この記事の要点
- 判決や支払督促などで「勝っても」、裁判所が自動的に相手の財産を探して回収してくれるわけではありません
- 相手の財産が分からないときのために、裁判所を通じて財産を調べる「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」という制度があります(民事執行法196条以下)
- どちらも窓口は地方裁判所です。このうち財産開示手続では、債務者が正当な理由なく出頭を拒んだり嘘の陳述をしたりすると刑事罰の対象になります
執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。
貸したお金や未払いの代金について、確定判決・和解調書・仮執行宣言付き支払督促などの「債務名義」(強制執行の根拠となる文書)を得ても、それだけではお金は戻ってきません。差押えの申立ては、原則として差し押さえる財産(どの不動産か、どの金融機関のどの支店の預金か、どの勤務先からの給料か)を特定して行う必要があるため、相手の財産が分からなければ申立てに進めないからです(相手方の自宅などに出向く動産執行のように、差し押さえる場所を示して申し立てる方法もありますが、めぼしい動産がなければ回収にはつながりません)。債務名義を得るまでの流れは、支払督促の手続きの流れ|申立てから仮執行宣言・強制執行までを一般向けに解説 をご覧ください。
こうした「財産が分からない」場面のために用意されているのが、民事執行法上の「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」です。
財産開示手続とは
財産開示手続は、債務者本人を裁判所に呼び出し、自分の財産について陳述させる手続きです(民事執行法196条)。窓口は債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所です(同条)。
申し立てられるのは、確定判決や仮執行宣言付き支払督促など「執行力のある債務名義の正本」を持つ金銭債権の債権者で、次のいずれかに当たるときです(197条1項)。
- 強制執行や担保権の実行における配当等の手続で、完全な弁済を得られなかったとき(申立ての日から6か月以上前に終わったものを除く)
- 知れている財産に強制執行を実施しても、完全な弁済を得られないことを一応示せるとき(疎明)
債務者の財産について一般の先取特権を持つ債権者も、そのことを証する文書を提出すれば同様に申し立てることができます(197条2項)。
なお、債務者が申立ての日から3年以内に、すでに財産開示期日で陳述していた場合は、原則としてもう一度実施してもらうことはできません(197条3項本文)。ただし、そのとき財産の一部を開示しなかったときや、その後に新しく財産を取得したとき、その後に勤務先との雇用関係が終了したときは例外です(同項ただし書各号)。
決定が出ると、開示義務者(債務者本人。債務者が法人であればその代表者など)は財産開示期日に出頭し、宣誓のうえ自分の財産について陳述しなければなりません(199条1項、7項で民事訴訟法の宣誓に関する規定を準用)。この期日は公開されません(199条6項)。正当な理由なく出頭しない、宣誓を拒む、あるいは陳述すべき事項について虚偽の陳述をしたときは、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(213条1項5号・6号)。
なお、民事手続のデジタル化に関する改正(令和5年法律第53号)のうちウェブ会議等による期日に関する部分が2026年5月21日に施行され、財産開示期日を裁判所に出向かずに行える場合が設けられました。裁判所が相当と認めるときは、裁判所・申立人・開示義務者が音声の送受信により同時に通話できる方法(電話会議)で期日の手続を行うことができます(199条の2)。開示義務者の陳述については、住所や心身の状態などから出頭が困難なとき、申立人と同席すると精神の平穏を著しく害されるおそれがあるとき、申立人に異議がないときに限り、映像と音声の送受信による方法(ウェブ会議)が認められます(199条の3)。いずれも裁判所が相当と認めた場合の取扱いであり、希望すれば必ず利用できるわけではありません。
第三者からの情報取得手続とは
相手に直接聞いても財産が分からない、あるいは開示期日で正直に話してもらえるか不安、というときのためにあるのが「第三者からの情報取得手続」です(民事執行法204条以下)。窓口はやはり原則、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所です(204条)。
こちらは債務者本人ではなく、財産に関する情報を持っていそうな第三者に対して、裁判所が直接、情報の提供を命じる手続きです。主なものは次の3種類です。
- 不動産に関する情報(205条):法務省令で定める登記所に対し、債務者が所有権の登記名義人になっている土地・建物についての情報提供を命じます。先に財産開示期日を経ていることが前提で、その期日から3年以内に限り申し立てることができます(205条2項。なお、その財産開示手続で、開示義務者が残りの財産について陳述しなくてよいとする裁判所の許可(200条1項)を受けていた場合は、その期日を前提として申し立てることはできません)。
- 給与債権に関する情報(206条):市町村や日本年金機構・各種共済組合等に対し、債務者が受け取る給与や報酬に関する情報提供を命じます。ただし対象となる債権者は、養育費など扶養義務等に係る債権、または人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を持つ債権者に限られます(206条1項柱書)。加えて、父母の離婚後等の子の養育に関する見直しの改正(令和6年法律第33号)が2026年4月1日に施行され、子の監護に要する費用(養育費)の請求権に一般の先取特権が認められたことに伴い(民法306条3号・308条の2)、この先取特権を有することを証する文書を提出した債権者も、判決などの債務名義を得ていなくてもこの情報取得を申し立てられるようになりました(206条2項。条文上の対象は「一般の先取特権(民法306条3号に係るものに限る)を有することを証する文書を提出した債権者」に限られ、197条2項各号の要件を満たすことも必要です。預貯金等に関する207条2項の一般の先取特権には、このような限定はありません)。
- 預貯金債権・振替社債等に関する情報(207条):銀行・信用金庫などの金融機関や振替機関等に対し、債務者名義の預貯金口座や有価証券に関する情報提供を命じます。2と異なり債権者の範囲に限定はなく、通常の金銭債権を持つ債権者であれば利用できます(207条1項柱書は197条1項各号への該当のみを要件とします)。また1と異なり、先に財産開示期日を経ていることは要件とされていません。
いずれも、情報提供を命じるかどうかの判断や第三者への通知は裁判所が行うものであり、債権者本人が金融機関等に直接開示を求める制度ではありません。
手続きを選ぶときの注意点
- 財産開示手続も第三者からの情報取得手続も、原則として先に「債務名義」を得ていることが前提です。これから相手と争う段階ではまだ使えません。
- 少額訴訟で得た債務名義に基づいて預貯金や給料などの金銭債権を差し押さえる場合は、少額訴訟で勝ったあと、お金を回収するには|少額訴訟債権執行の基礎 で紹介した「少額訴訟債権執行」という、簡易裁判所の裁判所書記官による手続きが別に用意されています。財産開示手続・第三者からの情報取得手続は差押えそのものではなく、その手前の「財産を調べる」段階の手続きである点が異なります。
- 管轄はいずれも地方裁判所です。支払督促や少額訴訟の申立てを簡易裁判所で行っていても、財産を調べる段階になると窓口は地方裁判所に変わります。
まとめ
判決や支払督促を得ても、相手の財産が分からなければ回収は前に進みません。財産開示手続(民事執行法196条以下)は債務者本人を裁判所に呼び出して陳述させる制度、第三者からの情報取得手続(204条以下)は不動産・給与・預貯金等について金融機関や役所などの第三者に裁判所が直接情報提供を命じる制度です。どちらも申立てには一定の要件と、原則として債務者の普通裁判籍の所在地(多くの場合は住所地)を管轄する地方裁判所という管轄のルールがあります。実際に利用できるかどうかの判断や必要書類の準備は、お近くの司法書士(140万円を超える請求は弁護士)にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 民事執行法 第196条〜第200条・第204条〜第207条・第213条・第151条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
- 民法 第306条・第308条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民事訴訟法 第201条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 法務省「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について」(令和5年法律第53号): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00336.html
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」(令和6年法律第33号): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
- 東京地方裁判所「財産開示手続」: https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/zaisankaizi/index.html