この記事の要点

  • マンションを相続したときの「区分所有者変更届」は、原則として法律上の義務ではなく、管理規約(マンション標準管理規約では第31条)に基づく手続き
  • 届出をしないと、総会の招集通知や管理費・修繕積立金の請求が、亡くなった元の所有者宛のまま届き続けることがある
  • なお、これとは別に、相続した方が国内に住所・居所を持たない場合に「国内管理人」を選任したときは、管理者等への通知が法律上必要(区分所有法第6条の2第3項。2026年〔令和8年〕4月1日施行)
  • 相続登記(名義変更)が終わる前でも、管理組合への届出は行える
  • 管理規約の内容は物件ごとに異なるため、実際の届出の要否・様式・必要書類はお手元の管理規約または管理組合に確認する

マンションを相続したら、管理組合への届出も忘れずに

マンションを相続すると、多くの方は「相続登記(不動産の名義変更)」に意識が向きます。見落とされがちなのが、管理組合への届出です。

結論から言うと、区分所有者(マンションの一室ごとの所有者)が変わったことを管理組合に届け出るという手続きは、原則として法律で義務づけられたものではありません。

多くのマンションが管理規約を定める際に参考にしている「マンション標準管理規約」(国土交通省が示すひな型。現行版は令和7年〔2025年〕10月17日改正のもの)には、新たに組合員(区分所有者)の資格を取得した者・喪失した者は直ちに管理組合へ届け出る、いったん届け出た内容に変更があったときも直ちに届け出る、という条項が置かれています(同規約第31条第1項・第2項)。ただし、これはあくまで標準規約という「ひな型」の話であり、実際の届出義務の有無・様式・期限は、管理規約がどう定めているかによって物件ごとに異なります。

届出をしないままにしておくと、総会の招集通知や管理費・修繕積立金の請求が、亡くなった元の所有者宛のまま届き続けることがあります。相続登記が完了する前でも、管理組合への届出自体は行えます。

この記事では、届出の位置づけ、放置すると起きがちなトラブル、相続登記との前後関係の3点を整理します。管理規約の具体的な解釈や、個別のトラブルへの対応は、規約の内容が物件ごとに異なるためこの記事では扱いません。マンションの相続登記そのものの手続きはマンションを相続したときの登記──敷地権付き区分建物は何が違う?で解説しています。

区分所有者変更届は「管理規約」上の手続き

区分所有権が誰に帰属しているかは、不動産の登記記録によって公示される仕組みになっています。もっとも、相続の場合は、相続登記を終える前の段階でも相続人が区分所有権を取得しています。そして、相続によって区分所有権を取得した方が、管理組合に対して「区分所有者になりました」と届け出ること自体を直接義務づける法律の規定はありません(後述する国内管理人の通知のように、場面を限って法律が通知を求めている例はあります)。

一方で、分譲マンションの多くは、区分所有者間の合意である「管理規約」を持っており、その中に組合員(区分所有者)の氏名・住所・連絡先等に変更があったときは、一定期間内に管理組合(または管理を委託されている管理会社)へ届け出る、という条項を置いているのが一般的です。

国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」でも、組合員の資格の得喪と、届け出た内容の変更について、管理組合への届出を求める条項が置かれています(同規約第31条)。あわせて、理事長は組合員名簿・居住者名簿を作成して保管し、届出があったときは遅滞なくこれを更新し、毎年1回以上は内容を確認しなければならないとする条項も置かれています(同規約第31条の2)。つまり、届出は管理組合の名簿を最新に保つための起点として位置づけられています。多くのマンションは、この標準管理規約をベースに、あるいは参考にしながら独自の管理規約を定めています。

なお、区分所有法は「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号。2025年〔令和7年〕5月30日公布)によって改正され、その改正部分は2026年(令和8年)4月1日から施行されています。この改正で、国内に住所または居所を持たない(または持たなくなる)区分所有者が、自分の住戸(専有部分)や共用部分の管理に関する事務を行わせるために「国内管理人」を選任できる制度が設けられました。

国内管理人を選任した区分所有者は、管理者(多くのマンションでは理事長)または管理組合法人がいるときは、遅滞なく、国内管理人を選任した旨とその氏名・住所等を通知しなければならないとされています(区分所有法第6条の2第1項・第3項)。こちらは管理規約ではなく法律が定める通知義務ですので、マンションを相続した方が海外に住んでいる場合などは、この点も確認が必要です。標準管理規約にも、これに対応する届出の条項が新たに置かれています(同規約第31条の3)。改正の全体像は区分所有法が変わった──2026年4月施行の改正で管理組合ができるようになったことで整理しています。

つまり、相続によって区分所有者が変わったこと自体を管理組合に届け出る手続きは、「法律上の義務」ではなく、「そのマンションの区分所有者どうしが規約で取り決めたルール」という位置づけです(上記の国内管理人の通知は、区分所有者の変更の届出とは別に、法律が通知を求めている場面です)。届出の要否、届出先、必要書類、期限は、管理規約の定め方によって物件ごとに異なります。実際にどのような届出が必要かは、お手元の管理規約を確認するか、管理組合(管理会社に管理を委託している場合はその窓口)に問い合わせるのが確実です。この記事では、個別の管理規約の読み方や、規約をめぐるトラブルへの対応までは扱いません。

届出をしないと何が起きるか

届出をしないまま放置すると、管理組合側は区分所有者が変わったことを把握できないため、実務上、次のようなことが起こり得ます。

  • 総会の招集通知が、亡くなった元の所有者宛に発せられ続ける。標準管理規約では、総会の招集通知は組合員が管理組合に届け出たあて先に発するものとされ、届出のない組合員に対しては、そのマンション内の専有部分(当該住戸)の所在地あてに発するものとされています(同規約第43条第2項)。亡くなった方が生前に届け出たあて先が名簿に残ったままだと、通知はその宛名・そのあて先に発せられ続けることになります。相続人がその住戸に住んでいれば通知自体は手元に届きますが、宛名が違うために自分に宛てられたものだと気づきにくく、相続人が別の場所に住んでいる場合には、通知が手元に届かない状態が続きます
  • 管理費・修繕積立金の請求も、同様に旧所有者宛のまま。実際に費用を負担すべきは新しい区分所有者(相続人)であっても、請求書の宛名や口座振替の名義が更新されないままになることがあります
  • 総会での議決権行使や役員選任などの案内が、実際に所有・管理している相続人に届かない。マンションの管理運営に関する情報から相続人が置き去りになる状態です

これらは管理規約上の届出という事務手続きが滞ることによる不便であり、届出をしたかどうかによって区分所有者としての権利義務の帰属が変わるわけではありません。たとえば管理費を支払う義務は、相続人が被相続人の権利義務を包括して承継することによるものですので、届出の有無にかかわらず新しい区分所有者(相続人)が負います(この点はリゾートマンション・別荘を相続したらで詳しく扱っています)。ただし実務上は、「知らないうちに管理費が滞納扱いになっていた」「総会の議案を知らないまま重要な決議が行われていた」という事態を避けるためにも、早めに届け出ておく実益があります。

相続登記が済む前でも、届出はできる

「まだ相続登記が終わっていないので、管理組合への届出は待った方がよいのでは」と考える方もいますが、相続登記の完了と管理組合への届出は別の手続きです。管理組合への届出は、相続によって区分所有権を取得した事実を管理組合に知らせるものであり、法律上、登記簿上の名義変更(相続登記)が先に完了していなければならないという関係にはありません。ただし、管理規約の定めや管理組合の運用として、届出の際に登記事項証明書の提示を求めている場合もあります。実際にどの書類で受け付けてもらえるかは、管理組合に確認しておくほうが確実です。

遺産分割協議がまとまっていない、あるいは相続人が複数いて登記の名義人がまだ確定していない段階でも、相続が発生した事実や相続人代表者を暫定的に届け出る扱いをしている管理組合もあります。どのような書類(死亡の記載のある戸籍、遺産分割協議書、相続人全員の同意書など)を求められるかは管理規約や管理組合の運用によって異なるため、具体的な必要書類は管理組合または管理会社に確認してください。

相続登記そのものには申請義務があり、相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません(正当な理由なく怠ると過料の対象になり得ます)。管理組合への届出はこの相続登記の申請義務とは別の手続きですが、両方を早めに済ませておくことで、総会通知や管理費請求の宛先が長期間ずれたままになる事態を防げます。

まとめ

マンションを相続したときの区分所有者変更届は、原則として法律上の義務ではなく管理規約に基づく手続きです。届出をしないと、総会の招集通知や管理費・修繕積立金の請求が、亡くなった元の所有者宛のまま届き続けることがあります。相続登記が完了する前でも管理組合への届出自体は行えるため、相続が発生したら早めに管理組合(管理会社)に連絡しておくと安心です。実際の届出の要否や必要書類は管理規約によって物件ごとに異なりますので、お手元の管理規約を確認するか、管理組合に問い合わせてください。手続き全体について不安があるときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 区分所有者変更届の提出に費用はかかりますか?

多くの管理組合では、氏名・住所等の変更届の提出自体に費用はかかりません。ただし、管理規約によっては名義変更に伴う手数料を定めている場合もあります。費用の有無・金額は管理組合(管理会社)に確認してください。

Q. 届出をせず放置するとどうなりますか?

管理規約に基づく届出そのものについて、法律上の罰則が定められているわけではありません。ただし、総会の招集通知や管理費・修繕積立金の請求が、亡くなった元の所有者宛のまま発せられ続けることがあります。管理費を支払う義務自体は、相続人が被相続人の権利義務を包括して承継することによるもので、届出の有無にかかわらず相続人が負いますので、気づかないうちに滞納扱いになっていた、というトラブルにつながることもあります。滞納管理費の承継の考え方はリゾートマンション・別荘を相続したらで解説しています。

Q. 相続登記が終わる前でも届出できますか?どこに相談すればよいですか?

管理組合への届出は相続登記の完了を待たずに行えます。届出先はマンションを管理している管理組合、または管理を委託している管理会社の窓口です。必要書類や様式は管理規約によって異なるため、お手元の管理規約を確認するか、管理組合・管理会社に直接問い合わせてください。相続登記の進め方や、管理規約以外の法的な手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】区分所有者変更届と登記手続きの実務上の関係

ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

不動産登記実務の観点から見ると、区分所有者変更届と相続登記は、根拠となる制度がそれぞれ別であるという点を押さえておくと理解しやすくなります。相続登記は不動産登記法に基づき、区分所有権という物権の帰属を公示する手続きです。これに対して区分所有者変更届は、管理規約という区分所有者間の合意に基づく、管理組合の名簿を実態に合わせるための事務手続きです。両者は制度上連動していないため、一方が完了しても他方が自動的に処理されるわけではなく、それぞれ別個に手続きを進める必要があります。

管理組合の実務では、区分所有者変更届の提出時に、届出内容の裏付けとして登記事項証明書(登記簿謄本)の提示を求める運用が取られることがあります。これは、届出が第三者による虚偽の申告でないことを確認し、名簿の正確性を担保する趣旨によるものと考えられます。もっとも、登記事項証明書の提示を一律に求めるかどうかは管理組合ごとの運用によって異なり、戸籍謄本や遺産分割協議書の提示で足りるとする例、届出書への記名のみで足りるとする例など、扱いに幅があります。どのような資料の提示が必要になるかは、個別の管理組合の運用に委ねられている点に留意が必要です。

相続登記がまだ完了していない段階で区分所有者変更届だけを先行させる場合、登記事項証明書という客観的な裏付け資料を提示できないことになります。この場合に備えて何を用意しておくとよいかは各管理組合の判断に委ねられますが、一般的には、被相続人の死亡の事実と相続人の範囲が分かる戸籍関係書類、遺産分割協議が調っていればその協議書、調っていなければ相続人全員の同意や代表者選任の経緯が分かる書類などが参考になり得ます。あわせて、相続登記の申請自体は、相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に行う義務があります。区分所有者変更届を先行させた場合でも、管理組合への届出を済ませたことによって相続登記の申請義務まで果たしたことになるわけではありませんので、相続登記は別途進めておく必要があります。

なお、管理規約の具体的な文言の解釈や、管理組合との間で生じた個別のトラブルへの対応は、規約の内容や運用が物件ごとに異なるため、この記事では扱いません。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

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