この記事の要点

  • 亡くなった月分などまだ支払われていない年金は「未支給年金」として、一定範囲の遺族が請求できます(国民年金法19条1項、厚生年金保険法37条1項)。
  • 未支給年金は遺産分割の対象になる相続財産ではなく、条文上「自己の名で」請求する、受け取る遺族固有の権利とされています。
  • 亡くなった後は、市区町村への死亡届とあわせて年金の手続きが必要です。日本年金機構にマイナンバーが収録されている場合、年金側の死亡届(報告書)は原則として提出不要ですが、未支給年金の請求は別に必要です。請求書の書き方や必要書類など具体的な手続きは、年金事務所・街角の年金相談センターが窓口です。

年金を受け取っていた方が亡くなると、「亡くなった月の年金はどうなるのか」という疑問が必ず出てきます。結論から言うと、年金は後払いの仕組みのため、亡くなった時点でまだ振り込まれていない分がほとんどの場合残ります。これが未支給年金です。相続財産に含めて遺産分割で分けるものではなく、一定範囲の遺族が請求すれば受け取れるお金として、法律上別枠で扱われています。

死亡後に必要になる手続き全体の時系列は、死亡後の手続きスケジュール全体像で整理しています。本記事では、そのなかでも未支給年金に絞り、①受け取れる遺族の範囲、②相続財産とは異なる法的性質、③死亡届からの年金停止手続きの流れ、の3点を確認します。未支給年金には請求期限(時効)もありますが、詳しい請求期限は未支給年金・葬祭費・埋葬料の請求期限で解説しているため、本記事では概要にとどめます。

未支給年金を受け取れる遺族の範囲と順位

未支給年金を請求できる人の範囲は、条文で定められています。国民年金法19条1項は、年金給付の受給権者が死亡した場合、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給していなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹またはこれらの者以外の三親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができると定めています。厚生年金保険法37条1項も、同じ構造の定めを置いています。

条文が挙げている遺族の範囲をまとめると、次のとおりです。なお、いずれの区分についても、後述のとおり「死亡の当時、その受給権者と生計を同じくしていた」ことが必要とされています。

  • 配偶者
  • 父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹
  • これら以外の三親等内の親族

これらのうち、実際に受け取る人の順位は政令で定めるとされています(国民年金法19条4項、厚生年金保険法37条4項)。条文は請求できる遺族の範囲を定め、そのなかでの優先順位は政令に委ねるという組み立てになっているため、誰が先に請求できるかは政令の定めによることになります。同じ順位の人が複数いる場合の扱いや、実際に誰がどの順位に当たるかは、ご家庭の事情によって当てはめが変わるため、個別の判断は年金事務所での確認が必要になります。本記事では、あくまで条文が定める制度の枠組みとしてご理解ください。

なお、いずれの要件にも共通するのが、「死亡の当時、その受給権者と生計を同じくしていた」という条件です。単に親族であるというだけでは足りず、この生計同一の要件を満たす必要があるとされています。

未支給年金は相続財産ではない――受給者固有の権利

未支給年金を考えるうえで押さえておきたいのが、この権利が相続財産ではないという点です。

条文をよく見ると、国民年金法19条1項も厚生年金保険法37条1項も、請求できる遺族が「自己の名で」未支給の年金を請求することができる、という書き方をしています。亡くなった方が持っていた請求権をそのまま相続人が引き継いで行使するという建て付けであれば、条文がわざわざ「自己の名で」と定める意味は乏しくなります。また、請求できる人の範囲が法定相続人の範囲と完全には一致しないこと、死亡の当時に生計を同じくしていたことが要件とされていることも、相続とは別の枠組みであることをうかがわせます。こうした条文の作りから、未支給年金の請求権は、遺産の分け方とは切り離された、請求する遺族固有の権利を定めたものと理解されています。

この理解と方向性が一致する最高裁判所の判断もあります。未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に、受給資格を持つ人が亡くなった事案で、最高裁は、その訴訟は当然に終了し、国民年金法19条1項に定められた人がこれを当然に引き継ぐものではないと判断しました(最高裁平成7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁)。相続によって承継される財産上の権利であれば、その支払を求める訴訟も相続人に引き継がれるのが通常です。訴訟が当然には引き継がれないという判断は、未支給年金の請求権が相続によって承継される性質のものではない、という理解と方向がそろうものと受け止められています。

ただし、この判決の射程には注意が必要です。判断の対象になったのは昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法19条であり、争われたのは訴訟手続上、訴訟が当然承継されるかという論点でした。判決そのものが、現在の19条1項や厚生年金保険法37条1項について「固有の権利だから遺産分割の対象にならない」と正面から述べているわけではありません。もっとも、この判決は、「自己の名で」という条文の文言から導かれる上記の理解と整合する例として、実務上あわせて紹介されることが多いものです。

こうした性質から、実務上、未支給年金は遺産分割協議の対象に含めなくてよいものとして扱われています。相続放棄をした人であっても、生計同一など未支給年金の請求要件を満たしていれば、未支給年金だけは請求できる場合があるとされる理由も、この「相続とは別の権利」という性質にあります。

死亡届と年金の受給停止手続きの流れ

未支給年金の請求は、亡くなった後の一連の手続きのなかに位置づけて理解しておくと流れをつかみやすくなります。

  1. 死亡届の提出:亡くなったことを知った日から7日以内(国外で亡くなった場合は3か月以内)に、市区町村役場へ死亡届を提出する必要があるとされています(戸籍法86条1項)。
  2. 年金の受給停止の届出:亡くなった方が年金を受給していた場合、「年金受給権者死亡届(報告書)」を年金事務所または街角の年金相談センターへ提出するのが原則です。厚生年金保険は法律上10日以内と定められ(厚生年金保険法98条4項)、国民年金は厚生労働省令に委ねられている(国民年金法105条4項)ため、期限の定め方が異なります。もっとも、日本年金機構にマイナンバー(個人番号)が収録されている方が亡くなったときは、この死亡届(報告書)の提出は原則として不要とされています(日本年金機構の案内・2026年8月時点)。
  3. 未支給年金の請求:死亡届(報告書)の提出が不要な場合であっても、未支給年金は請求しなければ支給されません。現在の請求書の様式は「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」という死亡届と兼用の書式になっており(2026年8月時点)、これを年金事務所または街角の年金相談センターへ提出します。書式は1枚でも、年金の受給停止と未支給年金の請求は法律上別の手続きです。マイナンバーの収録によって死亡届が不要になっても、未支給年金が自動的に支払われるわけではない点に注意が必要です。

死亡後の手続き全体のなかで、年金の届出がどのタイミングに位置づけられるかは、死亡後の手続きスケジュール全体像であわせてご覧ください。

**請求書の具体的な記入方法や、添付書類として何をそろえる必要があるかは、ケースによって異なります。年金の請求手続きは年金事務所・街角の年金相談センターへご相談ください。**請求書の作成支援や手続きの代行そのものは、社会保険労務士の業務範囲になります。

なお、「未支給年金」とよく混同されるものに「遺族年金」があります。未支給年金が、亡くなった方本人がすでに受け取る権利を持っていた分の後払いであるのに対し、遺族年金は、亡くなった方に生計を維持されていた遺族の生活保障を目的とした、まったく別の給付です。対象になる遺族の範囲や年金額の計算方法も異なり、それぞれ別に請求の要否を確認する必要があります。遺族年金の受給資格に該当するかどうかも含め、具体的な内容は年金事務所・街角の年金相談センターの案内をご確認ください。

まとめ

年金を受け取っていた方が亡くなったときの年金の扱いを整理すると、次のとおりです。

  • 亡くなった時点でまだ支払われていない年金は「未支給年金」として、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹など、死亡当時に生計を同じくしていた遺族が請求できます(国民年金法19条1項、厚生年金保険法37条1項)。
  • 未支給年金は、条文上「自己の名で」請求する、受け取る遺族固有の権利とされ、遺産分割協議の対象になる相続財産とは切り離されて扱われています。
  • 死亡届の提出とあわせて、年金の受給停止の届出と未支給年金の請求は別の手続きとして必要です。請求書の記入・必要書類など具体的な手続きは、年金事務所・街角の年金相談センターへご相談ください。

未支給年金の請求そのものは年金事務所の窓口が担当しますが、不動産の名義変更(相続登記)や遺産分割協議など、相続全体の手続きについてはお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 未支給年金はいくらくらいになりますか? 未支給年金の金額は、亡くなった方の年金の種類や、亡くなった時点までにいくら分が未払いだったかによって変わり、一律の金額はありません。具体的な金額の確認は、年金事務所・街角の年金相談センターへお問い合わせください。

Q. 未支給年金に期限はありますか?放置するとどうなりますか? 未支給年金の請求権にも時効があり、請求せずに期間が過ぎると受け取れなくなるとされています。具体的な年数や条文上の起算点は、未支給年金・葬祭費・埋葬料の請求期限で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

Q. 自分で手続きできますか?どこに相談すればいいですか? 未支給年金の請求書の記入や必要書類の確認は、年金事務所・街角の年金相談センターの案内に沿ってご自身で進めることができます。手続きの依頼を専門家にしたい場合は社会保険労務士が担当分野です。あわせて発生する不動産の名義変更(相続登記)など、相続全体に関するご相談はお近くの司法書士へどうぞ。

【さらに深掘り】未支給年金と税務上の位置づけ

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文で見たとおり、未支給年金は遺産分割の対象になる相続財産ではなく、請求する遺族固有の権利として扱われています。この位置づけは、税務上の扱いにも関わってきます。

相続税の課税対象にはならないのが原則

相続税は、相続または遺贈によって財産を取得した場合に、その取得した財産に対して課される税です(相続税法2条1項)。未支給年金の請求権は、亡くなった方が持っていた財産を遺族が相続によって承継するものではなく、請求する遺族が自己の権利として新たに取得するものと整理されているため、相続税の課税対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」には当たらないと解されています。そのため、未支給年金を相続税の申告における遺産総額に含める必要は、原則としてないとされています。

受け取った遺族本人の一時所得として所得税の対象になりうる

一方で、未支給年金を実際に受け取った遺族本人にとっては、扱いが変わります。未支給年金は、その遺族が自己の権利として新たに得た経済的利益であるため、所得税法上の「一時所得」(所得税法34条)に該当するものとして、所得税の課税対象になり得ると整理されています。一時所得は給与所得や事業所得など他の所得とは区別して計算され、年間の一時所得の合計額から支出額と特別控除額(上限50万円とされています)を差し引いた額のさらに2分の1が、他の所得と合算する際の課税対象になる仕組みです。もっとも、実際に確定申告が必要になるかどうかは、その年の他の所得の状況や、給与所得者かどうかなど、個々の事情によって変わります。

相続税申告での扱いとの違いを整理すると

  • 未支給年金:相続財産に含めず相続税の申告対象外(原則)。ただし受け取った遺族本人の一時所得として所得税の対象になりうる
  • 通常の相続財産(不動産・預貯金など):相続税の申告対象。遺産分割協議の対象にもなる

同じ「亡くなった方に関連して受け取るお金」でも、相続財産に当たるかどうかで課税関係の入口がまったく異なります。相続税の申告要否の判断、一時所得としての確定申告の要否や金額計算は、個々の所得状況によって結論が変わるため、具体的な税務判断はお近くの税理士にご確認ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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