この記事の要点
- 司法書士の業務は司法書士法第3条で定められており、登記・供託の代理だけでなく、裁判所提出書類の作成や、140万円以下の簡易裁判所での訴訟代理(認定司法書士)まで含まれる
- 成年後見についても、申立書類の作成に関わったり、家庭裁判所から選任されて後見人等に就任したりする形で関わる制度がある
- 相談先を迷ったときは、まず「何を頼みたいか」を整理し、お近くの司法書士に確認するのが近道
「司法書士って、名義変更(登記)をお願いする人でしょう?」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。たしかに不動産や会社の登記は司法書士の代表的な業務ですが、司法書士法が定める業務範囲は、実はそれだけにとどまりません。
この記事では、司法書士法第3条に定められた業務を一つずつ一覧で整理し、「登記だけではない業務の全体像」をご紹介します。
司法書士の業務は司法書士法第3条に定められている
司法書士がどのような仕事をしてよいかは、法律(司法書士法第3条)で定められています。ここでは、条文の内容を一つずつ、淡々と整理していきます。
① 登記又は供託に関する手続の代理
不動産の名義変更(相続・売買・贈与などによる所有権移転登記)や、会社の設立・役員変更などの商業登記、さらに供託の手続きについて、ご本人に代わって法務局・地方法務局へ申請する業務です。司法書士の業務としてもっともよく知られている部分です。
② 法務局・地方法務局に提出・提供する書類や電磁的記録の作成
登記の申請書そのものだけでなく、遺産分割協議書や委任状など、登記の際に法務局へ提出する書類の作成も業務に含まれます。条文上は「提出し、又は提供する書類又は電磁的記録」と定められており、紙の書類だけでなく、法務局へ提出・提供するデータ(電磁的記録)の作成も以前から明記されています。
③ 登記又は供託に関する審査請求手続の代理
登記の申請が却下された場合など、法務局・地方法務局の長に対して不服を申し立てる「審査請求」の手続きについても、代理することができます。
④ 裁判所・検察庁に提出する書類(電磁的記録)の作成
訴状や答弁書、遺産分割調停の申立書、相続放棄の申述書など、裁判所や検察庁に提出する書類の作成も司法書士の業務です。この号の業務は「書類の作成」を内容とするもので、司法書士自身が代理人として法廷に立つことは含まれません(簡易裁判所での訴訟代理は、後述⑥の別の号で定められています)。土地の境界を法務局が明らかにする「筆界特定」の手続きで法務局へ提出する書類の作成も、この号に含まれます。なお、民事裁判手続のデジタル化を進める改正(民事訴訟法等の一部を改正する法律・令和4年法律第48号)が2026年(令和8年)5月21日に全面施行されたことに伴い、この号も「裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録」と改められ、裁判所・検察庁へ提出するデータ(電磁的記録)の作成も条文上明記されました(筆界特定の手続で法務局へ提出・提供する電磁的記録の作成は、この改正前から明記されています)。
⑤ ①〜④の業務についての相談
登記や供託、裁判所提出書類の作成に関する事務について、相談に応じることも業務に含まれます。
⑥ 簡易裁判所における訴訟・調停などの手続の代理
法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)に限り、訴訟の目的の価額が140万円を超えない範囲で、簡易裁判所における訴訟・和解・支払督促・訴え提起前の証拠保全・民事保全・民事調停・少額訴訟債権執行といった手続きについて代理することができます。
この「140万円」は、簡易裁判所の裁判権を定める裁判所法第33条第1項第1号の金額をそのまま用いたもので、2026年9月時点で140万円のまま変わっていません。なお、上訴(控訴など)の提起、再審、強制執行に関する事項は、原則として代理の対象から外れています。
⑦ 140万円以下の民事紛争についての相談・仲裁・裁判外の和解の代理
認定司法書士は、紛争の目的の価額が140万円を超えない民事上の紛争(簡易裁判所の民事訴訟の対象となるものに限られます)について、相談に応じたり、仲裁手続や裁判外の和解=いわゆる示談交渉を代理したりすることができます。裁判になっていない段階の話し合いも、この金額の範囲内であれば扱えるということです。
なお、複数の貸金業者などを相手にまとめて手続きを進める場面では、この140万円を「一つひとつの債権ごとに見るのか」「全部を合計した金額で見るのか」について、かつて考え方が分かれていました。この点について最高裁判所は、2016年(平成28年)6月27日の判決で、認定司法書士が裁判外の和解を代理できる範囲は「個別の債権ごとの価額」を基準として定められるべきものとする考え方を示しています。なお、この判決は債務整理(複数の貸金業者との取引)の事案について示されたものです。
⑧ 筆界特定手続についての相談・代理
土地の境界(筆界)を法務局が明らかにする「筆界特定」の手続きについて、認定司法書士は、対象となる土地の価額(固定資産課税台帳に登録された価格をもとに、法務省令で定める方法により算定します)の合計額の2分の1に100分の5を乗じた額が140万円を超えない範囲で、相談に応じ、また代理することができます(司法書士法第3条第1項第8号、同法施行規則第1条の2)。土地の価額そのものが140万円以下という意味ではない点に注意が必要です。
なお、上記⑥〜⑧をまとめて「簡裁訴訟代理等関係業務」といい(司法書士法第3条第2項)、法務大臣の指定する研修を修了して認定を受け、かつ司法書士会の会員である司法書士だけが行えます。扱える金額には上限があるため、対象になるかどうかは個別の判断が必要です。
成年後見について──司法書士が関わる場面
司法書士は、成年後見の場面にも関わることができます。具体的には、後見開始などの審判を家庭裁判所に申し立てる際の書類作成(上記④の業務に含まれます)に関わるほか、家庭裁判所から選任されて成年後見人・保佐人・補助人といった立場に就任することもある制度です。
ただし、後見人等への就任そのものは、司法書士法第3条が列挙する業務(上記①〜⑧)には含まれていません。成年後見人・保佐人・補助人は、司法書士に限られるものではなく、家庭裁判所が事案に応じて適任と判断した人を選任する仕組みになっています。
成年後見は、申立てから就任後の事務まで長期にわたる制度であり、関わり方も事案によって様々です。ここでは「司法書士が関わることのある制度である」という制度の存在をお伝えするにとどめます。具体的にどう関わってもらえるかは、お近くの司法書士にご確認ください。
相談先を選ぶときの考え方
ここまで見てきたとおり、司法書士の業務は登記・供託の代理を中心に、裁判所提出書類の作成、一定範囲の簡裁訴訟代理まで幅広く広がっています。一方で、相続や不動産に関する相談では、司法書士以外の専門家(行政書士・弁護士・税理士・土地家屋調査士)や、法テラス・市区町村の無料法律相談といった窓口が関わる場面もあります。
それぞれの役割の違いについては、次の記事で詳しく解説しています。
- 司法書士と行政書士はどう違う?──相続手続きで頼めることの線引き
- 相続の相談は弁護士?司法書士?──「もめているか」で分かれる相談先
- 司法書士と税理士の役割分担──相続で「登記の人」と「税金の人」
- 土地家屋調査士と司法書士──表示登記と権利登記の分担
- 法テラスとは?──収入等の要件を満たせば使える法的支援の窓口
- 市区町村の無料法律相談を活用する
「自分の相談したいことが、司法書士に頼めることなのか」を確認したいときは、まず本記事で挙げた業務の一覧と照らし合わせ、それでも迷う場合は上記の記事や、お近くの司法書士への相談で確認するとよいでしょう。
まとめ
司法書士の業務は、司法書士法第3条に定められた登記・供託の代理を中心に、裁判所提出書類の作成、一定範囲の簡裁訴訟代理、成年後見への関与まで、登記だけにとどまらない広がりを持っています。何を頼めるのか迷ったときは、まずお近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 司法書士に相談するのに費用はかかりますか? A. 初回相談を無料とするか有料とするかは事務所によって扱いが異なります。予約の際にあわせて確認しておくとよいでしょう。
Q. 140万円を超える争いごとは司法書士に頼めませんか? A. 「代理人として関わること」に限れば、そのとおりです。認定司法書士が代理できる簡裁訴訟代理等関係業務は、訴訟や紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲に限られます(裁判所法第33条第1項第1号。筆界特定手続の金額の考え方は本文⑧のとおりです)。ただし、上記④の「裁判所に提出する書類の作成」には金額の上限が定められていないため、140万円を超える事件でも、訴状などの書類作成という形で関わることは制度上可能です。代理人を立てて進めたい場合は、弁護士が担う場面になります。
Q. どの業務が自分のケースに当てはまるかわかりません。どうすればいいですか? A. 本記事の一覧で大まかな見当をつけたうえで、お近くの司法書士に「こういうことで困っている」と状況を伝えれば、担当できる範囲かどうか、他の専門家への相談が必要かどうかを案内してもらえます。
【さらに深掘り】相続登記における司法書士の関与の実際
ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
上記の①「登記又は供託に関する手続の代理」と②「法務局・地方法務局に提出する書類の作成」(司法書士法3条1項1号・2号)は、相続登記の場面では具体的にどのように働いているのでしょうか。ここでは、相続登記における司法書士の関与の実際を、もう少し踏み込んで整理します。
登記申請書だけでなく関連書類の作成まで含まれる
相続登記の代理というと、法務局に提出する申請書を作成するイメージが強いかもしれませんが、司法書士法3条1項2号が定める法務局・地方法務局に提出する書類の作成には、申請書本体のほか、遺産分割協議書、相続関係説明図、上申書といった、登記の添付書類として提出する書類の作成も含まれます。相続人が複数いる事案や、数次相続(相続手続き中にさらに相続が発生するケース)が絡む事案では、この添付書類の組み立て方によって審査の通りやすさが変わってくるため、実務上は申請書そのものと同じか、それ以上に重要な作業になることがあります。
添付書類の収集支援
相続登記には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書など、多数の書類が必要になります。これらは本来、相続人自身が市区町村役場等で取得する書類ですが、実務では、司法書士が戸籍法10条の2第3項に基づく「職務上請求」を用いて代理取得することがよく行われています。ただし、職務上請求は「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」に認められるものであり、無制限に使えるわけではない点には注意が必要です。
なお、2024年(令和6年)3月1日に施行された改正戸籍法(令和元年法律第17号)により、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本等をまとめて請求できる「広域交付」が始まりました。ただし、広域交付を利用できるのは、本人・配偶者・直系尊属(父母、祖父母など)・直系卑属(子、孫など)が市区町村の窓口に出向いて請求する場合に限られ、郵送による請求や代理人による請求、司法書士等の職務上請求は対象外とされています(戸籍法120条の2)。そのため、司法書士が職務上請求で戸籍をそろえる場合は、従来どおり本籍地の市区町村ごとに請求することになり、本籍が各地に移っている事案では収集に相応の期間を見込む必要があります。
法務局とのやり取り
申請書を提出した後、記載内容の不備や添付書類の不足が見つかると、法務局から「補正」の連絡が入ります。司法書士が代理人として申請している場合は、この補正対応の窓口も司法書士が担うため、依頼者本人が法務局とやり取りする場面は基本的に生じません。また、事案によっては申請前に法務局へ事前相談を行い、疑義を解消したうえで申請することで、補正そのものを避ける進め方も取られます。登記が完了した後の登記識別情報(いわゆる権利証に相当するもの)の受領・依頼者への引き渡しまでが、一連の関与の範囲です。
こうした関与の具体的な範囲や進め方は、相続人の数・不動産の所在・遺産分割の状況によって変わってきます。個別の事案でどこまで頼めるかは、お近くの司法書士にご確認ください。
【さらに深掘り】相続税務との境界線をどう見極めるか
ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
司法書士の業務範囲と税理士の業務範囲がどのような条文構造で分かれているかは、司法書士と税理士の役割分担──相続で「登記の人」と「税金の人」で詳しく整理しています。ここでは、それを踏まえたうえで、実際の相談の場面で「これは司法書士に聞いてよいこと」「これは税理士に振るべきこと」をどう見分けるか、実務的な目安を整理します。
見分け方1:「制度の説明」か「個別の金額の算出」か
相続税の基礎控除の計算式や、登録免許税の税率の仕組みなど、誰に対しても同じように当てはまる制度の一般的な説明は、司法書士が相談の中で触れる場面があります。しかし、実際の遺産の内容に当てはめて「申告が必要かどうか」「税額がいくらになるか」を算出する段階に入ったら、それは税理士に振るべき領域です。「制度の存在を知る」段階と「自分のケースに当てはめて金額を出す」段階の間に、相談先が切り替わる境目があるとイメージすると分かりやすいでしょう。
見分け方2:「登記に伴う登録免許税」か「それ以外の税金」か
登録免許税は、税理士法2条1項のかっこ書きによって税理士業務の対象から除かれているため、同法52条(税理士業務の制限)に触れることなく司法書士が計算・案内できる、例外的な税目です。一方、相続税・譲渡所得税・不動産取得税といった他の税金は、この除外の対象に入っていません。「登記の実費としていくらかかるか」という質問であれば司法書士が答えられますが、「相続税として結局いくら払うことになるか」という質問は税理士の領域になります。
見分け方3:特例の適用可否は税理士の判断領域
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、相続税には要件を満たせば税負担を軽減できる特例がいくつかありますが、これらの特例が使えるかどうかは、財産の内容・相続人の構成・居住状況といった個別事情に強く左右されます。司法書士が相談の中で「こういう特例があるらしい」という情報に触れることはあっても、実際に適用できるかどうかの判断は税理士に委ねる必要があります。
実務的な目安
依頼者から「結局いくら払えばいいのか」「申告は必要なのか」と聞かれたときは、税理士に振るべき場面のサインだと考えるとよいでしょう。逆に「登記にかかる実費(登録免許税)はいくらか」という質問であれば、司法書士自身が回答できる範囲です。迷う場合は、無理に切り分けようとせず、窓口となった専門家に率直に聞けば、必要に応じてもう一方の専門家につないでもらえます。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 司法書士法施行規則 第1条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/353M50000010055
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 戸籍法 第10条・第10条の2・第10条の3・第120条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 税理士法 第2条・第52条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 最高裁判所第一小法廷 平成28年6月27日判決(平成26年(受)第1813号・第1814号 損害賠償請求事件、民集70巻5号1306頁)(裁判所ウェブサイト 裁判例検索): https://www.courts.go.jp/hanrei/85969/detail2/index.html
- 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」(令和4年法律第48号・施行日一覧): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00316.html
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」(広域交付): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html