この記事の要点

  • 会社の借金そのものは会社の債務であり、社長が亡くなっても相続人には引き継がれない
  • ただし社長が個人として結んでいた連帯保証(経営者保証)は相続の対象になり、相続分に応じて分割して引き継がれるのが原則
  • 継続的な融資をまとめて保証する「個人根保証契約」は、保証人の死亡によって元本が確定する(民法465条の4)=亡くなった後の新たな借入まで保証が広がることはない
  • 対処の選択肢として相続放棄・限定承認があり、期限は原則3か月。どれを選ぶべきかは個別の事情による
  • 金融機関との交渉や保証債務の整理方針は弁護士の領域。「経営者保証に関するガイドライン」という枠組みの存在も知っておきたい

会社を経営していた家族が亡くなったとき、遺された方が最も不安に感じることのひとつが「会社の借金はどうなるのか」という問題です。

先に結論をお伝えします。**会社の借金そのものは相続されません。しかし、社長が個人として結んでいた連帯保証(いわゆる経営者保証)は、相続の対象になります。**この2つを区別して考えることが、すべての出発点です。

この記事では、経営者が亡くなったときに保証がどう扱われるのか、遺されたご家族が知っておきたい基本を整理します。

会社の借金と社長個人の義務は別もの

まず大前提として、株式会社などの法人は、社長個人とは別の存在(別人格)です。会社が銀行から借りたお金は、あくまで「会社の債務」であり、社長個人の債務ではありません。

したがって、社長が亡くなっても、**会社の借金そのものが相続人に引き継がれることはありません。**会社は社長が亡くなった後も存続し、会社の財産から返済を続けていくことになります(相続人が引き継ぐのは、会社の借金ではなく、社長が持っていた「株式」などの個人財産です)。

ここまでなら安心なのですが、中小企業の融資では、多くの場合、社長が個人として会社の借金の連帯保証人になっています。これが「経営者保証」と呼ばれるものです。問題になるのは、この「社長個人が負っていた保証債務」のほうです。

連帯保証(保証債務)は相続される

相続人は、亡くなった方(被相続人)の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます。ただし、被相続人の一身に専属したものは引き継ぎません(民法896条)。ここでいう「義務」には、借金だけでなく、保証債務も含まれます。会社の借入金の保証のように、誰が支払っても目的を果たせる金銭債務の保証は、この「一身に専属したもの(一身専属的な義務)」には当たらないと考えられているためです。

つまり、社長が会社の借金の連帯保証人になっていた場合、その保証人としての立場(すでに発生している保証債務)は、相続人に引き継がれます。

相続分に応じて分割して引き継がれるのが原則

相続人が複数いる場合、各相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を引き継ぎます(民法899条)。金銭の支払いを目的とする債務は、相続の開始と同時に、法律上当然に相続分に応じて分割されると解されています。

たとえば、社長の連帯保証の対象となっていた会社の借入が3,000万円で、相続人が配偶者と子2人だった場合、法定相続分どおりであれば、配偶者が1,500万円分、子がそれぞれ750万円分の保証債務を引き継ぐ、というイメージです。

注意したいのは、遺産分割協議で「保証債務は長男がすべて引き継ぐ」と決めても、それだけでは債権者(銀行など)に主張できないという点です。債務の引き継ぎ方を相続人の話し合いだけで決めても、債権者の同意がなければ、債権者は各相続人に対して相続分に応じた請求ができると解されています。

「根保証」なら死亡で元本が確定する──それ以上は広がらない

経営者保証には、大きく2つのタイプがあります。

  • 特定の借入だけを保証するタイプ──「この3,000万円の借入を保証する」というもの
  • 継続的な取引から生じる借入をまとめて保証するタイプ──「今後の融資取引から生じる債務を、極度額○○円の範囲で保証する」というもの。これを「根保証(ねほしょう)」といい、保証人が個人の場合は「個人根保証契約」と呼ばれます

このうち個人根保証契約については、民法に重要なルールがあります。保証人が死亡したときは、主たる債務の元本が確定するというルールです(民法465条の4第1項3号。主たる債務者が死亡したときも同様です)。

「元本が確定する」とは、保証の対象となる借入の範囲がその時点で固定される、という意味です。つまり、社長(保証人)が亡くなった後に会社が新たに行った借入については、**相続人が保証責任を負うことはありません。**相続人が引き継ぐのは、あくまで死亡時点までに発生していた債務についての保証です。

「保証人の立場を相続したら、会社が借金を増やすたびに自分の責任も膨らんでいくのでは」という心配は、この点では不要ということになります。

対処の選択肢──相続放棄・限定承認と「3か月」

保証債務を含めて相続財産全体を見たとき、マイナスの財産のほうが大きい、あるいはどちらが大きいか分からないという場合には、次の選択肢があります。

  • 相続放棄──プラスの財産もマイナスの財産も、いっさい引き継がない方法です。家庭裁判所への申述(申し出)によって行い(民法938条)、放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。保証債務も引き継ぎません
  • 限定承認──相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、債務を支払うという条件付きで相続する方法です(民法922条)。相続人全員が共同で行う必要があります

いずれも、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続きする必要があります(民法915条1項)。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、家庭裁判所に請求して伸ばしてもらえる場合もあります。

相続放棄の基本的な流れと注意点は相続放棄の基本|3か月の期限はいつから?で、限定承認の仕組みは限定承認とは?で詳しく解説しています。

ここで大切なのは、どの選択肢が適切かは、会社の状況・保証の内容・他の財産の状況など個別の事情によって大きく変わるということです。たとえば、相続放棄をすると保証債務だけでなく自宅や株式などプラスの財産も一切引き継げなくなりますし、後継者として会社を継ぐ予定がある場合には別の考慮も必要になります。この記事では一般的な選択肢の紹介にとどめますので、実際の判断にあたっては専門家にご相談ください。

「経営者保証に関するガイドライン」という枠組みがあること

経営者保証をめぐっては、「経営者保証に関するガイドライン」という枠組みがあります。日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が共同で設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」が平成25年(2013年)12月に公表したもので、平成26年(2014年)2月から運用が始まりました。法律ではなく、中小企業団体と金融機関団体に共通する自主的・自律的な準則という位置づけです。経営者の個人保証について、契約時の考え方や、一定の要件のもとで保証債務の整理を図る際の考え方などが示されています。

このガイドラインに基づく保証債務の整理は、主たる債務者である会社について破産・民事再生・会社更生・特別清算といった法的整理、または中小企業活性化協議会による再生支援・事業再生ADR・特定調停などの手続き(準則型私的整理手続)が現に行われている、係属している、あるいは既に終結していることなどが要件とされています(ガイドライン7(1))。また、事業承継の場面については、令和元年(2019年)12月に同研究会が「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」を公表しており、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない扱いなどが示されています。

経営者が亡くなった後の保証債務について、この枠組みが使えるかどうかは、会社の状況や金融機関との協議によって変わります。

ただし、**このガイドラインを使って金融機関と交渉し、保証債務の整理を進めることは、法律相談・債務整理の領域であり、弁護士の業務範囲です。**この記事では「こうした枠組みが存在する」という紹介にとどめます。該当しそうな状況にある方は、早めに弁護士にご相談ください。

誰に相談すればよいか

経営者の相続は、保証債務のほかにも、株式の承継、代表者交代の登記、不動産の相続登記など、複数の手続きが同時に動きます。相談先の目安は次のとおりです。

  • 金融機関との交渉、保証債務・借金の整理方針──弁護士(司法書士は、認定司法書士が扱える140万円以下の簡易裁判所の民事事件の範囲を除き、代理交渉はできません)
  • 相続放棄・限定承認の申述書類の作成、相続登記、会社の役員変更登記──司法書士
  • 相続税・会社の税務──税理士

なお、社長が亡くなった場合、会社側では代表取締役の変更登記も必要になります。こちらは代表取締役の交代の登記で解説しています。

まとめ

経営者が亡くなったときの借金の問題は、次のように整理できます。

  • 会社の借金そのものは会社の債務であり、相続されない
  • 社長個人の連帯保証(保証債務)は相続され、相続分に応じて分割して引き継がれるのが原則
  • 個人根保証契約は保証人の死亡で元本が確定し、死亡後の新たな借入にまで保証が広がることはない(民法465条の4)
  • 対処の選択肢として相続放棄・限定承認があり、期限は原則3か月(民法915条1項)
  • 経営者保証に関するガイドラインという枠組みもあるが、その活用・交渉は弁護士の領域

「保証があるかどうか分からない」という段階でも、金銭消費貸借契約書や保証契約書の確認、信用情報の調査など、できることはあります。期限のある手続きが絡みますので、ひとりで抱え込まず、早めにお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q1. 相続放棄や限定承認の手続きには、どのくらい費用がかかりますか?

A. 家庭裁判所に納める費用として、相続放棄は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手代がかかります。限定承認も、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代です(郵便切手の金額は裁判所によって異なります)。このほか、戸籍謄本などの取得費用が実費でかかります。書類の作成を司法書士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なりますので、依頼前に見積もりを確認してください。

Q2. 何もせずに3か月が過ぎてしまったらどうなりますか?

A. 原則として、すべての財産と債務を引き継ぐ「単純承認」をしたものとみなされ(民法921条2号)、その後は相続放棄や限定承認を選べなくなります。保証債務についても、相続分に応じた責任を負うことになります。ただし、亡くなった方に保証債務があることを後から知ったようなケースでは、3か月の起算点(数え始めの時点)が問題になることがあります。詳しくは相続放棄の『3ヶ月』はいつから?をご覧ください。期限が迫っている、または過ぎてしまったかもしれないという場合こそ、早めに専門家にご相談ください。

Q3. 手続きは自分でもできますか? 誰に相談すればよいですか?

A. 相続放棄の申述自体は、ご自身で家庭裁判所に書類を提出して行うことも可能です。ただし、経営者の相続では、保証の有無や範囲の調査、会社の状況の把握、他の相続人との調整など、判断を誤ると取り返しのつかない要素が多く絡みます。申述書類の作成や相続登記は司法書士、金融機関との交渉や債務整理の方針は弁護士、税金は税理士と、内容に応じた専門家がいますので、まずはお近くの司法書士にご相談のうえ、必要に応じて適切な専門家につないでもらうことをおすすめします。

【さらに深掘り】保証債務の相続と承継の設計──元本確定・財産調査・遺産分割の交差点

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

「元本確定」で止まるもの・止まらないもの

本文で、個人根保証契約は保証人の死亡により元本が確定する(民法465条の4第1項3号)と説明しました。ここを一段掘り下げると、「確定」で止まるのはあくまで元本の範囲だという点に注意が必要です。

個人根保証契約の保証人は、主たる債務の元本のほか、その利息・違約金・損害賠償など従たるものすべてについて、契約で定めた極度額を限度として責任を負います(民法465条の2第1項)。したがって、保証人の死亡で元本が確定した後も、その確定した元本から発生し続ける利息や遅延損害金は、極度額の範囲内で保証の対象になり得ます。「死亡した時点で責任額が完全に凍結される」わけではなく、「対象となる借入の範囲がその時点の残高で固定され、上限は極度額」と理解しておくのが正確です。

また、個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。この「すべての個人根保証に極度額が必須」というルールは、いわゆる債権法改正(民法の一部を改正する法律・平成29年法律第44号)によるもので、施行日は令和2年(2020年)4月1日です。同法の附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による」と定めていますので、施行日前に締結された保証契約には、改正前の民法が適用されます。

改正前は、極度額の定めの義務付けも、保証人の死亡等による元本確定も、主たる債務に「貸金等債務」(お金の貸渡しや手形割引によって負担する債務)が含まれる根保証に限られていました(法務省パンフレット「保証に関する民法のルールが大きく変わります」)。銀行融資についての経営者保証はこの貸金等債務に当たることが多いため、施行日前の契約であっても極度額や元本確定のルールが及んでいることが少なくありません。他方、貸金等債務を含まない根保証(たとえば賃貸借の保証)では、契約が施行日の前か後かで結論が変わり得ます。つまり、保証契約がいつ締結されたか、どんな債務を保証しているかによって適用されるルールが変わるため、契約書の日付と保証の対象の確認が出発点になります。

なお、特定の借入だけを保証するタイプ(特定債務の保証)には、そもそも「元本確定」という概念がありません。保証の対象がはじめから特定されているためです。亡くなった方の保証がどちらの型なのかは、保証契約書の文言(「現在及び将来負担する一切の債務」「極度額」などの記載の有無)で見極めることになります。

熟慮期間内の財産調査──民法915条2項という明文の根拠

相続放棄・限定承認の判断期限である熟慮期間について、あまり知られていない条文があります。相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができるという明文の規定です(民法915条2項)。財産調査そのものは、判断の前提として法が予定している手続きです。もっとも、調査の過程で相続財産の全部または一部を処分するなどの行為があると、単純承認をしたものとみなされる場合があります(民法921条1号)。「調べること」と「財産に手をつけること」は切り分けて考える必要があります。

保証債務は、不動産のように登記簿に載るわけでも、借入のように預金口座の入出金に痕跡が残るわけでもない、いわば「見えない債務」です。経営者の相続では、次のような順序での調査が考えられます。

  • 会社の決算書・勘定科目内訳明細書の借入金欄から、どの金融機関からいくら借りているかを把握する
  • 各借入について、金銭消費貸借契約書・保証契約書の原本を確認し、誰が保証人か・根保証か特定債務の保証か・極度額はいくらかを読み取る
  • 取引金融機関に、被相続人が保証人となっている契約の有無を照会する
  • 信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)への開示請求を検討する(3機関とも、法定相続人による開示請求の制度があります。ただし、保証人としての情報がどこまで登録・開示されるかは各機関の登録内容によります)

調査を尽くしても判断材料がそろわない場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を請求する方法があります(民法915条1項ただし書)。「調査が終わらないまま3か月が来てしまう」ことが見えてきた時点で、早めに伸長の申立てを検討するのが安全側の対応です。

遺産分割協議で保証債務は「分けられない」の正確な意味

本文で、遺産分割協議で「保証債務は長男がすべて引き継ぐ」と決めても債権者には主張できない、と説明しました。これを設計の観点から整理すると、次の二層に分かれます。

  • 債権者との関係(対外関係)──保証債務は相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割承継されると解されており(民法899条参照)、協議の定めは債権者を拘束しません。債権者との関係でも特定の相続人に一本化しようとすれば、免責的債務引受(民法472条)などの仕組みによることになります。免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができますが、この場合は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力を生じます(同条2項)。また、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできます(同条3項)。いずれの方法でも、債権者である金融機関の関与なしには完結しません
  • 相続人どうしの関係(内部関係)──他方で、「長男が全部負担する」という協議の定めは、相続人の間では意味を持ちます。仮に他の相続人が債権者から請求を受けて支払った場合に、内部の負担割合に従って清算(求償)する際の基準になるためです

事業承継の場面では、後継者に保証を一本化したい、あるいは後継者以外の相続人を保証関係から外したい、という要望が出ることがよくあります。上記のとおりこれは金融機関との協議・合意が不可欠な領域であり、保証債務の整理方針を立てて金融機関と交渉することは弁護士の業務範囲です。承継の設計段階でできるのは、保証契約の全体像(契約の型・極度額・締結時期)を一覧化し、選択肢を整理しておくところまで、と考えておくのが安全です。

限定承認という選択肢の実務負担

保証債務には、主たる債務者(会社)がきちんと返済を続けている限り、保証人に現実の請求が来ないのが通常だ、という実務上の実態があります。相続の時点では、保証債務が将来現実化するかどうか分からない──こうした不確定な債務が大きい場合に、理屈のうえで親和的なのが、相続で得た財産の限度でのみ債務を弁済するという留保付きで承認する限定承認です(民法922条)。

ただし、限定承認には手続き上の負担が伴います。

  • 相続人が複数いるときは、共同相続人の全員が共同してしなければなりません(民法923条)。1人でも単純承認をした相続人がいると選択できません(相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、残りの全員で行うことは可能です)
  • 財産目録を作成して家庭裁判所に提出する必要があり、受理された後も、債権者への公告・弁済といった清算の手続きが続きます(民法924条以下)
  • 税務面では、限定承認をすると被相続人から相続人への資産の移転について譲渡所得の課税(いわゆる「みなし譲渡」)の論点が生じ得るとされています(所得税法59条)。この税務判断は税理士の領域ですので、限定承認を検討する場合は必ず税理士にもご相談ください

このように、限定承認は「保証債務があるなら限定承認」と機械的に選べるものではなく、相続人の足並み・手続き負担・税務の三方向を見て初めて判断できる選択肢です。どの場面で適するかは個別の事情によりますので、本欄でも当否の断定はせず、検討の視点の整理にとどめます。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

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