この記事の要点
- 不動産の登記の申請は、その不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)に出すのが原則
- 離れた場所に不動産が複数あるときは、管轄する法務局ごとに分けて申請することになる
- 管轄に属しない申請は却下の対象で、実際には取り下げて出し直すという取扱いが一般的とされる
「相続した実家の名義を変えたいのですが、近所の法務局でできますか」。窓口でよく出る質問です。結論から言えば、登記の申請を出す先は、申請する人の住まいではなく、その不動産がある場所で決まります。
なお、この記事は、法律で決まっている部分と、法務局の実際の取扱い(運用)にあたる部分が混ざっています。運用にあたる部分は法務局や時期によって違いがありうるところですので、最後は申請先の法務局にご確認ください。本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
管轄は「不動産の場所」で決まる
登記の事務は、不動産の所在地を管轄する法務局・地方法務局・その支局・出張所(まとめて「登記所」といいます)が取り扱います(不動産登記法6条1項)。東京にお住まいでも、対象の土地が北海道にあれば、その土地を管轄する法務局に申請することになります。
会社の登記は軸が違い、当事者の営業所の所在地を管轄する登記所が取り扱います(商業登記法1条の3)。「不動産は物のある場所、会社は営業所のある場所」と分けて覚えると混乱しにくくなります。
管轄の区域そのものは、法務局の統合や出張所の再編で変わることがあります。以前の記憶で判断せず、法務局が公表している管轄区域の一覧でそのつど確かめておくと安心です。
不動産が離れた場所に複数あるとき
相続では、自宅と、遠方の田畑や山林をあわせて引き継ぐことがよくあります。この場合、それぞれの不動産を管轄する法務局が違えば、申請もその法務局ごとに分けて出すことになります。
一つの申請情報にまとめて出せるのは、同じ登記所の管轄区域内にある二つ以上の不動産について、登記の目的と登記原因・その日付が同じ場合などに限られています(不動産登記令4条ただし書)。管轄が分かれていれば、書類をそろえるのも登録免許税を納めるのも、法務局の数だけ分けて行うことになります。登録免許税の総額そのものが管轄の数で増えるわけではありませんが、手間や実費はそのぶん重なります。
やや珍しい話ですが、一つの不動産そのものが二つ以上の登記所の管轄区域にまたがることもあります。この場合は、法務大臣または法務局・地方法務局の長が、その不動産の登記事務を取り扱う登記所を指定します(不動産登記法6条2項)。指定がされるまでの間は、そのうちの一つの登記所に申請することができます(同条3項)。
管轄違いで出してしまったら
申請した不動産の所在地が、その申請を受けた登記所の管轄に属しないときは、却下の事由にあたります(同法25条1号)。同条のただし書は、不備を補正(あとから直すこと)できる場合の救済を定めています。もっとも、管轄違いは、申請を受けた登記所がそもそもその不動産の登記事務を取り扱えないという性質の不備ですから、申請の中身を書き直して同じ登記所で通す、という直し方ができるものではありません。
実際の窓口では、却下の決定を待つのではなく、いったん申請を取り下げて正しい管轄の法務局に出し直すという取扱いが一般的とされます。ただし、この進め方や案内のしかたは法務局や時期によって幅がありますので、指摘を受けたらその場で確認してください。取下げと却下の違いは登記申請の『取下げ』と『却下』はどう違う?で整理しています。
「近くの法務局でよい」手続きもある
もっとも、不動産のある場所の法務局でなければ受け付けてもらえない、という手続きばかりではありません。たとえば法定相続情報一覧図の保管と写しの交付の申出は、被相続人の本籍地・最後の住所地、申出人の住所地、被相続人を表題部所有者または所有権の登記名義人とする不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所にすることができます(不動産登記規則247条1項)。作り方は法定相続情報一覧図の作り方をご覧ください。
さらに、2026年(令和8年)2月2日からは、ご自身または亡くなった方が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧にした「所有不動産記録証明書」の制度が始まりました。この交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対してすることができるとされており(不動産登記法119条の2第3項)、法務省は、全ての法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)で書面またはオンラインで請求できると案内しています。遠方の不動産についてもお近くの法務局で調べられる、管轄にしばられない手続きです。制度の中身は所有不動産記録証明制度とはで詳しく整理しています。
まとめ
不動産の登記の申請先は、その不動産の所在地を管轄する法務局です(不動産登記法6条1項)。離れた場所に不動産があれば法務局ごとに分けて申請することになり、管轄に属しない申請は却下の対象になります(同法25条1号)。一方で、法定相続情報一覧図や所有不動産記録証明書のように、申出先・請求先の選択肢が広い手続きもあります。管轄の見当がつかないとき、複数の都道府県にまたがって不動産があるときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 不動産登記法 第6条・第25条・第119条の2(e-Gov法令検索・2026年8月2日に条文本文を取得して確認済み): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第4条(e-Gov法令検索・2026年8月2日に条文本文を取得して確認済み): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第247条(e-Gov法令検索・2026年8月2日に条文本文を取得して確認済み): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 商業登記法 第1条の3(e-Gov法令検索・2026年8月2日に条文本文を取得して確認済み): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125
- 不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付け法務省民二第456号法務省民事局長通達・最終改正:令和6年12月2日)第31条第4項(法務省掲載の原本PDFを2026年8月2日に取得し、「登記の申請を却下しなければならない場合であっても、登記官が相当と認めるときは、事前にその旨を申請人又は代理人に告げ、その申請の取下げの機会を設けることができる」との定めを確認。取下げの機会を設けるかどうかは登記官の判断によるため、本文では取扱いに幅がありうる旨を記載しています): https://www.moj.go.jp/content/001394394.pdf
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」(2026年8月2日閲覧。施行日=令和8年2月2日、請求先=全ての法務局・地方法務局〔支局・出張所を含む〕である旨を確認): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
- 法務局「管轄のご案内」(2026年8月2日閲覧。全国の法務局・地方法務局の管轄区域を一覧から調べられるページであることを確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html