この記事の要点
- 成年後見人は本人の財産管理や契約を広く代理できるが、「何でもできる」わけではなく、法律上できないことがある
- 医療への同意、本人の身元保証、婚姻などの身分行為は、後見人が本人に代わって行うことはできない
- 本人が住む自宅の売却など、影響の大きい行為には家庭裁判所の許可が必要
「成年後見人になれば、本人のことは何でも代わりに決められる」——そう思われがちですが、実際には後見人にも「できないこと」があります。本記事は、執筆時点(2026年07月)の制度に基づく一般的な解説です。後見・保佐・補助の違いについては、法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?もあわせてご覧ください。
なお、2026年(令和8年)に成年後見制度を大きく見直す法律(令和8年法律第45号)が成立・公布されました。ただし施行日は今後政令で定められる予定で、執筆時点ではまだ施行されていません(施行は2028年ごろの見込み)。将来的には後見・保佐・補助の3類型が「補助」に一元化される見通しで、施行後は後見人の権限のあり方も変わる可能性があります。本記事は、現在施行されている制度をもとにした解説です。
後見人の仕事は「財産管理」と「身上保護」の法律行為
成年後見人の役割は、大きく分けて本人の「財産管理」と「身上保護(生活や療養の手配)」に関する法律行為を代理・支援することです。預貯金の管理、施設との契約、公共料金の支払いなどがこれにあたります。逆に言えば、法律行為でないことや、本人だけが決められることには、後見人の権限が及びません。
医療への同意はできない
手術や入院などの医療行為に「同意する」ことは、本人だけが持つ権利とされ、後見人が本人に代わって同意することはできないと考えられています。後見人ができるのは、入院や治療の「契約手続き」を整えることまでで、治療そのものを受けるかどうかの決定は本人の意思にゆだねられます。なお、この医療同意については法律に明確な定めがなく、緊急時などにどこまで後見人が関われるかは、専門家の間でも見解が分かれ、制度としての整備が課題として議論され続けている論点です。
本人の身元保証人にはなれない
施設入所などで身元保証を求められる場面がありますが、後見人が本人の身元保証人になることは、本人と後見人の利益が対立するおそれ(本人の財産を守る立場と、保証人として責任を負う立場が衝突する)があるため、原則としてなじまないとされています。
婚姻・離婚などの身分行為は代理できない
婚姻・離婚・養子縁組・認知といった「身分行為」は、本人だけができる一身専属的な行為です。たとえば民法は、成年被後見人が婚姻するのに後見人の同意は要らないと定めています(民法738条)。後見人が本人に代わって結婚を決めることも、逆に本人の結婚を止めることもできません。
掃除や送迎などの「事実行為」も職務ではない
訪問介護の「契約」を結ぶのは後見人の仕事ですが、掃除そのものや通院の付き添いといった「事実行為」は、法律行為ではないため後見人の本来の職務ではありません。実際にはヘルパーや介護サービス、家族などの支援と組み合わせて本人の生活が支えられます。
自宅の売却には家庭裁判所の許可がいる
本人が住んでいる(または住む予定の)自宅など「居住用不動産」を売却・賃貸・抵当に入れるといった処分には、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。住まいは本人の生活の基盤であり、影響が大きいため、後見人の判断だけでは進められない仕組みになっています。判断能力が下がる前に自分で備えたい場合は、任意後見契約とはもご参照ください。
まとめ
成年後見人は本人を広く支える立場ですが、医療同意・身元保証・身分行為はできず、自宅の処分には家庭裁判所の許可が必要という「限界」があります。何ができて何ができないのかは個別の事情でも分かれるため、制度の利用を具体的に検討される場合は、お住まいの地域の家庭裁判所や、成年後見に取り組む司法書士会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、地域包括支援センター等にご相談ください。お近くの司法書士に相談する前の準備は、司法書士に相談する前に準備しておきたいことも参考になります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第738条(成年被後見人の婚姻。婚姻に成年後見人の同意を要しない)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法 第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可。売却・賃貸・抵当権設定等に家庭裁判所の許可が必要)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し/令和8年法律第45号。令和8年6月24日公布・施行日は政令で定める未施行)(法務省 民事局): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html