この記事の要点

  • 土地の境界がわからなくても、相続登記そのものは申請できる。境界を確定させてからでないと名義が変えられない、という仕組みにはなっていない
  • ただし相続登記には期限がある。取得を知った日から3年以内(不動産登記法第76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(同法第164条第1項)
  • 境界の問題が表に出るのは売るとき。測量や筆界特定は土地家屋調査士、隣地の方との争いは弁護士、名義変更は司法書士と、相談先が分かれる

親から受け継いだ土地について「どこまでが自分の土地なのかはっきりしない」というご相談は珍しくありません。塀の位置と登記簿の面積が合わない、境界を示す杭が見当たらない、そもそも測量図が見つからない——こうした状況は各地で生じています。

先に結論からお伝えします。境界がはっきりしないままでも、相続登記(亡くなった方から相続人へ名義を移す登記)は進められます。 境界が問題になるのは、その先の「売る」「担保に入れる」という場面です。そして、境界の調査・測量を担うのは司法書士ではなく土地家屋調査士という別の資格者です。

この記事では、「境界がわからない」という言葉の中身を整理し、登記所(法務局)の資料で何がわかって何がわからないのか、そしてどの専門家に相談すればよいのかを交通整理します。

「境界がわからない」には二つの意味がある

法律の世界では、土地の境を指す言葉が二つあります。**筆界(ひっかい)所有権界(しょゆうけんかい)**です。この二つは似ているようで、性質がまったく違います。

筆界とは──登記された時に決まった、公の境

筆界は、不動産登記法に定義が置かれています。

表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう(不動産登記法第123条第1号)

言い換えると、その土地が登記されたときに「ここが境です」とされた点と、それを結ぶ線のことです。ポイントは「登記された時に」という部分にあります。定義そのものが過去のある時点を基準にしていることから、筆界は過去に決まった公の線であって、現在の所有者どうしが「この辺でいいことにしよう」と話し合って動かせる性質のものではない、と説明されます。実際、一筆の土地の区切り方を変えるには、分筆(土地を分けること)や合筆(土地を合わせること)という登記の手続きによることになります(不動産登記法第39条)。

所有権界とは──実際に所有権が及んでいる範囲の境

一方、所有権界は、実際に誰の所有権がどこまで及んでいるかという私法上(民法の世界の)の境です。

筆界と所有権界は、多くの土地では一致しています。ただし、過去に土地の一部だけを売り買いしたのに分筆の登記をしていなかった、長年にわたって塀や生垣が筆界とは違う位置に置かれてきた、といった事情があると、ずれが生じることがあります。

もっとも、塀や生垣がそこにあるという事実だけで、所有権の及ぶ範囲が決まるわけではありません。所有権がどこまで及ぶかは、その土地がどう受け継がれ、どう取引されてきたかといった、現地を見ただけではわからない事情を踏まえて判断される事柄で、個別の事情によって結論が変わり得ます。隣の方と言い分が食い違っている場合は、弁護士に相談する場面です。

この二つが別物だということは、相談先を選ぶうえでとても重要です。筆界を明らかにしたいのか、所有権の及ぶ範囲を争いたいのかで、進む道が分かれるからです。

法務局の資料で何がわかり、何がわからないか

「登記簿を取れば境界がわかるのでは」と思われることがありますが、実際には、法務局の資料だけで境界の位置が確定できる土地ばかりではありません。主な資料を三つ見ていきます。

登記事項証明書(登記簿)

土地の所在・地番・地目・地積(面積)と、所有者や抵当権などが記録されています。ただし、記録されるのは面積という数字であって、境界の位置そのものではありません。書類の読み方は登記簿(登記事項証明書)の見方──表題部・甲区・乙区は何が書いてある?で整理しています。

なお、登記簿の地積が実際に測ってみた面積と一致しないことも、特に古い土地ではあります。

公図

公図は、土地の形と並び方の概略を示した図面です。隣にどの地番の土地があるか、道路や水路にどう接しているかを把握するには役立ちます。

ただし、公図には成り立ちの異なるものが混在しています。法務局の説明によれば、登記所に備え付けられている「地図に準ずる図面」(いわゆる公図)の大部分は、明治時代に作られた旧土地台帳附属地図で、昭和25年以降に税務署から登記所へ移管されたものです。もとをたどれば、明治6年からの地租改正事業や地押調査の際に、課税台帳である土地台帳の附属地図として作られたもので、当時の測量技術による誤差(いわゆる縄伸び)があるため、面積や形状が現地と必ずしも整合していない、と説明されています。

形や位置関係の目安にはなっても、そこから正確な寸法を読み取ることは想定されていない図面がある、という点は押さえておきたいところです。法務局自身も、こうした地図に準ずる図面については「登記された土地のおおよその位置、地番とその隣接関係を表示しているもの」と考えてほしい、と案内しています。

地積測量図

もっとも詳しい資料が地積測量図です。記録すべき事項は不動産登記規則第77条第1項に定められており、地積とその求積方法(同項第5号)、筆界点間の距離(同項第6号)、基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値(同項第8号)などが挙げられています。座標値まで入っていれば、現地で境界点を復元する手がかりになります。

問題は二つあります。

ひとつは、地積測量図がない土地が相当数あることです。地積測量図は分筆の登記など一定の登記が申請されたときに提出されるものなので、その土地について過去にそうした登記がされていなければ、法務局にも存在しません。

もうひとつは、作られた年代によって精度に差があることです。地積測量図に求められる内容は法令の改正を経て変わってきており、古い年代のものには座標値の記録がないなど、現在のものと同じ水準を期待できない場合があります。「地積測量図があった」というだけで安心せず、いつ作られたどういう内容の図面なのかを見る必要があります。

境界がはっきりしなくても、相続登記は進められる

ここが実務上いちばんお伝えしたい点です。

相続登記は、登記記録に載っているその土地を、そのまま相続人の名義に書き換える手続きです。申請にあたって、境界を確定させた測量図を提出しなければならない仕組みにはなっていません。ですから、境界の話が片づいていなくても、名義を移すこと自体は進められます。

そして相続登記には期限があります。

  • 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、その相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない(不動産登記法第76条の2第1項)
  • この申請義務がある人が正当な理由なく申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられる(同法第164条第1項)

つまり、「境界がはっきりしてから相続登記をしよう」と待っていると、期限のほうが先に来てしまうおそれがあります。境界の調査と相続登記は、切り離して考えるのが安全です。

そもそもどの土地を相続したのかがはっきりしないとき

境界がはっきりしない土地は、山林や田畑、遠方の土地など、ふだん目にしていない不動産であることも少なくありません。「親名義の土地が他にもありそうだが、全部は把握できていない」という状態では、期限のある相続登記のしようがありません。

その手がかりとして、所有不動産記録証明制度があります。ある人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記官が一覧にして証明書として交付する制度で、令和8年(2026年)2月2日から運用が始まりました(不動産登記法第119条の2)。相続人その他の一般承継人は、亡くなった方に係る証明書の交付を請求できます(同条第2項)。手数料は、法務省の案内では検索条件1件につき1通当たり、書面請求1,600円、オンライン請求は郵送交付1,500円・窓口交付1,470円とされています。

ただし万能ではありません。法務省は、氏名・住所で検索する仕組みである以上抽出される不動産の網羅性には限界があること、登記記録上の氏名・住所と請求書に書いた検索条件が食い違えば抽出されないこと、所有権の登記がされている不動産に限られること、登記簿がコンピュータ化されていない不動産は抽出されないことを、あらかじめ案内しています。出発点として使い、これで全部だと決めつけない、という距離感が適切です。

相続登記のあとの「住所等変更登記」にも期限がある

境界の調査に時間がかかり、その間その土地を持ち続ける、という場面ではもうひとつの期限にも注意が必要です。所有権の登記名義人は、氏名・名称または住所に変更があったときは、その変更の日から2年以内に変更の登記を申請しなければならないとされ(不動産登記法第76条の5)、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になります(同法第164条第2項)。この住所等変更登記の義務化は、令和8年(2026年)4月1日から施行されています。施行日より前に住所等が変わったまま変更登記をしていない場合も義務の対象で、令和10年(2028年)3月31日までに申請する必要がある、と法務省は案内しています。

なお、建物についても同じような順番の問題があります。登記されていない建物が出てきた場合は実家が登記されていない?──『未登記建物』を相続したときに動く順番をご覧ください。

境界の話が表に出るのは「売るとき」

境界が実際の支障になるのは、多くの場合、売却の段階です。

不動産の売買契約では、売主が買主に対して境界を現地で明示することを条件とする例があります。また、確定測量図(隣接する土地の所有者の立会いと確認を経て作られた測量図)の交付を求められることもあります。買主から見れば、どこまでが買う土地なのかがはっきりしないままでは、代金の額も決められないからです。

住宅ローンなどで買主が融資を受ける場合には、金融機関が担保としての評価をするうえで、土地の範囲や面積の裏づけを求めることもあります。

こうした確認や測量には時間がかかります。隣接する土地の所有者の立会いが必要になれば、日程調整だけでも相応の期間を見込む必要があります。売却を考えているなら、買主が現れてから慌てるのではなく、早めに現状を確認しておくほうが結果的にスムーズです。売却全体の流れは相続した実家を売りたいとき──売る前にまず「相続登記」、そして知っておきたい税金の話にまとめています。

誰に相談すればよいか──資格による守備範囲の違い

境界の問題は、「一人の専門家がすべて引き受ける」たぐいのものではありません。内容によって、担当する資格者が変わります。

測量・境界の調査・表示に関する登記 → 土地家屋調査士

土地家屋調査士法第3条第1項は、調査士の業務として次のようなものを挙げています。

  • 不動産の表示に関する登記について必要な土地又は家屋に関する調査又は測量(同項第1号)
  • 不動産の表示に関する登記の申請手続又はこれに関する審査請求の手続についての代理(同項第2号)
  • 筆界特定の手続についての代理(同項第4号)

現地を測る、境界標を確認する、分筆や地積更正の登記を代理する、といった仕事はここに入ります。現地の測量と筆界に関する手続は土地家屋調査士の分野だと理解しておくとよいでしょう。

筆界特定制度という選択肢

筆界がはっきりしないときに使える手続きとして、筆界特定制度があります。土地の所有権登記名義人等が、法務局の筆界特定登記官に対して、その土地と隣接する土地との筆界について特定を求める申請ができる制度です(不動産登記法第131条第1項)。

いくつか押さえておきたい点があります。

  • 手続の中で測量が必要になった場合、その費用は申請した人の負担とされています(同法第146条第1項)。このほかに申請手数料もかかります。金額は管轄の法務局で確認してください
  • 筆界特定は、裁判の判決とは重みが違います。筆界特定がされた後に、その筆界について民事訴訟(筆界確定訴訟)の判決が確定したときは、筆界特定は判決と抵触する範囲で効力を失うとされています(同法第148条)
  • 先ほど見たとおり、筆界特定手続の代理は土地家屋調査士の業務です(土地家屋調査士法第3条第1項第4号)

隣地の方と主張が食い違う場合 → 弁護士

隣接する土地の所有者との間で言い分が対立している、越境しているものをめぐって話がこじれている——こうした争いごとの解決や、相手方との交渉は、弁護士の領域です。所有権が及ぶ範囲そのものを争う場合も同様です。争いの色が出てきた段階で、弁護士に相談してください。

なお、土地の筆界が現地で明らかでないことを原因とする争いについては、法務大臣の認定を受けた土地家屋調査士が、裁判外の紛争解決手続(ADR)の代理をすることができる仕組みもあります。ただしこれは、弁護士が同じ依頼者から受任している事件に限られています(土地家屋調査士法第3条第1項第7号、同条第2項)。

相続登記・名義変更 → 司法書士

亡くなった方から相続人への名義変更、売買に伴う所有権移転登記、抵当権の抹消といった権利に関する登記は司法書士が扱います。「境界の件はこれから調べるとして、まず名義だけ先に整えておきたい」という進め方をしたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。

まとめ

土地の境界がわからないとき、まず切り分けたいのは「筆界の話なのか、所有権の及ぶ範囲の話なのか」です。筆界はその土地が登記された時に決まった公の境(不動産登記法第123条第1号)、所有権界は実際に所有権が及んでいる範囲の境で、この二つはずれることがあります。

登記事項証明書・公図・地積測量図はいずれも手がかりになりますが、地積測量図がそもそもない土地もあり、あっても年代によって精度が違います。法務局の資料を見れば境界がわかる、とは限りません。

一方で、境界がはっきりしなくても相続登記は進められます。相続登記には取得を知った日から3年という期限があり(同法第76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。境界の調査を待って名義変更を止めてしまうのは、期限の面で不利になりかねません。

境界の測量や筆界特定の手続は土地家屋調査士、隣の方との争いは弁護士、名義変更の登記は司法書士——このように担当が分かれています。どこから手をつければよいか迷ったときは、まずお近くの司法書士にご相談ください。手続きの順番を整理し、どの専門家に引き継ぐべきかの見通しを立てるところから相談できます。

よくある質問

Q. 境界の調査や測量には、どのくらい費用がかかりますか。

一律の相場を示すことはできません。土地の広さ、隣接する土地の数、既存の資料の有無、現地の状況によって作業量が大きく変わるためです。目安を知りたい場合は、土地家屋調査士に登記事項証明書・公図・(あれば)地積測量図を見せたうえで見積もりを依頼するのが確実です。筆界特定制度を使う場合は、手続の中の測量費用が申請人の負担とされており(不動産登記法第146条第1項)、別に申請手数料もかかります。金額は管轄の法務局にご確認ください。

Q. 境界がわからないまま放置すると、どうなりますか。

すぐに罰則があるわけではありませんが、二つのリスクがあります。ひとつは売却が滞ることです。買主から境界の明示や確定測量図を求められることがあり、その段階から調査を始めると時間がかかります。もうひとつは相続登記の期限です。相続で取得したことを知った日から3年以内という申請義務があり(不動産登記法第76条の2第1項)、正当な理由なく怠れば10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。境界の件と名義変更は分けて進めてください。

Q. 自分で調べることはできますか。どこに相談すればよいですか。

登記事項証明書・公図・地積測量図を法務局で取得して、資料の有無と内容を確認するところまでは、ご自身でもできます。ただし、現地のどこが境界点かを判断するには測量が必要で、これは土地家屋調査士の分野です。隣接する土地の所有者と言い分が食い違っているなら弁護士、相続登記や売買の名義変更なら司法書士と、内容によって窓口が変わります。どこに持ち込むべきか判断がつかないときは、まずお近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】登記制度から見た「境界がわからない土地」──図面の法的な位置づけと、表示の登記・権利の登記の分かれ目

ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本編では「法務局の資料だけでは境界が確定できないことがある」とお伝えしました。ここでは、それが制度としてそう作られているという点を、条文に即して掘り下げます。あわせて、境界が未確定のまま相続登記が進む仕組みと、表示に関する登記が必要になる場面の位置づけを整理します。

「地図」と「地図に準ずる図面」は、法令が求めている内容そのものが違う

不動産登記法第14条は、登記所に備え付ける図面について次のように定めています。

  • 登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする(第1項)
  • 前項の地図は、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものとする(第2項)
  • 第1項の規定にかかわらず、登記所には、同項の規定により地図が備え付けられるまでの間、これに代えて、地図に準ずる図面を備え付けることができる(第4項)
  • 前項の地図に準ずる図面は、一筆又は二筆以上の土地ごとに土地の位置、形状及び地番を表示するものとする(第5項)

第2項と第5項を並べると、求められている内容の差がはっきりします。第14条第1項の地図は「区画を明確に」することが求められているのに対し、地図に準ずる図面は「位置、形状及び地番」の表示にとどまります。法務局自身も、第14条第4項の地図に準ずる図面を「いわゆる公図」と説明しており、実務上「公図」と呼ばれている図面のうちには、この類型が含まれます。

つまり、公図から正確な寸法が読み取れないことがあるのは、その図面が古いからというだけの話ではなく、その図面に法令が求めている内容が、そもそも区画の明確化ではないからという側面があります。図面の呼び名ではなく、どちらの類型の図面なのかを確認する意味はここにあります。なお、どの土地にどちらが備え付けられているかは登記所ごとに異なりますので、実際の確認は管轄の法務局で行うことになります。

境界が未確定でも相続登記が受理されるのは、二つの登記が別の系統だから

不動産登記法は、登記を大きく二つに分けています。

  • 表示に関する登記=不動産の表示に関する登記(第2条第3号)。土地でいえば、所在・地番・地目・地積が登記事項です(第34条第1項各号)
  • 権利に関する登記=所有権や抵当権など、第3条各号に掲げる権利に関する登記(第2条第4号)

相続登記は後者、権利に関する登記です。登記記録に記録されている一筆の土地を単位として、名義人を書き換えます。土地の輪郭そのものを審査し直す手続ではありません。

現地を確かめる仕組みがどこに置かれているかも、条文から読み取れます。第29条第1項は「登記官は、表示に関する登記について第十八条の規定により申請があった場合及び前条の規定により職権で登記しようとする場合において、必要があると認めるときは、当該不動産の表示に関する事項を調査することができる」と定め、第2項では日出から日没までの間に限って不動産を検査し、関係者に質問できるとしています。登記官が現地に出て確かめる仕組みは、表示に関する登記の側に置かれているわけです。

ここから直ちに「だから権利の登記では現地は一切問題にならない」と言い切ることはできませんが、少なくとも、境界を確定させた測量の成果を相続登記の要件として求める規定は置かれていません。本編でお伝えした「境界の調査と相続登記は切り離して進められる」という結論は、この構造から出てくるものです。

表示に関する登記が必要になる場面と、「誰が申請できる立場か」

地積が実際と食い違っている、土地の一部だけを売る、相続人の間で一筆の土地を分ける──こうした場面では、権利の登記だけでは足りず、表示に関する登記の出番になります。ここで押さえておきたいのが、申請できる立場が法律で限定されている点です。

  • 地積などの登記事項の更正の登記は、表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は申請することができない(第38条。地積は第34条第1項第4号)
  • 分筆又は合筆の登記も、表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は申請することができない(第39条第1項)
  • ただし、表題部所有者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人が当該表示に関する登記を申請することができる(第30条)

ここで、この三つの条文の関係を整理しておきます。表示に関する登記は誰でも動かせるものではなく、登記記録上の名義と結びついた立場の人でなければ申請できません。相続が起きた場合には第30条が受け皿になっています。表示の登記と権利の登記は別系統でありながら、申請できる立場という点では登記記録上の地位を通じてつながっている、という構造です。

なお、表示に関する登記について必要な調査又は測量、その申請手続の代理は、土地家屋調査士の業務とされています(土地家屋調査士法第3条第1項第1号・第2号)。どの登記が必要か、どういう資料を揃えるかという具体的な進め方は、土地家屋調査士にご相談ください。本記事では制度の位置づけを示すにとどめます。

筆界特定では何が考慮され、結果はどのように残るのか

筆界特定について、判断の材料が条文に列挙されている点はあまり知られていません。第143条第1項は、筆界特定登記官が筆界調査委員の意見を踏まえたうえで、

登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の附属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮して

筆界特定をし、結論及び理由の要旨を記載した筆界特定書を作成しなければならない、と定めています。そして筆界特定書では、図面と、図面上の点の現地における位置を示す方法により、筆界特定の内容を表示しなければならないとされています(同条第2項)。

列挙されている要素を見ると、現在の所有者どうしがどう考えているかではなく、資料と現地の状況から過去に決まった筆界がどこかを探す作業として組み立てられていることがわかります。本編で触れた「筆界は当事者の話し合いで動かせる性質のものではない」という説明は、この考慮要素の並びとも符合します。

結果の残り方も制度化されています。

  • 筆界特定登記官は、筆界特定をしたときは、遅滞なく申請人に筆界特定書の内容を通知するとともに、筆界特定をした旨を公告し、かつ関係人に通知しなければならない(第144条第1項)
  • 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、筆界特定書又は政令で定める図面の全部又は一部(筆界特定書等)の写しの交付を請求することができる(第149条第1項)
  • 何人も、手数料を納付して筆界特定手続記録の閲覧を請求することができる。ただし、筆界特定書等以外のものについては、請求人が利害関係を有する部分に限る(同条第2項)

売却を見据えた場面では、この「後から第三者も確認できる形で残る」という点に実務上の意味があります。買主や金融機関の側から見て、当事者の説明とは別に制度上の記録に当たれるからです。ただし、これは筆界特定を使うべきかどうかの判断とは別の話で、本編のとおり筆界特定手続の代理は土地家屋調査士の業務です(土地家屋調査士法第3条第1項第4号)。手数料の額は管轄の法務局にご確認ください。

実務としての交通整理

以上を踏まえると、境界がはっきりしない土地では、次のように整理しておくと動きやすくなります。

  1. まず登記記録と図面を取り寄せ、備え付けられているのが第14条第1項の地図なのか、第4項の地図に準ずる図面なのかを確認する
  2. 相続登記(権利に関する登記)は、境界の結論を待たずに進められる。期限の起算は本編のとおり
  3. 地積更正や分筆といった表示に関する登記、現地の測量、筆界特定手続は土地家屋調査士へ
  4. 隣接地の所有者と主張が対立している、越境物の扱いでもめている、という段階に入っていれば弁護士へ

どこから手をつけるべきか、そもそもどの手続が必要なのかの見極めが難しいときは、まずお近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい