住宅ローンを借り換えると、登記簿の上では「今ある抵当権を消す手続き(抹消登記)」と「新しい抵当権を付ける手続き(設定登記)」が、同じ日にほぼ同時に行われます。どちらか一方だけでは済まないのは、旧ローンを完済して抵当権を消す前に新ローンを実行してしまうと、新しい金融機関が担保(抵当権)を確保できない空白の時間ができてしまうためです。この記事では、借り換えのときに登記簿で何が起きているのかを整理します。

  • 借り換え=旧ローンの完済(抵当権抹消)と新ローンの実行(抵当権設定)が同日決済で連動する
  • どちらの登記を担当する司法書士も、両方の書類がそろって初めて申請に踏み切る
  • 登録免許税は抹消と設定それぞれにかかる(抹消は定額、設定は借入額に応じた税率)

借り換えの基本的な流れ

住宅ローンの借り換えとは、今借りている金融機関のローンを、別の金融機関からの新しい借り入れで一括返済することです。一般に次のような順番で進みます。

  1. 新しい金融機関で借り換えの審査を受け、融資の承認を得る
  2. 決済日(実行日)を旧・新両方の金融機関と調整する
  3. 決済日当日、新しい借入金で旧ローンを完済する
  4. 旧ローンの抵当権を抹消する登記と、新ローンの抵当権を設定する登記を、同じ日に申請する

この「決済日に完済と新規借入が同時に起きる」という構造が、登記の同時進行を必要とする理由です。なお、借り換えをするかどうかの判断(金利や商品性の比較、審査の可否)は金融機関やファイナンシャルプランナーの領域であり、この記事では登記の仕組みに絞って説明します。

なぜ抹消登記と設定登記が同時進行になるのか

抵当権は「登記をして初めて第三者に対抗できる権利(対抗要件)」です(民法177条)。新しい金融機関からすると、実際にお金を貸す以上、その担保となる抵当権をできるだけ早く登記簿に反映させたいところです。

一方で、その土地・建物の登記簿には、すでに旧金融機関の抵当権が乗っています。旧ローンを完済すれば抵当権を消す権利(抹消登記請求権)は発生しますが、抵当権は自動的には消えません。旧ローンの完済と、旧抵当権の抹消登記の申請は別の手続きです。

そこで実務では、次のような段取りを踏みます。

  • 決済日に、新しい借入金の一部を旧ローンの完済に充てる
  • 旧金融機関から、抵当権抹消に必要な書類(登記識別情報、抵当権解除証書、委任状など)を受け取る
  • その場で司法書士が書類一式を確認し、抹消登記と設定登記の申請を行える状態が整ったことを確認する
  • 抹消登記と設定登記を、同一の登記所へまとめて申請する(これを「連件申請」と呼びます)

新しい金融機関にとっては、旧抵当権が消えないまま自分の抵当権だけ設定されると、担保順位が旧抵当権の後ろに回ってしまうリスクがあります。旧金融機関にとっても、完済されたのに抵当権を残したままにしておく理由はありません。双方の利害が「同時に片づける」方向で一致するため、抹消と設定を同日・連件で処理するのが実務の基本形です。

司法書士が決済に立ち会うのも、この「書類がそろったタイミングと、お金が動くタイミングを一致させる」役割を担うためです。

つなぎ融資が絡む場合

借り換えの資金繰りによっては、新しい借入の実行日と旧ローンの完済日にわずかなズレが生じ、その間を埋める「つなぎ融資」という仕組みが使われることがあります。つなぎ融資の商品設計や金利は金融機関ごとに異なるため、この記事では立ち入りません。登記の観点からは、つなぎ融資が入る場合も「旧抵当権の抹消」と「新抵当権の設定」という登記の基本構造自体は変わらないとだけ押さえておけば十分です。

必要になる主な書類

抹消登記・設定登記それぞれで、おおむね次のような書類が必要になります。

抹消登記(旧金融機関側)

  • 登記識別情報(または登記済証)
  • 抵当権解除証書(弁済証書)
  • 旧金融機関からの委任状
  • 会社法人等番号(旧金融機関の資格証明に代えて用いられることが多い)

設定登記(新金融機関側)

  • 抵当権設定契約書
  • 登記原因証明情報
  • 新金融機関からの委任状
  • 所有者(借主)の印鑑証明書・実印

必要書類は金融機関や案件によって異同があるため、実際の準備は担当する司法書士の案内に従うのが確実です。

登録免許税の仕組み

登記には登録免許税がかかります。金額の当てはめや軽減措置の適用可否は個別の事情によって変わるため、ここでは税率の仕組みだけを紹介します。

  • 抵当権抹消登記:不動産1個につき1,000円の定額(登録免許税法別表第一)
  • 抵当権設定登記:借入額(債権額)に対して原則1000分の4(0.4%)
  • 一定の要件を満たす住宅用家屋については、軽減措置が適用される可能性があります。適用の可否や具体的な税額は、お近くの司法書士・税理士にご確認ください。

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【さらに深掘り】借り換え時の連件申請と担保順位の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

抹消と設定、どちらを先に申請するか

抵当権抹消登記と抵当権設定登記を同じ登記所へ同時に申請するとき、実務では「抹消登記→設定登記」の順で申請書に受付順序を明示するのが基本です。同一の不動産に関する権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き登記の前後によるのが登記制度の原則です(不動産登記法4条1項)。この原則があるため、抹消と設定の受付順序を意図的に指定し、旧抵当権を消したうえで新抵当権を1番として乗せる、という結果を確実にするための工夫が実務上とられます。同一の登記所内であれば同日受付でも申請順序を指定でき、この順序指定を誤ると新抵当権が意図しない順位で登記されるおそれがあるため、申請情報に「登記の目的」欄の記載順と受付の連件番号を対応させて提出します。

決済現場での書類確認の勘所

決済当日、旧抵当権の抹消に必要な書類は「その場で初めて確認する」のではなく、事前に金融機関側とやりとりして内容を精査しておくのが実務の基本です。特に次の点は事前確認の対象になります。

  • 抵当権解除証書・委任状に有効期限が付されているものがあること(発行から一定期間内に登記を完了させる必要がある書類が含まれる場合、決済日と登記申請日のズレに注意する)
  • 委任状の日付が決済日と整合しているか(決済前に作成された委任状であっても、決済日以降に効力を生じる内容になっているかを確認する)
  • 登記識別情報(旧来の登記済証を含む)が有効であることの確認。紛失等により提供できない場合は、事前通知制度(不動産登記法23条1項)や、資格者代理人による本人確認情報の提供(同条4項1号)など、不動産登記法上の代替手段が必要になる

別の担保が挟まっている場合の整理

住宅ローンに保証会社が付いているケースでは、保証会社が代位弁済をした際に保証会社名義の抵当権(または求償権を担保する抵当権)が別途登記されていることがあります。この場合、借り換えにあたっては元の金融機関の抵当権だけでなく、保証会社名義の担保についても抹消の要否を確認する必要があります。どのような担保が登記簿上に存在するかは、事前に登記事項証明書を取得して確認するのが基本の段取りです。

書類に不備があったときの一般的な対応

決済日に抹消書類の一部に不備が見つかり、その日のうちに抹消登記の要件が整わない事態は、登記実務上まれに起こり得ます。その場合の対応は事案ごとに異なりますが、一般的な枠組みとしては、決済自体を延期する、または新抵当権の設定登記の申請日を調整するといった方法が検討されます。いずれにせよ、旧抵当権が残ったまま新抵当権を単独で設定してしまうと担保順位に予期しない影響が生じかねないため、書類の不備が判明した時点で速やかに関係者(金融機関・司法書士)に共有し、対応方針を確認することが実務上の基本です。個別の事案でどう対応すべきかは、担当する司法書士にご相談ください。