結論から言うと、同じ不動産に複数の抵当権が設定されている場合、優先順位は「登記をした順番」で決まります。あとから登記した抵当権者は、先に登記した抵当権者よりも後回しになるのが原則です。ただし、抵当権者どうしが合意すれば、この順位を入れ替える「順位変更登記」という手続きがあります。主なポイントは次のとおりです。
- 抵当権の優先順位は、契約した日ではなく**登記の前後(受付番号順)**で決まる(民法373条)
- 順位を入れ替えるには、関係するすべての抵当権者の合意が必要(民法374条1項)
- 合意しただけでは効力は生じず、登記をして初めて順位変更の効力が生まれる(民法374条2項)
- 似た仕組みに「順位の譲渡・放棄」があるが、これは抵当権者間の合意による別の制度で、順位変更登記とは扱いが異なる
そもそも「抵当権の順位」とは何か
住宅を購入したときの抵当権(金融機関が住宅ローンの担保として設定する権利)は1つだけとは限りません。たとえば、住宅ローンに加えてリフォームローンを別の金融機関から借りた場合や、事業資金の追加融資を受けて同じ不動産に担保を追加した場合など、1つの不動産に複数の抵当権が設定されることがあります。
この場合、もし返済が滞って不動産が競売にかけられたときに「誰が先に配当を受け取れるか」という優先順位の問題が生じます。民法373条は、この順位を登記の前後によって決めると定めています。抵当権を設定する契約をした日ではなく、法務局に登記を申請して受け付けられた順番(登記記録上の受付番号順)が基準になる点に注意が必要です。
登記事項証明書(登記簿。不動産の情報が記録された公的書類)の乙区(所有権以外の権利が記載される欄)を見ると、抵当権が上から順に記載されており、原則としてこの記載順がそのまま優先順位になります。
順位を入れ替える「順位変更登記」
先に登記された抵当権者よりも、あとから登記した抵当権者を優先させたい、という場面が実務では生じることがあります。たとえば、既存の抵当権よりも新しい融資を優先的に回収したい金融機関がいる場合などです。
このようなとき、関係する抵当権者どうしの話し合いで順位を入れ替えることができます。これが「順位変更登記」です。民法374条1項は、抵当権の順位は各抵当権者の合意によって変更できると定めていますが、その順位変更によって不利益を受ける第三者(利害関係人)がいる場合は、その人の承諾も必要です。
ここで実務上とくに押さえておきたいのが、民法374条2項の定めです。通常の不動産登記は「対抗要件」(登記をしていないと第三者に権利を主張できないという意味の要件)にとどまり、権利自体は契約の時点で発生します。ところが順位変更は登記をして初めて効力が生じるという、やや特殊な扱いになっています。つまり、抵当権者全員が順位を入れ替えることに合意していても、実際に登記を済ませるまでは順位は変わりません。
似ているようで違う「順位の譲渡・放棄」
順位変更登記と混同されやすいものに、抵当権者どうしの合意で優先順位の利益をやり取りする「順位の譲渡」「順位の放棄」という仕組みがあります(民法376条)。こちらは抵当権者間の相対的な合意にとどまり、順位変更登記のようにすべての抵当権を巻き込んで登記記録上の順位そのものを書き換えるものではありません。どちらの制度を使うべきかは融資の状況によって異なるため、個別の判断が必要な場面です。
借り換えの場面でも順位は意識される
住宅ローンの借り換え(既存の抵当権を抹消し、新しい金融機関の抵当権を設定し直す手続き)では、新しい抵当権を1番順位で登記できるかどうかが金融機関にとって重要な関心事になります。借り換えの実務については「住宅ローンの借り換えと不動産登記」でも触れていますので、あわせてご覧ください。
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【さらに深掘り】抵当権の順位変更登記の実務
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
順位変更登記は、通常の登記のような「登記権利者」「登記義務者」という二者構造にはなじまない、やや特殊な申請構造をとります。不動産登記法89条1項により、順位を変更する対象の抵当権の登記名義人全員が、権利者・義務者の区別なく共同して(実務上「合同申請」と呼ばれる形で)申請人となる扱いです。順位が上がる抵当権者だけでなく、順位が下がる抵当権者・順位が変わらない抵当権者も申請人に加わる必要がある点は、一般の方には分かりにくいところです。なお、転抵当権(抵当権自体を担保に入れる権利)が付いている抵当権があっても、転抵当権者自身は順位変更の申請人にはならず、後述のとおり利害関係人として承諾が問題になるにとどまります。
登記事項としては、変更後の順位(第1、第2、第3……といった新しい並び順)を登記記録に記載します。対象となる抵当権すべてを漏れなく特定し、変更前後の順位を正確に対応づけることが実務上の要点です。
また、対象の抵当権に転抵当(抵当権自体を担保に入れる権利)や抵当権を目的とする権利が設定されている場合は、その権利者が「利害関係人」にあたり、承諾書(または承諾を証する情報)の提供が必要になる場合があります。関係者が多いケースほど、誰の承諾が必要かの見極めに時間を要することがあるため、早めに対象不動産の登記事項証明書で権利関係を確認しておくことが望ましいといえます。
なお、順位変更登記にかかる登録免許税の額(不動産の個数や抵当権の件数に応じた計算方法を含む)は、申請内容によって扱いが変わり得るため、本記事では確定額の提示を避けています。登録免許税の具体的な金額は、お近くの司法書士や法務局にご確認ください。