この記事の要点

  • 住宅ローンを完済していても、登記簿上の抵当権(担保の記録)は自動では消えず、抹消登記の申請が別途必要
  • 相続登記と抵当権抹消登記の順番に「これしかない」という決まりはなく、実務上は2つの進め方がある
  • 相続登記は2024年4月から申請が義務化されているため、いずれにせよ必要な手続き
  • 抵当権抹消登記は、原則として抵当権者(金融機関)と所有者(登記名義人)が共同で申請する
  • 団体信用生命保険(団信)で完済された場合は、抹消の前に別途の手続きが必要になることがある

親名義の住宅が残っていて、住宅ローンはすでに完済していた──というケースはめずらしくありません。ここで迷いやすいのが、「相続登記(名義変更)」と「抵当権抹消登記」のどちらを先にすればよいのか、という順番の問題です。

結論から言うと、この2つの登記に「必ずこの順番で」という一律のルールはありません。どちらを先にするかは、状況に応じて選べます。ただし、それぞれの登記の性質を理解しておかないと、書類集めの手戻りが起きやすいので、順を追って整理します。

なぜ完済しても抵当権は自動で消えないのか

住宅ローンを完済しても、法務局の登記簿に記録された抵当権は自動的には消えません。完済の事実と、登記簿上の記録は別物だからです。抵当権を消すには、抵当権抹消登記という手続きを申請する必要があります。これは相続の有無にかかわらず共通の前提です。

相続登記を先にする進め方

亡くなった親名義のままの不動産を、相続人名義に変更する手続きが相続登記です。相続登記を先に済ませておく進め方は、次の理由で選ばれることが多いです。

  • 相続登記は2026年8月時点で、不動産登記法76条の2により申請が義務化されています(原則、相続の開始と所有権取得を知った日から3年以内)。売却予定の有無にかかわらず、いずれ必要になる手続きです
  • 相続登記を先に済ませておけば、その後の抵当権抹消登記は「現在の所有者」として通常どおり申請でき、書類の説明もシンプルになります
  • 将来その不動産を売却したり、担保に入れたりする予定がある場合、先に名義を確定させておくほうが後続の手続きがスムーズです

抵当権抹消登記を先にする進め方

一方で、誰が不動産を相続するかがまだ決まっていない(遺産分割協議が終わっていない)段階でも、抵当権抹消登記だけを先に済ませたいという場合があります。この場合に使われるのが、不動産登記法62条の「一般承継人による申請」という考え方です。亡くなった登記名義人に代わって、その相続人が申請人となることができるという規定で、相続登記を経由しなくても、相続人が戸籍謄本等の相続を証する書面を添えて、金融機関との共同申請という形で抵当権抹消登記を進められる場合があります。

どちらの進め方を選ぶ場合も、抵当権抹消登記の申請人については次の点を押さえておく必要があります。

抵当権抹消登記の申請人は誰か

抵当権抹消登記は、不動産登記法60条により、原則として「抵当権者(多くの場合は金融機関)」と「所有者(登記名義人またはその相続人)」が共同で申請します。金融機関から届く抹消登記に必要な書類一式(登記済証や資格証明書など)と、所有者側が用意する戸籍謄本等の相続を証する書面をあわせて申請するイメージです。

なお、金融機関が解散していたり所在が分からなかったりする特殊なケースでは、不動産登記法70条・70条の2にもとづき単独で抹消登記を申請できる特則が用意されています。ただし、これは通常のケースとは別の手続きが必要になる話であり、本記事では扱いません。

団信で完済されていた場合の注意

住宅ローンに団体信用生命保険(団信)が付いていた場合、契約者が亡くなったことで保険金によりローンが完済されるケースがあります。この場合は、抵当権抹消登記の前に、保険金の支払いに関する手続きが別途必要になることがあります。団信による完済かどうかは、金融機関から届く書類で確認できます。

まとめ

住宅ローンを完済していても、相続登記と抵当権抹消登記はそれぞれ別の手続きとして申請が必要です。順番に一律の決まりはなく、相続登記を先に済ませてから抹消登記を申請する進め方のほか、不動産登記法62条を使って抹消登記を先に進められる場合もあります。どちらが自分たちのケースに合うかは、遺産分割の進み具合や今後の売却予定などによって変わってきます。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 相続登記と抵当権抹消登記、費用はどのくらいかかりますか? 相続登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%です。抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1個につき1,000円が目安です。司法書士に依頼する場合の報酬は、それぞれの手続きの内容や不動産の数によって変わるため、見積もりで確認するとよいでしょう。

Q. 抵当権を抹消せずに放置するとどうなりますか? 登記簿上に抵当権の記録が残ったままだと、将来その不動産を売却するときや、新たに担保を設定するときに支障が出ることがあります。また、時間が経つほど金融機関側の書類(登記済証や資格証明書など)が古くなり、手続きに手間がかかりやすくなります。完済がわかった時点で早めに抹消登記を進めておくのが安心です。

Q. これらの手続きは自分でできますか? 戸籍謄本の収集や書類作成を自分で行うことも制度上は可能です。ただし、相続人が複数いる場合や、金融機関から届く書類の内容が分かりにくい場合は、手続きが複雑になりやすいため、お近くの司法書士に相談することをおすすめします。

【さらに深掘り】抵当権抹消登記を先行させる場合の書類実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

不動産登記法62条の「一般承継人による申請」を使って抵当権抹消登記を先行させる場合、実務上押さえておきたい点がいくつかあります。

相続を証する書面の集め方の違い 62条ルートでは、相続登記を経由しないまま、亡くなった登記名義人に代わって相続人が抹消登記の申請人になります。このとき提出する「相続を証する書面」は、遺産分割協議の結果を確定させるための書類ではなく、被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍と、相続人の現在の戸籍など、相続人の範囲を明らかにする書類が中心になります。相続登記のように「最終的に誰が不動産を取得するか」を確定させる必要がない分、集める書類の性質は異なりますが、申請人としてどの相続人がどのような立場で関与するかは事案ごとの個別確認が必要な部分であり、この整理が不十分なまま申請すると補正の対象になりやすいところです。

登記原因証明情報の記載整合性 共同申請の相手方である抵当権者(金融機関)側から届く書類(解除証書や登記識別情報など)の作成日・登記原因日付と、相続関係を示す戸籍の内容に矛盾がないかは、審査で必ず突き合わされる部分です。特に、完済日と被相続人の死亡日の前後関係、団体信用生命保険による完済の場合はその手続き完了日との整合性が問われやすく、日付関係にずれがあると補正に至ることがあります。金融機関から届く書類一式は、申請までに時間が空くと有効期限切れになるものも含まれるため、書類が揃ったタイミングと申請のタイミングをあまり離さないようにする点も実務上の注意点です。

相続登記との先後関係を選ぶ判断材料 62条ルートは「相続登記を経ずに抹消登記だけを先に進められる」という制度ですが、遺産分割協議が難航している、あるいは相続人の範囲がまだ流動的な段階でこのルートを使うと、後日の相続登記の際に改めて戸籍一式を確認し直すことになり、結果として書類収集の手間が二度になる可能性があります。反対に、相続登記を先に済ませてから通常の共同申請で抹消登記を行えば、抹消登記の申請人は「現在の所有者」として扱われるため、書類の説明はシンプルになります。どちらのルートを選ぶかは、遺産分割の進み具合と、抹消登記を急ぐ事情(売却予定など)を踏まえて判断することになります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

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