この記事の要点

  • 「どこの裁判所に出すか」は土地管轄の問題で、「いくらまでが簡易裁判所の担当か」という事物管轄とは別の物差しです
  • 訴えの原則は、被告(訴えられる側)の住所などで決まる普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所です(民事訴訟法4条)
  • 財産権上の訴えは義務履行地に、不動産に関する訴えは不動産の所在地にも起こせます(同5条1号・12号)。管轄を誤って出しても、原則は却下ではなく管轄裁判所への移送です(同16条1項)

訴えを起こすとき、書類をどこに出すかは、2つの物差しの組み合わせで決まります。1つは「どの種類の裁判所か」(事物管轄)、もう1つは「全国のどの地の裁判所か」(土地管轄)です。この記事で扱うのは後者の土地管轄です。

いくらまでの請求が簡易裁判所の第一審の担当になるのかという金額の物差し(裁判所法33条1項1号)と、認定を受けた司法書士が代理できる範囲(司法書士法3条1項6号イ)は、同じ「140万円」でも別々の条文に置かれた別の基準です。この金額の話は認定司法書士に頼める「140万円以下」とは何の金額?|訴額の数え方の基礎で扱っていますので、本記事は「どこの裁判所か」に絞って整理します。

これは執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。条文上どのような決まりになっているかを整理するもので、具体的な事案がどこの裁判所の管轄になるかの判断はここでは扱いません。

原則は「被告の普通裁判籍の所在地」

民事訴訟法4条1項は、訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する、と定めています。基準になるのは訴える側ではなく、訴えられる側の所在地です。

普通裁判籍(ふつうさいばんせき)」とは、その人や法人が裁判の上でどこの土地と結びつくかを示すものです。中身は同じ4条に書かれています。

  • 人の場合は、住所により定まります。日本国内に住所がないとき、または住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき、または居所が知れないときは最後の住所により定まります(4条2項)
  • 法人その他の社団・財団の場合は、主たる事務所または営業所により定まります。事務所または営業所がないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まります(4条4項)

財産権上の訴えは「義務履行地」にも起こせる

民事訴訟法5条は、一定の種類の訴えについて、4条の原則に加えて訴えを起こせる地を定めています。柱書が「提起することができる」と書かれているとおり、これは選択できる裁判所が増える規定です。5条にあてはまるからといって、被告の普通裁判籍の所在地の裁判所に起こせなくなるわけではありません。

身近なトラブルで登場しやすいものを挙げると、次のとおりです。

訴えの種類 起こせる地 条文
財産権上の訴え 義務履行地 5条1号
手形・小切手による金銭の支払の請求 手形・小切手の支払地 5条2号
事務所・営業所を有する者に対する訴えで、その事務所・営業所の業務に関するもの その事務所・営業所の所在地 5条5号
不法行為に関する訴え 不法行為があった地 5条9号
不動産に関する訴え 不動産の所在地 5条12号
登記・登録に関する訴え 登記・登録をすべき地 5条13号

このうち貸したお金や未払いの代金でよく問題になるのが、1号の「義務履行地」です。

民事訴訟法には、義務履行地が具体的にどこかを定めた規定は置かれていません。債務をどこで果たすべきかは、まず契約などの定めによります。定めがないときの原則を決めているのが民法484条1項で、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない、とされています。

お金の支払いは「その他の弁済」にあたるため、別段の意思表示がなければ、債権者(お金を受け取る側)の現在の住所が弁済をすべき場所になります。一般に、この弁済をすべき場所が民事訴訟法5条1号の義務履行地にあたるものとして説明されています。

ただし、この結論は「別段の意思表示がないとき」を前提にしたものです。契約書に支払場所の定めがあれば、まずそちらが働きます。

また、ここで見ているのは民法の原則です。商行為によって生じた債務については商法516条に別の定めがあり、履行をすべき場所がその行為の性質または当事者の意思表示によって定まらないときは、金銭の支払などは債権者の現在の営業所(営業所がない場合はその住所)でしなければならない、とされています。事業として行う取引が絡む場合には、この規定のほうが働くことがあります。

金銭の請求だから常に受け取る側の住所地で起こせる、と一律に決まるわけではないため、契約の内容や当事者の立場を先に確かめる必要があります。

不動産や登記に関する訴えの場合

不動産に関する訴えは不動産の所在地に、登記または登録に関する訴えは登記または登録をすべき地にも起こせます(5条12号・13号)。

これは裁判所の土地管轄の話であって、登記の申請そのものをどこの法務局に出すかは、不動産登記法に別の決まりが置かれています。両者は別の制度ですので、混同しないようご注意ください。法務局の管轄については不動産の登記はどこの法務局に出す?──管轄のきまりと、間違えたときの扱いで整理しています。

契約書に管轄の定めがあるとき(合意管轄)

民事訴訟法11条1項は、当事者は第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる、としています。契約書の末尾に「本契約に関する紛争については○○裁判所を管轄裁判所とする」といった条項が入っていることがあり、これが「合意管轄」です。

この合意には条文上の要件があります。同条2項により、合意は一定の法律関係に基づく訴えに関するものであること、かつ書面によることが必要で、これを欠くと効力を生じません。3項は、合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなして2項を適用する、と定めています。

合意の効き方は、一通りではありません。定めた裁判所だけに限る趣旨の合意(「専属的な合意」と呼ばれます)となる場合があることは、条文の書きぶりからもうかがえます。民事訴訟法16条2項ただし書は、簡易裁判所の専属管轄について「当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く」という括弧書きを置いており、当事者の合意によって専属的な管轄が定まる場合があることを前提にした書き方になっているからです。

もっとも、ある管轄条項が、定めた裁判所だけに限る趣旨なのか、それとも法律上の管轄に加えてその裁判所にも起こせるようにする趣旨なのかは、条項の文言や契約の内容をもとに判断されるもので、一律に決まるわけではありません。管轄条項があるからといって直ちに「その裁判所以外には出せない」と決めつけず、条項の書き方を確かめる必要があります。

なお、どのような管轄条項を契約書に設けるべきかという契約書の作り方は、この記事では扱いません。すでに取り交わした契約書にこうした条項があるかどうかを確認しておく、というところまでが本記事の範囲です。

管轄を誤って出してしまったら

管轄のない裁判所に訴えを出したとしても、それだけで門前払いになるわけではありません。民事訴訟法16条1項は、裁判所は訴訟の全部または一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てによりまたは職権で、これを管轄裁判所に移送する、と定めています。

また、民事訴訟法12条は「応訴管轄」を定めています。被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、または弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は管轄権を有する、という規定です。この規定にあてはまれば、はじめは管轄のなかった裁判所にも管轄権が生じますので、管轄のない裁判所に出したときに必ず移送される、というわけでもありません。

もっとも、移送されればその分だけ手続きは先に延びます。申立ての前に管轄を確かめておくに越したことはありません。

オンラインで申し立てる場合も、管轄の決まりは変わりません

民事訴訟の手続をインターネットに対応させる改正(民事訴訟法等の一部を改正する法律・令和4年法律第48号)は段階的に施行され、令和8年(2026年)5月21日に全面施行されました。訴えの提起などをオンラインで行うしくみや、訴訟記録を原則として電子データで保管するしくみが動いています。

ただしこれは「どうやって出すか」を変える改正です。「どこに出すか」を決める土地管轄の考え方(4条・5条・11条・12条・16条)は、この改正で変わっていません。オンラインで申し立てる場合も、どこの裁判所の事件になるかは、ここまで見てきた考え方で決まります。

手続きが変われば、根拠となる条文も変わります

同じ簡易裁判所の手続きでも、どこに申し立てるかの決まりは手続きごとに別の条文に置かれています。

  • 支払督促:申立ては、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してします(民事訴訟法383条1項)。同条2項は、一定の請求について、各号の定める地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してもすることができる、としています。手続きの流れは支払督促の手続きの流れ|申立てから仮執行宣言・強制執行までを一般向けに解説をご覧ください
  • 民事調停:調停事件は、特別の定めがある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所、または当事者が合意で定める地方裁判所もしくは簡易裁判所の管轄とされています(民事調停法3条1項)
  • 少額訴訟:これは簡易裁判所に訴えを提起し、その際に少額訴訟による審理・裁判を求める申述をする手続きです(民事訴訟法368条1項・2項)。訴えとは別枠の申立てではなく、簡易裁判所に提起した訴えについて審理・裁判のしかたを求めるものですので、どこの簡易裁判所に起こせるかは、通常の訴えと同じく上記の4条・5条の考え方によることになります(民事訴訟法には、少額訴訟について土地管轄を別に定めた規定は置かれていません)

まとめ

訴えをどこに起こすかを決める土地管轄は、被告の普通裁判籍の所在地を原則とし(民事訴訟法4条)、財産権上の訴えの義務履行地や不動産の所在地などが選択肢として加わる(同5条)という構造になっています。契約書に管轄の合意があればそれも働き(同11条)、誤って出した場合は原則として管轄裁判所へ移送されます(同16条1項)。

もっとも、実際にどの裁判所が管轄になるかは、契約の内容や相手方の所在、請求の性質によって変わります。金銭トラブルの手続きをご検討の際は、お近くの司法書士にご相談ください。認定を受けた司法書士が代理できるのは140万円を超えないものに限られますので、140万円を超えるものは弁護士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい