この記事の要点

  • 成年後見人と本人の利益がぶつかる行為(利益相反行為)については、後見人は本人を代理できず、本人のために特別代理人を選任するよう家庭裁判所に請求します(民法860条・826条)
  • ただし後見監督人がいるときは、監督人が本人を代表するため、特別代理人の選任は必要ありません(民法860条ただし書・851条4号)
  • 保佐・補助にも同じ仕組みがあり、こちらは臨時保佐人・臨時補助人を選任します(民法876条の2第3項・876条の7第3項)

「母の成年後見人になった。その母の相続——父の遺産分割協議に、自分も相続人として参加する」。このような場面では、後見人であるご本人(子)が、母の代理人としての立場と、自分自身の相続人としての立場を同時に持つことになります。民法は、こうした場面で後見人が本人を代理することを認めず、別の代理人を立てる仕組みを用意しています。本記事は、執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

「利益相反行為」とは、どんな場面か

裁判所は、利益相反行為を「本人と後見人等の間の利益相反行為(法律上の利害が衝突する法律行為)」と説明しています。よく挙げられる典型例は次の2つです。

  • 成年後見人と成年被後見人(本人)との間で遺産分割協議をするとき
  • 成年後見人が自分の債務の担保として、本人が所有する不動産に抵当権を設定するとき

ポイントは、後見人に本人を害するつもりがあったかどうか、といった内心の事情で決まるものではない、という点です。その行為が法律上どのような利害関係に立つか——後見人の側が得をすれば本人の側が損をする関係にあるか——という、行為そのもののかたち(外形)から判断するのが基本的な考え方とされています。最高裁も、親権者と子の利益相反(民法826条)について、「利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでない」とした原審(高等裁判所)の判断を「正当」であるとして、この基準を是認しています(最高裁第三小法廷昭和42年4月18日判決・民集21巻3号671頁)。成年後見人については、この826条が民法860条で準用されていますので、同じ基準で判断されると解されています。「うちは家族仲がよいから大丈夫」という事情は、この判断を左右しません。

後見人は代理できず、特別代理人の選任を請求する

民法860条は、親権者と子の利益相反について定めた民法826条を、後見人に準用しています。826条1項は「特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」と定めています。この規定が準用されることで、特別代理人の選任を請求することが後見人の義務になります。つまり後見人は、自分の判断で「これくらいなら」と本人を代理してしまうことはできません。

手続きの概要は次のとおりです(裁判所の案内による)。

  • 申立先:後見開始の審判をした家庭裁判所
  • 申立人:後見人等、本人、本人の親族、利害関係人
  • 費用:申立手数料として収入印紙800円分(このほかに郵便料が必要で、金額は裁判所ごとに異なります)
  • 主な添付書類:利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)、特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票

選任された特別代理人は、その利益相反行為について本人を代理します。たとえば遺産分割協議であれば、特別代理人が本人の側に立って協議に加わることになります。

この手続を経ないまま後見人が本人を代理して利益相反行為をした場合には、その行為の効力が問題になります。あとから争いになることを避けるためにも、利益相反にあたるかどうかは、行為をする前に確認しておく必要があります。

後見監督人がいるときは、特別代理人はいらない

民法860条にはただし書があり、「後見監督人がある場合は、この限りでない」とされています。これは、後見監督人の職務を定めた民法851条4号が「後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること」を挙げているためです。監督人がすでに本人を代表する役割を担っているので、あらためて特別代理人を選ぶ必要がないという整理です。

後見監督人がどのような場合に選ばれ、ふだん何をしている人なのかは、後見監督人とは?成年後見人を見守る仕組みと選ばれるケースで詳しく説明しています。

保佐・補助では「臨時保佐人」「臨時補助人」

同じ考え方は、保佐・補助にも用意されています。民法876条の2第3項は「保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない」と定め、民法876条の7第3項が補助について同じ内容を定めています。呼び名が「特別代理人」ではなく「臨時保佐人」「臨時補助人」になる点に注意してください。なお、裁判所の案内は、この仕組みを、裁判所が選任した別の人が後見人等に代わって本人を代理するものとして説明したうえで、保佐人・補助人については「遺産分割等の代理権が付与されている場合に限ります」としています。

制度改正の動きにご注意ください

成年後見制度は、大きな改正が予定されています。法務省の公表によれば、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。その内容には「後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化して本人にとって必要な範囲でその利用を可能とすること」が含まれています。施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、2026年8月の確認時点では具体的な時期は定まっていません。

この改正が施行されると、本記事で引用した条文そのものも入れ替わる予定です。e-Gov法令検索が公開している改正後(未施行)の条文では、民法851条は「未成年後見監督人の職務」、民法860条は「第826条の規定は、未成年後見人について準用する。ただし、未成年後見監督人がある場合は、この限りでない」となり、いずれも未成年後見についての規定になります。利益相反の場面で臨時の代理人を選任する仕組みは、補助に一元化されたうえで民法876条の14に置かれ、「補助人又はその代表する者と補助開始の審判を受けた者との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない」と定められる予定です。ただし、改正法が施行されるまでは現行の条文が適用されますので、それまでは本記事で説明した仕組みで運用されます。実際に手続きを検討される際は、その時点の制度をご確認ください。

まとめ

成年後見人と本人の利益がぶつかる行為(遺産分割協議、後見人の借入れのために本人の不動産へ抵当権を設定する場合など)では、後見人は本人を代理できず、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する必要があります。ただし後見監督人がいるときは、監督人が本人を代表するため特別代理人は不要です。保佐・補助では臨時保佐人・臨時補助人が同じ役割を担います。実際にどの行為が利益相反行為にあたるかは、後見人の動機やご家族の事情ではなく行為のかたちによって決まるとされており、判断が難しい場合もありますので、具体的な手続きについては、後見開始の審判をした家庭裁判所や、お近くの司法書士会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートにご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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