賃貸住宅を退去したのに敷金(しききん・入居時に大家さんへ預けるお金)がなかなか返ってこない――そんなとき、話し合いのほかに裁判所を使う手続きがいくつか用意されています。この記事では、代表的な「少額訴訟」「支払督促」「民事調停」の三つが、それぞれどういう場面向けの制度なのかを整理します。

この記事の要点

  • 敷金の返還を求める方法には、話し合いのほかに裁判所を通す手続きがある
  • 「少額訴訟」「支払督促」「民事調停」は、争いの有無・金額・スピード感で向き不向きが分かれる
  • どれを選ぶかは個別の事情によるため、手続きの枠組みを知ったうえで専門家に相談するのが安全

これは執筆時点(2026年07月)の制度に基づく一般的な解説です。

三つの手続きの性格の違い

まず結論から言うと、三つは「争いがあるかどうか」「早さ」「相手との関係をどう保つか」で性格が分かれます。

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に使える簡易な訴訟です(民事訴訟法368条)。原則として1回の期日で審理を終えて判決が出るのが特徴で、証拠がそろっていて金額も小さいケースに向いています。ただし、同じ簡易裁判所で1年に利用できる回数は10回までとされています。相手が「通常の裁判で争いたい」と申し出れば、通常の訴訟に移ることもあります。

支払督促は、裁判所書記官が相手方へ支払いを促す書面(督促)を出す手続きです(民事訴訟法382条)。書類審査だけで進み、相手が異議を述べなければ比較的早く決着します。一方で、相手が異議を申し立てると通常訴訟へ移ります。「相手が支払い自体は認めていて、督促すれば払いそう」という場面に向いた制度です。

民事調停は、調停委員を交えて話し合いで解決をめざす手続きです(民事調停法)。判決で白黒つけるのではなく、双方が納得できる着地点を探すため、金額や事情に争いがあり、円満に解決したいときに使われます。

敷金の返還は、どこまでが通常の使用による傷み(原状回復の対象外)で、どこからが借主負担かという評価が絡むことが多く、争いの度合いによって適した手続きが変わります。手続き選びの前提として、契約書や退去時の立会い記録、写真などの資料を整理しておくと、実務では話が進めやすくなります。まずは司法書士に相談する前の準備を参考に、手元の資料をそろえておくとよいでしょう。

なお、認定を受けた司法書士が代理できるのは、請求額が140万円以下の場合とされています(司法書士法3条1項6号)。これを超える金額の請求は、弁護士が扱う範囲になります。

まとめ

敷金が返ってこないときの裁判所手続きは、争いなく早く回収したいなら支払督促、少額で証拠がそろっているなら少額訴訟、話し合いで着地させたいなら民事調停、というように場面で向き不向きが分かれます。どの手続きが適しているか、また回収の見込みがあるかは個別の事情によって大きく変わりますので、まずはお近くの司法書士にご相談ください(請求額が140万円を超える場合は弁護士へご相談ください)。

あわせて読みたい