第1問(民法・即時取得と占有改定)
Aは、無権利者Bから動産甲を購入し、Bからいわゆる占有改定(民法183条)の方法で引渡しを受けた。Aは、Bが無権利者であることについて善意かつ無過失であった。この場合、Aは占有改定を受けた時点で甲につき即時取得(民法192条)を主張することができる。
答:×
解説: 判例(最判昭35.2.11 民集14巻2号168頁)は、即時取得の成立には**「現実の支配の移転」が必要**であり、占有改定の方法による引渡しでは即時取得の要件を充たさないとする。
即時取得制度の趣旨は、動産取引における公示の代替として現実の占有による外形を保護する点にあり、占有改定(譲渡人がそのまま占有を継続する形態)では外形が変わらないため、原権利者の犠牲において即時取得を認める基礎を欠くと解される(通説・判例)。
なお、簡易の引渡し(民法182条2項)・指図による占有移転(民法184条)による即時取得については、判例上、肯定的に解されている例がある(最判昭57.9.7 民集36巻8号1527頁。ただし指図による占有移転の射程・要件の細部は学説上争いがある)。
また、質権の設定については民法345条が「質権者にその目的物の占有を継続させたままでは、質権の効力を生じない」と定め、明文で占有改定による質権設定を否定している。即時取得との対比で押さえておきたい論点である。
第2問(不動産登記法・登記識別情報の通知)
相続を原因とする所有権移転登記の申請をした相続人に対しては、申請人ごとに登記識別情報が通知されるのが原則であるが、申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合には通知されない。
答:○
解説: 不動産登記法21条本文は、登記官は登記名義人となる申請人に対し登記識別情報を通知しなければならないと定める。ただし、同条ただし書および不動産登記規則64条1項3号により、申請人が事前に「登記識別情報の通知を希望しない旨」の申出をした場合には通知されない。
相続を原因とする所有権移転登記の場合も、新たに登記名義人となる相続人は申請人として登記識別情報の通知の対象となる。
引っかかりやすい論点:相続登記では「被相続人の登記識別情報(権利証)が不要」(一般承継のため)という別論点があり、これと「新名義人への通知の有無」を混同しないこと。前者は申請時の添付情報の問題、後者は登記完了後の通知の問題で、まったく別の場面の話である。
なお、申請人が登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をしたケースでは、その後の登記申請で本人確認情報(不登法23条4項1号)や事前通知(同条1項)等の手続を経ることになる。
第3問(商業登記法・種類株式発行会社の登記事項)
種類株式発行会社が剰余金の配当について異なる定めをした種類株式(会社法108条1項1号)を発行している場合、当該種類株式の内容は商業登記の登記事項であり、その内容を変更する定款変更を行うときは、株主総会議事録に加えて株主リストの添付が必要となる。
答:○
解説: 会社法911条3項7号は、種類株式発行会社における登記事項として「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」を掲げている。剰余金の配当について異なる定めをした種類株式の内容(会社法108条2項1号)は、ここでいう「各種類の株式の内容」に該当し、登記事項となる。
種類株式の内容を新設・変更する場合は、定款変更(株主総会の特別決議:会社法466条・309条2項11号)が必要である。商業登記の申請に際しては、株主総会議事録(商業登記法46条2項)に加えて、商業登記規則61条3項により株主リストの添付が必要となる。
引っかかりやすい論点:種類株式の内容の登記は、種類株式発行会社の機関設計や定款変更と連動して整理が必要。例えば、ある種類株式に譲渡制限または取得条項を付加する定款変更(会社法108条1項4号・7号)を行う場合は、原則として当該種類株式の株主全員の同意が必要となる(会社法111条2項)。さらに、当該定款変更により他の種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該他の種類株主による種類株主総会の特別決議も必要となる(会社法324条2項1号)。試験では「議事録の添付」だけでなく、「全員同意の有無」「種類株主総会の有無」までセットで聞かれることが多い論点である。
第4問(民事訴訟法・固有必要的共同訴訟)
数人が共有する物の分割を求める共有物分割の訴え(民法258条1項)は、固有必要的共同訴訟であり、共有者の一人を欠いて提起された訴えは当事者適格を欠くものとして却下される。
答:○
解説: 判例(最判昭46.6.18 民集25巻4号550頁)は、共有物分割の訴えを固有必要的共同訴訟と解している。共有者の一人を欠いて提起された訴えは当事者適格を欠き、訴えは不適法として却下されることになる。
必要的共同訴訟は民事訴訟法40条で規律され、判決効が共同訴訟人全員に合一に確定すべき訴訟類型である。固有必要的共同訴訟(当事者適格自体が共同提起を要する類型)と類似必要的共同訴訟(共同提起は任意だが判決効が合一に及ぶ類型)の区別が問われやすい。
引っかかりやすい対比論点:
- 共有物の使用妨害排除請求は「保存行為」(民法252条5項)として共有者の一人が単独で提起できる(通常共同訴訟になる場合)
- 共有物の管理に関する事項(民法252条1項)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する
- 共有物の変更(軽微変更を除く)は共有者全員の同意(民法251条1項)
共有物分割と他の共有関係訴訟を混同しないこと。共有物分割は共有関係の終局的解消を求める訴えなので、固有必要的共同訴訟になるのが論理必然である。
第5問(司法書士法・認定司法書士の代理権の範囲)
認定司法書士は、簡易裁判所において訴訟物の価額が140万円以下の民事訴訟事件について訴訟代理を行うことができるが、当該事件が控訴により地方裁判所に係属した場合の控訴審の訴訟代理を行うことはできない。
答:○
解説: 司法書士法3条1項6号イ・3条2項により、認定司法書士(簡裁訴訟代理関係業務認定を受けた司法書士)は、簡易裁判所における訴訟物の価額140万円以下の民事訴訟事件について訴訟代理権を有する。
しかし、控訴審は地方裁判所が管轄する(裁判所法24条3号)。司法書士法3条1項6号イは代理権の範囲を「簡易裁判所における」訴訟手続に限定しているため、地方裁判所に係属した控訴審については代理権を持たない。控訴審以降は弁護士の領域となる。
引っかかりやすい論点:
- 訴額140万円以下の要件:訴訟物の価額が140万円を超える事件は、認定司法書士であっても代理できない(司法書士法3条1項6号イ)
- 本人訴訟支援:代理権の範囲外の事件についても、書類作成(同条1項4号)の範囲で支援することは可能だが、これは「代理」ではない
- 移送との関係:簡裁係属中の事件が地裁に移送された(民訴法18条等)場合、地裁係属後は代理権を失う
なお、税務論点が絡む場合(過払金訴訟における源泉徴収義務など)は、税額計算は税理士業務であり、司法書士の業務範囲外となる。
出題分野の振り分け
| 問 | 科目 | 論点 |
|---|---|---|
| 第1問 | 民法 | 即時取得と占有改定(民法183条・192条、最判昭35.2.11) |
| 第2問 | 不動産登記法 | 登記識別情報の通知(不登法21条、不登規則64条1項3号) |
| 第3問 | 商業登記法 | 種類株式発行会社の登記事項(会社法911条3項7号、商業登記規則61条3項) |
| 第4問 | 民事訴訟法 | 固有必要的共同訴訟(民訴法40条、最判昭46.6.18) |
| 第5問 | 司法書士法 | 認定司法書士の代理権の範囲(司法書士法3条1項6号イ・3条2項) |