この記事の要点

  • 不動産を家族信託の対象にすると、名義を受託者に移す登記と、信託の内容を公示する「信託目録」の登記が同時に必要になる
  • 登記事項証明書を見ると、権利部(甲区)に受託者の名義、信託目録に委託者・受託者・受益者や信託の目的が記載される
  • 名義が受託者に移っても、信託目録によって「これは信託財産であり、受託者が自由に処分できる財産ではない」ことが公示される
  • 信託が終了すると、信託登記の抹消と、あらためて所有権移転登記(帰属権利者への名義変更)が必要になる

家族信託で不動産を信託財産にすると、登記簿(登記事項証明書)にはどのような変化が生じるのでしょうか。結論から言うと、名義が委託者から受託者に移るとともに、「この不動産は信託財産である」ということを示す信託目録が新たに登記されます。単なる名義変更とは異なり、登記簿を見ただけで信託財産であることが分かる仕組みになっています。

家族信託そのものの制度概要(委託者・受託者・受益者の関係や、認知症対策としての位置づけ)については、家族信託(民事信託)とは──認知症に備えて財産の管理を家族に託すしくみで解説していますので、あわせてご覧ください。本記事では、不動産を信託財産にした場合に登記簿がどう変わるかという点に絞って解説します。

信託財産に不動産を含めると、2つの登記が同時に必要になる

自宅やアパートなどの不動産を信託財産に含める場合、法務局に対して次の2つの登記を同時に申請します。

  • 所有権移転登記:不動産の名義を、委託者から受託者に移す登記(登記原因は「信託」)
  • 信託の登記(信託目録の設定登記):その不動産が信託財産であることや、信託の内容を公示するための登記

この2つは同時に申請しなければならないと法律で定められており(不動産登記法98条1項)、片方だけを登記することはできません。名義変更だけを行って信託目録を登記しない、ということは制度上想定されていません。

登記事項証明書には何が書かれるのか

信託登記が完了すると、登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)の記載は次のようになります。

権利部(甲区) 所有権の欄に受託者の氏名・住所が記載され、登記原因として「信託」と記載されます。所有者としての名義は受託者名義になりますが、これは受託者が自分の財産として自由に使ってよいという意味ではなく、信託契約に基づいて管理を任されているという法律関係を反映したものです。

信託目録 権利部とは別に、信託目録という欄が新たに作られます。ここには次のような事項が記載されます(不動産登記法97条1項で登記事項として定められています)。

  • 委託者・受託者・受益者の氏名・住所
  • 信託の目的(何のためにこの不動産を管理・処分するか)
  • 信託財産の管理方法についての定め
  • 信託の終了事由(いつ、どのような場合に信託が終わるか)

つまり、登記事項証明書を取得すれば、名義人が誰か(甲区)だけでなく、その名義がどのような信託に基づくものか(信託目録)まで、第三者が確認できる仕組みになっています。これにより、名義は受託者に移りつつも、その不動産が受託者個人の自由な財産ではなく信託契約の枠内でのみ扱われるべき財産であることが、取引の相手方にも分かるようになっています。

なぜ信託目録が必要なのか

通常の売買や贈与による所有権移転登記では、登記原因と新しい所有者の情報が記載されるだけで、その不動産をどう使うかという制約までは登記簿に表れません。

一方、信託の場合は、名義こそ受託者のものになりますが、実質的な利益を受け取るのは受益者であり、受託者は信託契約で定めた目的の範囲でしか不動産を管理・処分できません。この「名義と実質的な利益の帰属が分かれる」という信託特有の関係を公示するために、信託目録という仕組みが設けられています。信託目録があることで、たとえばその不動産を受託者から購入しようとする第三者も、信託の内容(処分に制限がないか等)を登記事項証明書で確認できます。

信託が終了したときの登記

信託契約で定めた終了事由(委託者の死亡、信託期間の満了など)が生じて信託が終了すると、登記簿もそのままにはできません。一般的には、次の登記が必要になります。

  • 信託登記の抹消:信託目録の記載を抹消する登記
  • 所有権移転登記または変更登記:信託終了後にその不動産を取得する人(帰属権利者。信託契約であらかじめ定められていることが多い)への名義変更

信託が終了しても自動的に登記簿の記載が更新されるわけではなく、あらためて法務局への申請が必要になる点は見落とされがちなので注意が必要です。

費用面での留意点

信託に関する登記には登録免許税がかかります。もっとも、委託者から受託者へ信託のために財産を移す所有権移転登記の部分は非課税とされており(登録免許税法7条1項1号)、登録免許税がかかるのは「信託の登記」の部分です。その税率は、通常の売買による所有権移転登記とは異なり、不動産が土地か建物かによっても異なります。具体的な税額は不動産の評価額や信託の内容によって異なるため、正確な金額を知りたい場合はお近くの司法書士にご相談ください。本記事では、税額計算や節税につながる工夫については取り扱いません。

まとめ

不動産を家族信託の対象にすると、登記簿上は所有権移転登記によって名義が受託者に移るとともに、信託目録の登記によって信託の内容(委託者・受託者・受益者・信託の目的など)が公示されます。名義が変わることと、信託財産としての制約が公示されることはセットになっている点が、通常の売買や贈与による名義変更との大きな違いです。信託が終了した際にも、信託登記の抹消と名義変更の登記があらためて必要になります。登記の具体的な進め方や必要書類、信託契約の内容が不動産登記にどう反映されるかについては、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 不動産を信託財産にする登記の費用はどれくらいかかりますか? 所有権移転登記・信託目録の設定登記にかかる登録免許税に加えて、司法書士に手続きを依頼する場合は別途報酬が発生します。登録免許税の税率は不動産の種類や信託の内容によって異なるため、具体的な金額はお近くの司法書士にご相談ください。

Q. 信託登記をしないまま信託契約だけ結んでいるとどうなりますか? 契約自体は有効でも、不動産について信託登記をしていないと、その不動産が信託財産であることを第三者に対抗(主張)できないと定められています(信託法14条)。管理や処分をめぐるトラブルを防ぐためにも、信託契約を結んだら速やかに登記手続きを進めることが望ましいとされています。

Q. 信託登記の手続きは自分たちだけで進められますか? 信託目録に記載する内容は信託契約の内容を正確に反映する必要があり、記載に不備があると後日の解釈をめぐるトラブルにつながりやすい分野です。申請書類の作成や法務局とのやり取りを含め、お近くの司法書士にご相談されることをおすすめします。

【さらに深掘り】信託目録の記載と登記実務上の補正リスク

ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 本記事で引用した条文(不動産登記法97条・98条・100条・103条、不動産登記規則176条、信託法14条、登録免許税法7条1項1号)は、執筆時点でe-Gov法令検索の原文により確認しています。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

登記実務の観点から、本文で触れた信託目録の記載や登記手続きについて、もう一段踏み込んで整理します。

信託目録の記載事項と補正リスク

信託目録に記録すべき事項(委託者・受託者・受益者の氏名住所、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了事由等)は、不動産登記法97条1項各号に列挙されており、信託目録自体は同条3項および不動産登記規則176条に基づいて登記官が作成します。信託目録の案は、この法令上の枠組みに沿って記載する必要があります。実務上とりわけ補正(登記官からの記載の是正指示)につながりやすいのは、信託契約書に書かれている文言をそのまま登記申請の信託目録案に転記しようとして、法令が求める記載の粒度や表現と一致しない場合です。信託契約書は当事者間の合意文書としての性格が強く、そのまま登記に用いる書式にはなっていないことが多いため、信託目録案は契約書の内容を踏まえつつ、登記記載として整えた形で作成するのが実務上の一般的な取扱いとされています。

受託者の変更・追加信託・信託財産の一部処分

信託が長期間継続すると、当初の受託者が高齢や病気で職務を続けられなくなり、後任の受託者に交代する場面が生じ得ます。この場合は、受託者の変更を原因とする所有権移転登記(および信託目録の変更登記)が必要になります。受託者の変更による権利の移転の登記については不動産登記法100条に定めがあり、受託者の任務が死亡や後見開始の審判などの事由で終了して新受託者が選任された場合には、新受託者が単独で申請できます。また、受託者の氏名・住所など信託目録の登記事項(同法97条1項各号)に変更があったときは、受託者は遅滞なく信託の変更の登記を申請しなければならないとされています(同法103条1項)。このほか、信託財産に新たに不動産を追加する「追加信託」や、信託財産の一部(複数の不動産のうち一部)だけを売却・処分する場合も、その都度、対応する登記(追加信託による所有権移転登記、一部処分による所有権移転登記や信託目録の変更登記など)が必要です。信託は一度設定して終わりではなく、財産構成や受託者の変化に応じて登記も追随させる必要がある点は、実務上見落とされやすいポイントです。

受託者の処分権限の明確さと取引実務上の留意点

信託目録には信託財産の管理方法として、受託者がどこまで単独で不動産を処分できるかについての定めが記載されます。この記載が抽象的・曖昧な場合、受託者が実際にその不動産を売却しようとした際、買主側(あるいは融資を検討する金融機関)から、信託目録上の権限の範囲では処分が可能か疑義が示されることがあると実務上指摘されています。信託契約の設計段階で、受託者の処分権限をどの程度具体的に記載するかは、将来の取引のしやすさに影響し得る実務上の論点です。もっとも、権限の記載をどこまで具体化すべきかは信託の目的や財産の性質によって異なり、一律の基準があるわけではありません。

登記申請の添付書類としての信託契約書の位置づけ

信託を原因とする所有権移転登記および信託の登記を申請する際には、登記原因証明情報として、信託契約の内容を証する書面(信託契約書等)を添付するのが一般的な実務です。信託目録に記載する内容は、この添付書面に記載された信託の内容と整合している必要があり、両者の記載に食い違いがあると補正の対象になり得ます。信託契約書を作成する段階から、将来の登記申請を見据えて記載を整えておくことが、円滑な登記手続きにつながるとされています。

これらの実務上の取扱いは、信託契約の内容や不動産の状況によって判断が分かれる部分が少なくありません。信託契約書の作成や登記申請の具体的な進め方については、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年07月・いずれも一次情報です)。

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