この記事の要点

  • 共有名義の不動産を単独名義にする方法は主に「持分放棄」「持分売買」「持分贈与」の3つで、登記原因と必要な合意が異なる
  • どの方法でも共有者全員の協力(署名・押印・書類提出)が前提になる点は共通
  • 持分放棄・持分贈与では、単独名義になる側に課税関係が生じ得るため、事前に税理士へ確認しておくと安心

相続をきっかけに兄弟姉妹の共有名義になった実家を、そろそろ誰か一人の名義に整理したい――そうした相談は少なくありません。共有名義を単独名義にする方法はいくつかありますが、代表的なのは「持分放棄」「持分売買」「持分贈与」の3つです。それぞれ登記原因や必要な合意、課税関係が異なるため、この記事で違いを整理します。

3つの方法の違い

方法 概要 対価 主な課税関係
持分放棄 共有者が自分の持分を手放す意思表示をし、他の共有者に帰属させる なし 受け取る側にみなし贈与課税が生じ得る
持分売買 共有者間で持分を売買する あり(代金) 売る側に譲渡所得税が生じ得る
持分贈与 共有者が自分の持分を無償で譲る なし 受け取る側に贈与税が生じ得る

持分放棄

共有者の一人が自分の持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。放棄は放棄する共有者の一方的な意思表示で足りますが、登記手続き自体は、放棄する共有者(登記義務者)と持分を取得する共有者(登記権利者)との共同申請によって行います(不動産登記法60条)。放棄する側の協力(必要書類への署名・押印)が得られない場合は、訴訟を起こして登記手続を命じる確定判決を得たうえで、持分を取得する共有者が単独で登記を申請する方法(不動産登記法63条1項)を検討することになります。

持分売買

共有者間で「持分を買い取る」形で単独名義にする方法です。対価(代金)を支払う通常の売買契約に基づく所有権移転登記になります。代金額をいくらにするかは当事者間で自由に決められますが、時価より著しく低い金額にすると、差額について買い取った側が贈与により取得したものとみなされる可能性がある点に注意が必要です。

持分贈与

共有者の一人が自分の持分を無償で他の共有者へ譲る方法です。贈与契約に基づく所有権移転登記になり、受贈者(もらう側)に贈与税が課税される可能性があります。

登記手続きの流れ(共通の基本パターン)

  1. 共有者間での合意形成:どの方法を選ぶか、対価の有無・金額を含めて共有者全員で話し合います
  2. 必要書類の準備:登記原因証明情報(契約書や放棄を証する書面)、共有者(登記義務者側)の印鑑証明書・登記識別情報(または登記済証)、単独名義になる側(登記権利者側)の住民票等
  3. 登記申請:管轄の法務局へ所有権移転登記(または持分移転登記)を申請します
  4. 登録免許税の納付:原因に応じた税率で登録免許税がかかります

いずれの方法でも、共有者全員の協力が前提になる点は共通しています。特に持分放棄は「対価なし」というシンプルさから選ばれやすい一方、受け取る側の税負担を考慮せずに進めてしまうケースも見られるため、事前の確認が欠かせません。

まとめ

共有名義の不動産を単独名義にする方法には、持分放棄・持分売買・持分贈与という選択肢があり、それぞれ必要な合意や課税関係が異なります。対価をやり取りするかどうか、単独名義になる側にどのような税負担が生じ得るかを整理したうえで、どの方法を選ぶかを共有者間で話し合うことが大切です。具体的な手続きの進め方は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 一番費用を抑えられる方法はどれですか? 登記手続きの費用(登録免許税・書類取得費等)だけを見ると大きな差はありませんが、税金面では方法によって課税の種類が変わります。持分放棄・持分贈与は受け取る側に贈与税が、持分売買は売る側に譲渡所得税が生じ得るため、総額でどれが有利かはケースごとの評価額や税率次第です。一概にどれが一番安いとは言えないため、税理士に試算を依頼することをおすすめします。

Q. 共有者の一人が話し合いに応じてくれません。どうすればいいですか? 持分放棄・持分売買・持分贈与のいずれも、基本的には共有者間の合意(契約や意思表示への協力)が前提です。話し合いがまとまらない場合は、共有物分割請求など裁判所の手続きを検討することになります。早めにお近くの司法書士や弁護士にご相談ください。

Q. 持分放棄をすると、放棄した人は何も受け取れないのですか? 持分放棄は対価を伴わない点が持分売買との大きな違いです。金銭を受け取りたい場合は、持分売買を選ぶ必要があります。放棄する持分に見合う金銭のやり取りをしたい場合は、方法の選び方から見直すことをおすすめします。

【さらに深掘り】共有名義解消の税務上の留意点

ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

共有名義の解消は、登記手続きそのものより先に「単独名義になる側にどのような課税が生じ得るか」を整理しておくことが重要です。

  • 持分放棄の場合:対価を受け取らずに持分を手放す点は贈与と似ていますが、法律行為としては贈与契約ではなく単独行為(放棄)です。もっとも税務上は、共有者の一人が持分を放棄したときは、他の共有者がその持分に応じて贈与により取得したものとして取り扱われます(相続税法9条、相続税法基本通達9-12)。対価を伴わないため一見シンプルに見えますが、受け取る側に贈与税の課税関係が生じ得る点は見落とされがちです
  • 持分売買の場合:売る側には譲渡所得(不動産の保有期間により税率区分が異なる)への課税関係が生じ得ます。代金額を時価より著しく低く設定すると、時価との差額について買い取った側が贈与により取得したものとみなされる可能性(相続税法7条)がある点にも注意が必要です
  • 持分贈与の場合:受贈者に贈与税の課税関係が生じます。贈与税には基礎控除の仕組みがあり、控除額を超える部分が課税対象になるため、持分の評価額によっては税負担が軽くない場合があります

どの方法が有利かは、対象不動産の評価額、保有期間、共有者それぞれの税率区分によって変わります。登記の前提として、税理士への確認を組み込んでおくことをおすすめします。あわせて、共有不動産をめぐる令和5年施行の民法改正により、共有物の管理・変更や持分の取得に関する手続きの選択肢も広がっています。単独名義化以外の選択肢とあわせて検討するとよいでしょう。

あわせて読みたい