この記事の要点
- 区分所有者の所在等が分からない場合に、裁判所の手続を経て、その区分所有者を集会決議の母数(分母)から除外できる制度が、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)の改正(令和7年法律第47号・2025年〔令和7年〕5月30日公布)で新設され、2026年(令和8年)4月1日から施行されています。
- 対象になるのは「所在等が分からない」区分所有者に限られます。連絡がつきにくい・返事がないというだけでは足りません。
- 似た場面の制度として、土地そのものを対象にする「所有者不明土地管理制度」がありますが、対象や仕組みが異なります。
- 具体的な申立ての進め方や、自分の管理組合で使えるかどうかの判断は個別事情によって変わるため、検討段階になったらお近くの司法書士にご相談ください。
マンションの管理組合の集会決議は、原則として区分所有者全員を母数(分母)にして、賛成した人数・議決権の割合で成立・不成立が決まります。しかし、相続や転居が繰り返されるうちに「誰が今の区分所有者か分からない」「区分所有者は分かっているが連絡が取れない」という住戸が出てくると、その人も母数に含めたままでは、賛成の割合が事実上どうやっても足りなくなってしまうことがあります。この状態に対応するため、区分所有者の所在等が不明な場合に、裁判所の手続を経て、その区分所有者を集会決議の母数から除外できる制度が新しく設けられました。
どんな改正で新設された制度か
この制度は、老朽化マンションの管理組合の意思決定が止まってしまう事態に対応するための区分所有法の改正で新設された制度の一つです。根拠となる法律は「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)で、2025年(令和7年)5月30日に公布され、区分所有法の改正部分は2026年(令和8年)4月1日から施行されています。同じ改正では、集会決議の要件緩和や、住戸(専有部分)を管理する管理人を裁判所が選任できる制度もあわせて設けられています。
経過措置として、改正後の規定は原則として施行前に生じた事項にも適用されますが、施行日(2026年4月1日)より前に招集の手続が始まっていた集会については、改正前のルールで進めることになります。改正全体の概要や経過措置の詳細は、区分所有法が変わった──2026年4月施行の改正で管理組合ができるようになったことで整理していますので、あわせてご覧ください。
この記事では、改正の3本柱のうち「所在等不明の区分所有者を決議から除外できる制度」に絞って、制度の骨格・要件・区分所有法上の位置づけを一般向けに解説します。
どんな場合に使える制度か──「所在等が分からない」の意味
対象になるのは、区分所有者の所在等が分からない場合です。大きく分けると、次の2つの場面が想定されています。
- 区分所有者が誰か分からない場合──相続が繰り返されて名義人が実態と合わなくなっている、法人が解散して代表者・清算人がいないなど
- 区分所有者は分かっているが、所在が分からない場合──登記簿や管理組合の名簿にある住所に本人が住んでおらず、住民票などをたどっても連絡先にたどり着けない
ここで大切なのは、「連絡しても返事がない」「集会に出席してくれない」というだけでは、この制度の対象にはならないという点です。所在等を突き止めるための調査(住民票・戸籍等の追跡、管理組合としてできる範囲の連絡の試み等)を尽くしてもなお分からない、という状態が前提になります。単に非協力的な区分所有者を決議から排除するための制度ではありません。
所在不明・連絡不能の住戸をめぐる問題は、日常的に利用されず連絡先の更新が後回しになりやすいリゾートマンションのような物件で特に起きやすいテーマです。相続したマンションの管理費が滞納されたまま名義人と連絡が取れなくなるケースについては、リゾートマンション・別荘を相続したら──「いらない不動産」に残された現実的な選択肢でも取り上げています。
制度の仕組み──裁判所の手続を経て決議の母数から除外する
この制度の骨格は、次のように整理できます。
- 区分所有者の所在等が分からない住戸について、裁判所に手続の申立てを行う
- 裁判所は、申立てがあったことなどを公告し、1か月以上の期間を置いたうえで(区分所有法第86条第2項)、要件を確認して、その区分所有者を除いた残りの区分所有者(一般区分所有者)で集会の決議をすることができる旨の裁判(決定)を行う(同法第38条の2第1項)
- 除外が認められると、その区分所有者を除いた残りの区分所有者・議決権をもとに、集会決議の成立・不成立を判断できるようになる
除外されるのは、あくまで集会における議決権の計算であって、区分所有者としての権利(専有部分の所有権や、決議に基づく効果を受ける立場)そのものがなくなるわけではありません。なお、この裁判は特定の1回の集会だけを対象とするものではなく、裁判により所在等不明区分所有者とされた人は、集会における議決権を有しないものとして扱われます(区分所有法第38条の2第2項)。後にその区分所有者が誰かとその所在とが判明したときは、利害関係人の申立てにより、裁判所がこの裁判を取り消すことになっています(同法第86条第5項)。取消しの裁判を経ないかぎり議決権がない状態は続くため、判明しただけで自動的に母数へ戻る仕組みではありません。所在等が分かった後の対応もあわせて検討が必要です。
申立ての宛先は、そのマンション(建物)の所在地を管轄する地方裁判所です(区分所有法第86条第1項)。申立てができるのは、所在等不明の区分所有者以外の区分所有者または管理者です(同法第38条の2第1項)。もっとも、誰がどのような書類を準備して申し立てるかといった具体的な手続の流れは、管理組合の状況や物件の所在地によって変わります。制度を実際に使うかどうかを検討する段階になったら、お近くの司法書士にご相談ください。
似ているようで違う制度──「所有者不明土地管理制度」との比較
不動産をめぐる「所有者が分からない・連絡が取れない」問題に対応する制度としては、土地そのものを対象にした所有者不明土地管理制度とは──持ち主がわからない隣の土地に管理人を付けてもらう方法(民法264条の2)がすでに運用されています。今回の区分所有法の制度と混同しやすいため、違いを整理しておきます。
| 所在等不明の区分所有者を決議から除外する制度(区分所有法) | 所有者不明土地管理制度(民法) | |
|---|---|---|
| 対象 | マンションの区分所有者(人) | 土地(物) |
| 誰が動くか | 管理組合側が集会決議を進めるための手続 | 隣地所有者など利害関係人が土地を管理させるための手続 |
| 裁判所の関与の結果 | その区分所有者を決議の母数から除外する裁判(決定) | 裁判所が管理人を選任し、管理人が土地を管理する(売却などの処分には裁判所の許可が必要) |
| 効果が及ぶ範囲 | 集会における議決権の有無にとどまり、専有部分の所有権自体は動かない | 管理人が選任されている間、土地の管理・処分権が管理人に専属する |
両方とも「所有者・区分所有者の所在等が分からない」という共通の出発点を持ちながら、区分所有法の制度は決議を進めるための手続、所有者不明土地管理制度は財産を管理するための手続という、目的も効果もまったく異なる制度です。自分のケースがどちらに当てはまるか分からない場合も、お近くの司法書士にご相談ください。
まとめ
区分所有者の所在等が分からず集会決議が進まない状態に対応するため、区分所有法の改正で、その区分所有者を集会決議の母数から除外できる制度が新設されました。対象になるのは所在等の調査を尽くしてもなお分からない場合に限られ、裁判所の手続を経て除外が認められる仕組みです。似た場面の制度として土地を対象にした所有者不明土地管理制度がありますが、対象・目的とも異なる別の制度です。自分の管理組合で制度が使えるかどうかや、具体的な手続の進め方は個別の事情によって変わります。お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. この制度を使うのに費用はかかりますか。 裁判所への申立てを伴い、裁判所による公告(1か月以上の期間)を経る手続のため、申立てにかかる費用や公告に伴う費用、書類の準備など一定の費用が見込まれます。具体的な金額は物件の状況や手続の内容によって異なるため、お近くの司法書士にご相談ください。
Q. 区分所有者と連絡が取れないまま放置すると、どんなリスクがありますか。 連絡が取れない区分所有者を母数に含めたままだと、必要な決議の要件(人数・議決権の割合)が事実上満たせなくなり、建替えや大規模修繕など管理組合として必要な決定が進められない状態が続くおそれがあります。老朽化が進むほど、こうした決定の先送りは管理組合全体の負担につながります。
Q. 制度を使うかどうか、管理組合だけで判断できますか。 所在等が分からない区分所有者にあたるかどうかの判断や、申立てに必要な調査・書類の準備には専門的な知識が必要です。まずは管理組合の理事会・管理会社で状況を整理したうえで、制度の利用を検討する段階になったら、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】登記実務から見た「所在等不明」という状態
ご注意 以下は執筆時点(2026年9月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文で取り上げた「区分所有者の所在等が分からない」という状態は、不動産登記の観点から見ると、背景に共通する事情があることが少なくありません。
なぜ「所在等不明」の住戸が生まれるのか
登記簿上の所有者(区分所有者)の情報は、相続や住所移転があっても、当事者が登記申請をしない限り自動的には更新されません。マンションの区分所有者について所在等が分からなくなる典型的な経緯としては、次のようなものが挙げられます。
- 相続登記が未了のまま放置されている──区分所有者が死亡した後、相続人への名義変更(相続登記)がされないまま年数が経過し、相続人がさらに死亡して数次相続が生じ、最終的に誰が現在の区分所有者にあたるのか登記簿だけでは分からなくなる
- 住所変更登記が未了のまま転居を繰り返している──区分所有者本人は生存していても、登記簿上の住所から転居した際に住所変更登記をしないため、登記簿記載の住所に本人がおらず、転居先をたどれない
2024年(令和6年)4月から相続登記の申請が義務化され、2026年(令和8年)4月からは住所・氏名の変更登記の申請も義務化されていますが、今回取り上げた集会決議からの除外制度が対象とする「所在等不明」の状態の多くは、義務化以前から積み重なってきた登記簿と実態のズレに由来すると考えられます。義務化によって今後は新たに生じる不一致が抑制されていくとしても、既に生じている不一致の解消には別途対応が必要であり、その意味で今回の制度は、登記簿の更新を待たずに管理組合の意思決定を進められるようにする手当てという位置づけで理解することができます。
決議除外が認められても、区分所有者名義の登記自体は変わらない
実務上おさえておきたいのは、集会決議の母数から除外する裁判(決定)が確定しても、その区分所有者名義の登記(専有部分の所有権登記)自体には何の変更も生じないという点です。除外の効果は、あくまで集会における議決権計算の場面に限られるものであり、登記簿上の名義人の変更や抹消を伴う手続ではありません。管理組合の意思決定を進めるための制度と、不動産の権利関係を公示する登記制度とは、目的も効果もそれぞれ独立しているため、この点を混同しないことが実務上重要になります。
つまり、除外決定を得ても、その住戸の登記名義自体は従前どおり残り続けます。将来、建替え決議や敷地売却決議など登記名義の変更を伴う場面が生じた場合には、除外決定とは別に、相続登記や住所変更登記など登記簿を実態に合わせるための手続が改めて必要になることがある点に留意が必要です。
将来、所在等が判明した場合の留意点
本文でも触れたとおり、除外の効果は集会における議決権の計算にとどまり、区分所有者としての権利そのものが失われるわけではありません。もっとも、議決権を有しないという効果は、現に所在等が分からないという状態そのものにではなく、裁判によって所在等不明区分所有者であるとされたことに結び付けられており、特定の1回の集会に限って効力を持つものでもありません(区分所有法第38条の2第2項)。そのうえで区分所有法は、その区分所有者が誰かとその所在とが判明したときは、利害関係人の申立てにより裁判所がこの裁判を取り消さなければならないと定めています(同法第86条第5項)。取消しのための手続が別に用意されていることからも分かるとおり、所在等が判明しただけで、それ以降の集会で当然に母数へ戻るわけではありません。したがって、所在等が判明した後は、取消しの申立てを経て、その区分所有者を再び母数に含めて集会を運営することになります。なお、条文上の申立権者は利害関係人とされていますが、管理組合の側で実際に誰が、どのタイミングで申し立てるのが適切かといった運用面については、施行から日が浅く、具体的に示した資料は執筆時点で確認できていません。
登記実務の観点からは、所在等が判明した時点で、その区分所有者(あるいはその相続人)について、放置されていた相続登記や住所変更登記の手続が併せて必要になっている場合が少なくありません。所在が判明した区分所有者への対応を検討する際は、その住戸の登記簿の記載が現状と一致しているかどうかもあわせて確認しておくと、次に集会決議が必要になった場面で同じ問題が再発するのを防ぎやすくなります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 建物の区分所有等に関する法律 第38条の2・第86条・附則(令和7年法律第47号)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069
- 民法 第264条の2・第264条の3(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00375.html