「親の家を相続することになり、登記簿(とうきぼ/法務局が管理する土地・建物の公的な記録)を取りに行ったら、土地は出てきたのに、建物のほうは『該当なし』と言われた──」
最近、こうしたご相談が増えています。固定資産税の通知書(毎年4月〜6月に自治体から届く納税のお知らせ)はちゃんと届いているのに、法務局の登記簿には建物の情報がまったく載っていない。これが「未登記建物」と呼ばれる、ねじれた状態の不動産です。
未登記建物は、相続が発生して初めて家族が気づくケースが少なくありません。今回は、未登記建物を相続したときに「誰に・どの順番で・何を」依頼すればよいのかを整理してお伝えします。
なぜ未登記の建物が今も残っているのか
不動産登記法では、建物を新築した所有者は、所有権の取得から 1ヶ月以内に表題登記(ひょうだいとうき/建物の物理的な情報を登記する手続)の申請をしなければならないと定められています(不動産登記法47条1項)。これに違反した場合、10万円以下の過料に処せられることがあります(同法164条1項)。
ところが、昭和40年代以前に建てられた木造家屋を中心に、登記義務が周知されていなかった時代の建物や、自家用住宅で住宅ローンを使わずに建てたために登記を省略してしまった建物が、現在も一定数残っています。
- 自治体の家屋補充課税台帳(かおくほじゅうかぜいだいちょう/登記簿に載っていない建物について市区町村が固定資産税を課すために独自に整備する台帳。登記済みの建物は『家屋課税台帳』、未登記の建物は『家屋補充課税台帳』に登録される、地方税法381条4項)には載っているため、固定資産税は毎年課されている
- ところが、法務局の登記簿(不動産登記法上の登記記録)には載っていないため、所有権を公的に証明する手段がない
このような「課税はされているが、登記はされていない」という状態が、長年にわたり放置されてきました。相続が発生した時点で家族が初めて知る、というケースが多いのは、こうした背景があるためです。
未登記のまま放置すると、何が困るのか
未登記建物をそのまま相続するか、どこかで登記を整えるか──この判断は、放置した場合のリスクの大きさで決まります。
1. 売却が極めて難しい
登記簿に載っていない建物は、買主側にとって「所有者を公的に証明できない物件」になります。住宅ローンを組んで購入する場合、金融機関は登記された建物にしか抵当権(ていとうけん/ローンの担保として設定する権利)を設定できないため、買主がローンを使えず、現金一括取引でないと売れない、ということになりがちです。
2. 抵当権の設定ができない
リフォーム資金や建替え費用の借入れで建物を担保にしようとしても、未登記のままでは抵当権を設定できません。建物を担保に資金を借りる選択肢が事実上ふさがる、ということです。
3. 特定空家等への認定リスク
空家等対策の推進に関する特別措置法(いわゆる空家対策特措法、平成26年法律第127号)では、管理が行き届かない空き家を市町村が「特定空家等」に認定し、所有者に助言・指導・勧告・命令を行う仕組みが整えられています。さらに、**令和5年改正(令和5年法律第50号、令和5年12月13日施行)**により「管理不全空家等」という新しい類型が設けられ、特定空家等になるおそれがある段階でも市町村が指導・勧告を行えるようになりました。所有者の特定が遅れる未登記建物は、近隣からの苦情や老朽化の進行と相まって、これらの認定リスクが高くなります。特定空家等または管理不全空家等として勧告を受けると、その敷地は住宅用地特例(固定資産税の軽減措置)の対象から外される運用となっており、税負担が大きく変わる可能性があります(税額への影響の詳細は、税理士にご相談ください)。
4. 固定資産税の所有者特定で揉める
被相続人(亡くなった方)の名義で課税されてきた建物について、相続人が複数いる場合、誰が今後の納税義務者になるのかを自治体に届け出る必要があります。未登記のままだと、自治体側も「相続人代表者指定届」などで対応するため、相続人間の話し合いが付かないと宙に浮く形になります。
5. 解体時にも書類が増える
未登記建物を解体するときも、自治体への家屋滅失届と並んで、登記がある建物であれば建物滅失登記が必要ですが、未登記建物の場合は登記簿上の対応は不要な代わりに、自治体側への届出や本当に未登記だったのかの調査に時間がかかることがあります。
相続が発覚した時点で動く順番
未登記建物を相続したと分かったとき、闇雲に動くのではなく、書類の発掘 → 表題登記 → 所有権保存登記の順番で進めるのが基本です。
ここで、最初に知っておきたい大切な前提があります。
司法書士は登記全般を扱う専門家ですが、登記には2階建ての構造があり、上下で担当する士業が分かれます。 1階部分(表題部)は土地家屋調査士の独占業務であり、司法書士は代理できません。 2階部分(権利部)が司法書士の業務です。
未登記建物の相続では、まず1階部分(表題部)を立ち上げてから、2階部分(権利部=所有権保存登記)を載せるという順序になります。1階を作る人と、2階を作る人が違う、というイメージを持っておくと、誰に依頼するかの判断がスムーズです。
ステップ1:書類の発掘
まず、未登記建物に関する手がかりとなる書類を集めます。これは一般のご家族でも進められる作業です。
- 固定資産税納税通知書:建物の所在・床面積・課税標準額が記載されている
- 家屋課税台帳・家屋補充課税台帳・名寄帳〔なよせちょう〕:自治体の税務窓口で、所有者または相続人が請求できる。未登記建物の情報は家屋補充課税台帳に登録されている
- 建築確認通知書:建てたときに発行された書類。建築時期・構造・床面積が確認できる
- 建築当時の設計図面・請負契約書:物置や蔵に残っていることがある
- 被相続人の遺品の中の権利関係書類:土地の権利証は出てきても建物の権利証がない、というのが未登記建物の典型パターン
これらの書類は、後の表題登記の申請時に必要書類のうらづけになります。
ステップ2:表題登記(土地家屋調査士へ)
書類が揃ったら、土地家屋調査士に依頼して、表題登記を申請します。
- 根拠条文:不動産登記法47条1項(建物の表題登記の申請義務)
- 期限:所有権の取得から1ヶ月以内
- 怠った場合:不動産登記法164条1項により、10万円以下の過料
- 担当士業:土地家屋調査士法3条1項により、表題登記の代理は土地家屋調査士の独占業務
ここで重要なのは、司法書士は表題登記の代理を業として行うことができないという点です。司法書士事務所に「未登記建物を相続したので登記を全部お願いしたい」と相談した場合でも、表題部分は提携の土地家屋調査士へ依頼するか、ご自身でお近くの土地家屋調査士に依頼することになります。
なお、調査士は建物の現地調査・測量を行い、建物図面・各階平面図を作成して申請します。相続を原因とする表題登記の場合、建築当時の関係書類や、現所有者が相続人であることを示す戸籍関係書類なども必要になります。具体的な必要書類や費用は事案により幅があるため、お近くの土地家屋調査士にご相談ください。
ステップ3:所有権保存登記(司法書士へ)
表題登記が完了すると、登記簿に建物の「表題部」が立ち上がります。続いて、所有権の公示として所有権保存登記(しょゆうけんほぞんとうき)を行います。
- 根拠条文:不動産登記法74条(所有権の保存の登記)
- 担当士業:司法書士の業務範囲(司法書士法3条1項1号)
所有権保存登記は、表題部所有者またはその相続人が申請できます(不動産登記法74条1項1号)。相続が原因で未登記建物を引き継いだ場合は、相続人が所有権保存登記を申請する形になります。
なお、相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)の規定(不動産登記法76条の2)は、もともと登記名義人がいる建物について「相続による所有権移転登記」を3年以内に申請する義務を定めたものです。**未登記建物の場合は、そもそも所有権移転登記の対象になる登記名義人がいないため、所有権保存登記による初回登記という別ルートをたどります。**ただ、放置すれば実質的に同じ問題(権利関係の不明化)を招くため、表題登記と合わせて速やかに進めることが望ましい状況です。
所有権保存登記の具体的な手続や添付書類は、表題登記の完了証や住民票、相続関係を証明する戸籍書類などをもとに進めます。詳細はお近くの司法書士にご相談ください。
業際の地図を、もう一度
未登記建物の相続を解きほぐすには、次の4つの専門家を順番に通る形が基本になります。
| 段階 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| ① | 固定資産税通知書・課税台帳・建築確認書類などの取得 | ご本人または各士業に相談しながら |
| ② | 表題登記(不登法47条/1ヶ月以内/164条で過料) | 土地家屋調査士(調査士法3条1項) |
| ③ | 所有権保存登記(不登法74条) | 司法書士(司法書士法3条1項1号) |
| ④ | 固定資産税の納税義務者の届出・税額の確認 | 自治体の税務窓口/税額や軽減判定は税理士 |
それぞれの専門家が扱える範囲は、法律で明確に区切られています。司法書士事務所のブログとしてお伝えできるのは、上記のうち③(所有権保存登記)と、全体の流れの整理までです。表題登記の細かい手続や、税額の計算・軽減判定は、それぞれの専門家の領域となります。
早めに動くことが、いちばんの詰み回避
未登記建物は、放置すればするほど資料が散逸し、関係者の記憶も薄れ、相続人の数も増えていきます。相続発生時に「未登記だ」と分かった段階で、表題登記・保存登記を順に進めておくことが、後の世代の負担をいちばん減らす方法です。
もし、ご実家やご親族の建物について「もしかしたら未登記かもしれない」という心当たりがある場合は、固定資産税納税通知書と登記簿(法務局でだれでも取得できます)を見比べてみてください。納税通知書には載っているのに、登記簿に建物の情報がない場合、未登記建物である可能性が高いです。
その時点で、まずはお近くの土地家屋調査士またはお近くの司法書士にご相談いただき、表題登記から所有権保存登記までの段取りを組み立てるのが、もっとも安全な進め方です。
【さらに深掘り】未登記建物の所有権保存登記をめぐる実務論点
ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
所有権保存登記の申請権者──不動産登記法74条1項の整理
所有権保存登記は、誰でも好きに申請できる登記ではなく、申請権者が法定されています。不動産登記法74条1項は、申請権者を次の3つに限定しています。
| 号 | 申請権者 |
|---|---|
| 1号 | 表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人 |
| 2号 | 所有権を有することが確定判決によって確認された者 |
| 3号 | 収用によって所有権を取得した者 |
未登記建物の相続のケースで使うのは、原則として1号の後段(表題部所有者の相続人)です。確定判決ルート(2号)は、表題部所有者と実際の所有者が異なるなど、相続による承継だけでは説明がつかない事情があるときに使う例外ルートになります。
なお、74条2項には区分所有建物(マンション等)の特別ルールが置かれていますが、戸建ての未登記建物の話とは別系統なので、本文での解説は割愛します。
表題部所有者が「誰」として記載されるかで、保存登記の進め方が変わる
未登記建物の相続では、まず土地家屋調査士による表題登記が入りますが、このとき表題部所有者欄に誰の名前が記載されるかで、その後の保存登記の段取りが変わってきます。
- パターンA:被相続人(亡くなった親など)を表題部所有者として記載
- 相続人が74条1項1号後段で「表題部所有者の相続人」として保存登記を申請する流れ
- 相続関係を示す戸籍一式が添付書類として必要
- パターンB:相続人(現所有者)を表題部所有者として記載
- 相続人本人が74条1項1号前段の「表題部所有者」として保存登記を申請する流れ
- 戸籍一式は表題登記段階で消費されているため、保存登記時の戸籍提出は事案による
どちらのパターンを選ぶかは、必要書類の収集状況や、相続人間の合意状況、調査士の運用にもよります。一律の正解はないため、調査士と司法書士が連携して進めるのが実務的にスムーズです。
相続を原因とする所有権保存登記の必要書類と、つまずきポイント
相続による所有権保存登記(74条1項1号後段)で典型的に必要となる書類は、次のとおりです。
- 被相続人の死亡から出生までさかのぼる**戸籍(除籍・改製原戸籍)**一式
- 相続人を特定する戸籍
- 申請人の住民票(または戸籍の附票)
- 遺産分割協議で特定の相続人が単独取得する場合は、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
つまずきやすいのは次のような点です。
- 表題部所有者の住所が、現在の住所表記と一致しない:戦前・戦後の建物では、行政区画の変更などで表題部所有者の住所が現存しない地名になっていることがあります。住居表示の変遷を示す自治体の証明書が必要になる場合があります。
- 被相続人の戸籍に「未登記建物の所有者」と書かれていない:戸籍は身分関係の証明書類で、所有関係は証明できません。表題部所有者と被相続人が同一人物であることを、住民票や戸籍の附票でつなぐ作業が必要です。
- 数次相続:被相続人の相続が開始した後、保存登記をしないうちに別の相続人も亡くなり、孫の代まで権利関係が広がっているケースがあります。中間省略を含めた相続関係説明図の作成が複雑化しやすい論点です。
共同相続の場合は単独申請ができるか
複数の相続人がいる場合、その全員でなければ保存登記を申請できないかというと、そうではありません。民法252条5項(保存行為は各共有者が単独でできる)の趣旨を受けて、相続を原因とする所有権保存登記は、共同相続人の1人が「全員のため」に単独で申請することができます(不動産登記法74条1項1号の解釈、いわゆる保存行為としての単独申請)。
ただし、注意点が2つあります。
- 単独申請で保存登記できるのは、法定相続分による共有として登記する場合に限られる。自分の持分だけを切り出して保存登記することはできない(持分のみの保存登記はできないというのが従来の取扱い)。
- 遺産分割協議が成立していて、特定の相続人が単独取得する内容であれば、その協議書を添付して、当該相続人を所有者とする保存登記を行うことができる。この場合は遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書が必要。
「とりあえず自分1人で動きたい」という相続人にとっては、法定相続分での共有保存登記が動かしやすい選択肢ですが、後で遺産分割をやり直すと、所有権更正登記や持分移転登記が追加で必要になります。最初の動きの段階で、遺産分割を済ませてから保存登記するか、いったん法定相続分で保存してから動かすかを決めておくことが、後の手戻りを減らすうえで重要です。
登記名義人と表題部所有者がずれているケース
古い未登記建物では、調査の結果、表題部所有者として想定される人物(建築当時の所有者)と、実際の所有者として権利を主張している人物が違うというケースが出てきます。例えば、建築当時の名義は父だったが、その後、生前贈与で子に渡っていたとされる場合などです。
このような場合、74条1項1号で進めることはできません。選択肢としては次の2つになります。
- 確定判決を得て、74条1項2号で申請する(所有権確認訴訟)
- 表題登記の表題部所有者を更正してから、74条1項1号で申請する(表題部の更正は調査士の領域)
どちらの道を選ぶかは、証拠資料の有無、関係者の協力姿勢、コスト感によって変わります。所有権の帰属に争いがある事案は、訴訟代理が必要になる場面もあり、その場合は弁護士の関与も視野に入れることになります。
相続放棄と未登記建物──固定資産税の請求が止まらない問題
未登記建物の相続放棄をめぐっては、相続放棄したのに固定資産税の請求が来続けるという現象が、相談の場で繰り返し話題に上ります。整理すると次のような構造です。
- 民法939条により、相続放棄をした者は最初から相続人ではなかったことになる
- 一方、地方税法343条2項は、固定資産税の納税義務者を登記簿または家屋補充課税台帳等に所有者として登録されている者として定めている
- 未登記建物の場合、家屋補充課税台帳に被相続人名義のままで残っており、自治体側が放棄を把握しない限り、放棄者にも納税通知書が届く運用になりがち
対応としては、自治体の税務窓口に相続放棄の事実を示す書類(家庭裁判所発行の相続放棄申述受理証明書など)を提出し、納税義務者を切り替えてもらう手続が必要になります。
さらに、令和5年4月1日施行の改正で、民法940条は「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に対して引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と改められています。改正前は放棄者一般に保存義務がかかる読み方ができましたが、保存義務の対象を「占有」しているものに限定したかたちです。未登記建物の管理責任が誰に残るかの整理にあたって、放棄時点の占有の有無が重要なメルクマールになります。
相続人全員が放棄した場合、最終的には相続財産清算人(令和5年4月1日改正で「相続財産管理人」から名称変更、民法952条)の選任申立てで清算手続に進む選択肢もあります。
解体・滅失とのタイミング
未登記建物を解体する場合、登記簿上の存在がないため、建物滅失登記は不要です(不動産登記法57条は登記された建物が対象)。自治体への家屋滅失届(家屋取壊し届)の提出により、家屋補充課税台帳から除外する流れになります。
ただし、解体前に表題登記・保存登記を済ませておくべきか、解体してしまうかは、次のような事情で個別判断になります。
- 売却・抵当権設定の予定があるか
- 相続人間の権利関係を公的に確定させておきたいか
- 解体費用と登記費用のバランス
- 解体までの間の固定資産税負担
「登記してから壊す」「壊して登記不要にする」のどちらの選択が合うかは事案によって異なるため、登記・税務・解体の3つの視点を持つ専門家のアドバイスを受けながら進めることが現実的です。