この記事の要点

  • 当事者どうしで話し合いがつき「分割で返す」等の約束はできていても、口約束や私文書のままでは相手が守らない場合の備えが弱い
  • 簡易裁判所の「即決和解(訴え提起前の和解)」を使うと、合意内容を裁判所の調書に残すことができる
  • 和解調書は確定判決と同じ効力を持ち、これを通じて強制執行の基礎となる文書(債務名義)になるため、相手が約束を守らなかったときに改めて訴訟を起こす必要がない

本文

貸したお金や未払いの代金について、相手との間で「分割で返す」「いつまでに支払う」という合意(示談)自体はできている――というケースは少なくありません。ただし、その合意を口約束や当事者間の合意書だけにとどめている場合、相手が約束を守らなかったときにどうするかという不安が残ります。

こうした場面で使える手続きが「即決和解」(民事訴訟法275条、正式には「訴え提起前の和解」)です。これは、当事者双方があらかじめ合意している内容を、簡易裁判所に申し立てて期日を開いてもらい、裁判官の面前で和解を成立させる手続きです。争点が固まっていない事件を一から審理する通常の訴訟とは違い、合意内容はすでに固まっているため、期日では裁判所がその合意内容を確認し、相当と認めれば和解が成立するという流れになります。

和解が成立すると、その内容は裁判所の記録として残されます。従来は紙の「和解調書」として作成されていましたが、2026年5月21日に施行された民事訴訟法等の改正により、現在は裁判所のシステム上に記録される「電子調書」として作成されます(民事訴訟法267条1項)。実務では引き続き「和解調書」という通称が使われることが一般的ですので、この記事でも以下「和解調書」と表記します。ポイントは、この記録(電子調書)が確定判決と同一の効力を持つ点です(同項)。単なる合意書や念書は、それ自体では相手の財産を差し押さえる根拠にはなりません。何かあれば改めて訴訟を起こして判決を得るなどの手続きが必要になります。これに対して和解調書は、確定判決と同一の効力を持つことを通じて「債務名義」(強制執行の基礎となる文書)になる(民事執行法22条7号)ため、相手が約束どおり支払わなかったときに、あらためて訴訟をしなくても強制執行の手続きに進むことができます。なお、金銭の支払いについては、強制執行を受け入れる旨の文言を入れた公正証書を作る方法もあります(民事執行法22条5号)。どちらが適しているかは事案によります。

利用できるのは、あくまで当事者双方の合意ができている場合に限られます。争いが残ったまま一方的に申し立てても和解は成立しません。また、認定司法書士が代理人として関与できるのは、請求の目的の価額が140万円以下の場合です(司法書士法3条1項6号ロ・裁判所法33条1項1号)。請求の目的の価額が140万円を超える場合、司法書士は代理人として関与できませんので、弁護士にご相談ください。

なお、この記事は具体的な和解条件の決め方や交渉の進め方を助言するものではなく、制度の仕組みを一般的に説明するものです。個別の合意内容や進め方は、事案ごとに専門家へのご相談をおすすめします。この記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

示談・合意ができていても、それだけでは相手が守らなかったときの備えとして弱いことがあります。即決和解(訴え提起前の和解)を使えば、合意内容を裁判所の和解調書として残し、確定判決と同じ効力を持たせることができます。ご自身の状況で利用できるかどうかは、お近くの司法書士にご相談ください(請求の目的の価額が140万円を超える場合、司法書士は代理人にはなれませんので、弁護士にご相談ください)。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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