この記事の要点
- 法テラス(日本司法支援センター)は、総合法律支援法にもとづいて国が設立した「法的トラブル解決のための総合案内所」です。相続・借金・離婚などの民事の困りごとについて、収入と資産が一定の基準以下の方は、無料の法律相談(同じ問題につき3回まで・1回30分)と、弁護士・司法書士の費用の「立替え」を利用できます
- 立替えは「無料」ではありません。法テラスがいったん費用を支払い、利用者は原則として分割で法テラスに返済します(利息はかかりません)
- 利用の目安は、たとえば単身の方で手取り月収182,000円以下(東京都特別区・大阪市などは200,200円以下)、現金・預貯金180万円以下(2026年9月時点の法テラス公式サイトの数値)
- 相談は電話(法テラス・サポートダイヤル)またはWebで予約し、法テラスの地方事務所か、法テラスと契約している弁護士・司法書士の事務所で受けます。費用の立替えは、申込み後に法テラスの審査(通常2週間程度)を経て始まります
- 司法書士が法テラスの制度で担えるのは、簡易裁判所で扱う140万円以下の事件の代理と、裁判所に提出する書類の作成、およびこれらに関する法律相談です。地方裁判所の訴訟や140万円を超える事件の代理は弁護士の領域で、この線引きは法テラスを使う場合も変わりません
「弁護士や司法書士に相談したいけれど、費用が心配で踏み出せない」。そんなときに知っておきたいのが、法テラスの制度です。この記事では、法テラスとは何か、誰が使えるのか、何をどこまで頼めるのかを、相続の相談を念頭に整理します。なお、この記事は執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。金額などの基準は改定されることがあるため、実際に利用する際は法テラスの公式サイトや窓口で最新の情報を確認してください。
法テラスとは──国がつくった「法的トラブル解決のための総合案内所」
法テラスの正式名称は「日本司法支援センター」といいます。総合法律支援法(平成16年法律第74号)にもとづいて国が設立した公的な法人で、2006年(平成18年)4月に設立され、同年10月に業務を始めました。法テラス自身が「法的トラブル解決のための総合案内所」と説明しているとおり、法的なトラブルを抱えた人に「どこに相談すればよいか」を案内し、経済的に余裕のない人が弁護士・司法書士のサービスを受けられるよう支える役割を担っています。
法テラスの主な業務は、次のとおりです(総合法律支援法30条1項)。
- 情報提供業務……法制度や相談窓口の案内
- 民事法律扶助業務……無料法律相談と、弁護士・司法書士費用の立替え(この記事の中心テーマ)
- 国選弁護等関連業務……刑事事件の国選弁護人などの選任に関する業務
- 司法過疎対策業務……弁護士・司法書士が身近にいない地域への対応
- 犯罪被害者支援業務……犯罪被害にあった方への支援
一般の方が「法テラスを使う」というとき、ふつう指しているのは2番目の民事法律扶助です。以下ではこの制度を中心に説明します。
民事法律扶助でできること──「無料相談」と「費用の立替え」
民事法律扶助は、大きく分けて次の2つの援助からなります。
1. 無料法律相談援助
法テラスと契約している弁護士・司法書士による法律相談を、無料で受けられる制度です。法テラスの公式サイトによれば、相談は同じ問題につき3回まで、1回30分で、原則として事前の予約が必要です。3回分をまとめて1回90分の相談にすることはできません。
相談できるのは、借金・離婚・労働問題・相続や遺言など、民事・家事・行政に関する内容です。刑事事件に関する相談は対象外です。また、相談を担当した弁護士・司法書士に必ず依頼しなければならないわけではありません。「相談」と「依頼」は別のものであること、その場で決めなくてよいことは、相談と依頼の違いを解説した記事でも取り上げています。
2. 代理援助・書類作成援助(弁護士・司法書士費用の立替え)
調停や訴訟などの裁判手続き、相手方との交渉、裁判所に提出する書類の作成を弁護士・司法書士に依頼する場合に、その費用(着手金や実費など)を法テラスが立て替える制度です。弁護士・司法書士に代理人になってもらう場合を「代理援助」、書類の作成だけを依頼する場合を「書類作成援助」と呼びます(総合法律支援法30条1項2号イ・ハ)。
ここで大切なのは、立替えは「無料」ではないという点です。法テラスがいったん費用を支払い、利用者はそれを法テラスに返していきます。返済は原則として分割払いで、利息はつきません。毎月いくら返すかは、申込み後の審査で決まります。
なお、生活保護を受けている方については、受給中は返済が猶予され、事件がすべて終わった後も生活保護を受けている場合は、返済の免除を申請できるとされています。逆に、事件の結果として相手方などから金銭を受け取った場合は、原則としてそのお金から立替金を一括で精算することになります。
利用できる人の条件──収入・資産の基準など
民事法律扶助を利用するには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 収入や資産が一定の基準以下であること
- 勝訴の見込みがないとはいえないこと(費用の立替えの場合)
- 民事法律扶助の趣旨に適すること(報復目的や権利濫用にあたる訴訟などは対象外)
このうち1の基準は、法テラスの公式サイトに次のように示されています(2026年9月10日に法テラス公式サイトで確認した数値です。改定されることがあるため、利用時には最新の表を確認してください)。
収入の基準(手取りの平均月収の目安)
| 世帯の人数 | 東京都特別区・大阪市などの地域 | その他の地域 |
|---|---|---|
| 1人 | 200,200円以下 | 182,000円以下 |
| 2人 | 276,100円以下 | 251,000円以下 |
| 3人 | 299,200円以下 | 272,000円以下 |
| 4人 | 328,900円以下 | 299,000円以下 |
| 5人以上 | 1人増えるごとに33,000円を加算 | 1人増えるごとに30,000円を加算 |
家賃や住宅ローンを支払っている場合は、次の限度額の範囲でその額を収入から差し引いて(控除して)基準と比べることができます。医療費や教育費などの支払いがある場合も、やむを得ない事情として基準を満たす可能性があると案内されています。
| 世帯の人数 | 家賃・住宅ローンの控除限度額(かっこ内は東京都特別区の場合) |
|---|---|
| 1人 | 41,000円(53,000円) |
| 2人 | 53,000円(68,000円) |
| 3人 | 66,000円(85,000円) |
| 4人 | 71,000円(92,000円) |
資産の基準(現金・預貯金の合計)
| 世帯の人数 | 資産の基準 |
|---|---|
| 1人 | 180万円以下 |
| 2人 | 250万円以下 |
| 3人 | 270万円以下 |
| 4人 | 300万円以下 |
このほか、法テラスの公式サイトのQ&Aでは、無料法律相談の対象者について、日本に住所がない方や適法な在留資格のない外国人、法人・組合などの団体は対象に含まれないと説明されています。総合法律支援法の条文でも、民事法律扶助の対象は、費用を支払う資力がない、またはその支払いにより生活に著しい支障を生ずる「国民等」(国民、または日本に住所を有し適法に在留する者)とされています(30条1項2号)。会社や団体としての相談・依頼には使えない、個人向けの制度だと理解しておくとよいでしょう。
利用の流れ──予約から援助開始まで
無料法律相談の流れは、法テラスの公式サイトでは次の3ステップで案内されています。
- 電話またはWebで予約する……法テラス・サポートダイヤル(0570-078374。平日9時〜21時、土曜9時〜17時、祝日・年末年始を除く。2026年9月確認)に電話するか、Web予約を利用します。お住まいの地域の法テラス地方事務所に直接連絡する方法もあります
- 必要書類を準備する……裁判所や相手方から届いた書類(訴状、調停の呼出状、請求書など)があれば持参します。相続の相談であれば、亡くなった方と相続人の関係、財産のおおまかな内容をメモにしておくと相談がスムーズです
- 弁護士または司法書士と相談する……法テラスの地方事務所、または法テラスと契約している弁護士・司法書士の事務所で相談します。高齢や障がいなどで相談場所に行くのが難しい方は、自宅や入院先で相談を受けられる場合もあります
相談の場では、収入・資産が基準内かどうかの確認が行われます。基準を超える場合、無料相談の対象にはなりませんが、法テラスの情報提供業務を通じて相談窓口の案内を受けることはできます。
費用の立替え(代理援助・書類作成援助)の流れは、次のようになります。
- 弁護士・司法書士に相談し、依頼の内容を決める
- 援助申込書、資力申告書、収入を証明する資料(給与明細、源泉徴収票、所得証明書など)、住民票などの書類を準備して申し込む
- 法テラスの地方事務所で審査が行われる。審査は各地の弁護士・司法書士が担当し、援助を開始するかどうか、着手金・実費の金額、立替金の返済方法と月額が決まる。通常、申込みから決定まで2週間程度かかる
- 援助開始決定が出たら、弁護士・司法書士が事件の処理にあたる。これと併せて、審査で決まった方法による立替金の返済(分割)も始まる
- 問題が解決したら、弁護士・司法書士から法テラスに報告書が提出される。返済は決められた方法で続けていく
途中で費用だけを立て替えてもらうこと(実費のみの立替え)は原則としてできません。また、鑑定料などの実費は限度額の範囲内で立替えの対象になりますが、限度額を超える部分は原則として自己負担です。
司法書士が関われる範囲──弁護士との違いを正確に
法テラスの制度は「弁護士・司法書士」とひとまとめに案内されることが多いのですが、司法書士が担える範囲は法律で決まっています。ここは誤解されやすい点なので、事実として整理しておきます。
司法書士が裁判手続で代理人になれるのは、簡易裁判所で扱う140万円以下の民事事件に限られます。 司法書士法3条1項6号と同条2項は、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)が、訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額(140万円)を超えない簡易裁判所の民事訴訟・和解・支払督促・民事調停などについて代理できると定めています。この「140万円」の数え方については、認定司法書士に頼める140万円以下とは何の金額かを解説した記事をご覧ください。
一方、裁判所に提出する書類の作成は、金額や裁判所の種類にかかわらず、司法書士の業務です(司法書士法3条1項4号)。法テラスの書類作成援助は、まさにこの「依頼を受けて裁判所に提出する書類……を作成することを業とすることができる者」に書類作成を頼む場合の費用を立て替える制度です(総合法律支援法30条1項2号ハ)。たとえば、家庭裁判所に提出する相続放棄の申述書や遺産分割調停の申立書を司法書士に作成してもらい、手続き自体は本人が行う、という形がこれにあたります。
整理すると、法テラスを利用する場合の司法書士と弁護士の違いは次のとおりです。
| 頼みたいこと | 司法書士(認定司法書士) | 弁護士 |
|---|---|---|
| 無料法律相談 | できる(登記・供託・裁判所提出書類の作成などに関する相談と、140万円以下の民事紛争に関する相談) | できる(民事・家事・行政) |
| 簡易裁判所の140万円以下の事件の代理 | できる | できる |
| 地方裁判所・家庭裁判所での代理、140万円を超える事件の代理 | できない | できる |
| 裁判所に提出する書類の作成(金額を問わない) | できる | できる |
相談できる範囲が弁護士と異なるのは、司法書士が相談を業として行えるのが、司法書士法3条1項5号(同項1号〜4号の事務についての相談)と同項7号(140万円以下の民事紛争についての相談)の範囲だからです。
相続でいえば、相続人どうしで争いになっていて遺産分割調停や訴訟で代理人を立てたい場合は、家庭裁判所・地方裁判所が舞台になるため、弁護士に依頼することになります。争いがなく、相続放棄の申述書や不在者財産管理人選任の申立書などの書類作成が中心であれば、司法書士に書類作成援助で頼むことができます。相続の相談先を弁護士と司法書士のどちらにするかの考え方は、相続の相談は弁護士か司法書士かを解説した記事で詳しく整理しています。
なお、法テラスの制度を使って依頼できるのは、法テラスと契約している弁護士・司法書士(契約弁護士等)に限られます。契約弁護士等は、法テラスから独立して職務を行うと法律で定められています(総合法律支援法33条)。すべての事務所が法テラスと契約しているわけではないため、依頼を検討する際は、その事務所が法テラスの制度を利用できるかを確認する必要があります。
法テラスで受けられないもの
最後に、法テラスの民事法律扶助では対応できないものを確認しておきます(法テラス公式サイトの記載にもとづきます)。
- 刑事事件に関する相談・依頼……民事法律扶助の対象外です(刑事事件には国選弁護制度など別の仕組みがあります)
- 法人・組合などの団体からの相談……個人向けの制度のため対象外です
- 収入・資産が基準を超える方……無料相談・立替えの対象にはなりません
- 勝訴の見込みがないと判断される事件、報復目的や権利濫用にあたる訴訟……立替えの対象外です
- 実費のみの立替え……原則としてできません
- 自己破産事件の予納金……生活保護を受給している方を除き、立替えの対象外です(民事再生事件の予納金は、生活保護の有無にかかわらず対象外)
まとめ
法テラス(日本司法支援センター)は、総合法律支援法にもとづく公的な法人で、収入と資産が一定の基準以下の個人が、無料の法律相談(同じ問題につき3回まで・1回30分)と、弁護士・司法書士費用の立替えを利用できる制度を運営しています。立替えは無料ではなく、原則として分割で返済していくものですが、利息はかからず、生活保護を受けている方には猶予・免除の仕組みがあります。
司法書士が法テラスの制度で担えるのは、簡易裁判所で扱う140万円以下の事件の代理と、裁判所に提出する書類の作成、およびこれらに関する法律相談です。相続で争いがあり家庭裁判所や地方裁判所で代理人が必要なら弁護士、争いがなく書類作成が中心なら司法書士、という線引きは、法テラスを使う場合も変わりません。ご自身のケースがどちらにあたるか迷うときは、まずは法テラスのサポートダイヤルか、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 法テラスを使えば、司法書士や弁護士に無料で頼めるのですか?
無料なのは「法律相談」の部分だけです(同じ問題につき3回まで・1回30分)。調停・訴訟の代理や書類作成を依頼する場合の費用は、法テラスが「立て替える」ものであり、利用者は原則として分割で法テラスに返済します。利息はかかりません。生活保護を受給中の方は返済が猶予され、事件終了後も受給が続いていれば免除を申請できます。
Q. 収入の基準を少し超えていても使えますか?放っておくとどうなりますか?
収入・資産の基準は法テラスが定めており、基準を超える場合は無料相談・立替えの対象になりません。ただし、家賃や住宅ローンを支払っていれば限度額の範囲で収入から差し引いて判断されるので、単純な手取り額だけで諦めず、窓口で確認する価値はあります。相続放棄の3か月(民法915条1項)、遺産分割調停の呼出状への対応など、期限のある手続きを「費用が心配だから」と放置すると、選択肢そのものを失うおそれがあります。早めにサポートダイヤルに電話し、自分が対象になるかを確かめてください。
Q. 自分で法テラスに申し込めますか?どこに相談すればいいですか?
無料法律相談の予約は、法テラス・サポートダイヤル(0570-078374)またはWebから本人が直接行えます。相談の結果、弁護士・司法書士に依頼することになった場合の立替えの申込みは、相談を担当した弁護士・司法書士を通じて進めるのが一般的です。相続の内容が「争いはなく、相続放棄や不在者財産管理人の申立書などの書類作成が中心」であればお近くの司法書士に、「相続人どうしで争っていて家庭裁判所で代理人が必要」であれば弁護士に、それぞれ法テラスの制度が使えるかを含めて相談するとよいでしょう。
【さらに深掘り】民事法律扶助における援助の類型と司法書士の関与範囲
ご注意 以下は執筆時点(2026年9月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
1. 総合法律支援法30条1項2号が定める援助の類型
本文で「代理援助」「書類作成援助」「無料法律相談」と呼んだものは、総合法律支援法30条1項2号イ〜ホに根拠があります。同号は、「民事裁判等手続又は行政不服申立手続において自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない国民等」または「その支払により生活に著しい支障を生ずる国民等」を援助する業務として、次の5つを列挙しています。
| 号 | 内容(条文の要旨) | 一般に呼ばれる名称 |
|---|---|---|
| イ | 手続の準備・追行(民事裁判等手続に先立つ和解の交渉で特に必要と認められるものを含む)のため代理人に支払う報酬・実費の立替え | 代理援助 |
| ロ | イの立替えに代え、報酬・実費相当額を支援センターに支払うことを約した者のため、契約弁護士等にイの事務を取り扱わせること | (イの代替方式) |
| ハ | 「弁護士法その他の法律により依頼を受けて裁判所に提出する書類……を作成することを業とすることができる者」に、民事裁判等手続に必要な書類の作成を依頼して支払う報酬・実費の立替え | 書類作成援助 |
| ニ | ハの立替えに代え、契約弁護士等にハの書類作成事務を取り扱わせること | (ハの代替方式) |
| ホ | 「弁護士法その他の法律により法律相談を取り扱うことを業とすることができる者」による法律相談(刑事に関するものを除く)の実施 | 法律相談援助 |
ここでいう「民事裁判等手続」は、同法4条で「裁判所における民事事件、家事事件又は行政事件に関する手続」と定義されています。家庭裁判所の手続(相続放棄の申述、遺産分割調停など)が援助の対象に含まれるのは、この定義によります。なお、代理援助(イ)と書類作成援助(ハ)で「行政不服申立手続」が対象になるのは、30条1項2号イ(1)・ハにより「認知機能が十分でないために自己の権利の実現が妨げられているおそれがある国民等」(特定援助対象者)を援助する場合に限られており、それ以外の方についてはこの2つの援助の対象は民事裁判等手続です。法律相談援助(ホ)には、条文上この限定は置かれていません。
また、これらの援助は「その利益を得る者の権利を実現することに資すると認められる限りにおいて」行うものとされています(同法31条)。本文で触れた「勝訴の見込みがないとはいえないこと」という利用条件は、この規定の趣旨に沿ったものと位置づけられます。
2. 司法書士が関与できる類型
条文は「弁護士」「司法書士」という職名ではなく、「代理人」「裁判所に提出する書類を作成することを業とすることができる者」「法律相談を取り扱うことを業とすることができる者」という機能で援助を区別しています。したがって、司法書士がどの類型に関与できるかは、司法書士法3条で司法書士に認められた業務の範囲によって決まります。
(1)書類作成援助(ハ)……司法書士は「裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録」の作成を業とすることができます(司法書士法3条1項4号)。この4号業務には金額の上限も裁判所の種類の限定もありません。相続の場面でいえば、家庭裁判所に提出する相続放棄申述書、遺産分割調停申立書、特別代理人選任申立書、不在者財産管理人選任申立書などがこれにあたり、司法書士が作成し、申立て自体は本人名義で行う形です。30条1項2号ハの「裁判所に提出する書類……を作成することを業とすることができる者」に司法書士が含まれるのは、この4号によります。
(2)代理援助(イ)……司法書士が「代理人」になれる裁判手続は、司法書士法3条1項6号に列挙されたものに限られ、しかも同条2項の要件(法務大臣指定の研修修了・法務大臣の認定・司法書士会の会員)をすべて満たす司法書士(いわゆる認定司法書士)だけが行えます。6号が挙げるのは、簡易裁判所における次の手続です。
- イ 民事訴訟法の規定による手続で、訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額を超えないもの
- ロ 訴え提起前の和解(民訴法275条)と支払督促の手続で、請求の目的の価額が同額を超えないもの
- ハ 訴え提起前の証拠保全手続と民事保全法の規定による手続で、本案の訴訟の目的の価額が同額を超えないもの
- ニ 民事調停法の規定による手続で、調停を求める事項の価額が同額を超えないもの
- ホ 少額訴訟債権執行の手続で、請求の価額が同額を超えないもの
裁判所法33条1項1号が定める額は「百四十万円」です。号ごとに基準額の呼び方(「訴訟の目的の価額」「請求の目的の価額」など)が書き分けられている点は、訴額の数え方を解説した記事で取り上げています。
6号ただし書により、上訴の提起(自ら代理人として関与している事件の判決等に係るものを除く)、再審、強制執行に関する事項(ホの少額訴訟債権執行を除く)は代理できません。また、6号に列挙されているのは民事訴訟法・民事調停法・民事保全法・民事執行法の各手続であり、家事事件手続法による家庭裁判所の調停・審判は含まれていません。このため、遺産分割調停で代理人を立てる場合の代理援助は弁護士に依頼することになり、司法書士の関与は(1)の書類作成援助にとどまります。
(3)法律相談援助(ホ)……司法書士は、3条1項1号〜4号の事務についての相談(同項5号)と、認定司法書士であれば簡易裁判所の民事訴訟手続の対象となる紛争で紛争の目的の価額が140万円を超えないものについての相談(同項7号)を業として行うことができます。30条1項2号ホの「法律相談を取り扱うことを業とすることができる者」に司法書士が含まれるのは、これらの規定によります。
以上を相続の場面に当てはめると、法テラスの制度で司法書士に頼める範囲は「家庭裁判所に提出する書類の作成」と「相談」が中心であり、①請求額が140万円を超える事件、②地方裁判所・家庭裁判所が管轄する事件で代理人を立てる場合、③家事調停・審判の代理は、いずれも弁護士による代理援助の領域です。この線引きは法テラスを利用するか否かにかかわらず司法書士法によって定まっているもので、法テラスの制度が司法書士の業務範囲を広げたり狭めたりするものではありません。
3. 契約弁護士等の職務の独立性(33条)
総合法律支援法は、「契約弁護士等」を「支援センターとの間で、……他人の法律事務を取り扱うことについて契約をしている弁護士、弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人及び隣接法律専門職者」と定義しています(29条8項1号)。司法書士は同法1条にいう「隣接法律専門職者」に含まれるため、法テラスと契約した司法書士も「契約弁護士等」です。
なお、本文で述べた「法テラスの制度を使って依頼できるのは契約弁護士等に限られる」という点は、条文から直接導かれるものではありません。30条1項2号イ・ハは、立替えの対象を「代理人」「裁判所に提出する書類……を作成することを業とすることができる者」としか書いておらず、契約の有無に触れていないからです(契約弁護士等が明文で登場するのは、立替えに代えて事務を取り扱わせるロ・ニのほか、30条1項7号や同条2項などです)。法テラスは公式サイトで「民事法律扶助案件を取り扱うには、法テラスと契約を締結していただく必要があります」と案内しています(2026年9月10日確認)。契約が必要であることは、この法テラスの案内によって示されている運用上の取扱いであり、その根拠がどの規定に置かれているかは、条文からは特定できませんでした。
そのうえで33条1項は、「契約弁護士等は、支援センターが第三十条第一項又は第二項の業務として取り扱わせた事務について、独立してその職務を行う」と定め、同条2項は、支援センターと契約弁護士等に対し、利用者へこの独立性を「分かりやすく説明しなければならない」義務を課しています。さらに30条3項は、支援センターが契約弁護士等に取り扱わせる事務について「支援センターがこれを取り扱うことができるものと解してはならない」と明記しています。
つまり、法テラスは事件の費用を立て替え、または契約弁護士等に事務を取り扱わせる仕組みを運営する機関であって、法テラス自身が代理人として事件を扱うのではなく、事件の処理方針は受任した弁護士・司法書士が独立して判断する構造になっています。民事法律扶助の根拠規定である30条1項2号には、支援センターが特定の弁護士・司法書士を推薦・紹介する旨の定めは置かれていません(犯罪被害者等の援助に関する同項8号には「精通している弁護士を紹介する等」の配慮規定がありますが、民事法律扶助とは別の業務です)。
4. 立替金の償還・免除の制度上の所在
立替金をどう返すか(償還)は、法律そのものではなく、支援センターが作成し法務大臣の認可を受ける「業務方法書」に定められます。総合法律支援法34条1項は業務方法書の作成と法務大臣の認可(変更時も同様)を求め、同条2項1号は、その記載事項として「第三十条第一項第二号イ及びハに規定する立替えに係る報酬及び実費の基準並びにそれらの償還に関する事項」を挙げています。同号後段は、その報酬について「民事法律扶助事業が同項第二号に規定する国民等を広く援助するものであることを考慮した相当な額でなければならない」とも定めています。
生活保護を受給している方の返済猶予と、事件終了後も受給が続いている場合の免除申請については、法テラスの公式サイトのQ&Aに「生活保護を受給中の間は、返済は猶予されます。また、事件が全て終了した後も生活保護を受給されている場合は、返済の免除の申請ができます」と案内されています(2026年9月10日確認)。あわせて、令和8年4月1日から生活保護受給中の方を対象に、インターネットで償還免除を申請できるサービスが全国で開始されたことも公式サイトで案内されています(同日確認。生活保護に準ずる経済状況の方やひとり親の免除は同サービスの対象外とされています)。収入・資産基準や立替額の目安などの具体的な数値は本文と法テラス公式サイトの最新の表に譲りますが、制度上の所在としては、報酬・実費の基準とその償還は業務方法書の記載事項と定められている(34条2項1号)のに対し、収入・資産の具体的な金額は法律の条文が直接定めるものではなく法テラスが定める運用による、という関係になります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 総合法律支援法 第1条・第4条・第29条・第30条・第31条・第33条・第34条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000074
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 民法 第915条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法テラス「法テラスとは」: https://www.houterasu.or.jp/site/about-houterasu/houterasutoha.html
- 法テラス「民事法律扶助業務」: https://www.houterasu.or.jp/site/about-houterasu/minjihouritsufujo.html
- 法テラス「無料法律相談のご利用の流れ」(収入・資産の基準表を含む): https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/goriyounonagare.html
- 法テラス「無料法律相談に関するよくあるご質問」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/soudanqa.html
- 法テラス「費用の立替制度のご利用の流れ」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/goriyou.html
- 法テラス「立替制度に関するよくあるご質問」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/tatekaeqa.html
- 法テラス「審査に必要な書類について」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/document.html
- 法テラス「法律相談予約サービスに関するよくあるご質問」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudan-tatekae/yoyaku-service.html
- 法テラス「法テラス・サポートダイヤル」: https://www.houterasu.or.jp/site/soudanmadoguchi-houseido/support-dial.html
- 法テラス「インターネット民事法律扶助償還免除申請サービスの開始について」: https://www.houterasu.or.jp/soshiki/15/internet-syoukanmennjoservice.html
- 法テラス「民事法律扶助業務 手続の流れ(弁護士・司法書士の方)」: https://www.houterasu.or.jp/site/bengoshitou-fujo/fujo-tetsuduki.html