「善良な管理者の注意」と「自己の財産におけるのと同一の注意」の違い──相続の条文で読む注意義務の重さ

この記事の要点 民法で、人に注意を求める基準としてよく出てくる言い回しが2つある。「善良な管理者の注意」が重い基準、「自己の財産におけるのと同一の注意」が軽い基準 相続の条文では、相続人が遺産を管理するとき(918条)や相続放棄のあとに財産を保存するとき(940条)に軽い基準が、遺言執行者(1012条3項→644条)には重い基準が使われている 軽い基準には「自己の財産に対するのと同一」「固有財産におけるのと同一」など言い回しの揺れがあるが、どれも「自分(自分の財産)と同一の注意」という同じ形の言葉になっている 民法を読んでいると、「善良な管理者の注意をもって」「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」という決まり文句に出会います。どちらも「きちんと気をつけて扱いなさい」という意味に見えますが、法律の世界では求められる注意の重さが違う2つの基準です。結論から言うと、前者が重い基準、後者が軽い基準です。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

相続放棄が受理されたら次の順位の人へ──誰が相続人になるか、その人の「3か月」はいつから数えるか

この記事の要点 先の順位の相続人が全員放棄すると、子→直系尊属(父母・祖父母など)→兄弟姉妹の順で、次の順位の人が相続人になります。放棄した人の子が代わりに相続人になることはありません 次の順位の人の「3か月」は、亡くなった日からではなく、先の順位の人の放棄によって自分が相続人になったことを知った時から数えるのが基本と考えられます(民法915条1項) 家庭裁判所からの受理の通知は、申述した人などに宛てたものです。次の順位の人に知らせるなら、先の順位の全員の受理を確かめたあとに、日付の残る形で伝えておくと、あとで確かめやすくなります 相続放棄が受理されると、放棄した人の手続きはひと区切りです。しかし、相続そのものは終わっていません。相続人が次の順位の人に移り、その人の期限がそこから動き出すことがあるからです。 ...

2026年10月20日 · ひぐらしさとし

遺贈は放棄できる?──もらう側が断るときの手続きと、相続放棄との違い

この記事の要点 遺言で財産を譲られる「遺贈」は、受け取る側(受遺者)が放棄できます(民法986条1項)。ただし、遺贈の種類によって手続きがまったく違います 特定の財産を譲る「特定遺贈」は、家庭裁判所の手続きは不要で、遺贈を実行する立場の人(遺言執行者がいれば遺言執行者、いなければ相続人)に「放棄します」と伝えることで放棄できると解されています。後のトラブルを防ぐため、内容証明郵便などの書面で残しておくのが安全です 財産を割合で譲る「包括遺贈」は、相続人と同じ扱いになるため(民法990条)、相続放棄と同じく家庭裁判所への申述が必要と解されています 遺贈の放棄は、一度したら撤回できません(民法989条1項。包括遺贈も、相続放棄と同様に撤回できないと解されています)。放棄された財産は、遺言に別の定めがなければ相続人のものになります(民法995条) 迷ったら、遺言の内容が「特定遺贈」「包括遺贈」のどちらに当たるかを確かめるところから始めましょう 遺言書に「○○に土地を遺贈する」と書かれていても、受け取る側には、それを受け取らない(放棄する)自由があります。民法986条1項は、受遺者(遺贈を受ける人)は、遺言者が亡くなった後、いつでも遺贈を放棄できると定めています。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

相続の相談はいつ行けばいい?──四十九日などの区切りの考え方と、早めに動いたほうがよい場合

この記事の要点 四十九日などの区切りは、宗教・宗派や地域、家庭によって考え方が異なる慣習で、法律が定める手続きの期限ではありません。相談に行く時期を法要の日取りに合わせる必要はありません 一方で、相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税の申告の10か月、相続登記の申請の3年など、法律で期限が決まっている手続きがあります 借金がありそうなとき、相続人と連絡がつかないとき、不動産を売る予定があるときなどは、気持ちの整理を待たずに、期限が関係するかどうかだけでも早めに確かめておくと安心です 「四十九日が済んで、落ち着いてから相談しよう」と考える方もいるでしょう。結論からいえば、相談に行く時期は法要の区切りではなく、「期限のある手続きが関係しそうかどうか」で考えるのが基本です。 ...

2026年10月17日 · ひぐらしさとし

預金の残高証明書はいつ・誰が取る?──死亡日現在で請求する順番と相続放棄の3か月

この記事の要点 預金の残高証明書は、相続人が金融機関に「死亡日現在」の残高で請求するのが基本で、請求は死亡の連絡とセットになる(連絡と同時に口座の取引は原則制限される) 相続放棄・限定承認を選べる期間は、原則として自分のために相続が始まったことを知った時から3か月。残高証明書はその判断材料なので、取引先の洗い出しが済んだら早めにまとめて請求する 誰が請求できるか・必要書類・手数料・発行までの日数は金融機関ごとに異なることがあるため、事前に確認する 結論から言うと、残高証明書は「遺産分割の話し合いの前」よりさらに早く、「相続するか放棄するかを決める前」に揃え始めたい書類です。この記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月16日 · ひぐらしさとし

相続人が一人だけのときの相続手続き──遺産分割協議が要らない分、何をどの順番で進めるか

この記事の要点 「相続人が一人」と言えるのは、亡くなった方の戸籍を出生から死亡までたどり(親や兄弟姉妹が相続人になる場合は親の戸籍なども)、ほかに相続人がいないと確かめてから。前の結婚で生まれた子・認知した子・養子が見つかれば、相続人が増えたり、相続人だと思っていた人が相続人でなくなったりする 遺言がなく相続人が一人なら遺産分割協議は不要。ただし相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月、相続登記の3年という期限は、当てはまる場合にはそのまま残る 協議の成立を待つ必要がないため、相続すると決めたあとは、戸籍などがそろえば相続登記の準備を進められる 相続人が一人だけの場合、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議は必要ありません。そのぶん手続きは軽くなりますが、期限のある手続きがなくなるわけではありません。結論から言うと、①本当に一人かを戸籍で確かめる、②遺言の有無を確かめる、③財産と借金を調べ、3か月以内に相続するかどうかを決める、④税金の期限を確認する、⑤相続登記を申請する、という順番で進めるのが基本です。 ...

2026年10月12日 · ひぐらしさとし

相続人が未成年のとき、相続放棄の「3か月」はいつから?──親(法定代理人)が知った時から数えるルール

この記事の要点 相続人が未成年者のとき、相続を承認するか放棄するかを決める「3か月」は、子ども本人ではなく法定代理人(通常は親権を行う親)が、子どものために相続の開始があったことを知った時から数えます(民法917条) 家庭裁判所への相続放棄の申述(しんじゅつ:家庭裁判所への申出)も、未成年者本人ではなく法定代理人が代理して行います 親と子どもがともに相続人で子どもだけが放棄する場合(親が先に申述している場合を除く)などは、その子どもについて特別代理人の選任が必要とされています 結論:数え始めの基準は「法定代理人が知った時」 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続を承認するか放棄するかを決めなければなりません(民法915条1項)。この3か月を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。 ...

2026年10月8日 · ひぐらしさとし

相続放棄した人がいるときの相続登記──申請書の書き方と必要書類、受理証明書と受理通知書の扱い

この記事の要点 家庭裁判所で相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続登記の申請書の相続人欄には書きません。 申請書の添付情報欄に、相続放棄のための特別な項目はありません。2026年10月5日以降の様式どおり「登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報」と書き、放棄があったことを示す書面を、相続を証明する書類と一緒に添付します。 放棄を示す書面として、法務局の案内が入手を求めているのは「相続放棄申述受理証明書」です。受理通知書で代えられるかを明示した法務局・法務省の公開資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。通知書で済ませたいときは、申請前に管轄の法務局へ確認してください。 法定相続情報一覧図には、放棄した人も載ります。一覧図を使う場合でも、受理証明書は別に必要です。 放棄によって次の順位の人が相続人になると、申請書に書く人も、集める戸籍も変わります。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。 相続人の中に、家庭裁判所で相続放棄をした人がいる場合の相続登記について、申請書の書き方に絞って説明します。相続放棄の手続きそのものは相続放棄の基本で、申請書の各欄の一般的な書き方(原因の日付、課税価格、不動産の表示など)は相続登記申請書の書き方で説明していますので、ここでは繰り返しません。 ...

2026年10月7日 · ひぐらしさとし

相続放棄の受理通知書と受理証明書の違いは?──自動で届く書面と、申請して取る書面

この記事の要点 「相続放棄申述受理通知書」は、放棄の申述が受理されたときに家庭裁判所から申述人に届く書面です。「相続放棄申述受理証明書」は、必要なときに家庭裁判所へ申請して交付を受ける書面です 受理証明書は、放棄した本人のほか、利害関係を示した他の相続人や債権者なども申請でき、手数料は申述人1人の証明書1通につき収入印紙150円です 相続登記では、放棄した人がいる場合に家庭裁判所から受理証明書を入手するよう法務局の案内でも説明されているため、証明書を用意しておくのが確実です 相続放棄が終わると、手元に届くのは「通知書」です。「証明書」は、自分から申請しない限り届きません。名前が似ていますが、届き方も、取れる人も異なります。ここでは、手続きの順番に沿って二つの書面を整理します。 ...

2026年9月30日 · ひぐらしさとし

死後の手続きとお金の悩み・全体マップ──凍結・解約・借金・時効

この記事の要点 家族が亡くなった後のお金の悩みは「口座の凍結と解約/請求できるお金/親の借金の調べ方/相続放棄・限定承認/借金の時効」の5つに分けると整理しやすい 期限に注意したいのは、相続放棄・限定承認の原則3か月(民法915条1項)と、未支給年金・葬祭費・埋葬料・保険金などの請求の時効 下の目次から、いま困っていることに当てはまる項目の記事を読んでください 相続放棄をするかどうか、時効を援用するかどうかといった個別の判断は、この記事では扱いません 家族が亡くなった後の「お金」の悩みは、まず悩みの種類を5つのどれかに当てはめ、その項目の記事から読むのが近道です。この記事は、死後の手続きのうちお金にかかわる解説記事だけをまとめて案内する目次です。制度のしくみは個別の記事にゆずり、ここでは「どの悩みに、どの記事が対応しているか」だけを並べます。本記事は、執筆時点(2026年09月)の法令に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月29日 · ひぐらしさとし