この記事の要点
- 葬儀のあとに受け取れる公的なお金には、国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費と、会社員などが加入する健康保険の埋葬料があります。名称も窓口も請求できる人も別々です。
- 葬祭費は市区町村、埋葬料は協会けんぽまたは健康保険組合が窓口で、いずれもこちらから申請しないと支給されません。
- 葬祭費は葬儀を行った人(喪主)が、埋葬料は亡くなった方に生計を維持されていて埋葬を行った人が請求できるとされ、対象者の決まり方が制度ごとに異なります(葬祭費は条例・規約、埋葬料は法律の条文で定められています)。
- 亡くなった方が健康保険の被扶養者(家族として扶養に入っていた方)だった場合は、被保険者に対して家族埋葬料が支給されます(健康保険法113条)。「本人が加入者ではなかったから何もない」と思い込みやすいところです。
- これらの給付は相続財産そのものではなく、請求できる人が固有に受け取るお金という位置づけです。葬儀費用と相続財産の関係も、あわせて整理しておくと安心です。
本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の請求書作成や金額計算は、各窓口にご確認ください。
「請求しないと出てこないお金」がある
身内が亡くなったあとは、死亡届の提出から始まり、名義変更や各種の届出に追われます。手続き全体の時系列は、死亡後の手続きスケジュール全体像で整理していますが、そのなかで見落とされやすいのが、役所や保険者から知らせが来るわけではなく、こちらから申請してはじめて受け取れるお金です。
葬祭費・埋葬料は、その代表例です。葬儀を終えたあとの一区切りで、うっかり手続きを忘れてしまったという声も少なくありません。まずは制度の違いから確認します。
葬祭費と埋葬料は別の制度
葬儀に関して支給されるお金は、亡くなった方がどの医療保険に加入していたかによって、名称も根拠となる法律も変わります。
国民健康保険では、市町村および組合が、被保険者の死亡に関し、条例または規約の定めるところにより葬祭費の支給または葬祭の給付を行うものとされています(国民健康保険法58条1項本文)。ただし、特別の理由があるときはその全部または一部を行わないことができる、というただし書きも置かれています(同項ただし書)。
後期高齢者医療(75歳以上の方などが加入する制度)でも、後期高齢者医療広域連合が、条例の定めるところにより葬祭費の支給または葬祭の給付を行うものとされています(高齢者の医療の確保に関する法律86条1項本文)。こちらも同じただし書きがあります。
いずれも条例・規約の定めによるという建て付けのため、支給される金額や具体的な取扱いは自治体によって差があります。
一方、会社員などが加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)では、名称が埋葬料に変わります。被保険者が死亡したときは、その方により生計を維持していた人であって埋葬を行う人に対し、埋葬料として政令で定める金額が支給されます(健康保険法100条1項)。この金額は政令で一律に定められており、国保・後期高齢者医療の葬祭費のような地域差はありません。
誰が請求できるか
対象者の区別も、制度によって異なります。
- 葬祭費(国民健康保険・後期高齢者医療)……条文は「葬祭費の支給又は葬祭の給付を行う」と定めるだけで、誰に支給するかは条例・規約に委ねられています(国民健康保険法58条1項、高齢者の医療の確保に関する法律86条1項)。実務上は葬儀を主宰した人(喪主)が請求するのが一般的ですが、具体的な要件は自治体の条例によるため、詳細はお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
- 埋葬料(健康保険)……亡くなった方に生計を維持されていた人であって、埋葬を行う人に支給されます(健康保険法100条1項)。配偶者や扶養家族が典型例ですが、事実上生計を同じくしていた人も含まれ得ます。
- 埋葬費(健康保険・埋葬料を受けるべき人がいない場合)……埋葬料を受けるべき人がいないときは、実際に埋葬を行った人に対し、埋葬料の金額の範囲内で、埋葬に要した費用に相当する額が支給されます(健康保険法100条2項)。条文上の名称は「埋葬料」のみですが、協会けんぽの案内ではこの2項による支給を「埋葬費」と呼んで区別しています。
このように、葬祭費は条例・規約にゆだねられたうえで実務上「喪主」を軸に、埋葬料は法律の条文で「生計維持関係」を軸に対象者が決まる点が、両者のわかりやすい違いです。
亡くなったのが「扶養に入っていた家族」だった場合
ここまでは、亡くなった方ご本人が医療保険の被保険者(加入者本人)だった場合の話です。これに対して、亡くなった方が会社員などの健康保険の被扶養者、つまり加入者本人の扶養に入っていた家族だった場合には、別の区分が用意されています。
被保険者の被扶養者が死亡したときは、家族埋葬料として、被保険者に対し、埋葬料と同じく政令で定める金額が支給されます(健康保険法113条)。請求できるのは遺族の方一般ではなく、亡くなった方を扶養していた被保険者ご本人です。
「亡くなった家族は自分の保険の扶養に入っていただけで、本人が加入者ではなかったのだから、受け取れるものはない」と考えてしまいがちですが、健康保険にはこの区分があります。なお、国民健康保険・後期高齢者医療には「被扶養者」という区分がなく、加入している方はいずれも被保険者ですので、この場合は前述の葬祭費の対象になります。金額や必要書類は、加入していた協会けんぽ・健康保険組合の窓口にご確認ください。
必要書類の一般的な種類
必要書類は自治体・保険者によって異なりますが、共通しておおむね次のようなものが求められることが多いとされています。
- 各窓口所定の申請書
- 死亡の事実がわかる書類(死亡届の記載事項証明書、死亡診断書の写しなど)
- 申請者が葬儀を行った人(葬祭費の場合)または生計維持関係にあった人(埋葬料の場合)であることがわかる書類(会葬礼状、葬儀費用の領収書、住民票の除票、続柄がわかる戸籍関係書類など)
- 申請者本人であることを確認できる書類、印鑑、振込先口座がわかるもの
- 亡くなった方の医療保険の資格を確認できるもの(資格確認書など。お持ちの場合。資格喪失の届出・返却の案内とあわせて求められることが一般的です)
「健康保険証」はすでに役割を終えています
必要書類の案内で「健康保険証」と書かれているのを見かけますが、この点は近年大きく変わりました。
従来の健康保険証は、2024年(令和6年)12月2日以降は新たに発行されておらず、すでに発行済みのものも2025年(令和7年)12月1日で有効期限が終了しています。現在は、マイナンバーカードを健康保険証として使うマイナ保険証か、マイナ保険証をお持ちでない方などに申請によらず無償で交付される資格確認書が、医療保険の資格を確認する手段になっています。有効期限が切れた従来の健康保険証を医療機関の窓口に持参した場合の経過的な取扱いも、2026年(令和8年)7月31日で終了しました(厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」)。
そのため、亡くなった方の手元に従来の健康保険証が残っていないことも普通にあります。全国健康保険協会(協会けんぽ)の案内でも、被保険者が亡くなったときに事業主へ返却するものは「保険証・資格確認書(お持ちの方のみ)」という書き方に改められています。案内書面の文言が「保険証」のままになっている窓口もありますが、実際に返却するのは資格確認書(お持ちの場合)であり、どれも手元にない場合の取扱いは窓口にご確認ください。
必要書類は窓口ごとに用意された一覧があります。申請書の記入方法や、ご自身のケースでどの書類が必要かは、市区町村・協会けんぽ・健康保険組合の窓口に直接お問い合わせいただくのが確実です。
葬儀費用と相続財産の関係
葬祭費・埋葬料とあわせて、葬儀費用そのものと相続財産の関係についても、疑問に思われる方が多いところです。
まず、誰が葬儀費用を負担するかについて、民法に明文の規定はありません。この点は考え方が一つに定まっておらず、①葬儀を主宰した喪主が負担するという整理、②相続人が共同で負担するという整理、③相続財産から支出されるべきものとみる整理などが示されています。どの整理によるかは見解が分かれており、いずれか一つが正解であると法律で決まっているわけではありません。
なお、葬儀社に対して支払義務を負うのは、葬儀社と契約を結んだ当事者本人です。喪主が自分の名義で葬儀社と契約を結んだのであれば、葬儀社への支払義務を負うのはその喪主ということになります。ただしこれは葬儀社に対する支払いをどうするかという契約上の話であり、最終的に誰が費用を負担するのかという①〜③の問題とは場面が異なります。実際にも、相続人どうしの話し合いや遺産分割協議のなかで、香典や遺産から支払う取り決めをすることが一般的に行われています。
次に、相続税の計算という別の場面では、葬式費用の取り扱いが定められています。相続税の申告にあたっては、葬式費用の一定額を遺産の価額(課税価格)から差し引くことができるとされています(相続税法13条1項2号)。どこまでの費用が対象になるか、具体的な金額の計算は、税理士にご確認ください。この記事では一般的な制度の説明にとどめます。
最後に、葬祭費・埋葬料そのものは、相続財産には含まれません。これらは、亡くなった方の財産を相続人が引き継ぐお金ではなく、葬祭費であれば喪主、埋葬料であれば生計維持者というように、請求できる人が固有に受け取る給付という位置づけです。同じように「亡くなった後に請求する固有の権利」として整理できるものに未支給年金があり、こちらは未支給年金とは?で詳しく解説しています。
なお、葬祭費・埋葬料には請求期限(時効)もあります。具体的な期間や起算点は未支給年金・葬祭費・埋葬料の請求期限で整理していますので、早めの確認にお役立てください。
まとめ
葬祭費・埋葬料は、亡くなった方が加入していた医療保険によって名称・窓口・対象者が変わる制度です。
- 葬祭費……国民健康保険・後期高齢者医療の制度。窓口はお住まいの市区町村。請求できるのは、実務上は葬儀を行った人(喪主)。
- 埋葬料・埋葬費……健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の制度。窓口は協会けんぽまたは健康保険組合。請求できるのは、生計維持関係にあった人(いない場合は実際に埋葬を行った人)。
- 家族埋葬料……健康保険の被扶養者が亡くなった場合の制度。窓口は協会けんぽまたは健康保険組合。請求できるのは、その方を扶養していた被保険者。
いずれも申請しなければ支給されないお金です。手続きの詳細や必要書類は、市区町村・協会けんぽ・健康保険組合へお問い合わせください。あわせて、相続財産の名義変更(相続登記)など相続手続き全体でお困りの場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 葬祭費・埋葬料はいくらもらえますか?
金額は制度・自治体によって異なります。国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費は条例で金額が定められているため地域差があり、健康保険の埋葬料は政令で全国一律の金額が定められています。正確な金額は、お住まいの市区町村、または加入していた協会けんぽ・健康保険組合の窓口にご確認ください。
Q. 期限はありますか?放置するとどうなりますか?
はい、期限(時効)があります。請求せずに一定期間が過ぎると、時効によって受け取れなくなるとされています。具体的な期間と起算点は、未支給年金・葬祭費・埋葬料の請求期限で整理していますので、あわせてご確認ください。
Q. 自分で申請できますか?どこに相談すればよいですか?
はい、ご自身で市区町村・協会けんぽ・健康保険組合の窓口に申請するのが基本の流れです。申請書の様式や必要書類は窓口ごとに用意されているため、直接お問い合わせいただくのが確実です。相続財産の名義変更(相続登記)など相続手続き全体については、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】葬祭費・埋葬料と相続財産の税務上の位置づけ
ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では、葬祭費・埋葬料が相続財産に含まれない給付であること、また葬儀費用と相続税の関係についても触れました。ここでは、この2つの論点を税務の一般知識の範囲でもう少し整理します。なお、具体的な金額の計算や個別の申告判断は行いません。実際の計算・申告は税理士にご相談ください。
葬式費用が相続税の課税価格から控除される制度の一般的な内容
相続税の計算では、相続人が負担した葬式費用の一定額を、遺産の価額(課税価格)から差し引くことができるとされています(相続税法13条1項2号)。これは、相続税は亡くなった方の遺産にかかる税金であるところ、葬式費用は相続の開始に伴って必然的に生じる出費であるため、その負担分を考慮する趣旨によるものとされています。
控除の対象になりやすい費用・なりにくい費用については、一般的に次のような整理がされています。
- 対象になりやすいとされるもの……通夜・葬儀・告別式にかかった費用、火葬・埋葬・納骨にかかった費用、遺体の搬送費用など、葬儀そのものに直接関連する費用
- 対象になりにくいとされるもの……香典返しの費用、墓地・墓石の購入費用や墓地を借りるためにかかった費用、初七日・四十九日などの法要にかかる費用
この区分はあくまで一般的な傾向であり、個々の支出がどちらに当たるかは領収書の内容や支出の実態によって判断が分かれることがあります。具体的な金額の計算や、ある支出が控除対象に当たるかどうかの個別判断は、税理士にご確認ください。
葬祭費・埋葬料そのものの税務上の位置づけ
本文で述べたとおり、葬祭費・埋葬料は相続財産ではなく、請求できる人(喪主や生計維持者)が固有の権利として受け取る給付です。この給付自体について相続税・所得税いずれの課税関係も生じない非課税の給付として扱われるのが一般的とされています。相続財産に含めて申告する必要がない、という位置づけです。
香典の取扱いについて
葬儀の際に受け取る香典についても、気になる方が多いところです。香典は、喪主や遺族に対する贈与に類するものと説明されることが多く(その法的性質をどう理解するかは一つに定まっていません)、社会通念上相当と認められる範囲であれば、贈与税は課税されないものとして扱われるのが実務上一般的とされています。どこまでが「社会通念上相当」に当たるかを含め、個別の判断は税理士にご確認ください。
このように、葬式費用の控除・葬祭費や埋葬料の非課税・香典の非課税は、それぞれ制度も根拠も異なる一般論です。相続税の申告が必要かどうか、具体的な控除額がいくらになるかといった個別の計算・判断は、この記事の範囲を超えます。お近くの税理士にご相談ください。相続手続き全体(相続登記など)でお困りの場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 国民健康保険法 第58条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000192
- 高齢者の医療の確保に関する法律 第86条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/357AC0000000080
- 健康保険法 第100条(埋葬料・埋葬費)・第113条(家族埋葬料)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 相続税法 第13条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「埋葬料・埋葬費」: https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/burial_charges/index.html
- 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08277.html
- 国税庁 タックスアンサー No.4129「相続財産から控除できる葬式費用」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4129.htm
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説などの二次資料ですが、葬儀費用の負担者に関する考え方の整理(本文①〜③)が実務で一般的に紹介されていることの確認に参照したため、一次情報と区別して掲載しています。
- 埼玉司法書士会 くらしに役立つ法律Q&A「葬儀代は誰が負担?」: https://www.saitama-shihoshoshi.or.jp/law_qa/%E8%91%AC%E5%84%80%E4%BB%A3%E3%81%AF%E8%AA%B0%E3%81%8C%E8%B2%A0%E6%8B%85/
- 弁護士による大阪遺言・相続ネット「葬儀費用は誰が負担するのか?」: https://www.o-basic-souzoku.net/knowledge8/knowledge8-01/