この記事の要点
- 訴訟が続いている途中でも、裁判所は当事者に和解を試みることができ、双方が合意すれば「訴訟上の和解」(裁判上の和解)が成立する
- 成立した和解は裁判所書記官が作成する電子調書に記録され、その記録は確定判決と同一の効力を持ち、相手が守らなければ強制執行に進める根拠(債務名義)になる
- 訴えを起こす前に合意内容を固めておく「即決和解」とは、成立する場面(訴訟の途中か、訴え提起前か)が異なる別の制度
訴訟を起こしても、判決まで争い抜く事件ばかりではありません。審理が進む途中で当事者双方の言い分が歩み寄り、話し合いで決着がつくことも少なくありません。このように、訴訟が裁判所に係属している間に当事者双方の合意によって手続きを終わらせる仕組みが「訴訟上の和解」(裁判上の和解)です。
これは執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事案でどのような内容で和解に応じるべきか、和解に応じるべきかどうかといった判断はここでは扱いません。
裁判所はいつでも和解を試みることができる
民事訴訟法は、裁判所が「訴訟がいかなる程度にあるかを問わず」和解を試みることができると定めています(89条1項)。訴えを起こした直後であっても、審理が相当進んだ段階であっても、裁判所(裁判所から和解の試みを委ねられた受命裁判官・受託裁判官を含みます)は、当事者双方に和解の話し合いを促すことができる、という建てつけです。実務でも、争点や証拠がある程度整理された段階で、裁判所から和解の可能性を打診されることがあります。
和解の期日は、裁判所に出向く形だけでなく、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いたうえで、裁判所と当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法(電話会議などの方法)によって行うこともできるとされています(89条2項)。この方法で期日の手続に関与した当事者は、裁判所に出頭していなくても、その期日に出頭したものとみなされます(同条3項)。
和解が成立するとどうなるか
当事者双方が和解の内容に合意すると、和解が成立します。和解(および請求の放棄・認諾)が成立すると、裁判所書記官がその内容を電子調書として作成し、裁判所のシステム上のファイルに記録します。この記録は、確定判決と同一の効力を持つとされています(民事訴訟法267条1項)。記録された電子調書は、当事者に送達されます(同条2項)。
「確定判決と同一の効力」を持つということは、一般に、判決で決着した場合と同じように紛争が終局的に解決し、同じ請求について改めて訴訟で蒸し返すことができなくなる、という意味だと説明されています。ただし、この「確定判決と同一の効力」に判決と同じ既判力まで含まれるのかについては学説が分かれており、この点は次の節で取り上げます。単なる話し合いでの合意(口約束や念書)とは異なり、裁判所の手続きを通じた公的な記録として残る点が特徴です。
「確定判決と同一の効力」の中身には学説上の対立があります
もっとも、この「確定判決と同一の効力」に、判決と同じ既判力(同じ紛争をもう一度蒸し返すことを許さない効力)まで含まれるのかについては、古くから学説が分かれています。大きく分けて、条文の文言どおり既判力を認める見解(既判力肯定説)、和解は裁判所が下した判断ではなく当事者の合意にすぎないから既判力までは認められず、訴訟を終わらせる効力と強制執行ができる効力にとどまるとする見解(既判力否定説)、そして、原則としては既判力を認めつつ、和解の内容に錯誤や詐欺など民法上の無効・取消しの原因があるときは、その限りで効力を争う余地を残すとする見解(制限的既判力説)があります。
その前提として、訴訟上の和解がそもそも民法上の和解契約なのか、それとも訴訟法上の行為なのかという性質論にも、私法行為説・訴訟行為説・両性説(一つの行為が私法上の契約と訴訟行為の両方の性質を併せ持つとする説)といった対立があり、民法の錯誤や詐欺の規定がどこまで働くのかという先ほどの問題と深く関係しています。この性質論と既判力の議論をどう結びつけるかについても、論者によって考え方が分かれています。
このように学説の整理は分かれていますが、いずれの立場に立つとしても、いったん成立した和解をあとからやり直すことは容易ではありません。裁判所で和解の話が出たときは、「これで終わりにしてよい内容か」を合意する前によく確認しておくことが大切です。
なお、以上は既判力があるかどうかをめぐる議論であって、この電子調書(和解調書)が、確定判決と同一の効力を有するものとして「債務名義」(強制執行の基礎となる文書)になる点(民事執行法22条7号)は、上に挙げたいずれの見解でも変わりません(既判力否定説も、強制執行ができる効力そのものは認めています)。実務上はこの点が重要で、相手が和解で約束した内容(分割払いの支払など)を守らなかった場合、改めて一から訴訟を起こさなくても、この和解調書を根拠に強制執行の手続きに進むことができます。
「即決和解」とは成立する場面が違う
以前の記事で取り上げた「即決和解」(訴え提起前の和解|こちらの記事)と、今回の訴訟上の和解は、どちらも和解の内容が電子調書に記録され確定判決と同一の効力を持つ点、和解調書が債務名義になる点は共通しています。
違いは成立する場面です。即決和解(民事訴訟法275条)は、当事者双方があらかじめ合意している内容を持って、訴えを起こす前に簡易裁判所に申し立て、その合意を裁判所の場で確認してもらう制度です。これに対して訴訟上の和解は、いったん訴訟を提起して裁判所に事件が係属した後、審理の途中で当事者双方の合意がまとまった場合に成立します。合意ができているならまず即決和解、訴訟をすでに起こした後に歩み寄りができたなら訴訟上の和解、という位置づけの違いがあります。
和解がまとまらなければ審理が続く
和解はあくまで当事者双方の合意があって初めて成立するものです。裁判所から和解を勧められても、合意に至らなければ和解は成立せず、通常どおり審理が続き、最終的には判決に向けて手続きが進みます。和解に応じるかどうかは当事者の自由な判断に委ねられており、応じなければならない義務があるわけではありません。
140万円を超える請求は弁護士の領域
認定を受けた司法書士が訴訟の代理人として関与できるのは、簡易裁判所における訴訟で、訴額(請求の目的の価額)が140万円を超えない場合に限られます(司法書士法3条1項6号イ・裁判所法33条1項1号)。訴訟の途中で和解の話し合いが持ち上がった場合も、この代理権の範囲は変わりません。140万円を超える請求については、司法書士は代理人として関与できませんので、弁護士にご相談ください。
まとめ
訴訟上の和解は、訴訟が係属している間に当事者双方の合意で成立する解決方法で、電子調書に記録されると確定判決と同一の効力を持ち、相手が守らなければ強制執行に進める債務名義にもなります。訴え提起前に合意を固めておく即決和解とは、成立する場面が異なる別の制度です。具体的な事案でどう進めるべきかはご事情によって異なりますので、お近くの司法書士(訴額が140万円を超える場合は弁護士)へご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月)。
- 民事訴訟法 第89条・第267条・第275条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民事執行法 第22条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 石川明「訴訟上の和解における法的性質論と既判力論」法學研究88巻7号(慶應義塾大学法学研究会・2015年7月)41〜51頁(慶應義塾大学学術情報リポジトリ): https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20150728-0041