この記事の要点
- 任意整理は、債権者との話し合いによって返済条件を見直す私的な整理であり、法律上に手続きそのものを定めた規定があるわけではない
- 個人再生・自己破産は裁判所が関与する法的整理である点で、任意整理と異なる(それぞれ民事再生法・破産法に基づく手続き)
- 認定司法書士が交渉の代理人になれるのは、個々の債権ごとの紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲に限られる(司法書士法3条1項7号。1社に複数の債務がある場合は債権ごとに判断される)
- どの手続きが状況に合っているかは負債の総額や財産の状況などによって異なるため、最終的には専門家への相談が必要
複数の借入先への返済が苦しくなったとき、選択肢の一つとして名前が挙がるのが「任意整理」です。結論から言うと、任意整理とは、裁判所の手続きを経ずに、債権者と直接話し合って利息のカットや返済期間の見直しなどの合意を目指す私的な整理であり、破産法や民事再生法のように手続きそのものを定めた法律があるわけではありません。この記事では、任意整理の位置づけと、個人再生・自己破産との違い、そして認定司法書士が関与できる範囲を一般向けに整理します。
任意整理とは──法律上の定義がない「私的整理」
任意整理は、債務者と債権者(貸金業者やカード会社など)が話し合いによって合意を結ぶ手続きで、法律上「任意整理」という名称の制度が定められているわけではありません。実務上は、将来利息のカットや、一定期間での分割返済といった内容で合意を目指すケースが多く見られますが、合意の内容や条件は個々の交渉によって決まるものであり、あらかじめ法律で保障された結果があるわけではない点に注意が必要です。裁判所を利用せず債権者との合意によって進める点が、次に説明する個人再生・自己破産との大きな違いです。
個人再生・自己破産との違い──裁判所が関与するかどうか
債務整理の手続きとしては、任意整理のほかに、裁判所が関与する法的整理として個人再生と自己破産があります。
個人再生は、民事再生法に基づき裁判所に再生手続開始を申し立て、借金の総額を減額したうえで、原則3年(特別の事情があれば5年まで)での分割返済を目指す手続きです(小規模個人再生・給与所得者等再生の2類型があります)。住宅ローンが残っている自宅がある場合には、一定の要件のもとで、再生計画に「住宅資金特別条項」を定めて住宅ローンはそのまま(または条件を変更して)支払い続け、自宅を手元に残す選択も可能です(民事再生法196条以下)。この条項は住宅ローン付きの住宅がある場合に選択的に利用できる仕組みであり、個人再生をすれば当然に適用されるものではありません。
自己破産は、破産法に基づき裁判所に破産手続開始と免責を申し立て、一定の財産を換価・配当したうえで、裁判所の免責許可決定により残った借金の支払義務を原則として免れる手続きです。
任意整理が債権者との合意による私的な整理であるのに対し、個人再生・自己破産はいずれも裁判所の手続きを通じて法律に基づいた効果(減額・免責)を得る点が異なります。どの手続きが適しているかは、負債の総額や原因、収入の状況、保有している財産(住宅の有無など)によって異なり、事案ごとの事情を踏まえた検討が必要です。たとえば住宅ローンの支払いを継続しながら手続きを進められるかどうかは、選択する手続きによって扱いが異なります。住宅ローンの滞納が続いた場合にどのような流れをたどるかについては、住宅ローンを滞納するとどうなる──競売までの時系列と任意売却の入口で解説しています。
なお、返済が長期間滞っている古い借金については、そもそも消滅時効が完成している可能性がないかを確認することも一つの視点になります。時効の期間の数え方や、時効は自動的には成立しないという「援用」の仕組みについては、借金の時効は5年?10年?──消滅時効のきほんと『時効の完成猶予・更新』で解説しています。
認定司法書士が関与できる範囲──個々の債権ごとに140万円以下
任意整理の交渉を専門家に依頼する場合、司法書士に依頼できる範囲には法律上の制限があります。簡裁訴訟代理等関係業務の認定を受けた司法書士(認定司法書士)が、債権者との裁判外の和解について代理人として交渉できるのは、紛争の目的の価額が140万円を超えないものに限られます(司法書士法3条1項7号)。簡易裁判所の民事調停の手続きについて代理する場合も、同様に140万円以下の範囲が対象です(同項6号ニ)。
この140万円という金額は、任意整理の場面では、原則として個別の債権ごとの金額で判断されます。複数の債権者から借入がある場合でも、合計額ではなく、個々の債権(通常は債権者1社につき1件)の金額によって認定司法書士が代理できるかどうかが決まる、という考え方です。1社に対して複数の債務がある場合は、その債権ごとに140万円以下かどうかが判断されます(最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決・民集70巻5号1306頁)。紛争の目的の価額(訴額)の数え方の基本的な考え方については、認定司法書士に頼める「140万円以下」とは何の金額?|訴額の数え方の基礎で解説しています。
ある債権の額が140万円を超える場合、その債権についての交渉を認定司法書士が代理することはできません。この場合に代理を必要とするときは、弁護士への相談が必要になります。なお、特定調停の申立書など裁判所に提出する書類の作成〔同項4号〕は、代理とは別の業務類型として定められているものです。ただしこれは書類を作成する業務であり、司法書士が債権者との交渉や手続の代理まで行えるようになるという意味ではありません。
まとめ
任意整理は、裁判所の手続きを経ずに債権者と話し合って返済条件の見直しを目指す私的な整理であり、破産法や民事再生法のように手続きそのものを定めた法律があるわけではありません。個人再生・自己破産はいずれも裁判所が関与する法的整理である点で、任意整理と異なります。任意整理の交渉を司法書士に依頼する場合、認定司法書士が代理人になれるのは個々の債権ごとの紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲に限られます(司法書士法3条1項7号)。どの手続きが自分の状況に合っているかは負債の総額や財産の状況などによって異なるため、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 任意整理にかかる費用はどれくらいですか? 任意整理の費用は、依頼する専門家や債権者の数、交渉内容によって異なり、一律の金額を示すことはできません。一般的には、着手金や、減額・和解が成立した場合の報酬金といった形で費用が発生する例が多く見られますが、具体的な金額は依頼先ごとに異なるため、依頼前に見積もりを確認しておくことが大切です。
Q. 任意整理をせずに滞納を放置するとどうなりますか? 返済が滞ったまま放置すると、遅延損害金が発生・増加し、債権者からの督促が続くほか、最終的には債権者が訴訟を提起したり支払督促を申し立てたりして、判決や支払督促が確定すれば強制執行(給与や預金の差押えなど)に至る可能性があります。放置する期間が長くなるほど選択できる手続きの幅が狭まることもあるため、早めに状況を整理することが望ましいとされています。
Q. 自分で交渉できますか?どこに相談すればいいですか? 債務者本人が債権者と直接交渉すること自体は可能ですが、複数の債権者との調整や、法的な位置づけを踏まえた交渉には専門的な知識が必要になります。個々の債権ごとの紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲であれば、認定司法書士が交渉の代理人になり得ます(1社に複数の債務がある場合は、債権ごとに判断されます)。これを超える金額の債権については、弁護士への相談が必要です。まずはお近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】任意整理と簡裁訴訟代理等関係業務の位置づけ
ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。本文中の条文(司法書士法3条、民事再生法196条・198条・221条・229条・239条、破産法253条、民事訴訟法8条・9条・382条・395条、特定調停法2条・3条)はe-Gov法令検索で、施行日は裁判所ウェブサイトで確認しています。最高裁平成28年6月27日判決は、裁判所ウェブサイト(裁判例検索)に掲載された判決全文で確認しています。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
「紛争の目的の価額」はどう算定されるか
認定司法書士が任意整理の交渉を代理できる範囲は、紛争の目的の価額が個別の債権ごとに140万円を超えないことです(司法書士法3条1項7号)。この「紛争の目的の価額」をどう算定するかは、訴訟における訴額の考え方に準じて整理されます。訴訟であれば訴額は原告が求める請求の内容(請求金額)を基準に算定されますが、任意整理のような裁判外の交渉では、その紛争が最終的に訴訟になった場合を想定し、債務整理の対象となる個別の債権の価額(債権者が主張している債権額)を基準に考えることになります。最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決(民集70巻5号1306頁)は、認定司法書士が裁判外の和解を代理できる範囲は「個別の債権ごとの価額を基準として定められるべき」であり、裁判外の和解が成立した時点で初めて判明するような「債務者が弁済計画の変更によって受ける経済的利益の額」や、債権者が必ずしも容易には認識できない「債務整理の対象となる債権総額」等を基準にすべきではない、と判示しています。
この判断が示されるまで、認定司法書士が代理できる範囲をどの金額で測るかについては、実務・学説上いくつもの考え方が並び立っていました。個別の債権ごとに価額を算定する「個別額説」、債務整理の対象となる債権の総額で判断する「総額説」、弁済計画の変更によって債務者が受ける経済的利益の額で判断する「受益額説」、債権者が主張している債権額をそのまま価額とみる「債権者主張額説」などです。最高裁はこのうち総額説と受益額説を採らず、個別額説・債権者主張額説の方向で範囲を画したものと整理されており、この判決によって従来の見解の対立に一応の結論が示されたと評価されています(八神聖「認定司法書士の裁判外の和解代理権──平成28年6月27日最高裁判決の論評──」名城法学67巻1号237頁、251頁以下)。
ここで実務上のポイントとなるのが、この価額を「個別の債権ごとに」判定するという点です。前掲の最高裁判決は、その理由として、複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても、通常、債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なること、そして最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されることを挙げています。この考え方によれば、複数の債権者から借入がある場合でも、債務整理の対象となる債権をすべて合計した金額(債権総額)ではなく、個々の債権ごとの金額で140万円以下かどうかを判断することになります。債権者1社との間の借入が1本であれば、結果として債権者ごとに判定するのと同じことになります。たとえばA社への負債が200万円、B社・C社への負債がそれぞれ80万円ずつ(いずれも借入は1本ずつ)という場合、認定司法書士はA社との交渉については代理人になれず、B社・C社との交渉については代理人になり得る、という整理になります。
なお、任意整理の交渉では将来利息をカットした残元本を基準に和解を目指すことが一般的です。代理権の範囲を画する「紛争の目的の価額」に利息・遅延損害金を含めるかについては、訴額の算定において利息などの附帯請求は訴訟の目的の価額に算入しないとされている(民事訴訟法9条2項)ことから、元本を基準に見る考え方が示されていますが、この点を直接判示した最高裁判例は確認できておらず、個別の案件ごとに確認が必要です。なお学説上は、7号の「紛争の目的の価額」の算定が民事訴訟法8条・9条による訴額算定の基準に従うという点自体には解釈の争いがないと整理されており(前掲・八神245頁)、利息・遅延損害金を含めるかどうかを正面から論じて見解が分かれている文献は確認できませんでした。
任意整理・特定調停・支払督促──手続きの位置づけの違い
負債整理に関連する手続きは、それぞれ「誰が」「どこで」「どのような形で」関与するかが異なります。
- 任意整理:裁判所を利用せず、債権者と直接交渉して合意を目指す私的整理です。柔軟な条件交渉が可能な反面、債権者に交渉へ応じる法的な義務はなく、合意に至らなければ手続きは前に進みません。
- 特定調停:「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」に基づき、簡易裁判所の調停手続を利用する方法です。債務者自身が簡易裁判所に申し立てることができ、調停委員会が関与して話し合いを仲介する点で、裁判所を介さない任意整理とは位置づけが異なります。裁判所の手続きである以上、期日への出頭など任意整理にはない手続的な負担が生じます。
- 支払督促:これは債務者が選択する手続きではなく、任意整理の交渉がまとまらない場合などに、債権者側が簡易裁判所に申し立てる金銭請求の督促手続きです(民事訴訟法382条以下)。債務者が督促に異議を申し立てなければ、仮執行宣言を経て強制執行に至り得ます。逆に、債務者が適法な督促異議を申し立てた場合は、支払督促の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされ、通常の訴訟手続に移行します(民事訴訟法395条)。任意整理を検討する際には、「交渉がまとまらなかった場合に債権者側がどのような手段を取り得るか」の見取り図として、支払督促や訴訟の存在を押さえておくことが役立ちます。
なお、民事裁判手続のデジタル化を内容とする改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則が令和8年(2026年)5月21日に施行され、支払督促を含む民事訴訟手続について、オンラインによる申立てや書類の提出ができるようになりました(裁判所ウェブサイト「民事裁判手続のデジタル化」)。手続の進め方や書類のやり取りの方法が変わった一方で、支払督促の要件(民事訴訟法382条)や、督促異議による訴訟移行(同法395条)といった仕組みそのものが変更されたわけではありません。なお、民事執行・倒産手続などは今回のデジタル化によるオンライン申立て等の対象外とされています。
任意整理・特定調停・個人再生・自己破産のいずれも一長一短があり、負債の総額、債権者の対応、必要な期間や費用によって適した手続きは異なります。制度の仕組みを正確に理解したうえで、実際にどの手続きを選ぶべきかは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月)。
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 民事再生法 第196条・第198条・第221条・第229条・第239条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225
- 破産法 第253条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
- 民事訴訟法 第8条・第9条・第382条・第395条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律 第2条・第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC1000000158
- 民事調停法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000222
- 最高裁判所平成28年6月27日第一小法廷判決(平成26年(受)第1813号・第1814号、民集70巻5号1306頁)裁判所ウェブサイト 裁判例検索: https://www.courts.go.jp/hanrei/85969/detail2
- 裁判所「民事裁判手続のデジタル化」: https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 八神聖「認定司法書士の裁判外の和解代理権──平成28年6月27日最高裁判決の論評──」名城法学67巻1号237頁(名城大学法学会): https://law.meijo-u.ac.jp/staff/contents/67-1/670110_yanagi.pdf