この記事の要点
- 消滅時効は、期間が過ぎれば自動的にお金の支払い義務が消える制度ではありません。民法145条により、当事者が「援用」しなければ、裁判所は時効を理由とする裁判ができません
- 権利を「承認」すると、時効はその時から新たに進行し直します(民法152条1項)。援用と承認は正反対の方向に働くため、どちらに当たる行動かを知っておくことが大切です
- 個別の請求にどう対応するかの判断は、この記事では扱いません。手続きの仕組みの一般解説です
古い借金や未払い代金の請求が届いたとき、「時効だからもう関係ない」と考えて放置してよいかというと、そうではありません。結論から言うと、消滅時効は期間が過ぎただけでは効力が生じず、時効の利益を受ける側が「援用(えんよう)」という主張をして初めて意味を持ちます。
本記事は、執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
時効は「援用」しないと使えない(民法145条)
民法145条は、時効は「当事者……が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めています。つまり、たとえ時効期間(貸したお金などの債権は原則として、権利を行使できることを知った時から5年間。民法166条1項1号)が過ぎていても、裁判所が自動的に時効を認めてくれるわけではなく、時効の利益を受ける側からの主張が必要だということです。
「援用」とは、一般に、時効が完成したのでその利益を受ける、という意思を相手方に伝えることと説明されています。実務では、いつ・誰に伝えたかを後から証明できるように、配達の記録が残る方法(内容証明郵便に配達証明を付ける方法など)がよく用いられます。内容証明郵便の仕組みは内容証明郵便の使い方の記事で解説しています。
なお、民法145条は括弧書きで、消滅時効については借りた本人(債務者)だけでなく、保証人・物上保証人・第三取得者その他「権利の消滅について正当な利益を有する者」も援用できると定めています。
逆方向に働く「承認」に注意(民法152条)
援用と正反対の方向に働くのが「承認」です。民法152条1項は、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めています(時効の更新)。相手の権利があることを認める行動──たとえば借金の一部を支払う、支払いの猶予や分割払いをお願いする、といった行為は、一般に権利の承認に当たると説明されています。承認があると、それまで進んでいた時効期間は振り出しに戻り、新たに進行し直します。
さらに、時効期間が過ぎた後に支払いの約束などをした場合も注意が必要です。この場面は、上でみた民法152条の更新(時効期間が振り出しに戻る)とは別の問題として説明されるのが一般的で、その後は時効の主張が認められなくなることがあるとされています。しかも、時効が完成していることを知らずに支払いや分割の約束をした場合であっても同じように扱われると説明されており、「時効になっていると気づいていなかったのだから」という理由だけで当然に時効を主張できる、とは限りません。時効との関係では、援用に当たる行動と承認に当たる行動を区別したうえで、どちらを先にするかが大切だ、ということです。
時効期間そのものの数え方や、請求する側から見た時効の止め方(完成猶予・更新)は、貸したお金や未払い代金の時効の記事で整理しています。
裁判所から書類が届いた場合も同じ
簡易裁判所から訴状や支払督促が届いた場合も、考え方は同じです。時効は裁判所が職権で(自動的に)取り上げてくれるものではないため(民法145条)、裁判手続きの中でも当事者からの主張が必要になります。訴状を受け取ったのに何もしないでいると、どのような扱いになるかは答弁書を出さないとどうなるかの記事で解説しています。
まとめ
消滅時効は、期間の経過+援用という2つがそろって初めて働く仕組みで、逆に承認があると時効は新たに進行し直します。実際に古い請求が届いたときにどの手段を取るべきかは、時効期間の計算(いつから数えるか、途中で完成猶予や更新がなかったか)や書類の内容によって大きく変わります。個別のご事情への対応は、お近くの司法書士(請求額が140万円を超える場合や争いがある場合は弁護士)にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第145条・第152条・第166条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 最高裁判所大法廷判決 昭和41年4月20日(昭和37年(オ)第1316号・請求異議事件)民集20巻4号702頁(裁判所ウェブサイト 裁判例検索): https://www.courts.go.jp/hanrei/57740/detail2/index.html