この記事の要点

  • 仮差押えは、訴訟や支払督促の決着がつく前に、相手の財産を勝手に処分できない状態にしておく民事保全法上の手続き
  • 申立てには「被保全権利」と「保全の必要性」の疎明に加えて、原則として担保(保証金)の提供が必要になる
  • 仮差押えだけでは債権は確定しないため、別途、本案となる訴訟や支払督促を起こす必要がある

貸したお金を返してもらうために訴訟や支払督促の手続きを起こしても、判決が確定するまでには一定の時間がかかります。その間に相手が不動産を売ってしまったり、預金口座からお金を引き出してしまったりすると、せっかく勝訴しても現実には回収できない、ということが起こり得ます。こうした事態を防ぐために使われるのが「仮差押え」(かりさしおさえ)という手続きです。

これは執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事案でどの手続きを選ぶべきかの判断はここでは扱いません。

仮差押えとは何か

仮差押えは、民事保全法にもとづく「保全命令」の一種で、金銭債権を持つ人(債権者)が、本案の訴訟や支払督促の結果が出る前に、相手方(債務者)の財産を暫定的に凍結しておくための手続きです。裁判所が仮差押命令を出すと、対象になった財産について、相手方が自由に処分することが制限されます。不動産であれば仮差押えの登記がされ、その後に売却などがされても、相手方はその処分を仮差押えをした債権者に主張することができません。預金や給料であれば、銀行や勤務先といった第三債務者に対して、相手方への支払いが禁止されます。こうして、後に判決や確定した支払督促にもとづいて強制執行をする際に、その財産が実際に残っている状態を確保しやすくなります。

支払督促の流れ(こちらの記事で解説しています)や少額訴訟・通常訴訟は、あくまで債権の存在や金額を確定させるための手続きです。これに対して仮差押えは、その結論が出るまでの間、相手の財産が失われないように「先回りして押さえておく」ための手続きという位置づけになります。

仮差押えが認められるための要件

仮差押命令の申立てをするには、次の二つを裁判所に対して疎明(そめい。証拠などにより一応確からしいと示すこと)する必要があります。

  1. 被保全権利――保全しようとしている金銭債権そのものが存在すること(貸金債権、売買代金債権など)
  2. 保全の必要性――このまま放置すると、将来、強制執行をすることができなくなる、または著しく困難になるおそれがあること(相手が財産を処分しようとしている兆候がある場合など)

この二つが認められて初めて、裁判所は仮差押命令を発します。単に「お金を貸したのに返してもらえない」というだけでなく、このままでは将来の強制執行ができなくなる、または著しく困難になるという事情を示す必要がある点が特徴です。どの程度の事情があれば必要性が認められるかは、事案の内容を踏まえて裁判所が判断することになります。

原則として担保(保証金)が必要になる

仮差押えは、本案の訴訟が確定する前に相手の財産を凍結してしまう強い効果を持つ手続きです。そのため、もし後の本案訴訟で債権者側が負けた場合、相手方(債務者)は財産を凍結されたことで思わぬ損害を受けるおそれがあります。この損害を補てんするために、仮差押命令を出す条件として、裁判所は債権者に担保(保証金)の提供を求めるのが実務上の原則です(民事保全法14条は担保を立てさせずに発することも認めていますが、仮差押えでは担保を求める運用が通例です)。

担保の金額は一律ではなく、請求する金額や、差し押さえようとする財産の種類(不動産か、預金や給料などの債権か)などを踏まえて、裁判所が事案ごとに判断します。担保は法務局への供託などの方法で用意することになります。本案訴訟が債権者の勝訴で確定するなどして担保を立てておく必要がなくなったときは、裁判所に担保取消しの申立てをして返還を受けることになります。勝訴すれば自動的に戻ってくるというものではなく、返還を受けるための手続きが別に必要になる点に注意が必要です。

対象になる財産のいろいろ

仮差押えの対象になる財産には、主に次のようなものがあります。

  • 不動産仮差押え――相手方名義の土地・建物を対象にするもの。登記に仮差押えの登記がされます。
  • 債権仮差押え――相手方が第三者に対して持つ預金債権や給料債権などを対象にするもの。銀行や勤務先といった第三債務者に対して、相手方への支払いを禁止する形で行われます。
  • 動産仮差押え――相手方が持つ現金や家財などの動産を対象にするもの。

どの財産を対象にするかは、相手方の財産状況や、どの程度の実効性が見込めるかによって選ぶことになります。

仮差押えだけでは終わらない――本案訴訟との関係

仮差押えは、あくまで財産を暫定的に押さえておくための手続きであり、これだけで債権の存在や金額が確定するわけではありません。仮差押命令を得た後は、別途、少額訴訟や通常訴訟、支払督促といった本案の手続きを起こして、債権を確定させる必要があります。もし債権者が本案の手続きをいつまでも起こさない場合、相手方の申立てにより、裁判所が一定の期間内に本案の訴えを起こすよう命じる「起訴命令」が出されることもあります。この期間内に本案の訴えを起こした(または既に起こしている)ことを証明する書面を提出しなかったときは、相手方の申立てにより仮差押命令が取り消されることになります。

なお、認定を受けた司法書士が仮差押え・仮処分など保全命令に関する手続きを代理できるのは、簡易裁判所に申し立てる手続きで、かつ本案の訴訟の目的の価額(請求額)が140万円以下の場合に限られます(司法書士法3条1項6号ハ・裁判所法33条1項1号)。140万円を超える請求や、地方裁判所に申し立てる保全手続きは弁護士が扱う範囲です。

まとめ

仮差押えは、訴訟や支払督促の決着がつく前に相手の財産処分を防ぐための民事保全法上の手続きで、被保全権利と保全の必要性の疎明と、原則としての担保の提供が求められます。あくまで財産を凍結する手続きであり、債権を確定させるには別途、本案の訴訟や支払督促が必要になります。どの手続きが状況に合うかはご事情によって異なりますので、お近くの司法書士(140万円を超える場合は弁護士)へご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月)。

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