離婚にあたって持ち家を夫婦の一方の名義にするには、**「財産分与」を原因とする所有権移転登記(名義変更)**が必要です。離婚届を出しただけでは、不動産の名義は自動的には変わりません。
ポイントは次の3つです。
- 登記の原因は「財産分与」。離婚が成立した後に手続きをする
- 渡す側に譲渡所得税、受け取る側に不動産取得税・登録免許税がかかることがある(贈与税は原則かからない)
- 2026年(令和8年)4月から、財産分与を請求できる期間が「離婚から2年」→「離婚から5年」に延びた
以下で、順を追って説明します。
離婚届を出しても、家の名義は変わらない
役所に離婚届を提出すると、戸籍上の夫婦関係は解消されます。しかし、不動産の登記名義は戸籍とは別の制度です。名義変更の登記をしないかぎり、家の名義は元のままです。
たとえば、夫名義の家に妻が住み続けることになった場合、登記をしなければ名義は夫のままです。名義がそろっていないと、後で売却したり住宅ローンを借り換えたりするときに支障が出たり、元配偶者の側で勝手に売却・担保提供がされてしまうリスクもあります。離婚の取り決めで「家は自分がもらう」と決めたなら、登記まで済ませて初めて完了と考えてください。
「財産分与」とは
財産分与とは、離婚にあたって、夫婦が結婚している間に協力して築いた財産を分け合う制度です(民法768条)。預貯金や不動産など、名義がどちらであっても、実質的に夫婦で築いた財産が対象になります。
不動産を一方の名義にする場合、その名義変更の登記原因(手続上の理由)は、売買や贈与ではなく**「財産分与」**になります。
名義変更(財産分与による所有権移転登記)の手順
おおまかな流れは次のとおりです。
- 離婚を成立させる(協議離婚なら離婚届の提出、調停・裁判ならその成立・確定)
- 財産分与の内容を取り決める(どの不動産を、誰の名義にするか)。後のトラブルを防ぐため、協議離婚でも離婚協議書や公正証書にしておくと安心です
- 登記に必要な書類をそろえる
- 法務局へ所有権移転登記を申請する(財産分与を受ける人=登記権利者と、渡す人=登記義務者が共同で申請するのが原則)
登記は、原則として渡す側と受け取る側が共同で申請します。離婚後は連絡が取りづらくなることもあるため、協力が得られるうちに早めに進めるのが安全です。
主な必要書類
- 登記の原因を証明する書類(財産分与契約書、離婚協議書、調停調書・和解調書など)
- 渡す側(登記義務者)の登記識別情報(いわゆる権利証)
- 渡す側の印鑑証明書(作成後3か月以内)
- 受け取る側(登記権利者)の住民票
- 対象不動産の固定資産評価証明書(登録免許税の計算に使う)
- 離婚の事実が分かる戸籍(離婚の記載のあるもの)
ケースによって必要書類は変わります。詳しくはお近くの司法書士にご確認ください。
かかる税金(おおまかな見取り図)
財産分与で不動産を動かすと、立場によって関係する税金が変わります。
- 渡す側:不動産を引き渡すことは税務上「譲渡」として扱われ、その不動産が買ったときより値上がりしていれば、譲渡所得税がかかることがあります。
- 受け取る側:財産分与は「もらう(贈与)」ではなく夫婦財産の清算と考えられるため、贈与税は原則としてかかりません。ただし、分与が不相当に過大な場合や、税金を免れるための離婚と認められる場合は贈与税の対象になり得ます。また、財産分与の性質によっては不動産取得税がかかることがあります。
- 登記そのものにかかる税金:名義変更の登記をするときは登録免許税がかかります。財産分与による所有権移転登記の税率は、原則として固定資産評価額の**2%(1000分の20)**です(相続による移転の0.4%より高い点に注意)。
税額の具体的な計算や、特例(居住用財産を売ったときの特別控除など)が使えるかどうかは、個別事情によって結論が変わります。税金の具体的な判断は税理士にご相談ください。
住宅ローンが残っている場合の注意
家に住宅ローンが残っている場合は、注意が必要です。
- ローンには通常、金融機関の抵当権が設定されています。名義を変えても抵当権は残ります。
- ローンの**債務者(返済義務を負う人)**と不動産の名義は別の問題です。名義を変えても、ローンの返済義務が自動的に移るわけではありません。
- 名義変更やローンの借り換え・債務者変更には、金融機関の承諾が必要になるのが通常です。勝手に名義を変えると、ローン契約違反になることもあります。
ローンが残っている家の財産分与は、金融機関との調整が欠かせません。早い段階で金融機関にも相談しておきましょう。
2026年(令和8年)4月からの「5年ルール」
これまで、財産分与の請求は離婚の時から2年以内にしなければならないとされていました。この期間を過ぎると、原則として財産分与を求められなくなります。
令和6年の民法改正により、この請求期間が「2年」から「5年」に延長され、2026年(令和8年)4月1日から施行されています。離婚時にすぐ取り決められなかった場合でも、以前より少し長く請求の機会が確保されることになりました。
ただし、この5年への延長の対象になるのは、原則として施行日(2026年4月1日)以後に成立した離婚です。2026年3月31日までに離婚が成立している場合は、従来どおり離婚から2年以内が請求期間となります(経過措置)。ご自身が離婚した日によって期間が変わる点に注意してください。
ただし、期間に余裕ができたからといって先延ばしにすると、相手と連絡が取れなくなる、相手が不動産を処分してしまう、相続が発生して関係者が増える、といったリスクが高まります。取り決めと登記は早めに進めるのが安心です。
まとめ
- 離婚で家の名義を一方に集めるには、「財産分与」を原因とする所有権移転登記が必要
- 登記の原因日付は離婚成立後。原則として当事者双方で共同申請する
- 渡す側に譲渡所得税、受け取る側に不動産取得税・登録免許税がかかることがある(贈与税は原則かからない)
- 2026年4月から、財産分与の請求期間は離婚から5年に延長された
- ローンが残っている家は金融機関との調整が必須
財産分与による名義変更登記は、必要書類や税金の見通しを含めて、早めに準備しておくと安心です。手続きの進め方に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。
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【さらに深掘り】財産分与による名義変更の登記実務と税務
ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
不動産登記実務の観点
財産分与を原因とする所有権移転登記では、登記原因及びその日付の書き方が問題になります。登記原因は「財産分与」とし、その日付は、離婚の成立日と、財産分与の協議(合意)が成立した日との関係で決まります。協議離婚の場合、離婚の届出によって離婚の効力が生じるため、離婚成立後に財産分与の合意をしたときはその合意日が原因日付となるのが一般的です。離婚前にあらかじめ財産分与の合意をしていた場合でも、財産分与の効力は離婚の成立を前提とするため、原因日付の考え方に注意が必要です。
登記は、財産分与を受ける者を登記権利者、財産を分与する者を登記義務者とする共同申請が原則です(不動産登記法60条)。調停調書や和解調書など、給付条項のある確定した調書がある場合には、登記権利者が単独で申請できることがあります。
対象不動産がもともと夫婦の共有になっている場合は、一方の持分を他方へ移す持分移転登記になります。また、住宅ローンの抵当権が設定されたままの不動産を分与するときは、抵当権はそのまま引き継がれるため、債務の引受けや借り換えと併せて、金融機関との調整が前提となります。
税務上の観点
財産分与に伴う課税関係は、立場によって異なります。
**分与する側(渡す側)**には、譲渡所得課税の問題があります。判例上、財産分与として不動産を渡すことは、分与義務の消滅という経済的利益を得る「資産の譲渡」にあたるとされ、含み益があれば譲渡所得税の対象になり得ます(最高裁昭和50年5月27日判決・民集29巻5号641頁)。なお、いわゆる居住用財産を譲渡した場合の特別控除は、譲渡の相手が配偶者など特別の関係にある人である場合には使えないとされています。そのため、離婚が成立して配偶者でなくなった後に居住用不動産を分与する形であれば、この特例の適用を検討できる場面があります。ただし、居住の状況など他の要件もすべて満たす必要があり、必ず使えるわけではありません。
**分与を受ける側(受け取る側)**は、財産分与が夫婦財産の清算や離婚後の扶養という性質を持つため、原則として贈与税の課税対象にはなりません。ただし、分与された財産の額が婚姻中の財産や事情から見て不相当に過大であるとき、または贈与税・相続税を免れる目的で行われた離婚と認められるときは、贈与税が課されることがあります。不動産取得税については、財産分与の性質によって取扱いが分かれ得ます。一般には、夫婦が協力して築いた財産の清算とみられる部分は、形式的な所有権の移転にとどまるとして課税されないと整理されることが多い一方、慰謝料や離婚後の扶養としての性質が強い部分は課税の対象になり得るとされています。もっとも、その区別や課税の有無は最終的に不動産の所在地の都道府県の判断によるため、必ずこうなると言い切れるものではありません。
これらは個別事情によって結論が変わり、税額の計算や特例の適用判断は税理士の業務です。具体的な税の取扱いについては、税理士にご確認ください。