この記事の要点

  • 相続の手続きでは、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告・税額相談は税理士と、法律で担当する業務が分かれている
  • 相続の場面で司法書士が案内できる税金は、登記を受けるためにかかる「登録免許税」に限られるという例外がある
  • 相続税がかかるかどうか、いくらになるかという個別の税務相談・申告代理は税理士の業務であり、司法書士は扱えない
  • どちらに相談すればよいか迷ったときは、まず窓口となった専門家に聞けば、必要に応じてもう一方につないでもらえる

相続の手続きを進めていると、「この件は司法書士と税理士のどちらに聞けばよいのか」と迷う場面が出てきます。結論から言うと、相続の場面では大きく分けて「登記の人(司法書士)」と「税金の人(税理士)」に役割が分かれており、それぞれが法律で担当できる業務の範囲を定められています。この記事では、その役割分担の考え方を整理します。

相続登記は司法書士、相続税は税理士

不動産を相続した場合、亡くなった方(被相続人)から相続人へ名義を変更する手続きが「相続登記」です。この登記の手続きについて代理することは、司法書士法3条1項1号で司法書士の業務として定められています。相続人の確定に必要な戸籍の収集や、遺産分割協議書の作成なども、登記のために法務局へ提出する書類の作成や、それに関する相談として司法書士が担います。

一方、相続税がかかるかどうかの判定、具体的な税額の計算、税務署への申告書の作成・提出代理といった業務は、税理士法2条が定める税理士の業務です。相続財産の評価や控除の適用可否は個々の事情によって大きく変わるため、これらの判断は、原則として税理士でなければ行うことができません。同じ「相続」というひとつの出来事でも、不動産の名義を動かす手続きと、税金を計算して申告する手続きとでは、担当する専門家の法律上の資格が異なるということです。

なお、相続税の基礎控除のような制度の存在自体は広く知られていますが、ご自身のケースで基礎控除を超えるかどうか、申告が必要かどうかといった個別の判断は、税理士に確認する必要がある事項です。

相続の場面での例外は「登録免許税」

この役割分担には、相続の場面でひとつだけ例外があります。相続登記を申請する際には、登記を受けるための税金として「登録免許税」がかかります。この登録免許税は、税理士の業務範囲を定める税理士法2条1項が「租税」から明文で除外している税金です。そのため、税理士でなければ扱えない業務の対象にそもそも入っていません。そのうえで、司法書士法3条1項が登記申請の代理やその相談を司法書士の業務として定めていることから、登記の申請と一体で計算・納付する登録免許税の額を計算して説明することは、その業務に必要な事務として扱われています。税理士法で除外されているというだけで司法書士が案内できるようになるわけではなく、司法書士の側にも根拠がある、という二段構えの関係です。

これはあくまで登記手続きに伴う税額の案内であって、税理士法にいう「税務相談」とは区別されます。相続の場面で司法書士が案内できる税金は登録免許税に限られ、相続税・贈与税・不動産取得税など他の税金については、税額の計算や個別の相談を受けることはできません。相続の場面で登録免許税だけがこのような扱いになっている理由は、登録免許税は誰に相談する税金?──税理士ではなく司法書士が案内できる理由で詳しく整理していますので、税額計算の考え方を知りたい方はそちらをご覧ください。

まとめ

相続の手続きでは、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告・税額相談は税理士と役割が分かれています。相続の場面で司法書士が案内できる税金は、登記に伴う登録免許税に限られ、相続税がかかるかどうかや具体的な税額の計算は税理士の業務範囲です。相続する財産に不動産が含まれていて、どちらに何を相談すればよいか迷ったときは、まずお近くの司法書士にご相談ください。相続登記の窓口として手続き全体を整理してもらい、税務の相談が必要な部分は税理士につないでもらうのが一般的な流れです。

よくある質問

Q. 司法書士と税理士、それぞれに依頼すると費用は別々にかかりますか。 A. はい、司法書士報酬(相続登記の手続き費用と登録免許税等の実費)と、税理士報酬(相続税申告等の手続き費用)は、それぞれ別の専門家への支払いになります。金額はケースによって大きく異なるため、具体的な見積もりは各専門家に個別にご確認ください。

Q. 相続登記や相続税の申告には期限がありますか。放置するとどうなりますか。 A. 相続登記は、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することが法律上の義務となっており、正当な理由なく怠ると過料の対象となり得ます。相続税の申告についても、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内という期限が定められています。申告が必要かどうか、期限にどう対応すべきかは税理士にご確認ください。

Q. 自分で手続きすることはできますか。どこに相談すればよいですか。 A. 相続登記も相続税の申告も、制度上はご自身で行うことができます。ただし、戸籍の収集や書類の準備、評価額の計算など専門的な判断が必要な場面が多く、負担が大きくなりがちです。不動産の名義変更に関することはお近くの司法書士に、税金に関することは税理士にご相談いただくのが確実です。

【さらに深掘り】相続における司法書士と税理士の業務範囲の根拠

ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

税理士法52条が定める「税理士業務の制限」の構造

税理士法52条は、税理士または税理士法人でない者は、法律に別段の定めがある場合を除いて税理士業務を行ってはならない旨を定めています。ここでいう税理士業務とは、同法2条1項が列挙する税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つを指します。相続税について言えば、個別の財産状況に当てはめて税額を算出する行為や、特例の適用可否を判断して助言する行為は「税務相談」にあたり、税理士資格を持たない者が行うことは52条によって禁止されています。

もっとも、同法2条1項3号の「税務相談」は、条文上「税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずること」と定義されており(読みやすさのため、条文中のかっこ書きによる語句の定義部分は省いて引用しています)、「申告等に関し」という点と「課税標準等の計算に関する事項」という点の二つで範囲が絞られています。この絞りがあるため、税法の一般的な仕組みを説明するにとどまる場合と、具体的な事案に当てはめて税額や適用の可否を判断する場合とでは、扱いが異なると理解されています。ただし、どこまでが一般的な説明で、どこからが個別事案への当てはめにあたるのかという境界は、相談の具体性の度合いによって評価が分かれ得る部分であり、条文の文言だけで一義的に線が引けるものではありません。もっとも、評価が分かれ得るのは境界線をどこに置くかという点であって、具体的な財産に当てはめて税額や特例の適用可否を判断する行為が制限の対象になること自体は、争いのない部分です。そのため実務では、境界がはっきりしない領域には踏み込まず、税額に関わる判断に近づく場面では税理士に確認するという運用が取られています。

司法書士は司法書士法3条1項で不動産登記・商業登記等の業務範囲を定められた資格者であり、税理士登録を別途受けていない限り、この税理士業務の制限の外側に立つことはできません。相続登記の相談の中で相続財産の全体像に触れる場面は多くありますが、そこから先の「税額はいくらになるか」「特例を使えるか」という個別の判断に踏み込むと、資格のない税務相談を行ったことになり得ます。相続税について、司法書士が制度の存在や一般的な仕組みを説明することはできても、個別の税額計算や要否判断には立ち入らないのは、この条文構造によるものです。

登録免許税はなぜ司法書士が案内できるのか

登録免許税は、登録免許税法により、登記・登録等を受ける者に対して課される国税です。同法別表第一では、不動産の相続による所有権移転登記について、不動産の価額の1000分の4という税率が定められており、税額は登記の内容と固定資産税評価額から一義的に算出されます。なお、令和9年3月31日までの時限措置として、①相続により土地を取得した方がその相続登記を受ける前に亡くなった場合と、②不動産の価額が100万円以下の土地について相続による所有権移転登記等を受ける場合には、登録免許税が免除されます(租税特別措置法84条の2の2第1項・第2項)。この免税措置は登録免許税そのものについての定めであり、次に述べる税理士法2条1項の除外の範囲内にあります。登記申請に直結する事項でもあるため、司法書士が確認・案内する範囲に含まれます。

ここで決め手になるのは、税理士法2条1項の条文そのものです。同項は税理士の業務を「租税」に関する事務と定めていますが、その「租税」の定義から、印紙税・関税などと並べて登録免許税を明文で除外しています。つまり登録免許税に関する事務は、そもそも同項が列挙する税務代理・税務書類の作成・税務相談のいずれにも当たらず、52条の制限が及ぶ「税理士業務」の外側にあります。

これに加えて、司法書士の側にも根拠があります。登録免許税は「申告」という手続きを前提とする税目ではなく、登記の申請と同時に納付書等により納付する仕組みになっています。ここで確認しておくと、この「申告を前提としない」という性質は、後述のとおり税理士法上の除外の理由そのものではありません。登録免許税が登記手続と切り離せない位置にあることを示す、実務上の説明です。司法書士法3条1項は、登記手続の代理(1号)、法務局または地方法務局に提出する書類の作成(2号)、これらの事務についての相談(5号)を司法書士の業務として掲げており、登録免許税の額を計算して説明することは、これらの業務を行ううえで必要な事務として扱われています。

これに対して相続税・贈与税・不動産取得税は、いずれも税理士法2条1項の除外の列挙に入っておらず、税理士業務の対象となる「租税」に含まれます。ここで注意したいのは、除外されるかどうかを決めているのは、あくまで2条1項が掲げる除外の列挙そのものであって、申告が必要な税目かどうかという性質によって当然に決まるわけではないという点です。たとえば不動産取得税は、納税者が申告して自分で税額を確定させる仕組みの税ではありませんが、除外の列挙には含まれていません。逆に、除外の列挙には登録免許税のほか印紙税なども並んでおり、除外されている税目が登録免許税だけというわけでもありません。相続の場面で司法書士が案内できる税金が登録免許税に限られるのは、相続手続で問題になる税目のうち除外の列挙に入っているのが登録免許税だからであって、税目の性質から導かれる結論ではありません。

登記と税務相談、どちらを先に進めるか

実務では、相続登記の申請と相続税の申告は、どちらか一方が完全に終わってからもう一方に着手するという順序になるとは限りません。相続登記を申請するには遺産分割協議を成立させ、相続財産(特に不動産)の範囲を確定させる必要がありますが、この相続財産の把握や遺産分割協議の内容は、相続税申告における財産評価・分割方法の判断にもそのまま関わってきます。

一方で、相続税の申告には、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内という期限があります。相続財産に不動産が含まれ、かつ相続税の申告が必要なケースでは、この10か月という期限を意識しながら、遺産分割協議の成立、不動産の評価・分割内容の確定、相続登記の申請という流れを、税務申告の準備と並行して進めていくのが一般的な進め方です。相続税がかかるかどうかが分からない段階でも不動産の名義変更手続き自体は進めることができますが、申告が必要かどうかの判断や申告期限との兼ね合いは税理士が担う領域であるため、財産の内容によっては早い段階で税理士に確認しておくことが望ましい場合もあります。どちらを先に、どのように並行させるかは相続財産の内容によって異なるため、具体的な進め方は司法書士・税理士それぞれの窓口に確認しながら整理していく必要があります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月)。

あわせて読みたい