この記事の要点
- 親子間の不動産売買は、金融機関の住宅ローン審査で慎重に扱われる傾向があるとされている
- 売買・贈与・相続は、登記の原因も必要書類も登録免許税の税率もそれぞれ異なる
- 時価に比べて著しく低い価格での売買は、その差額部分が「贈与」とみなされる可能性があるため、価格の決め方には注意が必要
- 税額の計算や個別の判断は税理士へ相談するのが基本
親から子へ、あるいは子から親へ不動産を譲るとき、「売買にするか、贈与にするか、それとも将来の相続まで待つか」で迷う方は少なくありません。とくに売買を選んだ場合、「住宅ローンを組もうとしたら金融機関から難色を示された」という声を聞くことがあります。この記事では、親子間売買で住宅ローンが通りにくいと言われる一般的な背景と、売買・贈与・相続で登記や税金の扱いがどう変わるのかを整理します。
なぜ親子間売買は住宅ローンが通りにくいと言われるのか
住宅ローンは、購入する不動産に抵当権(担保)を設定し、万一返済が滞った場合には金融機関がその不動産を処分して回収できるようにする仕組みです。この審査の過程で、親子間の売買には次のような点が慎重に見られやすいと一般に言われています。
- 取引の実態が見えにくいこと:赤の他人同士の売買と異なり、親子間では「本当に代金のやり取りがあるのか」「実質的には贈与ではないか」といった点が確認されやすいとされています
- 価格の妥当性:時価より大幅に安い金額で売買契約を結ぶと、税務上、実質的に贈与とみなされる可能性があります(後述)。売買としての実態そのものが問われる材料になり得るため、審査の場面でも価格の根拠を求められることがあるとされています
- 資金使途への懸念:住宅ローンで得た資金が、本来の住宅取得ではなく別の目的(相続税対策など)に使われるのではないかという見方をされることがあるとされています
- 担保価値の評価:親がそのまま住み続ける、あるいは同居を続けるといったケースでは、担保としての実効性(明け渡しの実現可能性など)が問われやすいとも言われています
ここで強調しておきたいのは、これらは金融機関の一般的な傾向として言われているものであり、審査基準は金融機関ごと・案件ごとに異なるという点です。「親子間だから必ず通らない」というわけではなく、資金の流れや価格の妥当性を示す資料を整えることで対応できるケースもあります。実際にローンを検討する際は、取扱いの金融機関に直接確認することをおすすめします。
売買・贈与・相続で何が変わるのか
同じ「親から子へ不動産の名義が移る」場面でも、売買・贈与・相続では登記の原因、必要書類、税金の扱いが大きく異なります。ここでは一般的な違いを整理します。
登記原因の違い
不動産の名義変更(所有権移転登記)を法務局に申請する際には、「どのような理由で名義が移ったか」を示す登記原因を記載します。
- 売買:登記原因は「売買」。売買契約書と代金の授受が前提になります
- 贈与:登記原因は「贈与」。無償で財産を譲る契約(贈与契約)に基づきます
- 相続:登記原因は「相続」。亡くなった方(被相続人)の死亡日が原因日付になります
必要書類の違い
いずれの場合も、新しく名義人になる方の住民票や固定資産評価証明書などは共通して必要になります。一方、登記識別情報(権利証)は、譲る側と譲り受ける側が共同で申請する売買・贈与では必要になりますが、相続登記は不動産を取得する相続人が単独で申請するため、原則として提供は不要です。そのほか、次の点で違いがあります。
- 売買:売買契約書、代金の領収書や振込記録など取引の実態を示す資料
- 贈与:贈与契約書(贈与税の申告が必要になる場合は申告書の控えも保管しておくとよいでしょう)
- 相続:戸籍謄本一式(被相続人の出生から死亡まで、相続人全員の戸籍)、遺産分割協議書や遺言書など、相続関係と取得者を確定させる資料一式
相続のケースでは、戸籍謄本一式の収集に加えて相続税の申告要否など税務面の論点が絡むことも多く、事前の確認が欠かせません。
登録免許税の税率の違い
登記の際には登録免許税がかかりますが、原因によって税率が異なります(不動産の価格=固定資産税評価額に対する税率、一般的な原則としての整理です)。
- 売買:原則として固定資産税評価額の2%(登録免許税法別表第一・一(二)ハ)。ただし土地の売買による所有権移転登記は軽減措置により1.5%になります(租税特別措置法72条1項1号)。この軽減の適用期限は2029年(令和11年)3月31日までで、建物の売買にはこの軽減はありません
- 贈与:固定資産税評価額の2%(土地・建物とも、上記の軽減措置は売買が対象のため適用されません)
- 相続:固定資産税評価額の0.4%(登録免許税法別表第一・一(二)イ)
相続による移転は、売買・贈与に比べて税率が低く設定されています。なお、生前贈与と相続時精算課税制度の基本や贈与登記の基本的な流れも、登記原因ごとの違いを理解するうえで参考になります。
低額譲渡と「みなし贈与」に注意
親子間売買でとくに注意したいのが、売買価格が時価に比べて著しく低い場合、その差額部分が贈与とみなされる可能性がある点です。これは税務上「低額譲渡」と呼ばれる考え方で、形式上は売買契約であっても、実質的な経済的利益の移転があったとみなされれば贈与税の対象になり得ます。
どの程度の価格差から「著しく低い」と判断されるかは、個別の評価額や取引の実情によって変わるため、この記事では立ち入った基準には触れません。売買価格を決める際は、不動産の適正な評価額を踏まえたうえで、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
なお、名義変更の方法自体は売買以外にも複数の選択肢があります。不動産の名義変更4つの方法もあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすくなります。
まとめ
親子間の不動産売買は、金融機関の審査で慎重に扱われやすい傾向があるとされていますが、必ず組めないわけではありません。また、売買・贈与・相続では登記原因・必要書類・登録免許税の税率がそれぞれ異なり、どの方法を選ぶかによって手続きの進め方も変わってきます。とくに売買価格の設定は「みなし贈与」の問題にも関わるため、税額の判断は税理士に相談しつつ、登記手続きについてはお近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 親子間売買の登録免許税はいくらですか? 原則として固定資産税評価額の2%が目安です。土地部分については軽減措置により1.5%となります(2029年〔令和11年〕3月31日までの登記が対象)。建物部分は2%のままです。なお、この登録免許税以外に贈与税・譲渡所得税などが関わる場合の税額の判断は、税理士にご確認ください。
Q. 名義変更をしないまま放置するとどうなりますか? 相続によって不動産を取得した場合、相続登記は義務化されており(2024年4月1日施行)、正当な理由なく期限内に申請しないと過料の対象となる可能性があります。売買や贈与による所有権移転登記そのものに申請義務はありませんが、2026年(令和8年)4月1日からは、所有権の登記名義人の住所や氏名が変わったときに、変更があった日から2年以内に変更登記を申請する義務が始まっています(不動産登記法76条の5)。親子間売買で名義人になった後に引っ越した場合なども、この義務の対象です。また、名義が実態と異なると将来の売却や担保設定の際に支障が出ることがあります。早めの手続きをおすすめします。
Q. 親子間売買や贈与の手続きは自分でできますか? 契約書の作成や登記申請はご自身で行うことも制度上は可能ですが、登記原因の選び方や必要書類の準備、税務面の論点が絡むため、誤りがあると後から訂正が必要になることもあります。登記手続きについてはお近くの司法書士に、税額の判断は税理士にご相談されることをおすすめします。
【さらに深掘り】親子間売買と登記実務の観点
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
所有権移転登記の添付書類(登記原因証明情報)
売買を原因とする所有権移転登記では、登記原因証明情報として売買契約書(またはこれに代わる報告形式の書面)を法務局に提供します。親子間売買の場合、契約書自体は第三者間の売買と同じ形式で足りますが、実務上は代金決済の実態(振込記録や領収書など)を別途保管しておくことが望ましいとされています。これは登記申請そのものの必須添付書類ではありませんが、後に売買の実態を確認される場面(税務調査や将来の紛争)に備える意味があります。
住宅ローンを利用する場合の抵当権設定登記
住宅ローンを利用して親子間売買を行う場合、決済日に「所有権移転登記」と「(根)抵当権設定登記」を同時に申請するのが一般的な流れです。金融機関は融資実行と同時に担保設定を求めるため、決済・登記のスケジュールは金融機関の実務に合わせて組む必要があります。実際には、所有権移転登記を先の順位、(根)抵当権設定登記をその次の順位として、まとめて(連件で)申請します。所有権が買主である子に移ったことを前提として抵当権を設定するという順序自体は、第三者間の売買と変わりません。
低額譲渡が疑われる事案での実務上の留意点
登記官の審査は、申請情報・添付情報と登記記録から判断できる範囲で行われ、実体関係を職権で調査するものではないとされています(いわゆる形式的審査)。もっとも、この呼び方は「登記官が実体的な要件をいっさい審査しない」という意味ではなく、その位置づけをどう説明するかについては見解が分かれています。この点、売買代金の額そのものは登記される事項ではなく、代金が相場より低いことがただちに売買契約の効力を左右するわけでもありません。そのため、いずれの理解に立つとしても、登記官が売買価格の当否(時価との乖離)そのものを審査する場面は想定されていないと考えられます。もっとも、売買契約書に記載された代金額が明らかに不自然な場合、司法書士が登記原因証明情報を作成する過程で、当事者に価格設定の経緯を確認することはあります。売買価格をどう設定するかは税務上の論点(低額譲渡・みなし贈与)に直結するため、契約締結前に税理士へ相談しておくと、後から登記原因証明情報の内容を見直す手間を避けやすくなります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 登録免許税法 別表第一・一(二)イ・ハ(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 租税特別措置法72条1項1号(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 相続税法7条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 不動産登記法22条・63条2項・76条の5(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123