この記事の要点

  • 団信(団体信用生命保険)でローンが完済されても、登記簿に記録された抵当権は自動では消えない。抹消登記の申請が別に必要
  • 保険金の請求手続きは保険会社および金融機関の手続きであり、司法書士が関与するのは完済後の抵当権抹消登記に限られる
  • 抹消登記に必要な書類は金融機関から届く。届くまでの期間は金融機関・保険会社や事案によって異なり、一律の目安はない
  • 不動産の名義人が亡くなっている場合、抹消登記は相続人が申請人になる
  • 手続きの進め方・必要書類は金融機関や保険会社によって異なるため、まずは借入先の金融機関に確認を

住宅ローンを組んでいた家族が亡くなり、「団信で完済されたので、もう何もしなくていい」と聞いた──。そう思って安心してしまう方は少なくありません。

結論から言うと、団信でローンが完済されても、それだけで手続きは終わりません。借入れ(債務)がなくなっても、法務局の登記簿に記録された抵当権(ローンの担保として不動産に付けられた権利)は自動的には消えないからです。登記簿の記録は、申請にもとづいて書き換えられる仕組みになっており、完済されたという事実だけで登記官の側が消してくれるわけではありません。抵当権を登記簿から消すには、抵当権抹消登記という申請を別に行う必要があります。

なお、この記事は「団信で完済された場合」の話です。団信に加入していなかった、事業用の借入れだったなどの理由で完済されず、ローンが相続人に引き継がれる場合は手続きの中身がまったく変わります。そちらは抵当権付きの不動産を相続したとき──団信で完済されない場合の「債務者変更登記」で扱っていますので、あわせてご確認ください。

保険金の請求は、保険会社と金融機関の手続き

はじめに、役割の線引きをはっきりさせておきます。

団信は、住宅ローンの契約者が亡くなったときなどに、保険金でローン残高が支払われる生命保険です。この保険金の請求手続きは、保険会社および金融機関の手続きです。司法書士が関与するのは、完済されたあとの抵当権抹消登記に限られます。保険金の請求を代わりに行うことはできません。

また、保険の内容そのもの(どのような場合に保険金が支払われるのか、契約がどうなっているのかなど)や、請求できるかどうかについての疑問は、保険会社または代理店にお問い合わせください

そして、団信の請求手続きの進め方や必要書類は、金融機関や保険会社によって異なります。パンフレットやインターネット上の一般的な説明が、そのまま自分の契約に当てはまるとは限りません。まずは借入先の金融機関に連絡して確認することが、最初の一歩になります。

金融機関に連絡してから、抹消書類が届くまで

団信で完済されるケースの一般的な流れは、次のようになります。

  1. 借入先の金融機関に、契約者が亡くなったことを連絡する(団信の請求手続きの案内を受ける)
  2. 金融機関・保険会社の案内に従って、死亡診断書の写しなど所定の書類を提出する
  3. 保険会社の審査を経て、保険金が支払われ、ローンが完済される
  4. 完済後、金融機関から抵当権抹消登記に必要な書類一式が届く
  5. その書類を使って、法務局に抵当権抹消登記を申請する

司法書士が関わるのは、原則として4以降の場面です。

ここで知っておいていただきたいのは、1から4までにはある程度の時間がかかるということです。保険会社の審査を経る手続きのため、連絡してすぐに書類が届くわけではありません。どのくらいかかるかは、金融機関・保険会社の運用や書類の準備状況、事案の内容によって異なり、「何日で届く」という一律の目安を示すことはできません。見込みを知りたいときは、借入先の金融機関に確認してください。

なお、団信に加入していれば必ず完済されるというものではなく、契約内容や加入状況によって取扱いは異なります。実際に保険金が支払われるかどうかは、保険会社の判断によります。

届いた書類は、そのまま保管を

金融機関から届く抵当権抹消登記の書類には、登記識別情報(または登記済証。抵当権を設定した登記が終わったときに、法務局から金融機関に通知・交付されたものです)、抵当権が消滅したことを証する書面(解除証書・弁済証書など、名称は金融機関によって異なります)、金融機関からの委任状などが含まれるのが一般的です。金融機関の代表者事項証明書が同封されることもありますが、これは同封されないこともあります(理由は末尾の深掘りで触れます)。中身は金融機関によって異なりますので、届いた書類の一覧は金融機関の案内書で確認してください。

これらの書類は抹消登記に使う大切なものですので、封を開けてもばらばらにせず、届いた状態でまとめて保管してください。書類の中には作成日から一定期間で使えなくなるものもあり、放置していると再発行を依頼することになります。書類が届いたら、なるべく早く登記の手続きに進むのが安心です。

登記簿のどこに抵当権が記録されているのかを自分でも確かめたいときは、登記簿の『乙区』の読み解き方もあわせてご覧ください。

抵当権抹消登記の申請人は誰か

抵当権抹消登記は、権利に関する登記のひとつです。不動産登記法60条は、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同してしなければならないと定めています。抵当権抹消登記の場面では、抵当権を消してもらう側である不動産の所有者(登記名義人)と、抵当権者である金融機関とが、共同で申請する形になります。

問題は、団信のケースではその不動産の名義人自身が亡くなっていることが多い、という点です。亡くなった方が申請人になることはできません。

この点について、不動産登記法62条は、登記名義人などについて相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人がその登記を申請することができると定めています。つまり、亡くなった名義人に代わって、その相続人が申請人となって抵当権抹消登記を進めることができます。この場合、相続人であることを示す戸籍などの書類(相続を証する書面)を添えて申請することになります。

なお、相続人が複数いるときに、そのうち誰が申請人となるか(相続人全員で申請するのか、一部の方だけで進められるのか)は、事案によって取扱いが分かれる部分です。金融機関から書類が届いた段階で、必要な書類とあわせて、法務局やお近くの司法書士に確認しておくのが確実です(この点は末尾の深掘りで触れます)。

実際の手続きでは、金融機関側の書類(委任状など)を司法書士が預かり、相続人側とあわせて代理申請する形が一般的です。

相続登記との関係

団信のケースでは、抵当権抹消登記のほかに、不動産の名義を相続人に変える相続登記も必要になります。相続登記は2024年(令和6年)4月1日から申請が義務化されており、いずれにせよ避けて通れない手続きです。

期限にも注意してください。義務化のルールでは、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することとされています。そして、義務化より前に発生した相続も対象から外れるわけではありません。2024年4月1日より前に相続したことを知っていて、まだ相続登記が済んでいない不動産については、期限の起算日が義務化の施行日(2024年4月1日)になるため、その3年後にあたる2027年(令和9年)3月31日までに申請する必要があります。ご家族が亡くなったのが何年も前という場合、この期限はすでに間近に迫っていることになります。

では、相続登記と抵当権抹消登記はどちらを先にすべきか。この順番の考え方や、それぞれの進め方のメリット・注意点については、相続登記と抵当権抹消、どちらが先?で詳しく整理していますので、そちらをご覧ください。この記事では、団信で完済された場合の実務の流れに絞って説明しています。

いずれの順番で進めるとしても、必要になる戸籍などの書類には重なる部分があります。金融機関から抹消書類が届くのを待っている間に、戸籍の収集を進めておくと、全体としては早く片づきます。

もうひとつ、相続登記を終えて新しく名義人になったあとの話も、あわせて知っておいてください。2026年(令和8年)4月1日から、所有権の登記名義人の氏名・名称や住所に変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請することが義務づけられています。相続登記のあとに引っ越しをする予定がある方は、頭の片隅に置いておくと安心です。なお、あらかじめ法務局に申し出ておくことで、法務局の側で住所等の変更を確認して変更の登記をする仕組み(スマート変更登記)も設けられています。

まとめ

団信で住宅ローンが完済されても、登記簿の抵当権は自動では消えません。金融機関から届く書類をもとに、抵当権抹消登記を申請する必要があります。

改めて確認しておきたいのは役割の線引きです。保険金の請求手続きは保険会社および金融機関の手続きであり、司法書士が関与するのは完済後の抵当権抹消登記に限られます。 保険の内容や請求できるかどうかについての疑問は保険会社または代理店へ、請求の進め方や必要書類は借入先の金融機関へ確認してください。そのうえで、完済後の登記の手続きで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 抵当権抹消登記の費用はどのくらいかかりますか?

登録免許税は、不動産1個につき1,000円が目安です。土地と建物がある場合は、それぞれに1,000円ずつかかるイメージです。このほかに、戸籍や登記事項証明書の取得費用、司法書士に依頼する場合の報酬がかかります。報酬は不動産の数や相続人の人数によって変わるため、見積もりで確認するとよいでしょう。

Q. 抹消登記をせずに放置すると、どうなりますか?

抵当権抹消登記そのものには、相続登記のような申請義務や期限の定めはありません。ただし、登記簿に抵当権が残ったままだと、その不動産を売却したり、新たに担保に入れたりするときに支障が出ます。また、金融機関から届いた書類が古くなって使えなくなり、再発行の手間が生じることもあります。書類が届いたら早めに進めるのが安心です。なお、不動産の名義を変える相続登記のほうには申請義務があります。

Q. 自分で手続きできますか?

制度上、抵当権抹消登記を自分で申請することは可能です。ただし、団信のケースでは名義人が亡くなっているため、相続人であることを示す戸籍を集める必要があり、相続登記との段取りも絡んできます。相続人が複数いる場合や、金融機関から届いた書類の内容がよく分からない場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】抵当権抹消登記の申請構造と、相続人が申請人となる場面

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

ここから先は、保険金の請求ではなく、完済されたあとの登記手続きの話に絞って整理します。保険金の請求手続きは保険会社および金融機関の手続きであり、司法書士が関与するのは完済後の抵当権抹消登記に限られます。

共同申請の原則と、金融機関から届く書類が担う役割

不動産登記法60条は、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないと定めています。抵当権抹消登記では、抵当権という負担が消える不動産の所有者が登記権利者、抵当権者である金融機関が登記義務者という位置づけになります。

とはいえ、金融機関の側が法務局の窓口に一緒に出向くわけではありません。金融機関から届く書類が、登記義務者の側から出すべき部分を書面で担う形になっています。届く書類とその位置づけを対応させると、次のように整理できます。

  • 登記識別情報(または登記済証) … 不動産登記法22条本文は、登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記を申請する場合には、申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければならないと定めています(同条ただし書に、提供できないことにつき正当な理由がある場合の例外があります)。抵当権抹消では、金融機関が抵当権者として持っている分がこれにあたります。
  • 解除証書・弁済証書などの書面 … 不動産登記令7条1項5号ロが求める登記原因証明情報にあたります。書面の名称は金融機関によってさまざまです。
  • 委任状 … 不動産登記令7条1項2号の「代理人の権限を証する情報」にあたります。所有者側の委任状とあわせて、司法書士が双方の代理人として申請する形をとるのが実務上の一般的な扱いです(この条文自体が双方の代理を認める根拠を定めているわけではありません)。
  • 金融機関が法人であることに関する情報 … 不動産登記令7条1項1号イは、会社法人等番号を有する法人が申請人であるときは当該法人の会社法人等番号を提供すべきものとしています。もっとも、不動産登記規則36条1項は、法人の代表者の資格を証する登記事項証明書(いわゆる代表者事項証明書)を提供して申請する場合を、会社法人等番号の提供を要しない場合として定めています。代表者事項証明書が同封される取扱いと、同封されずに会社法人等番号で処理する取扱いの両方があるのは、このためです。

本文で「書類の中には作成日から一定期間で使えなくなるものもある」と書いたのは、この代表者事項証明書などが典型です。不動産登記規則36条2項は、同条1項の登記事項証明書は作成後3か月以内のものでなければならないと定めています。届いた書類を寝かせてしまうと、この期間を過ぎて再取得が必要になることがあります。

名義人が亡くなっている場合の申請人

不動産登記法62条は、登記権利者、登記義務者又は登記名義人が権利に関する登記の申請人となることができる場合において、これらの者について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人が当該登記を申請することができると定めています。団信のケースでは、亡くなった名義人に代わって相続人が登記権利者の側に立つ、という構造です。

このとき添える書類についても定めがあります。不動産登記令7条1項5号イは、法62条の規定により登記を申請するときは、相続その他の一般承継があったことを証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報を提供すべきものとしています。戸籍関係の書類を集める必要があるのは、この規定によります。

なお、相続人が複数いる場合に誰が申請人となるか、どの範囲の戸籍が必要になるかは、事案の内容や登記所の運用によって整理が分かれ得る部分です。ここで一律の結論を示すことはできませんので、具体的な事案では法務局への事前相談やお近くの司法書士への確認をおすすめします。

相続登記との関係で気をつけたい点

相続登記と抵当権抹消登記のどちらを先にするかという順番の考え方は、相続登記と抵当権抹消、どちらが先?で整理していますので、ここでは繰り返しません。順番そのものより先に確認しておきたいのは、次の2点です。

ひとつは、どちらの順番でも、この2つは別個の申請だということです。手続きが1本にまとまるわけではなく、書類も申請も、それぞれ用意することになります。抵当権抹消登記の登録免許税は、登録免許税法別表第一の一(十五)により、不動産の個数1個につき1,000円です(同項目には、同一の申請書により20個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合は申請件数1件につき2万円とする定めも置かれています。敷地の筆数が多いマンションなどで問題になり得ます)。相続登記の登録免許税は別の定めによりますので、合計額は事案ごとに確認が必要です。

もうひとつは、金融機関から届いた書類に記載された不動産の表示と、登記簿上の表示が一致しているかという点です。合筆・分筆や地番の変更があった場合、マンションで敷地権の目的となっている土地が複数ある場合などは、書類の物件欄と登記簿の記録がずれていることがあります。ずれたまま申請すると、補正を求められたり、そのままでは申請が通らなかったりしますので、申請前に登記事項証明書と突き合わせて確認しておくのが確実です。

条文上の根拠も整理しておきます。本文で触れた相続登記の申請義務は不動産登記法76条の2第1項によるもので、施行日は2024年(令和6年)4月1日です(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則1条2号)。同法附則5条6項は、76条の2の規定を施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合にも適用するものとし、期限の起算日について「知った日」と施行日のいずれか遅い日による旨を定めています。義務化前に開始した相続が対象になるのは、この経過措置によるものです。また、所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請義務(同法76条の5)は2026年(令和8年)4月1日施行で(同附則1条3号)、職権による変更の登記(同法76条の6)も同日から施行されています。

書類が古い、金融機関が合併しているとき

抹消登記がすんなり進まない典型が、書類が古いケースと、抵当権者である金融機関の側に変動があったケースです。前者は先ほどの3か月の期間制限のほか、時間が経つほど当時の経緯が分からなくなるという問題も生じます。

後者は、登記簿に記録された抵当権者の名称・本店と、現在の金融機関の名称・本店が一致しない場合です。合併・商号変更・本店移転のいずれかがあると起こります。この場合に何を添えるか、前提として別の登記が必要になるかは、変動の種類や登記簿の記録状況によって取扱いが異なりますので、一律には言えません。金融機関が合併して名前が変わっている、あるいは消滅しているケースについては、抵当権抹消をしようとしたら銀行が合併・消滅していた──どこに何を頼む?で扱っていますので、あわせてご覧ください。

いずれにせよ、書類が届いた時点で内容を確認し、早めに登記の手続きへ進むことが、こうしたつまずきを避ける一番の方法になります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい