この記事の要点
- 成年後見人の代理権は、本人の死亡によって原則として当然に終了すると解されており、その後の財産管理は本来相続人が担うもの
- ただし民法第873条の2により、相続人が財産を管理できるようになるまでの間、特定の財産の保存・弁済期到来済みの債務の弁済・火葬や埋葬の契約締結など、限られた行為だけは例外的に認められる
- 現行法では、この規定の主語は「成年後見人」に限られ、保佐人・補助人には適用がない(この点は成立済みの法改正で見直される予定・施行日は未定)
「本人が亡くなったら、後見人の仕事もそこで終わり」というイメージを持たれる方が多いのですが、実際には民法に定められた限られた範囲で、死後も一定の事務を担うことがあります。本記事は、執筆時点(2026年08月)の制度に基づく一般的な解説です。
後見は本人の死亡で当然に終了する
成年後見制度は、本人(成年被後見人)の生活と財産を保護するための制度です。本人が亡くなれば保護すべき対象そのものがなくなるため、成年後見人の地位・代理権は原則として当然に終了すると解されています。もっとも、本人の死亡によって後見が終了することを正面から定めた民法の条文があるわけではなく、この結論は制度の趣旨からの解釈によって導かれているものです。後見登記等に関する法律第8条第1項が、後見人等が成年被後見人の死亡を知ったときは終了の登記を申請しなければならないと定めていることからも、死亡が後見の終了事由として扱われていることがうかがえます。
代理権が終了する以上、本来であれば本人の死後の財産の管理・処分は相続人が担うのが筋です。
例外的にできること(民法第873条の2)
もっとも、本人が亡くなった直後は、相続人が遠方にいたり、すぐには連絡が取れなかったりして、財産の管理をただちに引き継げないことがあります。そこで民法第873条の2は、相続人が相続財産を管理することができるようになるまでの間、必要があるときに限り、成年後見人が次の行為をすることを例外的に認めています。
- 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(例:空き家になった自宅の応急的な修繕など)
- 相続財産に属する債務のうち、弁済期が到来しているものの弁済
- 死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(1号・2号に掲げる行為を除く)
このうち3号の行為(火葬・埋葬の契約締結など)をするには、家庭裁判所の許可を得なければならないと条文に明記されています。家庭裁判所の許可を得ることが条文上求められているのはこの3号の行為で、1号・2号については、そのような定めは置かれていません。
また、1号から3号のいずれについても、条文の柱書が「相続人の意思に反することが明らかなときを除き」と定めています。相続人の意向をあらかじめ確認しなければならないという書き方ではありませんが、相続人が反対していることがはっきりしている場面では、成年後見人はこれらの行為をすることができません。
さらに緊急対応が必要な場合(民法第874条・第654条準用)
民法第874条により、委任契約に関する第654条が後見について準用されます。第654条は、委任が終了した場合に急迫の事情があるときは、委任事務を処理できる状態になるまで必要な処分をしなければならないとする、応急処分義務の規定です。873条の2に列挙された行為だけでは対応しきれない急迫の事情がある場合には、この応急処分義務を根拠に対応することも考えられます。
保佐人・補助人には適用されない(現行法の話)
民法第873条の2は「成年後見人は」と主語が限定されており、保佐人・補助人には適用がありません(法定後見の3類型「後見・保佐・補助」はどう違う?もあわせてご確認ください)。保佐・補助の対象となっていた方が亡くなった場合の死後の事務は、この条文の対象外です。
ここまでは、いま現に施行されている制度の説明です。次の節でふれるとおり、成立済みの法改正では、後見・保佐の制度自体が廃止されて補助に一元化される予定で、それに伴って、この死後事務の権限は改正後の「補助人」の権限として定め直されることになっています。いまの補助人に新しく権限が加わる、という話ではなく、後見人・保佐人・補助人という区分そのものがなくなることに伴う置き換えです。ただし、その施行日はまだ決まっていません。
制度改正の動きにご注意ください
成年後見制度をめぐっては、令和8年(2026年)6月17日成立・同月24日公布の「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、大きな見直しが予定されています。法務省は、この改正の内容として「後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化」することを挙げています。
この一元化に伴い、本記事で説明した死後事務の条文も置き換わることが予定されています。改正後の民法では第873条の2は削除され、代わりに第876条の26(補助開始の審判を受けた者の死亡後の補助人等の権限)が置かれます。火葬・埋葬に関する契約の締結は同条第1項として独立した項に移り、家庭裁判所の許可を得て行うものとされます。特定の財産の保存に必要な行為と弁済期が到来した債務の弁済は同条第2項に移り、そこには「当該死亡した時における権限内の行為に限る」という限定が新たに加わります。応急処分義務の準用も、第874条(後見への準用)から第876条の27(補助への準用)に移ります。
もっとも、成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、本記事執筆時点(2026年8月)では政令が定められておらず、確定していません。施行日を迎えるまでの間は、本記事で説明した現行の第873条の2が適用されます。実際にこうした場面に直面された際は、その時点で施行されている制度をご確認ください。
まとめ
成年後見人の代理権は本人の死亡で原則終了し、死後の財産管理は本来相続人が担うものです。ただし民法第873条の2により、相続人が管理を始められるまでの間、特定の財産の保存・弁済期到来済みの債務の弁済・(家庭裁判所の許可を得たうえでの)火葬や埋葬の契約締結という限られた範囲で、成年後見人が例外的に対応できます。このほか、急迫の事情がある場合には、民法第874条・第654条の応急処分義務によって対応することも考えられます。実際にどこまでの対応が認められるかは個々の事情によって判断が分かれますので、具体的な場面に直面された際は、お近くの司法書士会や、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート等にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
- 民法 第874条(委任の規定の準用)・第654条(委任の終了後の処分)
- 後見登記等に関する法律 第7条(変更の登記)・第8条(終了の登記)
- e-Gov法令検索 民法: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索 後見登記等に関する法律: https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000152
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(令和8年法律第45号・令和8年6月24日公布): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 民法 第876条の26(補助開始の審判を受けた者の死亡後の補助人等の権限)・第876条の27(委任の規定の準用)※令和8年法律第45号による改正後の条文(本記事執筆時点で未施行・成年後見制度の見直し部分の施行段階の版): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089_20281223_508AC0000000045