この記事の要点

  • 亡くなった方について請求できる公的なお金のうち、未支給年金は条文上の時効が五年葬祭費・埋葬料は二年です(国民年金法102条1項、厚生年金保険法92条1項、健康保険法193条1項、国民健康保険法110条1項、高齢者の医療の確保に関する法律160条1項)。
  • これらは遺産分割の結論を待って動くものではありません。請求しないまま期間が過ぎれば、その請求権は時効によって消滅すると条文に定められています。
  • 給付ごとに根拠となる法律も窓口も違います。年金は年金事務所、国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費は市区町村、健康保険の埋葬料は協会けんぽ・健康保険組合です。

本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

「相続手続き」と別枠で走っている期限がある

死亡後の手続きは、届出・名義変更・申告と並べていくと膨大に見えます。そのなかで見落とされやすいのが、こちらから請求しないと出てこないお金です。しかも、それぞれに期限がついています。

遺産の分け方でご家族の話し合いが長引いている間も、この期限だけは止まりません。分け方が決まらないと請求できない、という関係にもなっていないため、「先に請求だけしておく」ことができるものが多いのが特徴です。手続きの優先順位を整理するときは、相続手続きの優先順とあわせて、この請求期限も並べておくのが基本です。

未支給年金は「五年」

公的年金は後払いのしくみのため、受給していた方が亡くなると、たいてい「まだ受け取っていない分」が残ります。これが未支給年金です。

法律上は、年金給付の受給権者が亡くなった場合、その方の配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹、またはこれら以外の三親等内の親族であって、死亡の当時その方と生計を同じくしていた人が、自己の名で未支給の年金の支給を請求することができる、と定められています(国民年金法19条1項、厚生年金保険法37条1項)。受け取るべき人の順位は政令で定められます(同各条4項)。

ここで押さえておきたいのは、「自己の名で」という点です。亡くなった方が持っていた権利をそのまま受け継いで行使するという建て付けであれば、条文がわざわざ「自己の名で」と定める必要はありません。請求できる人の範囲が相続人と一致しないこと、死亡の当時に生計を同じくしていたことが要件とされていることも、同じ方向を示しています。未支給年金を遺産の分け方の話し合いと切り離して考えるのは、まずこの条文の作りから出てくる結論です。

この理解と整合する最高裁の判断もあります。未支給年金の支払を求める訴訟が続いている間に受給資格のある方が亡くなった事案で、最高裁は、その訴訟は当然に終了し、国民年金法19条1項に定められた人がこれを引き継ぐものではない、と判断しました(最高裁平成7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号1829頁)。

ただし、この判決の射程には注意が必要です。判断の対象は昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法19条であり、扱われたのは訴訟が承継されるかどうかという訴訟手続上の問題です。判決そのものが、現在の19条1項や厚生年金保険法37条1項について「固有の権利だから遺産分割とは切り離される」と述べているわけではありません。この判決は、条文の作りから導かれる先ほどの理解を裏づける材料として引かれるもの、と受け止めておくのが正確です。

時効については、条文はこう定めています。年金給付を受ける権利は支給すべき事由が生じた日から五年、その権利にもとづいて支払期月ごとに支払われる分の受給権は、その日の属する月の翌月以後に到来する支払期月について、その支払期月の翌月の初日から五年を経過したときに、時効によって消滅する(国民年金法102条1項)。厚生年金保険法92条1項も、保険給付を受ける権利について同じ構造の定めを置いています。

つまり、放っておくと古い月の分から順に消えていくことになります。「まだ五年経っていないから大丈夫」と全体をひとまとめに考えないほうが安全です。

なお、年金制度そのものについては、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号。令和7年6月20日公布、原則として令和8年4月1日施行)による改正が行われています。ただし、その改正の対象は被用者保険の適用拡大、在職老齢年金の見直し、遺族厚生年金の見直しなどであり、ここで述べた未支給年金の請求できる人の範囲(国民年金法19条1項、厚生年金保険法37条1項)と時効の期間(国民年金法102条1項、厚生年金保険法92条1項)に変更はありません。

葬祭費・埋葬料は「二年」

葬儀に関して支給されるお金は、亡くなった方が加入していた医療保険の種類によって、名前も窓口も変わります。

国民健康保険では、市町村および組合は、被保険者の死亡に関して、条例または規約の定めるところにより葬祭費の支給または葬祭の給付を行うものとされています(国民健康保険法58条1項本文)。ただし、特別の理由があるときはその全部または一部を行わないことができる、というただし書きも置かれています(同項ただし書)。

後期高齢者医療では、後期高齢者医療広域連合が、条例の定めるところにより葬祭費の支給または葬祭の給付を行うものとされています(高齢者の医療の確保に関する法律86条1項本文)。こちらも同じただし書きがあります。いずれも条例・規約で内容が決まるため、金額や取扱いは地域によって差があります

健康保険(会社員などが加入する被用者保険)では、被保険者が死亡したとき、その方により生計を維持していた人であって埋葬を行う人に対し、埋葬料として政令で定める金額が支給されます(健康保険法100条1項)。埋葬料の支給を受けるべき人がいない場合には、実際に埋葬を行った人に対し、その金額の範囲内で埋葬に要した費用に相当する額が支給されます(同条2項)。条文にある名称は「埋葬料」のみですが、この同条2項による支給は、協会けんぽの案内では「埋葬費」と呼ばれて区別されています。

時効は、いずれも二年です。健康保険法193条1項、国民健康保険法110条1項、高齢者の医療の確保に関する法律160条1項が、保険給付(後期高齢者医療給付)を受ける権利は「これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する」と定めています。

なお、条文が定めているのは「行使することができる時から」という起算点です。**その具体的な日付が死亡日なのか埋葬を行った日なのかは、給付の性質によって変わり得ます。**健康保険の埋葬料(100条1項)と、埋葬を行った人に支給される費用(同条2項)とでは、支給される場面が条文上も分かれています。ご自身のケースの起算日は、窓口で確認するのが確実です。もっとも、起算日がどちらであっても二年という期間そのものは変わりません。亡くなった後の早い段階で窓口に確認しておけば、数え方の違いで期限を取り逃がす心配はほとんどなくなります。

もうひとつ、年数の覚え方について付け加えておきます。ここまでの数字を「年金は五年、医療保険は二年」と体系ごとに覚えてしまうのは危険です。同じ国民年金法102条でも、死亡一時金を受ける権利や保険料の還付を受ける権利は、行使することができる時から二年とされています(同条4項)。厚生年金保険法92条1項も、保険料その他の徴収金を徴収する権利は二年、保険給付を受ける権利は五年と、ひとつの条文のなかで年数を書き分けています。五年か二年かは、法律の体系でひとまとめに決まっているのではなく、権利の種類ごとに条文で定められている、と理解しておくほうが安全です。

民間の生命保険とは別の話

同じ「亡くなった後に請求するお金」でも、民間の生命保険金は根拠となるルールが別で、期間の考え方も異なります。公的給付の期限を守ったからといって、保険金のほうが自動的に守られるわけではありません。こちらは生命保険金の請求と時効で整理しています。

まとめ

亡くなった後に請求できるお金には、給付ごとに別々の期限がついています。条文上の期間と窓口を整理すると、次のとおりです。

  • 未支給年金(時効五年/国民年金法102条1項、厚生年金保険法92条1項)……手続きや必要書類の案内は、年金事務所または街角の年金相談センターが窓口です。請求書の作成などを専門家に依頼する場合は、社会保険労務士が担当分野になります。
  • 葬祭費(時効二年/国民健康保険法110条1項、高齢者の医療の確保に関する法律160条1項)……国民健康保険・後期高齢者医療のいずれも、内容は条例で定められます。お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
  • 埋葬料・埋葬費(時効二年/健康保険法193条1項)……加入していた協会けんぽまたは健康保険組合が窓口です。

そのうえで、不動産の名義変更(相続登記)や遺産の承継の進め方については、お近くの司法書士にご相談ください。期限のある請求と、期限のある登記は、早い段階で並べて確認しておくと動きやすくなります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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