この記事の要点
- 「140万円」という数字は司法書士法の条文には書かれておらず、裁判所法33条1項1号の額を司法書士法が引用しているという関係にある
- 基準になる価額の呼び名は手続きごとに違い、訴訟なら「訴訟の目的の価額」、支払督促なら「請求の目的の価額」、民事調停なら「調停を求める事項の価額」と条文上書き分けられている
- 附帯請求は算入せず、一つの訴えで複数の請求をするときは合算するのが原則。遅延損害金は一般に附帯請求として扱われているが、価額をいくらと見るかは最終的に裁判所が判断する
司法書士に簡易裁判所の手続きを頼めるかどうかの目安として「140万円以下」という数字を見かけますが、これは「相手に請求する金額」そのものではなく、法律上の決まった算定方法で出す価額のことです。この記事では、その価額が何を指すのか、条文の枠組みだけを一般向けに整理します。
これは執筆時点(2026年07月)の制度に基づく一般的な解説です。
「140万円」はどの法律に書かれているか
司法書士法3条1項6号イは、簡易裁判所における民事訴訟法の規定による手続のうち「訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの」について代理できると定めています。つまり司法書士法自体には「140万円」という数字は出てきません。
その引用先である裁判所法33条1項1号が、簡易裁判所が第一審の裁判権を持つ事項として「訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)」と定めており、ここに140万円という額が置かれています。司法書士が代理できる範囲は、この簡易裁判所の裁判権の線に合わせて引かれている、という構造です。
なお、この簡裁訴訟代理等関係業務を行えるのは、法務大臣が指定する研修の課程を修了し、その者の申請に基づき法務大臣が必要な能力を有すると認定した司法書士で、かつ司法書士会の会員である者に限られます(司法書士法3条2項1号〜3号)。司法書士であれば誰でも代理できるわけではありません。
手続きごとに、基準になる価額の呼び名が違う
司法書士法3条1項6号は、代理できる手続きをイからホに分けており、それぞれ基準となる価額の呼び名が条文上書き分けられています。いずれも「裁判所法33条1項1号に定める額を超えないもの」という条件が付きます。
- イ 民事訴訟法の規定による手続(ロに規定する手続および訴えの提起前における証拠保全手続を除く)……訴訟の目的の価額
- ロ 民事訴訟法275条の規定による和解の手続、または同法第8編の規定による支払督促の手続……請求の目的の価額
- ハ 訴えの提起前における証拠保全手続、または民事保全法の規定による手続……本案の訴訟の目的の価額
- ニ 民事調停法の規定による手続……調停を求める事項の価額
- ホ 民事執行法の規定による少額訴訟債権執行の手続……請求の価額
さらに同項7号は、簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となる民事紛争について、相談に応じ、または仲裁事件の手続もしくは裁判外の和解について代理する業務を定めており、ここでの基準は紛争の目的の価額と表現されています。「紛争の目的の価額」は裁判外の和解などを定めた7号の用語で、訴訟について定めた6号イの「訴訟の目的の価額」とは別の言葉です。呼び名が違う理由そのものは条文に書かれていませんが、手続きごとに何をつかまえて価額を測るかが違うことに対応した書き分けと理解されています。いずれにしても、記事や説明でこれらを混ぜて使うと基準を取り違えるおそれがあります。
あわせて、6号にはただし書があります。上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定または命令に係るものを除く)、再審、および強制執行に関する事項(ホに掲げる少額訴訟債権執行の手続を除く)については、代理することができません。金額が140万円以下であっても、代理できない場面があるということです。
訴訟の目的の価額はどう算定するか
民事訴訟法8条1項は、裁判所法の規定により管轄が訴訟の目的の価額により定まるときは、その価額は「訴えで主張する利益によって算定する」と定めています。この規定はもともと裁判所の管轄を決める場面のものですが、司法書士法3条1項6号イが基準としている額が裁判所法33条1項1号の額であるため、代理を頼めるかどうかを測るときにも同じ算定の枠組みが手がかりになります。請求書に書いた合計額や、当事者が感じている損害の大きさではなく、その訴えで主張している利益を評価した額が基礎になります。
ここで押さえておきたい規定が2つあります。
附帯請求は算入しない。 民事訴訟法9条2項は、果実、損害賠償、違約金または費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は訴訟の目的の価額に算入しないと定めています。元本の支払いを求める訴えに付随して請求される遅延損害金などは、一般にこの附帯請求にあたるものとして扱われています。
ただし、この扱いは条文の文言だけから一義的に決まるものではありません。民事訴訟法9条2項に「遅延損害金」という言葉が直接書かれているわけではないからです。金銭債務の遅滞に伴う金銭の請求を同項の「損害賠償」ととらえる手がかりとしては、民法419条1項があります。同項は、金銭の給付を目的とする債務の不履行についてその損害賠償の額を、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める(約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による)としたものです。
もっとも、民法419条1項は損害賠償の「額」の算定方法を定めた民法の規定であって、民事訴訟法9条2項の「損害賠償」の範囲を定めたものではありません。別の法律で使われている同じ言葉が当然に同じ範囲を指すとはいえないため、遅延損害金が9条2項の附帯請求にあたるという理解は、実務上そのように取り扱われているという説明にとどまります。
また、ある請求が「訴訟の附帯の目的」といえるかどうかは、その訴えで何を主たる請求として立てているかによっても変わります。そのため、個々の請求が附帯請求にあたるかどうかは、最終的には裁判所の判断によります。
複数の請求は合算するのが原則。 民事訴訟法9条1項は、一つの訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とすると定めています。ただし同項ただし書により、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合の各請求については、合算しないこととされています。相手が複数いる場合や請求の内容が複数ある場合に、単純に足すのか足さないのかは、この条文の当てはめの問題になります。
価額を算定できないときの扱い。 民事訴訟法8条2項は、価額を算定することができないとき、または極めて困難であるときは、その価額は140万円を超えるものとみなすと定めています。金銭以外を求める請求などで価額の評価が難しい場合には、この規定が働く場面があります。
「140万円」と「60万円」は別の線
数字が2つ出てくるため混同されやすいのですが、性質の異なる線です。140万円は、認定を受けた司法書士が代理できる範囲を金額の面から画する額で、司法書士法3条1項6号が引用する裁判所法33条1項1号の額です。一方の60万円は、民事訴訟法368条1項が定める少額訴訟の要件で、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理および裁判を求めることができる、というものです。
前者は「誰が代理できるか」、後者は「どの手続きを選べるか」に関わる線です。どちらか一方だけを見ればよいというものではなく、価額が60万円以下の事件は140万円以下でもあるため、2つの基準が同時に問題になる場面もあります。それぞれ別に確認する必要があるということです。
まとめ
「140万円以下」とは、裁判所法33条1項1号が定める額を超えないという意味で、その基準となる価額の呼び名は、訴訟・支払督促・民事保全・民事調停・少額訴訟債権執行と手続きごとに条文で書き分けられています。算定にあたっては、附帯請求は算入せず、一つの訴えでの複数の請求は原則として合算するという枠組みが民事訴訟法8条・9条に置かれています。
司法書士が簡易裁判所の手続を代理できるのは、研修を修了し法務大臣の認定を受けた司法書士に限られ(司法書士法3条2項)、金額の基準は裁判所法33条1項1号の140万円です。訴額をいくらと見るかは最終的に裁判所が判断します。この記事は数え方の考え方の一般的な説明で、個別の事件の見通しや金額の確定を示すものではありません。手続きの選択や書類の準備についてはお近くの認定司法書士へご相談ください。140万円を超える場合や争いが複雑な場合は弁護士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 民事訴訟法 第8条・第9条・第368条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民法 第419条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「訴訟物の価額の算定基準について」(昭和31年12月12日民事甲第412号民事局長通知。受付事務の参考資料として作成されたもので、価額に争いがあるとき等の基準となるものではない旨が明記されています): https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/tsuutatsu/minji04/01sosyoubutunokagakunosanteinituite.pdf
- 大阪地方裁判所「手形・小切手訴訟の手続の概要」(附帯請求(利息・遅延損害金)を訴訟の目的の価額に算入しない取扱いの参照): https://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minji4/dai3_1/index.html