この記事の要点

  • 少額訴訟で勝っても、裁判所が自動的に相手からお金を取り立ててくれるわけではありません。回収するには、あらためて強制執行を申し立てる必要があります
  • 少額訴訟の判決や和解の調書をもとに預金・給料などの「金銭債権」を差し押さえる場合には、簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる「少額訴訟債権執行」という手続きが用意されています(民事執行法167条の2)
  • 対象は金銭債権に限られます。不動産や動産を差し押さえる手続きは地方裁判所・執行官の担当となり、司法書士が代理できる範囲からは外れます

以下は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

判決が出ても、回収は自動では始まらない

少額訴訟(訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払いを求める訴え。民事訴訟法368条1項)で請求が認められると、その判決には裁判所が職権で仮執行の宣言を付けることになっています(民事訴訟法376条1項)。仮執行の宣言が付いていれば、判決の確定を待たずに強制執行を申し立てることができます。

ただし、判決や和解の内容を相手が守らないときに、裁判所のほうから進んで相手の財産を探して取り立ててくれるわけではありません。回収を求める側が、自分で財産を特定して強制執行を申し立てる必要があります。少額訴訟の仕組みそのものについては、少額訴訟とは|60万円以下・原則1回の期日で終わる手続きの仕組みと注意点 をご覧ください。

少額訴訟債権執行とは

民事執行法167条の2第1項は、次の債務名義(強制執行の根拠となる文書)による金銭債権に対する強制執行について、通常どおり裁判所が行うほか、申立てにより裁判所書記官が行うことができると定めています。

  1. 少額訴訟における確定判決
  2. 仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
  3. 少額訴訟における訴訟費用または和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分
  4. 少額訴訟における和解または認諾の調書もしくは電子調書
  5. 少額訴訟における和解に代わる決定(民事訴訟法275条の2第1項)

この手続きが「少額訴訟債権執行」です。申立先は、その判決をした簡易裁判所(和解であれば和解が成立した簡易裁判所)などの裁判所書記官です(167条の2第3項)。手続きは、裁判所書記官の「差押処分」によって始まります(同条2項)。裁判所書記官が行う執行処分については、その裁判所書記官が所属する簡易裁判所が執行裁判所になります(167条の3)。

なお、少額訴訟における確定判決や仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決による強制執行は、その判決に当事者として表示された者に対し、またはその者のためにするものであれば、執行文の付された正本ではなく、その債務名義の正本に基づいて実施するものとされています(民事執行法25条ただし書)。

差し押さえられるのは「金銭債権」

少額訴訟債権執行の対象は金銭債権、つまり相手(債務者)が第三者に対して持っているお金の請求権です。預貯金の払戻請求権や、勤務先に対する給料の請求権などがこれにあたります。

差押処分では、債務者に対して金銭債権の取立てその他の処分を禁止し、あわせて第三債務者(銀行や勤務先など、債務者にお金を払う立場の人)に対して債務者への弁済を禁止します(167条の5第1項)。

差押債権者の申立てがあるときは、裁判所書記官は差押処分を送達する際に、第三債務者に対して、送達の日から2週間以内に差押えに係る債権があるかどうかなどを陳述するよう催告しなければなりません(民事執行法147条1項。167条の14第1項により少額訴訟債権執行に準用)。相手の口座に残高があるのか、給料がいくらなのかを確かめる手がかりになる仕組みです。

差し押さえられない範囲も定められています。給料・賃金・賞与などについては、支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額を超えるときは政令で定める額に相当する部分)は差し押さえてはならないとされ、退職手当についても4分の3に相当する部分が差押禁止です(民事執行法152条1項・2項。同じく準用)。

取り立てができるようになる時期にも決まりがあります。差押処分が債務者に送達された日から1週間を経過すると取立てができますが、給料など差押禁止の定めがある債権の場合はこの期間が4週間になります(民事執行法155条1項・2項。同じく準用)。

通常の債権執行(地方裁判所)に移ることがある

少額訴訟債権執行は、次のような場面で、地方裁判所で行う通常の債権執行の手続きに事件が移ります。

  • 転付命令等を求めようとするとき(差押債権者が移行を求める申立てをする。167条の10)
  • 供託がされ、債権者が2人以上で供託金では全部を弁済できないため配当を実施すべきとき(167条の11第1項)
  • 執行裁判所が、差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して相当と認めるとき(裁量移行。167条の12)

地方裁判所で行う強制執行との違い

不動産に対する強制執行は、その所在地を管轄する地方裁判所が執行裁判所として管轄します(民事執行法44条1項)。動産に対する強制執行は、執行官が目的物を差し押さえることで始まります(同法122条1項)。

これに対し少額訴訟債権執行は、対象が金銭債権に限られ、簡易裁判所の裁判所書記官が担当するという点で位置づけが異なります。また、少額訴訟以外の債務名義(通常訴訟の判決や、仮執行の宣言を付した支払督促など)にもとづいて金銭債権を差し押さえる場合は、少額訴訟債権執行ではなく通常の債権執行の手続きによることになります(民事執行法143条、167条の2第1項)。支払督促の流れは 支払督促の手続きの流れ|申立てから仮執行宣言・強制執行までを一般向けに解説 にまとめています。

司法書士が代理できる範囲

司法書士法3条1項6号は、簡易裁判所における一定の手続きについて代理することを司法書士の業務として掲げています。この6号の柱書には、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決・決定・命令に係るものは除かれます)・再審および強制執行に関する事項については代理することができない、というただし書があります。もっとも、その強制執行に関する事項からは「ホに掲げる手続」が除かれています。

その「ホ」が、民事執行法第2章第2節第4款第2目の規定による少額訴訟債権執行の手続であって、請求の価額が裁判所法33条1項1号に定める額を超えないものです。裁判所法33条1項1号の額は140万円です。つまり、強制執行のうち少額訴訟債権執行だけが、金額の要件を満たす限りで代理できる手続きとして条文上位置づけられています。

これらの業務(簡裁訴訟代理等関係業務)を行えるのは、法務大臣が指定する研修の課程を修了し、法務大臣の認定を受け、かつ司法書士会の会員である司法書士に限られます(司法書士法3条2項)。また同条7項は、簡易裁判所の訴訟手続や、訴え提起前の和解・支払督促の手続(同条1項6号イ・ロ)で訴訟代理人になった司法書士は、委任を受けた事件について強制執行に関する訴訟行為をすることができない、と定めています。そのうえで、少額訴訟の手続で訴訟代理人になった司法書士が少額訴訟債権執行の手続についてする訴訟行為については、この限りでないとされています(同項ただし書)。ここでも、少額訴訟債権執行だけが例外として置かれている、という構造です。

一方、地方裁判所や執行官が担当する不動産執行・動産執行・通常の債権執行について、司法書士が代理人となることは業務範囲に含まれていません。これらの手続の代理を依頼する場合は、弁護士がご相談先になります。

なお、前の項目でみたように事件が地方裁判所の債権執行の手続に移行した場合、その後は少額訴訟債権執行の手続ではなくなります。移行したあとの手続をどう進めるかについても、依頼の段階であらかじめ確認しておくとよいでしょう。

金額の要件についても、認定司法書士に頼める「140万円以下」とは何の金額?|訴額の数え方の基礎 のとおり、手続きごとに条文が基準となる価額の呼び名を書き分けています。

まとめ

少額訴訟で勝っても、それだけでお金が戻ってくるわけではありません。相手が任意に払わないときは、判決や和解調書を債務名義として強制執行を申し立てることになります。預金や給料といった金銭債権が対象であれば、判決をした簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる少額訴訟債権執行を利用でき、差押処分・第三債務者への陳述催告・取立てという流れで進みます。不動産や動産を対象とする場合、あるいは少額訴訟以外の債務名義による場合は、地方裁判所や執行官が担当する手続きになります。

どの財産を対象にするか、そもそも回収できる見込みがあるかは、事案ごとの事情によって大きく変わります。具体的な進め方については、お近くの司法書士にご相談ください(請求額が140万円を超える場合や、地方裁判所で行う強制執行については弁護士がご相談先になります)。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

  • 民事執行法 第167条の2〜第167条の14(少額訴訟債権執行の開始等・執行裁判所・差押処分・転付命令等のための移行・配当等のための移行・裁量移行・債権執行の規定の準用)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
  • 民事執行法 第22条(債務名義)・第25条ただし書(執行文を要しない場合)・第44条第1項(不動産執行の執行裁判所)・第122条第1項(動産執行の開始)・第143条(債権執行の開始)・第147条第1項(第三債務者の陳述の催告)・第152条(差押禁止債権)・第155条第1項・第2項(差押債権者の金銭債権の取立て)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
  • 民事訴訟法 第368条第1項(少額訴訟の要件)・第376条第1項(仮執行の宣言)・第275条の2第1項(和解に代わる決定)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
  • 司法書士法 第3条第1項第6号イ・ロ・ホ・同号柱書ただし書・第3条第2項・第7項(本文・ただし書)(少額訴訟債権執行の手続の代理・簡裁訴訟代理等関係業務)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
  • 裁判所法 第33条第1項第1号(簡易裁判所の裁判権・140万円)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059

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