成年後見を受けると選挙で投票できなくなる?──平成25年の法改正で戻った選挙権と、いまの投票の仕組み

この記事の要点 かつて公職選挙法は、成年被後見人(後見を受けている人)を選挙権を持たない者としていましたが、平成25年(2013年)の法改正でこの規定が削除され、いまは後見を受けていても投票できます 後見人が本人に代わって投票先を決めて投票することはできません。投票は本人が自ら行うのが原則です 字を書くことが難しい場合の「代理投票」や、身体に重度の障害がある方の「郵便等による投票」など、本人の投票を支える仕組みがあります 「親が後見を受けることになったら、もう選挙には行けないのでしょうか」——そんな疑問を持たれる方がいます。結論からいうと、いまは後見を受けていても選挙権はあり、投票できます。本記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月31日 · ひぐらしさとし

家族信託が向かないケース──身上監護・年金・認知症がすでに進んでいるとき

この記事の要点 家族信託は「財産を家族に託して管理してもらう」契約です。財産以外のこと(施設入所や介護の契約など)を任せる仕組みではありません 年金を受け取る権利のように、法律で人に譲れないとされている財産は、信託することができません 家族信託は本人が結ぶ契約なので、本人が契約の内容を理解できなくなった後は、新しく始めることができません 受託者を引き受けられる家族がいない場合も、家族信託は使いにくくなります それぞれの場面には、任意後見・法定後見・日常生活自立支援事業など、代わりに検討される制度があります。迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください 家族信託は、認知症への備えとしてよく名前が挙がる仕組みですが、どんな場面にも使える万能の制度ではありません。結論から言うと、「財産以外のことを任せたい」「任せたい財産がそもそも信託できない」「本人がもう契約を結べない」「託せる人がいない」という場面では、家族信託は向かないか、使うことができません。こうした場面では、別の制度を中心に考えることになります。 ...

2026年10月31日 · ひぐらしさとし

成年後見が終わったら本人の財産はどうなる?──後見人がする「管理の計算」と財産の引渡し(民法870条)

この記事の要点 成年後見人の任務が終わったときは、成年後見人(またはその相続人)が、2か月以内に「管理の計算」をしなければなりません。期間は家庭裁判所が延ばすことができます(民法870条) 管理していた財産を引き継ぐ相手は、終わり方によって変わります。本人が亡くなったときは相続人、後見開始の審判が取り消されたときは本人、辞任・解任で交代するときは後任の成年後見人です 後見監督人がいるときはその立会いが必要で、返す金額には利息が付き、後見に関して生じた債権には時効があります。保佐人・補助人にも同じ規定が準用されています 成年後見は、いつまでも続くとは限りません。そして、成年後見人の任務が終わったときに「預かっていた通帳をそのまま渡せば終わり」というわけではなく、民法は、任務の終わりに「管理の計算」という締めくくりの作業を求めています。本記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月27日 · ひぐらしさとし

親の判断能力が落ちてきたと感じたら──使える制度を時間軸で並べる(見守り・委任・後見・信託)

この記事の要点 見守り契約・財産管理等委任契約・任意後見契約・家族信託・銀行の代理人の届出は、どれも親本人が内容を理解して自分で決めることが前提の「契約による備え」です。判断能力が落ちるほど、新しく始めるのは難しくなります 判断能力が落ちてきた時期に新しく使い始められる仕組みとして、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、法定後見のうちの「補助」があります 契約の内容を理解するのが難しくなった後は、元気なうちに用意してあった備えを動かすか、家庭裁判所の法定後見を使うか、が基本の選択肢になります 親がいまどの段階にあるかを医学的に判断するのは医師です。家族の見立てだけで決めつけないことが大切です 迷ったら、介護や暮らしのことは地域包括支援センター、制度や手続きのことはお近くの司法書士にご相談ください 親の物忘れが増えた、通帳の置き場所が分からなくなることがある──そう感じたとき、子の立場で知っておきたいのは、「どの制度が、親のどの段階まで使えるのか」です。結論から言うと、契約で結ぶ備えの多くは、親本人が内容を理解して決められるうちでなければ新しく始められません。逆に、その時期を過ぎても使える仕組み(法定後見など)もあり、早めに用意しておいた備えには、判断能力が落ちてきたときに初めて動き出すものもあります。 ...

2026年10月27日 · ひぐらしさとし

成年後見の申立てにかかる費用と期間──収入印紙・鑑定費用・審判と登記までの目安

この記事の要点 家庭裁判所に納める費用は、後見開始の申立てなら申立手数料800円分と登記手数料2,600円分の収入印紙、それに裁判所ごとに金額が異なる連絡用の郵便切手が基本 鑑定が行われる場合は別に鑑定費用がかかる。最高裁判所の統計(令和7年)では、鑑定が行われた事件の約85.8%で鑑定費用は10万円以下。診断書の費用は医療機関によって異なる 期間の目安は、同じ統計で成年後見関係事件の約71.1%が2か月以内、約93.8%が4か月以内に終局(審理が終わること)している 審判のあとは、不服申立ての期間(2週間)が過ぎて審判が確定してから、家庭裁判所の依頼(嘱託)によって法務局に登記される 必要書類は「発行から3か月以内」のものが多いので、集める順番と時期を考えてから準備を始めるのが安全 親の判断能力が落ちてきて成年後見の申立てを考え始めると、「全部でいくらかかるのか」「いつから後見人が動けるのか」が気になります。結論から言うと、家庭裁判所に納める収入印紙代そのものは数千円程度ですが、鑑定が行われるかどうかで費用も期間も大きく変わります。この記事では、裁判所が公表している金額と統計だけを使って、申立て全体の実費の一覧と、申立てから審判・登記までの期間の目安を整理します。執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

成年後見の「鑑定」とは?──必要になる場合・省略される場合と費用の目安

この記事の要点 後見開始・保佐開始の審判では、家庭裁判所が本人の精神の状況について鑑定をするのが原則。ただし「明らかにその必要がないと認めるとき」は鑑定をしないで審判できる(家事事件手続法第119条第1項・第133条) 補助開始の審判では、条文上は医師その他適当な者の意見を聴くこととされ、裁判所の手引では原則として鑑定によらない扱いと説明されている。ただし必要に応じて鑑定が行われることがある 鑑定の費用は、当事者があらかじめ裁判所に納め、裁判所が金額を決めて鑑定人に支払う仕組み。最高裁判所の統計(令和7年)では、鑑定が行われた事件のうち、鑑定費用が10万円以下のものが約85.8%だった 成年後見の申立てでいう「鑑定」とは、家庭裁判所が専門家(鑑定人)を指定して、本人の精神の状況について判断してもらう手続です。後見と保佐では、法律上は鑑定をするのが原則とされていますが、明らかに必要がないと家庭裁判所が認めるときは省略されます。この記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月23日 · ひぐらしさとし

日常生活自立支援事業とは──社会福祉協議会が通帳や支払いを手伝う制度(後見の手前)

この記事の要点 日常生活自立支援事業は、判断能力に不安がある方が地域で暮らし続けられるよう、社会福祉協議会(社協)が本人との契約にもとづいて、福祉サービスの手続きや日々のお金の管理を手伝う公的な事業です 使えるのは、判断能力が十分ではないものの、この事業の契約の内容は判断できると認められる方です。認知症の診断や障害者手帳は要件とされていません 利用料は実施する社協が定めていて、地域によって異なります。契約前の相談と、生活保護を受けている世帯の利用料は無料とされています 成年後見制度のうち家庭裁判所の審判で始まる法定後見とは、始まり方(契約か審判か)や、できることの範囲などが違います 相談先は、お住まいの市区町村の社会福祉協議会です 日常生活自立支援事業とは、認知症の高齢者や知的障害・精神障害のある方などで判断能力が十分ではない方が、地域で自立した生活を送れるよう、社会福祉協議会が本人との契約にもとづいて、福祉サービスの利用の手続きや、預金の出し入れなど日々のお金の管理を手伝う事業です。家庭裁判所の手続きを経る成年後見制度とは別の、福祉の側の仕組みです。 ...

2026年10月23日 · ひぐらしさとし

認知症でも遺言は書ける?──遺言能力と「あとで争われない」ための備え

この記事の要点 認知症と診断されたことだけで、遺言が一律にできなくなるわけではありません。問われるのは「遺言をする時に、その内容を理解して判断できる能力(遺言能力)があったか」です(民法963条) 遺言をした時に遺言能力がなかったとされると、その遺言は無効と解されています。診断名や検査の点数だけで有効・無効が自動的に決まる仕組みは、民法には定められていません 成年後見を受けている方(成年被後見人)でも、判断能力が一時的に回復した時に、医師2人以上の立会いのもとで遺言をすることができます(民法973条) あとで争われにくくする備えの柱は、①公正証書で作る、②作成時期に近い医師の診断書などを残す、③作成のいきさつを記録しておく、の3つです 個別の遺言が有効か無効かの見通しや、争いになった場合の対応は弁護士へ、判断能力の医学的な評価は医師へ相談します 「親が認知症と診断されたけれど、今からでも遺言を作れるのだろうか」「作っても、あとで兄弟から『無効だ』と言われないだろうか」。こうした不安を持つご家族は少なくありません。結論からいうと、認知症の診断があっても、遺言をする時に遺言能力があれば、遺言をすることはできます。ただし、本人が亡くなった後に「あの時はもう判断できなかったはずだ」と争われるおそれがあるため、作り方と記録の残し方に工夫が必要です。この記事では、遺言能力の考え方と、争われにくくするための備えを整理します。 ...

2026年10月21日 · ひぐらしさとし

成年被後見人がした契約は取り消せる?──日用品の購入など日常生活の行為は例外【民法9条】

この記事の要点 成年被後見人(後見開始の審判を受けた本人)がした契約などの法律行為は、原則として取り消すことができます(民法9条本文) ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消しの対象から外れます(同条ただし書) 取り消すと契約は初めから無効だったものとみなされ、本人が返すのは「現に利益を受けている限度」にとどまります(民法121条・121条の2第3項) ※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

社長が認知症になったら会社はどうなる──後見の審判の前に「会社が止まる」場面と、元気なうちの備え

この記事の要点 社長が認知症と診断されたり、判断能力が落ちたりしても、それだけで自動的に取締役・代表取締役を退任するわけではありません。判断能力の低下を理由に退任となるのは、家庭裁判所の「後見開始の審判」を受けたときです(会社法330条・民法653条3号) 本当に困りやすいのは審判の前です。肩書きは社長のままなのに、社長本人が契約や決議を確かな形で行えるかがはっきりせず、会社の手続きが止まりやすくなります とくに「取締役は社長1人・株主も社長1人(または社長が大株主)」の会社では、社長に代わって判断できる人が会社の中にいないため、取締役を選び直す株主総会も開けなくなるおそれがあります 備えの基本は、元気なうちに代表者・取締役・株式を社長1人に集中させないことです。任意後見や家族信託も選択肢ですが、会社の経営そのものを任せる仕組みではない点に注意が必要です 次の一歩として、会社の登記事項証明書・定款・株主名簿を手元に出し、「社長1人に集まっているもの」を書き出してみてください 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長が認知症になったら会社はどうなるか」という問いには、家庭裁判所の審判が出る前と後で、まったく別の答えがあるということです。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし