この記事の要点

  • 成年後見人は、家庭裁判所の許可(嘱託)があれば、本人あての郵便物等を自分の住所に配達してもらうことができます(民法860条の2)
  • 配達された郵便物等は、後見人が開いて見ることができます。ただし後見の事務に関係ないものは、速やかに本人へ渡さなければなりません(民法860条の3)
  • 本人は、後見人が受け取った郵便物等(すでに本人に渡されたものを除く)について、後見人に閲覧を求めることができます

結論からお伝えします。成年後見人は、家庭裁判所の許可(嘱託)なしに本人あての郵便物を受け取れるわけではありません。嘱託を経て配達を受けられるようになると、受け取った郵便物等を開いて見ること自体はできますが、後見の事務に関係のないものは速やかに本人へ渡さなければならず、本人から閲覧を求められればそれに応じる必要があります。入口に家庭裁判所の関与を置き、受け取った後は交付義務と閲覧請求権で歯止めをかける、という組み立てになっています。

※本記事は執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。なお、成年後見制度を見直す法律(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)が令和8年6月24日に公布されていますが、成年後見制度の見直しにかかる部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、執筆時点で施行期日を定める政令は出ていません(未施行)。そのため、現在当てはまるのは本記事で説明する現行制度です。改正後にこの郵便物の仕組みがどう変わるかは、記事の後半で触れます。

なぜ郵便物の管理が問題になるのか

成年後見人になったら何をする?財産管理と家庭裁判所への報告の流れで触れたとおり、成年後見人は本人の財産状況を把握し、家庭裁判所へ定期的に報告する役割を担います。ところが本人が自宅で一人暮らしをしている場合など、未払いの請求書や金融機関からの通知、税金の納付書といった重要な郵便物に後見人がまったく気づけず、財産管理に支障が出るケースがあります。この課題に対応するため設けられているのが、郵便物等の回送・管理に関する制度です。

配達を受けるには家庭裁判所の許可がいる(民法860条の2)

民法860条の2は、成年後見人がその事務を行うにあたって必要があると認めるときに、成年後見人の請求により、家庭裁判所が期間を定めて、郵便事業者等に対し「本人あての郵便物等を成年後見人に配達すべき」旨を嘱託できると定めています。

ポイントは、この配達(回送)は成年後見人の判断だけでは行えず、家庭裁判所の許可を経て初めて実現するという点です。嘱託の期間は6か月を超えることができません(民法860条の2第2項)。審判の後に事情の変更が生じたときは、家庭裁判所は、本人・成年後見人・成年後見監督人の請求または職権で嘱託を取り消し、または変更することができますが、変更の審判で当初定められた期間を伸ばすことはできません(同条3項)。また、成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は嘱託を取り消さなければなりません(同条4項)。

なお、この制度は成年後見人にのみ認められており、保佐人・補助人には同様の規定がありません(保佐・補助にどの規定を準用するかを定める民法876条の5第2項・876条の10第1項は、860条の2・860条の3を準用の対象に挙げていません)。類型ごとに本人の判断能力の程度が異なり、後見人等に与えられる権限の範囲も異なることと関係しています。後述の令和8年改正でも、郵便物の回送を認める対象を限定するという考え方そのものは引き継がれています。類型ごとの違いは法定後見の3類型「後見・保佐・補助」はどう違う?で解説しています。

受け取った郵便物、後見人は何でも見てよいわけではない(民法860条の3)

民法860条の3は、成年後見人が本人あての郵便物等を受け取ったときに、これを開いて見ることができると定める一方で、次の2点を明記しています。

  • 後見人は、受け取った郵便物等のうち後見の事務に関係しないものは、速やかに本人に渡さなければならない
  • 本人は、後見人が受け取った郵便物等(前の項目のルールによりすでに本人に渡されたものを除く)の閲覧を、後見人に求めることができる。つまり、後見の事務に関係するものとして後見人の手元に残った郵便物についても、本人の側から「見せてほしい」と求める道が用意されている

ここで条文の建て付けを整理しておきます。①受け取った郵便物等は開いて見ることができる(同条1項)。この開封そのものについて、条文上は「後見の事務に必要な範囲で」といった限定は置かれていません。②開いて見た結果、後見の事務に関係しないものは、速やかに本人に交付しなければならない(同条2項)。③本人は、後見人の手元に残っているものについて閲覧を求めることができる(同条3項)――という順序です。

つまり、開封の前にあらかじめ選り分けることを後見人に求めるのではなく、開いて見たうえで、事務に関係しないものを速やかに本人へ返し、本人の側からも中身を確認できるようにするという、事後的な歯止めによって本人の利益を守る組み立てになっています。開封の段階で何を開いてよいかを条文が線引きしているわけではない、という点は押さえておくとよいでしょう。

成年後見人が「できないこと」とはでも触れたとおり、後見人の権限には常に「本人のための財産管理・身上保護に必要な範囲か」という線引きが伴います。郵便物についても、事務に関係のないものを抱え込まず速やかに本人へ渡し、本人からの閲覧請求に応じることが、この線引きを具体的な形にしたルールだといえます。

令和8年の改正でこの仕組みはどうなるか(未施行)

冒頭で触れた民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は、成年後見制度の全体を組み替える内容を含んでいます。郵便物の回送・管理についても、次のような形で置き直されることになります。

  • 法定後見については、後見・保佐の制度が廃止され、補助の制度に一元化されます。本人に必要な事項について個別に代理権・取消権を付与する仕組みに改められます
  • 郵便物等の回送・管理を定める現行の民法860条の2・860条の3は、改正後の民法876条の16(特定補助人による郵便物等の管理)・876条の17に置き換わります。「特定補助人」とは、補助開始の審判を受けた方が精神上の理由により事理を弁識する能力(自分の行為の結果を判断する力)を欠く常況にある場合に、家庭裁判所の審判によって付される補助人のことです(改正後の民法10条1項)
  • 家庭裁判所が期間を定めて回送を嘱託するという枠組み、事情の変更があれば嘱託を取り消し・変更できること、変更の審判で期間を伸長することはできないことは、改正後も引き継がれています
  • 受け取った郵便物等を開いて見ることができる一方、事務に関しないものは速やかに本人へ交付しなければならないというルールも、改正後の876条の17に引き継がれています

施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、執筆時点でその政令は出ていません。また、施行の時点ですでに後見・保佐を利用している場合については、基本的に現行法の内容のまま利用を継続できるとする経過措置が置かれています(改正法附則2条・3条)。つまり、いま後見人として郵便物の回送を受けている方が、施行日をもって直ちに扱いを変えなければならないわけではありません。

まとめ

成年後見人は、家庭裁判所の許可を得て初めて本人あての郵便物等の配達を受けられ、受け取った後も後見の事務に関係のないものは速やかに本人へ渡す義務を負い、本人からの閲覧請求にも応じることになります。「後見人になれば本人宛ての郵便を自由に受け取れる」という単純な話ではなく、入口の家庭裁判所の関与と、受け取った後の交付義務・閲覧請求権という歯止めがセットになった制度であることを押さえておくとよいでしょう。

郵便物等の回送の許可を含め、成年後見の申立てや制度の利用についてご不明な点があれば、家庭裁判所の後見係、お近くの司法書士会や公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートなどの相談窓口にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい