この記事の要点

  • 境界標の設置・保存の費用は、隣どうしが等しい割合で負担する(=折半)のが民法の原則です(民法224条本文)
  • ただし測量の費用だけは折半ではなく、土地の広さ(面積)に応じて分担します(民法224条ただし書)
  • 境界の塀(囲障)も、所有者の異なる2棟の建物の間に空き地があるときは共同の費用で設置でき、協議がまとまらないときは「板塀・竹垣など、高さ2メートル」が基準になります(民法225条)
  • もっと良い材料・もっと高い塀にしたい側は、その増加分の費用を自分で負担します(民法227条)
  • 費用の話の前に「そもそも境界(筆界)がどこか分からない」ときは、まず筆界特定制度や土地家屋調査士への相談が先です

お隣との境界に目印(境界標)を置くときや、境界に塀を作るときの費用は、原則としてお隣との折半──これが民法の答えです。ただし例外もあり、測量の費用は面積に応じた分担になりますし、立派な塀にしたい側はその分を余計に負担します。

そして、この費用のルールが働くのは、「境界がどこか」がはっきりしていることが前提です。境界そのもの(筆界=法務局の登記記録上の土地の区画線)が分からない状態では、境界標をどこに置くかも、塀をどこに建てるかも決められません。筆界と所有権界の違いや調べ方は「境界がはっきりしない土地の相続・売却」の記事で、塀の工事のためにお隣の土地に立ち入るルールは「隣地使用権とは」の記事で解説しました。今回はその続きとして、「費用を誰がいくら負担するか」のルールに絞ってお話しします。

境界標の設置は「共同の費用」で求められる

民法223条は、こう定めています。

土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。

境界標とは、境界の位置を示すために地面に設置する目印のことです。コンクリート杭や金属プレート、金属鋲(びょう)などが使われます。

ポイントは「共同の費用で」設けることができる、と定められている点です。つまり、境界標を設けること自体を一方的にあきらめる必要はなく、民法上、お隣と共同で設置する仕組みが用意されています。

費用は折半、ただし測量費は「面積に応じて」

では費用の内訳はどうなるのでしょうか。民法224条が答えを持っています。

境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。

  • 境界標そのものの設置費用・保存費用(杭代、設置工事代、壊れたときの補修など)→ 隣どうしで等しい割合=折半
  • 測量の費用 → 折半ではなく、土地の広狭(面積の大小)に応じて分担

測量費だけ扱いが違うのは、測量の手間や費用が土地の広さに応じて増えると考えられているためです。たとえば一方が広い土地、他方が狭い土地であれば、測量費は面積の比率に応じて広い側が多めに負担する、というのが条文の考え方です。

なお、これはあくまで民法が定める原則です。実際にどう分担するかは当事者の合意で決めることもできます。ちなみに、後ほど紹介する「地域の慣習があれば慣習が優先」という規定(民法228条)は、条文上は塀(囲障)に関する規定(民法225条〜227条)を対象とするもので、境界標の費用の規定には直接には及びません。

測量や境界標の調査でお隣の土地に入るには(令和5年4月1日施行の改正)

境界標を設けたり測量したりするには、お隣の土地に立ち入る必要が出てくることがあります。この点は、令和3年の民法改正(民法等の一部を改正する法律・令和3年法律第24号。相隣関係規定の見直し部分は「令和5年4月1日施行」)で整理されました。改正後の民法209条1項は、隣地を使用できる目的として、2号に「境界標の調査又は境界に関する測量」を明記しています。

ただし、使用の日時・場所・方法はお隣の損害が最も少ないものを選ぶ必要があり(同条2項)、あらかじめ目的・日時・場所・方法をお隣に通知しなければなりません(同条3項本文。あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後に遅滞なく通知すれば足ります=同項ただし書)。住家に立ち入るには居住者の承諾が必要です(同条1項ただし書)。詳しくは「隣地使用権とは」の記事で解説しています。

一方、本記事で扱う境界標・囲障の費用負担の規定(民法223条〜229条)の条文は、この改正の後も上に引用したとおりの内容のままです。

境界の塀(囲障)も「共同の費用」で設置できる

次に塀の話です。民法は、建物の間の仕切りを「囲障(いしょう)」と呼び、225条でこう定めています。

二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。

所有者の異なる2棟の建物が並んでいて、その間に空き地があるとき、境界に仕切り(塀や垣根)を共同の費用で設置できる、という仕組みです。そして費用について、226条はこう定めます。

前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。

つまり、囲障の設置・保存の費用も折半が原則です。境界標と同じ考え方ですね。

協議がまとまらないときの「標準の塀」──板塀・竹垣、高さ2メートル

「塀を作ること自体はいいけれど、どんな塀にするかで意見が合わない」──これはよくある場面です。民法225条2項は、協議がまとまらないときの基準を用意しています。

当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。

協議が調わない場合の「標準仕様」は、板塀・竹垣またはこれに類する材料で、高さ2メートル。明治時代に作られた条文なので現代の住宅事情とは少し感覚がずれるところもありますが、「話し合いがまとまらないときの基準を法律が用意している」こと自体に意味があります。

「もっと良い塀にしたい」側が増加分を負担する

一方が「ブロック塀やフェンスにしたい」「もっと高くしたい」と希望する場合はどうでしょうか。民法227条の出番です。

相隣者の一人は、第二百二十五条第二項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。

標準仕様より良い材料・高い塀にすること自体は可能で、その場合は言い出した側が増加分の費用を負担する、という整理です。「標準部分は折半、グレードアップ分は希望者負担」と覚えると分かりやすいでしょう。

地域の慣習があればそちらが優先

さらに民法228条は、「前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う」と定めています。囲障の設置や費用負担について、その地域に民法の原則と異なる慣習が実際にあるなら、慣習が優先されるという規定です。ブロック塀が一般的な地域、垣根を設けない地域など、地域差がありうることを民法自身が織り込んでいます。

境界線上の塀は「共有」と推定される

もうひとつ知っておきたいのが民法229条です。

境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

境界線の上に設けられた塀や境界標は、隣どうしの共有と推定されます。「推定」ですから、反対の事実が証明されれば覆ります。たとえば、一方が単独で費用を負担して設けたといった事情が証明できれば、単独所有と認められる余地があります。なお、塀がどちらか一方の土地の内側に建っている場合は、そもそも「境界線上に設けた」ものにあたらず、この推定自体が働きません。また、条文には「障壁」も挙げられていますが、長屋や連棟の建物のように一棟の建物の一部を構成する境界線上の壁については、この共有の推定は適用されません(民法230条1項)。いずれにせよ、はっきりしない場合は共有扱いがスタートラインになる、ということです。古い塀の修繕費でもめる背景には、この「誰の塀か分からない」問題があることが少なくありません。

費用の前に「筆界」──境界そのものが分からないときは順番が逆

ここまでのルールは、繰り返しになりますが境界(筆界)の位置がはっきりしていることが前提です。

  • 境界標が見当たらない
  • 古い塀はあるが、それが筆界の上なのかどちらかの敷地内なのか分からない
  • 法務局の図面と現地の状況が合っていない気がする

こうした状態で費用負担の話を始めても、そもそも「どこに」設置するかが決まりません。順番としては、筆界の確認が先、費用の話はその後です。

筆界の調査・測量や筆界確認の実務は土地家屋調査士の専門分野で、筆界の位置をめぐって隣どうしの認識が食い違う場合には、法務局の筆界特定制度という手続きもあります。筆界と所有権界の違い、筆界特定制度の位置づけはこちらの記事で詳しく整理しています。

ちなみに、当ブログでは土地家屋調査士試験の一問一答記事も連載しています。境界や測量の世界に興味を持たれた方はのぞいてみてください。

今週の「お隣との土地の関係」記事のまとめ

今週は、お隣との土地の関係(民法の相隣関係と、その周辺制度)をテーマにお届けしてきました。この記事はその締めくくりです。

まとめ

境界標と塀の費用負担のルールを整理しました。

  • 境界標の設置・保存の費用は折半、測量の費用は面積に応じた分担(民法223条・224条)
  • 境界の塀(囲障)も共同の費用で設置でき、設置・保存の費用は折半(民法225条・226条)
  • 協議が調わないときの標準は板塀・竹垣など高さ2メートル。それ以上を望む側が増加分を負担(民法225条2項・227条)
  • 塀(囲障)について地域に異なる慣習があればそちらに従い、境界線上の塀・境界標は共有と推定(民法228条・229条)
  • そして、筆界そのものが分からないときは費用の話より先に筆界の確認。土地家屋調査士・筆界特定制度の分野です

この記事は一般的な制度の解説です。実際の費用分担は、合意の有無・塀の位置・地域の慣習など個別の事情で結論が変わります。お隣との話し合いが難しくなっている場合や、費用の請求をめぐって争いになりそうな場合は弁護士に、登記や不動産の名義に関わることは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 境界に塀を作る費用は、必ず半分ずつ負担してもらえるのですか?

民法の原則では、囲障(塀)の設置・保存の費用は隣どうしが等しい割合で負担するとされています(民法226条)。ただしこれは民法225条の要件(所有者の異なる2棟の建物の間に空き地がある場合)を前提とした原則で、標準を超える立派な塀にする場合の増加分は希望者の負担ですし(227条)、地域に異なる慣習があればそちらが優先されます(228条)。実際に負担を求められるかは個別の事情によるため、争いになりそうな場合は弁護士にご相談ください。

Q. 境界標がないまま放置すると、どんなリスクがありますか?

境界標がないと、塀の設置・建て替えや売却・相続のたびに「境界はどこか」という問題が蒸し返されます。年月がたつほど当時の事情を知る人がいなくなり、資料も散逸して、確認の手間や費用が大きくなりがちです。土地を売却するときには境界の明示を求められるのが一般的で、相続した後に境界問題が発覚して手続きが進まなくなる例もあります。境界に不安があれば、早めに土地家屋調査士に相談して現状を確認しておくことが将来の備えになります。

Q. 境界や塀のことは、誰に相談すればよいのですか?

内容によって相談先が分かれます。境界(筆界)の位置が分からない・お隣と認識が食い違うという場合は、土地家屋調査士や法務局の筆界特定制度が入口です。費用の負担をめぐってお隣と争いになっている・損害賠償などの請求をしたいという場合は弁護士の分野です。相続や売買に伴う土地の名義変更(登記)については、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】境界標・塀と登記記録の交錯──地積測量図・筆界特定・共有塀の名義

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文で見た民法223条〜229条は「費用を誰が負担するか」のルールでした。ここでは視点を変えて、境界標や塀が登記の世界でどう扱われるかを整理します。実は、境界標も塀も登記簿(登記記録)そのものには出てきません。そのことが、後々の実務に効いてきます。

境界標は登記されない──記録されるのは「地積測量図」

境界標を設置しても、その位置や種類が土地の登記記録に記載されることはありません。登記制度の側で境界標の受け皿になっているのは、分筆登記や地積更正登記の際に法務局へ提出される地積測量図です。

不動産登記規則77条1項9号は、地積測量図に「境界標(筆界点にある永続性のある石杭又は金属標その他これに類する標識をいう。以下同じ。)があるときは、当該境界標の表示」を記録しなければならないと定めています。あわせて、原則として基本三角点等に基づく筆界点の座標値も記録事項です(同項8号。近傍に基本三角点等がないなど基本三角点等に基づく測量ができない特別の事情がある場合は、近傍の恒久的な地物に基づく測量の成果による座標値を記録します=同条2項)。つまり、いったん地積測量図が作られて法務局に備え付けられると、「筆界点がどこで、そこにどんな境界標があったか」が公的な図面として残り、将来境界標が失われても位置を復元する手掛かりになります。

地積測量図は、法務局で誰でも写しの交付を受けられます。境界に不安がある土地では、まず地積測量図の有無を確認するのが出発点です。ただし、過去に分筆や地積更正などの登記がされたことのない土地には、そもそも地積測量図が備え付けられていないことも少なくありません。また、作成された年代によって図面の精度や記録内容には差があります。

民法の「境界」と登記の「筆界」──筆界特定制度は線を「動かす」制度ではない

不動産登記法123条1号は、筆界を「当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線」と定義しています。土地が登記された時点で定まっている区画線であり、隣どうしの合意で自由に動かせる性質のものではありません。この点が、所有者どうしの合意や取得時効で動きうる「所有権界」との大きな違いです。なお、動かせないのは既に定まっている筆界の位置であって、分筆登記や合筆登記によって新たな筆界が生じたり、既存の筆界が消滅したりすること自体はあります。「一度定まった筆界は永久に変わらない」という意味ではありません。

法務局の筆界特定制度は、この筆界の「現地における位置を特定すること」(位置を特定できないときはその範囲を特定すること)を内容とする手続きです(不動産登記法123条2号)。新しい境界線を作ったり、既存の線を動かしたりする制度ではなく、もともと定まっているはずの筆界の位置を、資料と測量に基づいて明らかにする制度──という位置づけを押さえておくと、隣地との話し合いの性質も整理しやすくなります。筆界の位置そのものは当事者の合意で動かせず、隣どうしの取り決めは「筆界がどこか」についての認識を確認する意味を持つにとどまる一方、本文で見た費用負担(民法224条・226条)は合意で柔軟に決められる、という切り分けです。

分筆・地積更正との関係──境界確認の成果を登記に残す

土地を分ける分筆登記や、登記記録上の面積を実測に合わせて直す地積更正登記の前提としては、筆界の確認と測量が行われ、その成果が地積測量図として法務局に備え付けられます。境界標の設置とこれらの表示に関する登記がセットで行われると、「現地の境界標」と「法務局の図面」が対応した状態になり、将来の売却や相続の際に境界をめぐる調査の負担が小さくなります。こうした表示に関する登記の代理は土地家屋調査士の業務分野です。

境界線上の共有塀は、登記簿からは見えない

本文で触れたとおり、境界線上の塀は相隣者の共有と推定されます(民法229条)。ここで実務上注意したいのは、塀そのものは登記の対象にならないことです。登記記録は土地・建物の単位で作られており、塀や垣根のような工作物は、それ自体を登記する仕組みがありません。

そのため、塀が共有なのか、どちらか一方の単独所有なのかは、登記事項証明書をいくら読んでも分かりません。土地の売買や相続で名義(所有権の登記)が移っても、塀の所有関係は登記に現れないまま新しい所有者に引き継がれていきます。中古住宅の売買では、境界の位置とあわせて「塀がどちらの所有か・誰が費用を負担して設置したか」を売買の前に確認し、書面に残す対応がとられることが多いのは、このためです。相続した土地を売却する場面でも、古い塀の所有関係が分からず確認に時間を要する例があります。境界標の設置や塀の新設の際に、費用負担と所有関係を書面で残しておくことが、登記に現れない部分を補う実務的な備えになります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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