住宅ローンを組んだ家の登記事項証明書(登記簿)を取り寄せてみると、乙区(おつく)に「債権額」「利息」「損害金」「債務者」といった見慣れない言葉がずらりと並んでいます。それぞれが何を意味しているのか、パッと見て分かる方は多くありません。
登記事項証明書全体の構造(表題部・甲区・乙区という3つの欄の役割)は、別記事「登記簿(登記事項証明書)の見方──表題部・甲区・乙区は何が書いてある?」で整理しました。今回はその中の乙区、しかも住宅ローンなどでおなじみの抵当権に絞って、記載されている項目の一つひとつが具体的に何を意味するのかを読み解いていきます。抵当権を新たに設定するときの手続き自体は「住宅ローンを組むと、登記簿に「抵当権」が加わります──設定登記のしくみ・費用・段取り」で扱っていますので、これから設定する場合はそちらもあわせてご覧ください。
この記事の要点
- 「債権額」は抵当権を設定した時点の借入額で、返済が進んでも登記簿上の記載は自動的には変わらない(今の残高ではない)
- 「債務者」欄の人と所有者が別人のこともある(親名義の不動産を子の借入れの担保にする場合など)
- 複数の抵当権があるときは、順位番号の順(登記の前後、民法373条)が回収の優先順位を決める
- 「極度額」「債権の範囲」と書かれていたら、それは抵当権ではなく根抵当権のサイン
- 内容の読み取りに迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください
乙区に記載される「抵当権の登記事項」の全体像
抵当権が登記されると、乙区にはおおむね次のような項目が記載されます(不動産登記法59条・83条・88条)。
- 登記の目的……「抵当権設定」など、その登記が何のためのものか
- 受付年月日・受付番号……法務局が申請を受け付けた日と番号
- 登記原因(と日付)……「年月日金銭消費貸借同日設定」など、いつの貸し借りに基づく設定か
- 順位番号……乙区の中での登記の前後を示す番号
- 債権額……担保されている借入れの金額
- 債務者……お金を借りた人の氏名・住所
- 抵当権者……お金を貸した金融機関等
- 利息・損害金……定めがあるときはその内容
このうち、債権額と債務者は、抵当権のほか先取特権・質権(転質を含む)にも共通する登記事項として定められており(不動産登記法83条1項)、利息と損害金の定めは抵当権に特有の登記事項として定められています(同法88条1項)。以下、それぞれが実際に何を意味するのかを見ていきます。
なお、複数の不動産が一つの借入れの共通の担保になっているときは、乙区に「共同担保目録(け)第〇号」のような記号番号が記載されます(同法83条2項)。この目録の読み方は別の話題になるため、ここでは「そうした記号番号が付くことがある」という点にとどめておきます。
「債権額」は今の残高ではない
「債権額」には、抵当権が担保する借入れの金額が記載されます。ここで押さえておきたいのは、この金額は抵当権を設定した時点の借入額であって、その後どれだけ返済が進んでも、登記簿上の記載が自動的に書き換えられることはない、という点です。
つまり、乙区の債権額を見て「今のローン残高はこれくらいだろう」と判断することはできません。実際の残高を正確に知りたいときは、担保に入っている金融機関に確認する必要があります。
「債務者」は所有者と同じとは限らない
「債務者」欄には、お金を借りた人の氏名・住所が記載されます。ここで注意したいのは、債務者と、担保として不動産を提供した人(抵当権設定者。多くの場合は所有者)が、必ずしも同一人物とは限らないという点です。
たとえば、親名義の不動産を、子どもの借入れの担保として提供するようなケース(物上保証〈ぶつじょうほしょう〉と呼ばれます)では、乙区の債務者欄には子どもの氏名が、その不動産の甲区の所有者欄には親の氏名が記載されます。乙区の債務者欄だけを見て「この不動産の持ち主が借りている」と早合点せず、甲区の所有者と乙区の債務者が一致しているかどうかもあわせて確認しておきたいポイントです。
「利息」「損害金」──なぜ利率まで登記されるのか
抵当権の登記事項には、利息に関する定めがあるときはその定め、そして返済が遅れた場合の遅延損害金(民法375条2項が定める「損害の賠償額」)の定めがあるときはその定めが含まれます(不動産登記法88条1項1号・2号)。
これらが登記されるのは、将来発生する利息や遅延損害金についても、抵当権の効力(不動産の売却代金から優先的に弁済を受けられる範囲)が及ぶことを示すためです。ただし、抵当権者が優先して回収できる利息・遅延損害金は、原則として満期になった最後の2年分に限られます(民法375条)。何年分でも無制限に優先されるわけではなく、後から登場する他の債権者との利害調整のための限定です。なお、実際に発生している利息の総額や借入れの延滞状況は、この登記事項だけからは分かりません。
「順位番号」──複数の抵当権があるときの優先順位
乙区の各登記には、順位番号(1番、2番…)が振られます。同じ不動産に複数の抵当権が設定されている場合、返済が滞って不動産を売却・競売にかけることになったときに、どの抵当権者が優先して回収できるかは、この順位番号の順、つまり登記をした順番で決まるのが原則です(民法373条)。
先に登記された抵当権があとから登記された抵当権に優先する、という単純な仕組みです。「原則」と書いたのは例外があるためで、その代表が、抵当権者どうしの合意によって順位を入れ替える「順位変更登記」です。ただし、合意さえあればそれだけで順位が入れ替わるわけではありません。利害関係を有する者がいるときはその承諾が必要とされ、さらに、順位の変更は登記をしなければ効力を生じないとされています(民法374条)。順位変更の合意と手続きについては「抵当権は「先に登記した者勝ち」?──複数の抵当権の順位と順位変更登記」で詳しく扱っています。
「付記登記」──抵当権に起きた変化を読み取る
乙区をよく見ると、「1番」のように独立した順位番号のほかに、「1番付記1号」のように元の番号にぶら下がった記載を見かけることがあります。これが付記登記です。抵当権に関して付記登記でなされる代表的な例には、次のようなものがあります(不動産登記規則3条)。
- 抵当権移転登記……債権譲渡や代位弁済(保証会社などが債務者に代わって返済し、それまでの貸主の立場を引き継ぐこと)によって、抵当権者(貸した側)が別の会社に変わったとき
- 登記名義人の氏名・住所変更登記……抵当権者である金融機関が合併したり、本店を移転したりしたとき
付記登記は、もとになった主登記(この場合は抵当権設定登記)の順位番号をそのまま引き継ぎます。付記登記があるからといって優先順位が変わるわけではなく、「同じ抵当権の中身に、後から何らかの変化があった」という履歴を示しているのが付記登記だと理解しておくとよいでしょう。
なお、2026年(令和8年)4月1日から、住所や氏名が変わったときの変更登記が法律上の義務となっています。ここで注意したいのは、条文が義務の対象として定めているのは「所有権の登記名義人」、つまり甲区に記載された所有者だという点です(不動産登記法76条の5。変更があった日から2年以内に申請)。乙区に記載された抵当権者、たとえば金融機関の名称変更や本店移転は、この義務の対象として定められているものではありません。一方で、ご自身が所有者として引っ越しをしたときの甲区側の変更登記は義務の対象になりますので、混同しないようご注意ください。施行日より前に住所等が変わっていて変更登記をしていない場合は、2028年(令和10年)3月31日までに申請することとされています(法務省「住所等変更登記の義務化について」/2026年8月確認)。
「極度額」と書いてあったら──根抵当権のサイン
乙区を見ていると、「債権額」ではなく「極度額」「債権の範囲」という項目が記載されていることがあります。これは抵当権ではなく、**根抵当権(ねていとうけん。民法398条の2)**が設定されているサインです。その場合は登記の目的欄も「根抵当権設定」と記載されていますので、あわせて確認するとより確実です。
根抵当権は、特定の1本の借入れではなく、一定範囲の取引から生じる借入れを、極度額(上限額)の枠の中でまとめて担保するしくみです。登記事項も普通の抵当権とは別に定められていて、「債権額」の代わりに「担保すべき債権の範囲」と「極度額」が記載事項になります(不動産登記法88条2項)。極度額は担保の上限として定められた枠であり、その時点の借入残高を示すものではありません。登記の記載から現在の残高が読み取れないという結論は債権額の場合と同じですが、その理由は同じではありません。債権額が設定時の金額のまま置かれるために残高と食い違うのに対し、極度額はそもそも実際の借入額とは別に定める上限額であり、枠の中で債権が発生・消滅を繰り返しても、その増減が登記に反映されるしくみにはなっていないためです。
根抵当権のしくみや、完済しても枠が残る理由、「元本確定」という手続きについては、「根抵当権とは?──普通抵当権との違いと、事業融資での使われ方」で詳しく整理しています。
まとめ
乙区に記載される抵当権の主な項目を整理すると、次のとおりです。
| 記載事項 | 何を意味するか |
|---|---|
| 債権額 | 設定時の借入額(今の残高ではない) |
| 債務者 | お金を借りた人(所有者と別人のこともある) |
| 利息・損害金 | 定めがあれば記載。優先弁済は原則最後の2年分 |
| 順位番号 | 複数の抵当権があるときの回収の優先順位 |
| 付記登記 | 抵当権の移転や名義変更など、後から起きた変化の履歴 |
| 極度額・債権の範囲 | 根抵当権のサイン(債権額の代わりに記載) |
いずれも、乙区という同じ欄の中で、それぞれ違う役割を持った記載です。数字や言葉の意味が分かっていれば、自分の家や相続した不動産の乙区を、これまでよりも具体的に読み取れるようになります。実際の残高確認や、複数の権利が絡む場面の判断、抹消・変更などの手続きが必要になったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 乙区に書かれている「債権額」は、今のローンの残高を表していますか? いいえ。債権額は抵当権を設定した当初の借入額で、その後の返済で残高が減っても、登記簿上の記載が自動的に変わることはありません。完済していても抹消登記をしていなければ、抹消済みを示す下線が引かれないまま乙区に残り続けます。今の残高や返済状況を正確に知りたいときは、担保に入っている金融機関に確認するのが確実です。
Q. 登記簿の乙区を確認するのに、費用はかかりますか? 乙区の内容を見るには法務局で登記事項証明書を取得する必要があり、手数料がかかります(書面請求600円、オンライン請求・郵送受取520円、窓口受取490円などが目安です。登記手数料令・法務省「登記手数料について」/2026年8月確認)。証明書としては使えませんが、内容の確認だけでよければ、より安価な登記情報提供サービスという閲覧手段もあります。
Q. 乙区の記載内容がよく分からないときは、自分で判断してよいですか? 各項目の名称と意味が分かれば、基本的な内容は自分で読み取れます。ただし、複数の抵当権がある場合の優先順位、付記登記が示す変更の経緯、根抵当権が絡む場合の扱いなどは、専門的な判断が必要になる場面が多くあります。相続や売買、抹消などの具体的な手続きを進める段階では、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】乙区の記載を登記実務でどう読み解くか
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
ここまで、乙区に記載される抵当権・根抵当権の基本的な項目を見てきました。ここからは、実際に登記の場面でこれらの記載をどう読み解くかを、もう一歩踏み込んで整理します。
抹消登記の場面で乙区をどう読み解くか
住宅ローン完済後の抵当権抹消登記など、乙区に記載された権利を消す場面では、抵当権設定の主登記だけを見れば足りるとは限りません。付記登記が重ねられている乙区では、登記審査の観点から次の点を順に追って確認する必要があります。
- 誰が登記義務者になるか:抵当権の移転登記(債権譲渡・代位弁済等)が付記登記でされている場合、抹消登記の登記義務者になるのは設定当初の抵当権者ではなく、抵当権の移転の付記登記(不動産登記規則3条6号)のうち最後のものに記載された、現在の抵当権の登記名義人です。付記登記には、次に述べる転抵当のように抵当権そのものの移転ではないものも含まれるため、順位番号の末尾に付いている付記登記の名義人が、そのまま登記義務者になるとは限りません。権利に関する登記は登記権利者と登記義務者が共同して申請するのが原則であるため(不動産登記法60条)、乙区を古い記載から順に追い、それぞれの付記登記が何を記録したものかを見分けたうえで、登記義務者を特定する必要があります。
- 利害関係を有する第三者がいないか:抵当権を目的として転抵当が設定されている場合、その設定登記も付記登記で記録されます(不動産登記規則3条5号)。この転抵当権者は、もとの抵当権を消す場面では「登記上の利害関係を有する第三者」に当たり得ます。権利に関する登記の抹消は、こうした第三者がいる場合、その承諾があるときに限り申請できるとされているため(不動産登記法68条)、乙区に付記登記が複数並んでいるときは、それぞれが移転・変更・別の権利の設定のどれに当たる記載かを切り分けて読む必要があります。
複数の付記登記が積み重なった乙区は情報量が多く見えますが、一つひとつがどの主登記にぶら下がり、何を記録したものかを順に追えば、現在の権利関係と、次の登記に何を準備すべきかが読み取りやすくなります。
根抵当権の元本確定前後で乙区の記載がどう変わるか
本文で触れた根抵当権は、極度額の枠内で発生・消滅を繰り返す不特定の債権を担保するしくみです。この状態に区切りをつけ、担保される元本を特定の金額に固定する手続きが「元本の確定」です。
元本の確定は、あらかじめ「確定すべき期日」が定められている場合にはその期日の到来によって生じるほか、当事者からの確定請求によっても、法律が定める一定の事由の発生によっても生じます。ここでは、後の二つを見ていきます。
- 確定請求による場合:根抵当権設定者は、設定の時から3年を経過すると元本の確定を請求でき、この場合は請求から2週間の経過によって確定します。根抵当権者はいつでも確定を請求でき、この場合は請求の時点で確定します(民法398条の19第1項・第2項)。ただし、確定すべき期日があらかじめ定められているときは、これらの確定請求はできません(同条3項)。
- 法定の確定事由による場合:根抵当権者が抵当不動産について競売・担保不動産収益執行等の申立てをして手続きが開始したとき、根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき、根抵当権者が競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間が経過したとき、債務者または設定者が破産手続開始の決定を受けたときなどに、元本は確定するとされています(民法398条の20第1項)。
確定の前後で、乙区の記載が示す意味は変わります。確定前は「担保すべき債権の範囲」と「極度額」(不動産登記法88条2項1号)が記載事項の中心で、個々の取引ごとの債権の発生・消滅は登記事項として逐一反映されません。確定後は、担保される元本が確定の時点で存在する債権に固定され、その意味では、債権額があらかじめ決まっている普通抵当権と似た状態になります。
ただし、元本が確定したからといって、根抵当権が普通抵当権に変わるわけではありません。確定後も、根抵当権者は確定した元本と利息・損害金の「全部について、極度額を限度として」根抵当権を行使することができるとされており(民法398条の3第1項)、優先して回収できる利息・遅延損害金が原則として満期となった最後の2年分に限られる普通抵当権(民法375条)とは、この点で扱いが異なります。また、極度額の減額請求(民法398条の21)や根抵当権の消滅請求(民法398条の22)のように、いずれも条文が「元本の確定後」であることを前提として定めており、確定後にはじめて働く根抵当権独自の手続きもあります。
確定の登記は、原則として登記権利者と登記義務者の共同申請によります(不動産登記法60条)。ただし、根抵当権者からの確定請求(民法398条の19第2項)による確定、または競売手続の開始等を知ってから2週間が経過した場合・債務者等が破産手続開始の決定を受けた場合(民法398条の20第1項3号・4号)による確定については、根抵当権の登記名義人が単独で申請できるとされています(不動産登記法93条)。このうち3号・4号の事由による確定の単独申請は、当該根抵当権またはこれを目的とする権利の取得の登記の申請とあわせて行う必要があるとされています(同条ただし書)。
乙区に「極度額」「債権の範囲」の記載がある根抵当権を見たときは、それが元本確定前の状態か、確定後で内容が固定された状態かによって、その後にできる変更登記の範囲や、担保されている債権の性質の理解が変わってくる点に注意が必要です。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 民法373条・374条・375条・398条の2・398条の3・398条の19・398条の20・398条の21・398条の22(抵当権の順位・順位の変更・被担保債権の範囲・根抵当権・根抵当権の被担保債権の範囲・元本の確定請求・元本の確定事由・極度額の減額請求・消滅請求)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法59条・60条・68条・76条の5・83条・88条・93条(権利に関する登記の登記事項・共同申請・登記の抹消・所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請・担保権の登記の登記事項・抵当権の登記の登記事項・根抵当権の元本の確定の登記)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記規則3条(付記登記)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 登記手数料令2条(登記事項証明書の交付手数料)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」(施行日・経過措置): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00693.html
- 法務省「登記手数料について」(オンライン請求・送付520円/窓口交付490円の現行手数料額): https://www.moj.go.jp/MINJI/TESURYO/