です。住所変更が複数回ある、住居表示変更が挟まっている、管轄が異なる複数の不動産を所有している、こうしたケースは書類のつなぎ方や申請の組み立てが複雑になりやすいため、お近くの司法書士にご相談ください。